レジェンドオブアストラル   作:Yukimidaifuku

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プリンセスナイトとディルックの正体

「あ、あなた、どうしてここに……」

 

 角を曲がったユースティアナの目前に、見知った顔が現れた。

 

「なぜって、ここは私の施設だからだよ。私があの男に投資した。それだけのことさ」

 

 金髪に端正な顔立ち、自信に満ちあふれた笑み。ディルックがそこにいた。

 

「よかったです。私、あなたのこと頭おかしいんじゃないかってずっと思ってたました。やっぱりおかしかったのですね」

 

 ユースティアナは一歩、二歩、後ろへ下がりながら言った。

 

 ディルックの背後に階段がある。おそらく、外への道。

 

「そうかな。どうでもいいさ。君の血があれば」

 

「誰も彼も血の話、吸血鬼の研究でもしているでしょうか」

 

「君にとっては似たようなものかもしれないな」

「分かっていると思いますけど、真白くんたちが必ず来ます。ディルック・ランドール、貴方は終わりです」

 

「終わり? いったい私の何が終わるんだ」

 

 変わらぬ笑みでディルックが言った。

 

「地位も名誉も剥奪、当然処刑です」

 

「そうはならないさ。私は君と隠し通路から脱出する」

 

「ロマンチックなお誘いですけど、私はあなたのこと大嫌いです」

 

「来てもらうさ。君たちの血と、研究があれば私は七賢人の第七席に内定する。貴族などというくだらない地位ともおさらばだ」

 

「七賢人? 狂人の集まりか何かですか」

 

「混沌災禍カオス・ブリゲードの選び抜かれた七人の幹部。地位も名誉も富も、これまでとは比べ物にならないほど手に入る。私は既に実力を認められている。後必要なのは実績だけだが、それも君の血である完全なる血統と研究成果で満たされる」 

 

 ディルックは大仰に手を広げて笑う。

 

「いい加減血の話はうんざりです」

 

「本当はセレスティアナ王女の方が良かったが、君で我慢するさ」

「そうはさせません。ユースティアナ王女を連れて行かせるわけにはいかない」

 

 乾いた音がした。

 

 その時。

 

 カツ、カツ、と。

 

 ディルックの背後の階段から音が響いた。

 

 カツ、カツ、カツ、と。

 

 真白たちが階段を降りてくる。

 

 カツ、カツ、カツ、カツ。

 

 そして、音が止まったそこに……。

 

 真白、セレナ、琥珀、カノン、ノイン、楓、クロウ、アイがやってきた。

 案内を終えたアルファはどこかに消えていた。

 

「おやおや、誰かと思えば神原くんじゃないか。捕まっていなかったのかい」

「ディルック様、やっぱりあなたが犯人でしたか」

 

 ユースティアナを攫った犯人だったとは。

 

「あなたは終わりです。ユースティアナ様を返してもらいますよ」

「くははは! 私が終わり? キミ達を殺してしまえばいいだけさ。たかがボディガードを倒したくらいの異能者が私を倒せると思っているのかな」

「シロウくん、ここは僕に任せてもらえるかな?」

「……? わかりました」

「ディルック、キミは僕と同じ同じ宇宙人だね?」

「ディルック様が宇宙? カノンさんどういうことですか?」

「僕たち宇宙人は人の姿に擬態しててもなんとなくわかるんだよ。最初見た時から違和感があってもしやと思ってね」

「でもディルック様は王国の貴族なはずじゃ?」

「正体を明かしてもらおうか」

 

 カノンの姿がその場から消える。

 

「っ!?」

「おらぁっ!」

 

 足に魔力を集中し、地面を一気に蹴ることで高速でディルックに接近したカノンは、顎に向かい拳を振り上げる。

 

「ごべらっ!?」

 

 予期せぬ奇襲による攻撃。

 

 生じた隙を見逃すつもりは無い。カノンはそのまま両手を握り拳に魔力を収束する。

 

 意識が混濁しているのか、それとも衝撃で脳が揺さぶられて思ったように反応できないかはわからないが、無防備な身体をカノンは滅多打つ。

 

「ごが、ごばっ! ぐおぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 一撃一撃が当たるごとに爆裂音が響き渡る。

 

 身体だけでは無い。腕や足、肩や顔面など手の届く範囲を全力で殴打する。内部にまで浸透していくダメージ。油断しきっていたディルックに明確なダメージを与えていく。

 戦いにおいて、敵は倒せる時に倒すようにと教わった。相手が全力を出すのを待つことも、こちらがゆっくりと力を出していくこともしない。

 

 最初から全力に近い力を持って、相手を圧倒する。

 

 身体を動かす暇も与えないカノンの攻撃。

 

「ガッ……く、クソッ……!」

 

 もう何度目の殴打かわからない。

 ディルックは荒い息を吐きながら真白を睨む。

 憤怒の瞳はまだ、この現実を受け入れきれないでいた。

 確実にダメージは入っているが意外と頑丈な体をしている。

 

 カノンとディルックの視線がぶつかる。

 完全なる血統、そして混沌災禍カオス・ブリゲード。

 キーワードはいくつもあった。

 しかしその意味がユースティアナには分からない。狂人の戯言だとしか思えなかった。

 しかし、もし。

 もし戯言ではなかったとしたら。 

 世界の裏側でユースティアナの知らない重大な何かが起きているのだとしたら。

 

「いいだろう。貴様が本気だと言うのなら、私もそれに応えようじゃないか。私の本当の姿を!」

 

 ディルックは擬態を解除し、本来の姿に戻った。

 

「うわー……気持ち悪い」

「なんて醜悪な姿じゃ」

「気持ち悪い姿ですね」

「カー!」

「醜いな」

 

 真白達は思わず口に出してしまった。

 ディルックの姿は完全に化物で、まるで寄◯獣のような姿だった。

 

「なるほど……キミの本来の姿だったか」

「カノンさん知ってるんですか?」

「彼は『食変人』。食べた相手の記憶、人格、能力などを模倣する残虐非道な宇宙人だよ」

「食べた相手を……? つまりディルックさんはもういない……?」

「うん、そういうことだね」

「実に愉快だった。泣き喚きながら命乞いをしていく様はなかなか良かったぞ」

「………っ!? この下衆外道が!」

 

 ディルックに擬態していた宇宙人はゲラゲラと笑っている。

 なんて最低最悪な野郎だと、真白は怒りが込み上げてくる。

 

「シロウくんここは僕に任せてくれないかい?」

「いえ、ここは僕が……いえ、わかりました」

 

 どうやら真白以上にカノンは怒っているみたいだ。

 

「シロウくんがこんな下衆外道相手にする必要性はないよ。ここからは僕が相手になろう。本気で来るといいよ。ノインさんシロウくん達の守りをお願いします」

「任せろ。思う存分やるがいい」

 

 ディルックはそう言って懐から赤い錠剤を取り出した。

 

「これは純血に近い人間から作り出した。この錠剤によって、覚醒者となる。しかし常人ではその力を扱いきれず、やがて自滅し死に至る。だが七賢人は違う。その圧倒的な力を制御できる者だけが、七賢人になる権利を得るのだ」

 

 ディルックは錠剤を一気に飲み込んだ。

 

 そして。

 

「覚醒者3rd」

 

 魔力が暴風となって吹き荒れた。

 

 一瞬にしてディルックの傷が治っていく。

 

 筋肉は締まり、瞳は充血し、毛細血管が浮き出る。

 

 圧倒的なまでの力の重圧に押し潰されそうになる。

 

「最強の力を見せてやろう」

 

 余裕の笑みを取り戻したディルックが言う。

 

 高速の剣先カノンがに見舞う。

 

 しかし。

 

 カノンの姿がかき消え、剣先は虚空を切る。

 

「なッ……!?」

 

 直後、ディルックの背後にカノンが立っていた。

 

 たった一瞬で、完全に背後を取られたのだ。

 

 動けない。

 

 ノインは時を忘れたかように、剣を止め、呼吸すら止めて背後に全神経を集中した。

 

 誰も動かない。

 

 そう、カノンはディルックと背中合わせに、ただ腕を組んで立っているだけだった。

 

 そして一言、

 

「それで……教団の主力とやらは何処かな」

 

 ディルックの顔が屈辱に歪んだ。そして振り向き様に剣を薙ぎ払う。

 

 が、誰もいない。

 

「バカなッ……!」

 

 

 見ると、カノンは最初の場所で何事もなかったかのように立っていた。

 

 外から見ていた真白ですら、カノンの動きが全く見えなかった。これが種も仕掛けも無いのだとすれば、相当な実力者……いや、規格外と言っていい実力だ。

 

 ディルックは動揺を抑えてゆっくりと振り返る。

 

「なるほど、少し見くびっていたようだ」

 

 そして今度は油断なくカノンを見据える。

 

 カノンは確かに規格外の実力者だ。

 

 しかしゼ ディルックもまた、尋常ではない実力者なのだ。

 

「見せてあげよう。これが、次期七賢人の力だ」

 

 速いッ……!

 

 真白はでの剣をかろうじて目で追うことしか出来なかった。

 

 白刃の残像が空を裂き、カノンの首へ迫る。

 

 しかし。

 

「鈍い剣だね……」

 

 いつの間にか抜かれた白銀の剣に、容易く受け止められた。

 

「くッ……!」

 

 では鍔迫り合いで押し勝とうとする。

 

 しかし逆に力を抜いたカノンは、ディルックの勢いを利用し容易く投げ飛ばした。

 

「フッ……!」

 

 ディルックは壁に叩きつけられる寸前で、かろうじて受け身を取って剣を構え直す。

 

 だがその表情からは動揺が隠せないでいた。

 

 両者動かない。

 

 だが、カノンはただ動かない。

 

 対してディルックは動けない。

 

 総ての動きが封じられたような、そんな錯覚の中に彼はいた。

 

「来ないのかい、次期七賢人」

 

「ッ……!」

 

 ディルックの表情が憤怒に染まった。敵への怒り、そして何よりも自身への怒りに。

 

「舐めるなァァァァァァァアッ!!」

 

 咆哮と共に剣を薙ぐ。

 

 疾風の如く剣を突く。

 

 烈火の如く連撃を繰り出した。

 

 しかし。

 

 その総てが通じない。

 

「アアアアァァァァァァァアッ!!」

 

 気合いの咆哮が虚しく聞こえた。

 

 まるで大人と子供の稽古だった。

 

 真白はその戦いを衝撃と共に見ていた。

 

 未だかつて、ディルックがこのような姿を曝すことがあっただろうか。余裕の笑みも人格者の仮面も脱ぎ捨てて、それでも尚まるで届かない。

 

 カン、カン、カンと。

 

 場違いなほど軽い剣の音が辺りに響く。

 

 それはまさしく稽古の音だった。

 

 白刃の刃と白刃が描く剣の軌跡。

 

 いつしかその稽古に真白は見入っていた。

 

 白銀の刃に魅入られて、目が離せないでいた。

 

「凄い……」

 

「ガッ……く、クソッ……!」

 

 ディルックの身体が宙を舞い、叩きつけられた。もう何度目になるかわからない。

 

 ディルックは荒い息を吐きながらカノンを睨む。

 

 憤怒の瞳はまだ、この現実を受け入れきれないでいた。

 

「ディルック、これで終わりだ」

「この……私が負けるなど…あり…え…ない……」

 

 高速の連撃がディルックの体に叩き込まれた。

 カノンはディルックから話を聞くため、手加減していた。

 

 

 

「ユースティアナ!」

 

 ユースティアナはふと、懐かしい声に気づいた。

 

『……ッ……!』

 

 ユースティアナはその声に聞き覚えがあった。

 

「姉様……セレナ姉様ッ……!」

 

 叫んで、セレナのところに走り出した。

 

「ユースティアナッ!!」 

 

 セレナが駆けてきた。

 

「お姉様、わ、私……ッ」

 

 有無を言わさずセレナは抱きしめられた。

 

 セレナの身体はびしょ濡れで、それが冷たくて温かい。

 

「無事で良かった……本当に」

 

 ギュッと抱きしめられる。 ユースティアナが無事で真白はホッとする。

 

 ユースティアナもおずおずとセレナの背中に手を回した。

 

「ユースティアナさんが無事で良かったよ」

 

 ユースティアナはセレナの胸の中で首を振った。

 

 涙が溢れて止まらなかった。

 

 

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