トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜 作:筆先文十郎
世の中には誰もが知っているだろうという知名度があっても、それをまったく知らない人がいるというのはよくある話である。それはそれが
「ふう~」
圧倒的ボリュームをウリにしているカツ丼専門店『かつ盛』で、白髪交じりの角刈りで眼光が鋭い五十代くらいの男が背広を椅子にかけて背もたれに身体を預けた。
「ご注文伺います」
「レディースサイズを一つ」
「かしこまりました」
厨房へ行く店員を後ろから見送ると、利根澤は懐かしむように壁に掛けられた写真を見る。そこには大盛りの前に敗れた挑戦者達の写真と、空になった丼を持って苦笑いを浮かべる成功者の写真……そして
『屁でもない……! この程度……! ペロリ完食! T根澤様!』
空の丼を持って苦笑いを浮かべる自身の写真があった。
(あの頃のワシはこの店のことを知らなかった。故にメニューの注意書きをよく見ておらずとんでもない量のカツ丼を食うはめになった……。だが成功した今では良い思い出……まぁ、この店のカツ丼のことを知らずに大盛りなど頼もうものなら……地獄……!)
初めて入店した時のことを振り返る利根澤。その時だった。
「カツ丼大盛り四つおねがいしま~す!」
(あ……?)
元気のいい声に利根澤は隣のテーブル席に視線をやる。そこにはブルネットのボブカットに、白い前髪と同色の三つ編みハーフアップのウマ娘が手を挙げて店員にアピールしていた。
同じテーブルには大きなウマ耳に外に跳ねているロングヘアで、右側に青い帽子と青バラ、右目が前髪で隠れている小柄なウマ娘。ツインテールで180㎝はありそうな背の高いウマ娘。黄色い菱模様の髪飾りをつけたウマ娘が座っていた。
「あ。あの……大丈夫ですか?」
店員が恐る恐る尋ねる。
「はい、大丈夫です!!」
注文をしたウマ娘が元気に応える。そうして他の客に『大盛りが頼まれた場合、先に注文していても後になる』という店のルールを伝え終わると、店員は厨房へと消えた。
(ほう、見ものだな……)
その後仲良く談笑する四人のウマ娘を横目で見ながら、利根澤はニヤリと笑う。
(どこの誰かは知らんが……どうもこの様子……知らんようだな、ここの大盛り……!
三十分後。
「…………」
目の前に出された冷めきったレディースサイズのカツ丼に一口もつけることなく、利根澤は
四人のウマ娘は利根澤の予想に反して瞬く間に完食したからだ。しかも注文をしたウマ娘と菱模様の髪飾りをしたウマ娘はその後もおかわりを三杯する始末。
壁には
『美味しかったです、かつ盛さん! また来ます!
と書かれた、満面の笑顔で空になった丼を持つ四人のウマ娘の写真があった。