レジェンドオブアストラル   作:Yukimidaifuku

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プリンセスナイトと化物

いったい何が起きている。

 

 燐達は黒い髪をなびかせながらを疾走する。現場へと急ぐ。

 

 何かが起きている。

 

 間違いなくこれは、普通の事件ではない。

 

 燐たちの直感がそう告げていた。

 

 と、その時。

 

 燐の耳に悲鳴が届いた。

 

「ば、化物だッ!! 応援を……!!」

 

 王国側の護衛達の声だ。そう遠くない。

 

 燐達は方向転換し、悲鳴の下へと駆けつける。

 

 大通りに出るとそこに化物がいた。

 

 醜悪な巨体の化物だ。

 

 それは肥大した右爪を振り回し、人々を襲っていた。

 一般人達は何かの撮影かと思い、化物の撮影をしたりとしている。

 

「何だこれは」

 

 呟きながらも、燐は動いていた。

 

「離れろッ!」

 

 流れるような抜刀、そして闇夜に白刃が煌めき、化物の胴を通り抜けた。

 

 両断。

 

 化け物の巨体をたった一太刀で両断した。

 

「怪我はないか?」

 

 燐は倒れゆく化物を後目に、声をかける。

 

「助かった……!」

 

「あの化物が一太刀だ!」

 

 彼らの身体は無傷だった。ここにいる生きている護衛は皆、ほぼ無傷だった。 

 

「う、後ろッ!」

 

 突然、1人が叫んだ。

 燐の後ろを指差しながら、他の者達も声にならない叫びを上げた。

 

「何ッ……!」

「燐ッ……!」

 

 燐は後方に振り返る。

 鼎は間に入って薙刀で受け止めた

 

「くッ……!」

 

 鼎は一瞬力負けしそうになりながら、即座に膨大な霊力を解放し、その豪腕を見事に受け止めた。

 

 そしてそのまま化物の懐へと潜り込むと、今度はその脚を切り裂き、化物の反撃を先読みして間合いを外す。

 

 直後、化物の右腕が鼎 夏海のいた空間を薙ぎ払い、彼女の長い黒髪を数本巻き込んだ。

 

「再生している……?」

 

 彼女が先程両断した傷は既に無く、たった今つけた脚の傷も再生をはじめていた。

 

「バカな……両断されて再生するなどと……」

 

「嘘だろ……」

 

「下がっていろ」

「ここは私たちが」

「愛美は負傷した者たちの治療を頼む」

「了解です」

 

 動揺する護衛達に燐と夏海は声をかけ、化物の追撃を受け止めた。

 

 その一撃は、速さもある、力もある、重さもある。

 

 だが単調。

 

「所詮は化物」

「ですが、決して油断は禁物です」

 

 燐と鼎のの反撃は容赦が無かった。

 とてもじゃないが舞花と舞奈はこの戦いについていけなかった。

 援護を行えば、こちらに注意を引いてしまう。

 舞花たちができることは周りにいる人たちの避難誘導と守ることだ。

 

「ここは一式さんと夏海さんに任せよう」

「私たちじゃお姉ちゃんと燐ちゃんの足を引っ張るだけだしね」

「は、はい」

「了解でーす」

 

 腕を切り刻み、脚を落とし、首を飛ばす。

 

 再生できるならやってみろと、そう言わんばかりの連撃を浴びせた。

 

 反撃など許さない。ただ一方的に切り刻んだ。

 

 しかし、それでも。

 

「まだ再生するというのか」

「効いてはいますが相手の再生スピードが速いですね」

 

 化物は生きていた。

 

 燐と夏海の連撃が一瞬止まった隙に体勢を立て直し、右腕を振り回して燐と夏海を追い払った。

 

 そして。

 

 夜空に甲高い咆哮を放った。

 

 それに応えるかのように、空から雨が降り出す。

 

 最初はポツリ、ポツリと。次第に勢いを増し、化物の血に当たると白い煙を上げていく。

 

「少し時間がかかりそうだ……」

 

 燐と夏海は早期決着を諦めて、腰を据えて戦う道を選んだ。

 

 負けるとは思わない。未だかつて、燐は自身が負けると思ったことは一度もない。

 

 が、相応に時間はかかるだろう。

 

 燐は剣を構え、再生を終えた化物へ疾走する。

 

 直後。

 

 甲高い音と共に燐の剣と夏海の薙刀が弾かれる。

 

 凄まじい衝撃に、二人の腕が痺れた。

 

 遠く、後方へ、回りながら飛んでいく愛剣を後目に、燐は突然の乱入者を睨む。

 

 乱入者もまた燐と夏海を一瞥する。

 

 両者の視線がぶつかり、先に沈黙を破ったのは乱入者だった。

 

「それが、苦しめるだけだと何故わからないのですか」

 

 それは漆黒のボディスーツを身に纏った女だった。顔は隠れて見えないが、声はまだ若い。

 

「何者だ」

 

 燐は油断なく、漆黒の女性と化物の両方を視界に入れながら問う。

 

「ベータです」

 

 女性は一言そう言って、もう興味は失せたとばかりに二人に背を向けた。

 

「待て、いったい何のつもりだ。敵対するのであれば容赦は……」

 

「敵対……?」

 

 ベータは燐の言葉を遮って、背中を向けたまま笑った。

 

 クツクツと、嘲るように。

 

「何がおかしい」

 

「敵対……これほど滑稽な言葉がありますか。何も知らない愚者が敵対などとおこがましいです」

 

「何だと……!」

 

 燐の霊力が膨れ上がった。その莫大な霊力は波となって広がり、雨をかき消し風を起こした。

 

 燐に、ベータは一瞥すらしなかった。変わらず背中を向けたまま、

 

「我々の邪魔をするな」

 

 ただそう言い残して、化け物へと歩く。

 

 その後ろ姿には気負いも何もなく、もう燐の事など眼中に無かった。

 

 燐はその後ろ姿を、未だに痺れる掌を握り締め睨む。

 

「かわいそうに。痛かったでしょう」

 

 ベータはただ歩きながら、化物へと語りかけた。

 

「もう苦しむことはない。悲しむこともない」

 

 漆黒の刀が伸びた。ベータの背丈を超えるほど、長く。

 

「だから、もう泣かないで」

 

 そして、ただ自然に一歩踏み込み化物の身体を両断した。

 

 誰も、反応できなかった。

 

 燐も、夏海も化物も反応すら出来ずに斬られるのを見ていた。

 

 あまりに自然だった。殺気も何もなく、ただ斬られるのが当然の結果としてそこにあった。

 

 化物の巨体が倒れた。それは白い煙を上げながら萎んでゆき、少女ほどの大きさにまで小さくなった。

 

「願わくば……来世では安らかな生を」

 

 ベータはそう言って、白い煙の中へと消えた。

 

 遠くの方で雷の音がした。

 

 燐は呆然と立ち尽くしていた。降り注ぐ雨が髪を伝い顔を流れていく。

 

 身体が震えていた。

 

 この震えの意味を、燐は知らなかった。

 

 雨は強く降り続いていたのだった。

 

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