トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜   作:筆先文十郎

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シンコウウインディ誕生日回。



ウインディちゃん軍団のお通りなのだ!

 日曜日 動物園。

「ヤギ()! 元気にしていたのだ!?」

 シンコウウインディは一匹のヤギを見つけると駆け寄って抱き着く。

「メェ~!」

 抱き着かれた一匹のヤギ、ヤギ夫。かつて誰にも見られず憂鬱に過ごしていたがシンコウウインディのいたずらのおかげで来場客の注目を浴び、今では動物園で一、二位を争う名物マスコットとなりたくさんのヤギを従えるリーダーになっていた。

 その恩もあり、ヤギ夫はシンコウウインディを姐さんと慕っていた。

「あははっ! やめるのだ!」

 優しく頬を舐めるヤギ夫に、シンコウウインディは満面の笑みを浮かべる。

 その時だった。

 

 ブーブー! 

 

 動物園の外から聞こえるクラクション。それも一つではない。

「ん、何なのだ?」

 シンコウウインディはクラクションの鳴る方角に耳を傾ける。

 

「おい、お前ら! そんな所で座り込みしないでくれ! 通れないだろうが!」、「ちょっと、母の葬式で急いでいるんです! 通して下さい!」、「申し訳ございませんが通行の邪魔になっていますので……」

 

「……」

 シンコウウインディは腕を組んで考え込む。

(状況はよくわからないけど、誰かがいたずらして通せんぼをしているみたいなのだ……)

「う~、ウインディちゃんより目立とうなんて……許せないのだ!」

 ふとシンコウウインディはヤギ夫を見る。

「……!」

 ヤギ夫はコクリと頷くと後ろで自由気ままに過ごしていたヤギの方へ向く。

 

「メェェェェェェ~~~~~~ッッッッッッ!!!!」

 

 その瞬間。のんびりとしていたヤギの群れが一瞬にキリッとした目つきに変わりヤギ夫の元に集結する。

「よ~し、外でいたずらしている連中にウインディちゃんの恐ろしさを見せつけてやるのだ!」

 

 

 

 動物園前の公道。

『動物を解放せよ!』、『動物虐待反対!』などをプラカードを掲げた集団が公道に座り込んでいた。

 集団はどんなにクラクションを鳴らされても、どうしても行かなくてはならない事情を聴いても、公道から離れるように注意されても一向に動く気配がなかった。むしろその苛立ちを楽しんでいる節があった。その時だった。

「ん?」

 こちらに近づいて来る大量の足音に気づいた一人が振り返り、固まった。そこには

 

「どけどけ! ウインディちゃん軍団が通るのだ!!」

 

 ヤギ夫に跨ったシンコウウインディを先頭に、座り込む集団に向かって歩いて来るヤギの集団があった。

「な、何なんだ。お前らは!」

 数人がプラカードで迫るヤギを追い払おうとする。しかしヤギは気にも留めずそのまま前進。そして

 

「ひぃ!」、「ぎゃあっ!」、「痛ぇ!」

 

 角で小突き、前足で蹴って進行を塞ぐ集団を蹴散らしていく。

「く、クソが! ケダモノの分際で!!」

 大柄の男がプラカードをヤギに向かって全力で振り下ろそうとした。

「やめろぉぉぉぉぉぉッッッ!!」

 男の腕にシンコウウインディが噛みつく。

 

「痛ええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!」

 

 あまりの痛さに男はプラカードを落として噛まれた箇所を抑える。

「おい、お前。シンコウウインディだな? そんなことしていいのかよ!」

 集団の一人の批難に仲間達が「そうよそうよ!」、「中央トレセン学園の生徒は一般人に暴力を振るうのかよ!」という罵声をシンコウウインディに浴びせる。

「何だと! ──」

 シンコウウインディが反論しようとした、その時だった。

「『そんなことしていいのかよ!』はこっちのセリフだよ!」

 様子を見ていた通行人が集団に向かって叫ぶ。

 

「そうよ! アンタ達が道を塞ぐからこんなことになったんでしょうが!」、「ウインディちゃんは悪くないぞ!」、「動物愛護を叫んでいながらいざ自分が危害を加えられたら暴力を加えようとするなんて言っていることとやっていることが違うじゃねぇか!」

 

 我慢に我慢を重ねていた人々が一斉に自称動物愛護団体に批難を浴びせる。

「く、引き上げるぞ!」

 ヤギを殴ろうとした男の声に集団はいち早くその場を後にする。

「べ~! ウインディちゃん以上のいたずらをしようなんて100年早いのだ!」

 逃げるように去って行く集団にシンコウウインディは舌を出す。それに(なら)うようにヤギ夫たちもバカにしたような笑みを浮かべながら舌を出す。

 

「ありがとう、シンコウウインディ!」、「助かったわ、これでお母さんを見送れる!」、「シンコウウインディさん。貴女は英雄だ!」

 

 自分に向けて喝采(かっさい)を送る人々にシンコウウインディは

 

「はははっ! ウインディちゃんのいたずらには誰も敵わないのだ!!」

 

 とVサインで応えた。

 

 

 

「クソッ、シンコウウインディめ! 俺達の崇高(すうこう)な活動を邪魔しやがって……こうなったらフェイクニュースを使ってあいつを貶めて──」

 リーダー格の男がそんなことを言っていた時だった。

「あ~、申し訳ございません。ちょっと署まで同行願えませんか?」

 警察の服装をした白髪交じりの角刈りで眼光が鋭い五十代くらいの男に、男は「あぁ!」と怒りをあらわにする。

「いえ、先ほど公道の進行を邪魔する人がいるという連絡を受けまして。そのことについてちょっとお話を──」

「うるせぇ! 俺はイラついてるんだよ!」

 男は感情のまま右ストレートを警察官の顔めがけて放つ。

「ふっ!」

 ニヤリと笑う警察官に男は得体の知れない恐怖を感じた。

 警察官は(かわ)すと同時に前に出ると強烈な頭突きを男の鼻に叩きこむ。

「──!?」

 うめき声一つ出せない強烈な頭突きに、男の身体は飛ばされ尻もちをつく。

「やれやれ。穏便に済ませてかったのだがな」

 警察官はパチンと指を鳴らす。するとサングラスに黒いスーツという異様な恰好の集団が男達を取り囲む。

 その姿に男達は気づく。突然現れた警察官が偽物であると。

「お前ら、何も──」

 男が尋ねる前に液体がしみ込んだハンカチを口に当てられた瞬間、男の意識は朦朧(もうろう)となった。それは他の仲間も同様だった。

 全身から力がなくなり、男は地面に倒れ込む。

 

「さて、シンコウウインディに危害を加えようとしたこいつらをさっさと運ぶぞ。……皇恋(ウチ)の強制施設にな」

 

 それが堅気の世界で聞いた、男の最後の言葉だった。

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