トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜   作:筆先文十郎

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シュヴァルグラン誕生日回。


シュヴァルグランと謎のおじさんと陸釣り

「いい釣り日和だな……」

 とある防波堤に足を運んでいたシュヴァルグランは快晴の空と穏やかな海に目を細める。

 普段は海で釣りをするシュヴァルグランなのだが、今回のお目当ての魚が陸に近いこともありこの場所を訪れていた。

「さて、早速……ん?」

 釣りの準備を始め、折り畳みの椅子に腰をかけようとした時。シュヴァルグランの視界に餌を取り付けるのに苦戦する中年の男性が入った。

「ん、くそっ……うまいこといかんな……」

「あ、あの……よろしければ。お手伝い、しましょうか?」

 四苦八苦する男にシュヴァルグランはたまらず声をかける。

 声をかけたのがウマ娘だとわかり一瞬だけ男は驚いたが「で、では。お願いします。お恥ずかしながら……部下の話を聞いて釣りをやってみたいと思った初心者なので……」とシュヴァルグランに頭を下げる。

 そうしてシュヴァルグランは針に餌をつけ、魚が釣れやすいように釣り糸を垂らす先に餌を撒き、竿を出すポイントや注意点を事細かに教えていく。

 数時間後。男のクーラーボックスには大量の魚が氷の上に横たわっていた。

「いやぁ~、釣りってこんなにも面白いものなのですね。あ、しかし私にばかり気を遣わせてもらったせいで、貴女は……」

 申し訳なさそうに言う男に、シュヴァルグランは笑顔で首を横に振る。

「釣りが好きな僕からすれば自分がボウズ(魚が1匹も釣れなかったこと)よりもおじさんがボウズで釣りが面白くないって思われる方が嫌だから……」

「お嬢ちゃんはすごいウマ娘だね」

「……ッ!?」

 何気なく言った男の言葉に、シュヴァルグランの心は乱れた。

 

「僕は……僕は……すごいウマ娘なんかじゃない!! …………あ、ごめんなさい」

 

 目に涙を浮かべ腹の底から出た言葉に驚いた男にシュヴァルグランは謝る。

「……思うところがあるようだね。おじさんに話してみるといい。誰かに聞いてもらえば心がスッキリするよ?」

 男の優しい言葉に心が軽くなったシュヴァルグランはポツポツと話し出す。

 

 社交的で周囲からも注目を浴び続けて結果を残す姉のヴィルシーナと妹のヴィブロスに比べて自分が臆病で何一つ胸を張れる結果を残していないこと。

 同期にしてクラスメイト、夢に向かって常に前を向いて歩み続けているキタサンブラックという近くて自分のはるか先にいる遠い存在。

 そして憧れの黄色い勝負服のウマ娘とのギャップ。

 

「…………」

 シュヴァルグランの話を、男は黙って聞いていた。

「お嬢ちゃん……」

 全ての話を聞くと、男はシュヴァルグランから視線を外して海の方を見る。

「ワシは四十数年、色々な人間を見てきた。自分の実力・努力不足を棚に上げて『運がない!』や『環境が違う!』などと言うだけで何もしない……いや、むしろ『こうなったのは〇〇のせいだ!』とか『こうされて当たり前だ!』と言って今日だけ頑張ることもせずに他人の足を引っ張るだけのどうしようもないクズをたくさん……ね」

「……」

 シュヴァルグランは男の横顔を見ながら耳を傾ける。そんなシュヴァルグランの目を見ながら男は言う。

「でもお嬢ちゃんからはワシが見てきたクズどものような腐った目はしていない。不安や絶望……そういった負の感情という膜の奥底でクズどもにはない熱いものを感じるよ……!」

「……」

「これからお嬢ちゃんは自分よりも結果を残す者に苦しめられるだろう……。理想と現実のギャップに苦しめられるだろう。それでも今やれることを精一杯やってみるといい。そうすればきっと現れるよ。お嬢ちゃんの良さを理解し、共に歩いてくれる立派な人が──」

小槻(おつき)、時間だ……」

 声のした方へ振り向くと、そこには黒いスーツにサングラスという異様な恰好の男が立っていた。サングラスの男に従い、男は黒塗りの車に向かって歩き出す。

「……ま、待って! おじさん!」

 シュヴァルグランの声に男達は振り返る。

「……おじさん、また会えるかな……またおじさんと釣りをして……またおじさんと話がしたい!」

「……う~ん、それは困ったな……」

 男は困惑した顔で頬をかく。

「おじさんは色々と制約(・・)があるからね……たぶんこうして釣りをして話す機会はないと思う。でも……」

 そう言って男は笑顔を向ける。

「お嬢ちゃんがレースに出る限り、おじさんはテレビの向こう側でお嬢ちゃんを応援するよ……」

 そう言うと男は車に乗り込み、シュヴァルグランの前から姿を消した。

 

 きっと現れるよ。お嬢ちゃんの良さを理解し、共に歩いてくれる立派な人が

 

 心の中に刻まれた男の言葉に、シュヴァルグランは力強く頷く。

「おじさん。僕……頑張るよ。これから幾多の苦難に……心折れるかもしれないけど……おじさんの言葉を信じて……!」

 そう言ってシュヴァルグランは釣り道具を片付けて防波堤を後にした。

 

 

 

 その後。男の予言通りにシュヴァルグランの才能を感じ、自身の担当になる者が現れるのはまた別の話である。

 

 なお謎のおじさんこと小槻(おつき)馬太郎(うまたろう)が釣った魚は後で小槻が調理して食べたのは言うまでもない。




大槻の名言『今日を頑張った者………今日をがんばり始めた者にのみ……明日が来るんだよ……!』の名言が上手く入れらなかったのは自分的に残念です。
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