トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜   作:筆先文十郎

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副会長二人とシンボリルドルフ?

 生徒会室。

「はあぁ……」

 シンボリルドルフはため息を漏らす。

「気分転換に少しだけどこかに行きたいなぁ」

 疲れているというわけではないが、そんな憂鬱(ゆううつ)とした気分に(おちい)っていた。

 しかし気分転換がしたいからという理由で後にある生徒会の仕事をサボることは生徒会長という立場が許さない。

「……ふうっ、生徒会長という生徒の模範にならないといけない以上……ワガママはいってられないか……」

 そう自分に言い聞かせて副会長であるエアグルーヴとナリタブライアンと話す内容をまとめるシンボリルドルフ。しかしその手は明らかに遅かった。

 

 同時刻。

「……」

「どうしましたか、会長?」

 中央トレセン学園前で生徒会長室のある方向を見る眼鏡をかけた太やかな男に、一度見た顔は二度と忘れない記憶力の持ち主でも三日もすればうろ覚えになりそうな特徴のない男、加辺野(かべの)茂部男(もぶお)が声をかける。

「今さっき生徒会室でシンボリルドルフが『気分転換に少しだけどこかに行きたいなぁ』という漏らす声が聞こえてね」

「え!?」

 会長の言葉に加辺野は驚きの声を漏らす。生徒会室がどこかわからないが生徒会室がある棟から正門ではかなりの距離があり、呟く程度の声では普通の人間では聞き取ることなど不可能だったからだ。そんな驚く加辺野に気にすることなく会長は考え込む。

「確かに彼女は生徒会長としての重圧を背負いながらウマ娘としてレースやライブも尽力しなければならない立場。色々辛いこともあることだろう……」

 会長は一緒にいた会員達を見る。

 会員達は「なぜそんなことを……」という諦めと「仕方がないですね……」というシンボリルドルフへの同情が入り混じった顔で首を縦に振った。

 

 中央トレセン学園正門 守衛室。

 正門を抜けてすぐ近くの守衛室で、守衛は異変があればすぐに対応できるように目を光らせていた。

 トレセン学園に通うウマ娘は学生であると同時にアイドル的な側面を持っていた。ウマ娘を狙う輩もゼロとは言い切れず、過去には盗撮犯やウマ娘の私物を手に入れてファンに売ろうとした窃盗犯もいた。ウマ娘が安心して学園生活を送れるように、と守衛一人一人が高い仕事意識で仕事に臨んでいた。

「さて、そろそろ見回りに行っている田中さんが戻ってくる頃だな……ん?」

 

 ポツン、ポツン、ポツン……

 

「ん? どこからだ?」

 どこからか聞こえる水滴の音に守衛は周囲を見渡す。

「ん? 外からか?」

 水滴の落ちる音が守衛室ではないとわかった守衛は守衛室を出て音の発生源を探ろうとした。その直後

「ウグッ!? ウウゥッ……!? ──」

 口元に薬品が染み込んだハンカチを押し当てられ、守衛は糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

「……ふう、こうも簡単にいくと。自分の存在感のなさを誇るべきなのか悲しむべきなのか……」

 そう愚痴りながら加辺野は地面に伏せる守衛に申し訳ない事をしたと頭を下げる。

「ん?」

 加辺野は近づく足音の方へ視線を向ける。そこには見回りに行っていた年配の守衛の姿があった。

「さてと、交代の時間だな……ん? 丸本!?」

 見回りの守衛が倒れた守衛に向かって走り、あと少しで触れるという直前で加辺野の存在に気づき警棒に手をかける。

「貴様!」

 年配の守衛は加辺野に向けて警棒を振り上げる。しかしその警棒が振り下ろされることはなかった。

「ガハッ!? ──」

 誰かに殴られたかのような強烈な腹部の痛みに、年配の守衛は地面に片膝をつける。何が起きたのかという思考に至る前に加辺野が持っていたハンカチで口元を押し当てられ、先に倒れた守衛と同じように地面に崩れた。

「見事だな、加辺野。そして十曲(とまがり)

 守衛室から死角となる場所で見ていた会長が声をかける。

「全くです」

「本当に。シンボリルドルフのためとはいえ……後で問題になっても知りませんよ?」

 何もない空間からパサッと布が擦れる音がする。

 そこには細身の体つきながら、ビチッと肌に張り付くような服からがっしりとした筋肉が見てとれる長身の男が立っていた。

「ふうっ。最推しのアドマイヤベガに会ったテンションでステルス素材の服を開発し、実践してみましたが……まだまだ透明にはほど遠いですね。おそらく倒れた守衛と加辺野に気を取られなければ気がついたレベル。まだまだ改良の余地が……」

 その場でブツブツ漏らす長身の男に呆れつつ、会長は後ろに立つ者に声をかけた。

「次はお前の出番だ……期待しているよ。形無(かたなし)

 

 

 

 生徒会室では会長のシンボリルドルフを始め、副会長のエアグルーヴとナリタブライアンが予算や学園で起こった問題について審議を進めていた。

「では会長。予算案はこのように各方面に伝えておきます」

「あぁ。お願いする」

 シンボリルドルフは会いたくても会えなかった推しにやっと会えたファンのような(うる)んだ瞳で答える。

「……」

 そんなシンボリルドルフにぞぞっとしながらエアグルーヴは次の議題に進める。

 そうして議題は次々に終わりシンボリルドルフが「これで話す内容は全て終わったかな?」と潤んだ瞳でエアグルーヴを見ながら確認する。

「いや、最後に一つだけある」

 葉っぱを口に咥え、腕を組んでほとんど発言しなかったナリタブライアンが口を開く。

「ブライアン、何か残っていたかな?」

 潤んだ瞳から普段の優しげな瞳でナリタブライアンを見る。

「お前は誰だ!?」

 ナリタブライアンはシンボリルドルフに向けて回し蹴りを放つ。

「……ッ!」

 ブオンッ!! と風を切る豪脚を上に跳んだシンボリルドルフは生徒会室の扉の前に着地する。

「どうしたんだい、ブライアン? いきなりこんなことをして」

 回避したシンボリルドルフは冷静な口調で尋ねる。そんなシンボリルドルフにエアグルーヴが尋ねる。

「どうしたというのはこちらの台詞です、会長。……いえ、会長そっくりに化けた偽物よ」

 自分に相対する者は誰であっても容赦はしないという女帝のような厳しさに、冷静な瞳のシンボリルドルフが瞳をハートマークにさせる。

「さすがは怪物ナリタブライアンに私の最推しエアグルーヴですね」

 シンボリルドルフは高速で一回転する。そこには目尻の下がった瞳が印象的なお尻にまで届くほどの長い黒髪を持った、学生服が破れてしまうのではと錯覚するほどはちきれんばかりの巨乳で高身長の女性が立っていた。

「私はウマ娘を応援するファンクラブの一つ、『ウマ娘LoveLove会』の一人で体育学を専攻している大学生、形無(かたなし)(るい)と申します」

 形無と名乗った女子大生はニコッと艶やかな笑みを浮かべて会釈をする。

「しかし大好きなウマ娘ならどのウマ娘にでも完璧に演じられると思ったのですが、さすがは怪物と女帝と言われるだけのことはありますね。私も精進しないといけません……ねッ!」

 そう言うといつの間に取り出したのか、右手に握っていたものを地面に叩き付けると瞬く間に生徒会室が白煙に包まれる。

「クッ!」

 ナリタブライアンは形無がいたところに風を切る豪脚を放つ。しかし晴れた白煙に形無の姿はなかった。

 エアグルーヴがすぐに窓を開けると入ってきた風が白煙を外へと運ぶ。しかしどこを探しても謎の女子大生は影も形もなかった。生徒会室の扉に

『この度のご無礼、お詫びいたします。しかしこれは私たちの会長がシンボリルドルフさんの『気分転換に少しだけどこかに行きたいなぁ』という愚痴を聞いてその願いを叶えようとしたことで起こってしまった事件。なので責めるのはシンボリルドルフさんではなくうちの会長を責めてください。形無塁より』

 と書かれた紙が謎の女子大生がいたことを物語っていた。

「……こんなことは二度と起こってもらいたくないものだな。ドッと疲れが出た」

 大きくため息をつくナリタブライアンにエアグルーヴはシンボリルドルフに化けた形無の潤んだ視線を思いだし、恐怖で身体を震わせた。

 

 

 

 その後ストレスフリーになったシンボリルドルフがエアグルーヴとナリタブライアンに謝り、騒動を起こす原因を作らせた『ウマ娘LoveLove会』の会長が会員達にボコボコにされ理事長の秋川(あきかわ)やよいに前に連れだされドン引きされるのだが。それは別の話。




ウマ娘LoveLove会
とある大学に在籍する会長をサークルリーダーとするファンクラブ。会長曰く会員は『万夫不当の古強者』で数多くあるファンクラブの中で一線を画す存在。

会長
ウマ娘LoveLove会の会長。とある大学に在籍する男子学生。ウマ娘が関わると人間をやめた能力を発揮する。ウマ娘が関わらないと凡人未満。
最推しウマ娘→ハルウララ

加辺野 茂部男(かべの もぶお)
かつてウマ娘のR18作品を投稿しようとした文学部を専攻する男子学生。どんなに記憶力がずば抜けた者でも数日すると忘れるほど薄い印象。
最推しウマ娘→マチカネタンホイザ

十曲 結糸(とまがり ゆいと)
繊維学を専攻する男子学生。着た者を透明に近いほど不可視化する服などを開発している。
最推しウマ娘→アドマイヤベガ

形無 塁(かたなし るい)
体育学を専攻する女子学生。ウマ娘ならどんな人物にも化けられると豪語する変装能力を持つ。
最推しウマ娘→エアグルーヴ
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