トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜   作:筆先文十郎

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メジロマックイーンは内なる悪魔と戦うようです

 それはメジロマックイーンが次のレースに向けてトレーニングをしていた時のことだった。

 …………ヲ……

「え?」

 レース場を走りトレーナーから「このタイムだったら、次のレースは絶対に勝てるぞ」というお墨付きをもらった直後、トレーナーの声ではない声にマックイーンを周囲を見渡す。しかしいくら見渡してもふと聞こえた声量の範囲にトレーナー以外誰もいない。

「どうした? マックイーン」

 尋ねるトレーナーに「いえ、どこから声がしたのですが……」と返す。

「ん? ……誰もいないが?」

 周囲を見渡したトレーナー。その直後。

 

 ……メジロマックイーン! 我ニ献上セヨ! ……甘味ヲ! 

 

 先ほどよりはっきりとした声でメジロマックイーンに語りかけた。

 この時、メジロマックイーンは気づく。

 謎の声が外部ではなく、自らの心の中で(うごめ)く悪魔の声であるということを。

「そうだマックイーン」

 ふと何かを思い出したトレーナーはポケットから何かをを取り出すとメジロマックイーンに手渡す。渡された物を見るとそれは包装紙に包まれた小さな芋ようかんだった。

「本来ならば食事制限の観点からこんなのでも駄目なのかもしれないが、この調子なら大丈夫そうだから軽いガス抜きだ……って」

 トレーナーは呆れ返る。

 手渡した芋ようかんを、誰かから強制的に命令されたかのように食していたからだ。

 その様子に呆れつつもトレーナーは

「今日のトレーニングはこれで終了だ。明日は英気を養うために自由に過ごしていい。でもどこかでドカ食いしてレースに悪影響……というのは勘弁してくれよ。じゃあな」

 と他のウマ娘の状態を観察するためその場から立ち去った。

 自分のために行動してくれるトレーナーに感謝するメジロマックイーンはその後姿を頼もしそうに見送ると、自分の心に意識を向ける。

「さて、先ほど甘味を食べましたしこれで私の中の悪魔も……えッ!?」

 メジロマックイーンは狼狽する。なぜならば

 

 ……足リン! 

 ……ヨコセ! 

 ……食ワセロ! 

 

 自分の中の悪魔が増えていたからだ。それだけではない。声だけではなく腐った死体のように肌が崩れたドラキュラ、鎧武者、キョンシーがはっきりと見えるほどに。

(やめて! やめてください!)

 メジロマックイーンは必死に訴えかける。だが

 

 ケーキ! モンブラン! シュークリーム! エクレア! ワッフル! プリン! …………

 おはぎ! カステラ! ういろう! どら焼き! 最中(もなか)! 饅頭(まんじゅう)! もみじ饅頭! …………

 番餅(ばんぴん)! 月餅(げっぺい)! 鳳梨酥(ほうりんす)! 杏仁豆腐(あんにんどうふ)! 馬拉糕(マーラーカオ)! 台湾カステラ! …………

 

 悪魔達ははっきりと各々の要求を突きつけていく。それは夕食を食べ、ベッドに横になっても続いていた。

(うぅ……このままではメンタルがやられて次のレースが不甲斐ないものに終わってしまいますわ……小手先では蠢く悪魔を抑えることは不可能! 徹底的にやるのみですわ!)

 日曜日。

 朝食を食べても訴え続ける悪魔達の声に耐えながらメジロマックイーンはある場所に向かって歩き出した。

 三十分後。メジロマックイーンはとある店、皇恋(こうれん)グループが経営しているデザートなどのお菓子が充実している食べ放題の店に来ていた。

 店員に案内され席に着くとメジロマックイーンは、普通の料理に目もくれず次々とデザートを

 皿の上に置き席に戻るとシュパパパパッ! と山盛りのデザートを平らげていく。

 

 美味イ! 美味イゾ! 

 オオ、コレダ! 

 満タサレテイク! 

 

(ふふ、私の中の悪魔さんたちもこれで満足したみたいですわね。それじゃあ……)

 新たに追加された香ばしい湯気の立つ焼きそばを見たメジロマックイーンは席を立つ。だが

 

 何ヲシテイル? 

 我々ハマダ満足シテイナイゾ? 

 モット寄越セ、スイーツ食エ! 

 

 悪魔達の不満の声がメジロマックイーンの脳内に反響する。

「くっ……」

(こうなっては仕方がありませんわ……!)

 焼きそばを諦め、再びスイーツコーナーに足を向けるとドリンクバーからコーヒーや緑茶、紅茶を用意して再び席に戻る。

 デザートを口に運びながら口直しに用意した飲み物を飲み、再びデザートを食べる。デザートと飲み物を取る→デザートと飲み物を交互に口にしながら食べ進める→追加のデザートと飲み物を取るため席を立つというループを繰り返すと、メジロマックイーンのお腹は妊婦と見間違えるかのように膨らんでいた。

 

 フウ、満足ダ! 

 イッパイ食ッタ! 

 モウイイゾ、メジロマックイーン! 

 

 満足な悪魔達にメジロマックイーンは「ふふっ……」と笑った。メジロマックイーンの謎の笑みに首を傾げる悪魔達だったが、次なるメジロマックイーンの行動に慌てふためく。デザートコーナーとドリンクバーに足を運び山盛りのデザートと飲み物を持って席に帰ってきたからだ。

 

 ナ、何ヲ考エテイル!? 

 我々ハ充分二堪能シタ!! 

 コレ以上食ウ必要ハ!! 

 

(ふふふ……だって、あなたたちは数日たったら再び現れるのでしょう? でしたら限界までいかしていただきますわ!)

 メジロマックイーンは食べるのを阻止しようとする悪魔達の声に耳を貸さず、目の前のスイーツをパクパクと食べ始めていく。

 

 ヤ、ヤメロ!! 

 頼ム、コレ以上食ウナ!! 

 モ、モウ限界ナンダ!! 

 

「頼ム! モウ許シテクレ!!」と懇願する悪魔達を尻目にメジロマックイーンは食べ続ける。そして

 

 ウ、ウワアアアアアアァァァァァァッッッッッッ!!!! 

 

 メジロマックイーンの内にいた悪魔達は圧倒的な量のスイーツに耐え切れず爆散した。

(ふふっ……勝ちましたわ、内なる私に……!)

 内なる勝負を制したことに満足したメジロマックイーンは会計を済ませると満足そうに店を後にした。

 

 

 レース当日。

 レースのために完璧に調整した身体がそれとはほど遠い、並み居る強敵とレースを走るには相応しくない、妊婦と見間違う満腹のボディになったことで勝てるわけがなく結果は惨敗。

 次のレースまでメジロマックイーンに甘味禁止令が出されたのは言うまでもない。

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