トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜   作:筆先文十郎

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前話の続きです。

アストンマーチャンのトレーナーの印象が損なわれるのは嫌!という人は読まないことをお勧めします。


中間管理職トネザワ~ストーカー~(アストンマーチャンのトレーナー登場)

 一台のタクシーが皇恋(こうれん)グループ本社ビルに向かっていた。その後部座席で皇恋グループの重役、利根澤(とねざわ)幸雄(ゆきお)は手鏡でヒゲや鼻毛がないかを確認後、少しだけ緩ませたネクタイをしっかりと絞める。

「着きましたよ」

「ありがとう……ん?」

 金を払い外へ出ようとした時、利根澤は止まる。ポツポツと振っていた雨が急に激しくなったのだ。

「……仕方がない。ん?」

 鞄から普段から持っている折り畳み傘を取り出そうとした時、何者かが利根澤が出ても濡れないように傘を開いて待っていた。

「おぉ、すまないな!」

「いえいえ」

 傘に入った利根澤に、傘の持ち主は獲物を狙う目つきで言った。

「皇恋グループの最高幹部の一人で、一度馬数寄(うますき)会長の逆鱗に触れて(みなみ)波照間(はてるま)(じま)に左遷されても(くじ)くことなく半年後に本社に帰還。その後は馬数寄会長の機嫌を損ないつつも結果を残し、今では皇恋グループ№2との呼び声もある56歳3月4日生まれA型の利根澤幸雄さん」

 左遷されたという一部の者しか知らない情報まで調べつくした見覚えのない男に、利根澤は体をビクッ! とさせる。

「……だ、誰だお前は……!?」

「おっと、これは失礼」

 男は頭を下げる。

「初めまして。私はアストンマーチャンのトレーナー(以下マートレ)を務める者です。単刀直入に言います。うちのアストンマーチャンを皇恋のCMに起用してもらえないでしょうか? というお願いにきました」

「……それをなぜワシ……いや私に?」

 謎の男の正体がわかったことに安堵しつつも、マートレの突然の申し出に利根澤は困惑する。

「そういうのは私ではなく皇恋(うち)のトップである馬数寄(うますき)に直接手紙などでお願いされては?」

「いえいえそういうわけには……」

 何でそんなことをワシがやらなければならないのだ、という態度を隠そうともしない利根澤の返答にマートレは気分を損なうことなく続ける。

「確かにうちのアストンマーチャンから馬数寄会長に『CMに起用して下さい』と頼めば皇恋のCMに起用されるでしょう。しかしそれでは『アストンマーチャンは自分の人気取りのために皇恋グループを利用した』という悪評が立ってしまう。それではいけないのです。私としては皇恋さんの方から『アストンマーチャンを起用したい』という形にしたいのです。アストンマーチャンの名誉のために!」

「……なるほど。お気持ちと私に声をおかけした理由、わかりました」

(つまりワシから『言え!』ということか……。会長に『うちのCMでアストンマーチャンに出演して(出て)もらうというのはどうでしょう?』と)

 しかし、と利根澤は軽く深呼吸をして言う。

「おそらく私から言っても会長は首を縦には振られないでしょう。お力になれず申し訳ない」

(なんでワシがそんなことをしなければならんのだ……!)

 そう言いたい気持ちを抑えて、利根澤は「ちょっと待ってください!」と後ろから声をかけるマートレを無視してビルに入っていった。

 

 三時間後。

「……まだいる」

 利根澤は自分の部屋から本社ビルの正面玄関前で正座をするマートレを見る。

「チッ……」

 舌打ちをした後、火の点いた煙草を咥える。

長時間正座(そんなこと)をしたところでワシが会長に言うと思っているのか? ワシが会長に言えばすぐに会長は『すぐに取り掛かれ!』と言うだろう。……だがその責任者は間違いなくワシ……! そしてそのCMで会長の機嫌を損ねたりしたら苛烈な制裁は必須……! そうなることがわかっているのに、なぜワシが『アストンマーチャンをCMに起用してはいかがでしょうか?』と言わなければならないのだ!? ……お前らみたいなトレーナーの言う事を聞くほど、ワシは暇でもお人よしでもない……!)

 正座するマートレを睨みつけながら、利根澤は苛立(いらだ)ちをぶつけるかのように携帯灰皿に煙草を押しつけた。

 

「もう10時か」

 残業を終えた利根澤は完全に日が落ちた空を見てから視線を正面玄関前に移す。

「ふ、さすがに帰ったか……まぁ、あのまま待たれてもワシの気持ちは変わらん……」

 帰り支度をした利根澤は「念のため」と帰りのタクシーをいつも帰る正面玄関前ではなく裏口に来るように連絡、裏口へと歩き出す。

「しかし普段の業務の他にあの男のこともあってか……やけに喉が渇くなぁ……」

「はい、お水です」

「おぉ、すまんな……!」

 裏口を出た利根澤は差し出されたペットボトルのフタを開けるとゴクゴクと一気に口に運び

 

 ブウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!?? 

 

 最後に飲もうとした水を盛大に吐き出した。水を差しだしたのがマートレだとわかったからだ。

「き、貴様……なぜ裏口(ここ)に……!?」

「いえ、なんとなく裏口(こちら)から帰られると思ったので……あ、待ってください……利根澤さん!」

(こいつ、エスパーか……!?)

 一刻もこいつから離れなくては! と利根澤は早歩きで歩く。その利根澤をマートレは追いかける。

「利根澤さん! どうかアストンマーチャンをCMに起用して下さい、お願いします!」

「申し訳ございませんが私には無理な相談です!」

(来るな! ついてくるな! ワシを厄介ごとに巻き込むな……!)

 その時、目の前に利根澤が呼んでいたタクシーが止まる。

「利根澤さん!」

 バンッ! と勢いよく閉じた利根澤は窓を開けて叫ぶ。

「もう二度とそのようなことは頼まないで下さい!!」

 言い終わると同時にタクシーは猛スピードで本社ビルを後にした。

「ほぉ、やれやれ……なんてしつこい男だ……まぁ、あそこまで断ればあの男も──」

 

 バンッ!! 

 

 タクシーの窓ガラスを叩く音と衝撃に、大量の冷や汗をかきながら利根澤はゆっくりと見る。そこには

 

「と~~~ね~~~ざ~~~わ~~~さ~~~~~~んんん!!!!」

 

 自転車でタクシーに並走しながら利根澤を覗き込むマートレがいた。

「う、運転手!!」

 利根澤は思わず叫ぶ。運転手も壊れた機械のように首を何度も降ると信号を無視してマートレを引き離した。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。こ、(ここ)まで来れば…………」

 オートロックのマンションに戻った利根澤はマートレがつけていないことを確認するとエレベーターに乗り込み、自室のマンションに駆け込むと服を脱いでハンカチで汗をぬぐった。

「ふう……こういう時はお気に入りのワインを飲みながら夜景を見るに限る」

 寝間着に着替えた利根澤はグラスにワインを注ぎカーテンを開け

 

「ひぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」

 

 落ちて割れたグラスと共に腰を抜かした。なぜならば

 

「利根澤さん……うちのアストンマーチャンを起用して下さいよ……」

 

 ベランダに今にも呪いそうな顔でマートレが立っていたからだ。

「ねぇ……利根澤さん。使って、使って……アストンマーチャンをCMに使ってくださいよ~」

 窓をコンコンと叩くマートレに利根澤は震える声で「それは出来ない!」と叫ぶ。

「そんなこと言わないで……お願いしますよ~」

 そう言ってマートレは杭とハンマーを取り出すと、杭を鍵がある位置に定める。

「ねぇ……利根澤さん」

 杭めがけてマートレがハンマーを振り下ろそうとした瞬間。利根澤は叫んだ。

 

「わかった! ワシから会長に『アストンマーチャンを皇恋(うち)のCMに起用しませんか?』と言ってみる! だから……だから……だから…………許してくれぇぇぇぇぇぇっっっ!!」

 

 

 

 数日後。約束通り利根澤は『アストンマーチャンをCMに起用しませんか?』と進言し、馬数寄は了承。こうしてアストンマーチャンが皇恋グループの新CMに起用することが正式に決まった。




マートレ、お前は人間か?
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