「…………」
遊園地に入るなり、セレナとユースティアナは途端にソワソワとし始めた。
楽しみにしていただけでなく初めて来たのだから、早く乗りたくて仕方がないのだろう。
真白はほっこりとした気持ちになりながら、二人に笑みを向ける。
「まずは何から乗りたい?」
今日は二人のために使う日だ。
彼女達が乗りたいアトラクションに乗って、沢山楽しんでほしい。
『えっと……真白くんのお乗りになりたいもので、私は大丈夫ですよ?』
「初めてなもので真白が乗りたいもので、いい」
ユースティアナは髪の毛を人差し指で耳にかけながら、困ったように笑みを向けてきた。
彼女は彼女で、真白に気を遣っているらしい。
「今日はユースティアナさんとセレナのために来たんだ。初めてなんだし、二人が乗りたいものに乗ろうよ。僕も二人が乗りたいアトラクションに乗りたいし」
真白は笑顔で正直な気持ちを彼女に伝える。
すると――。
「「~~~~~っ!」」
真白の顔を見つめていたユースティアナとセレナは、言葉にならない声を出しながら顔を背けてしまった。
見れば、二人の耳が真っ赤になっている。
(何か、変なことを言ったかな……?)
『そ、そろそろ順番が回ってきそうですよ?』
モジモジとしているを眺めている間に列は進み、いよいよ真白たちの番が回ってきそうだった。
最初に乗るのは、デートの定番ともいえるティーカップだ。
ユースティアナとセレナの落ち着きがなくなっていたし、歩こうにも周りが見えていなさそうだったので、遊園地に入ってすぐのところにあったこの列に並んだ感じだった。
『あの乗りものはグルグルと回ってますが、酔ったりしないのでしょうか?』
ユースティアナの興味は、もうすぐ順番が回ってくるティーカップへと向く。
正直、乗ったことがないのでわからないけど――。
「まぁあれだけゆっくり回っているんだし、大丈夫なんじゃないかな?」
ティーカップで酔ったという話を聞いたことがなかった真白は、気軽な感じで答えた。
しかし――この後真白は、バッチリと酔ってしまうのだった。
どうやら、ティーカップを楽しむセレナとユースティアナの顔をジッと見つめて、尊さを感じていたのがよくなかったらしい。
『真白くん、大丈夫でしょうか……?』
ベンチに座り虚ろな感じになっていると、ユースティアナとセレナが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
彼女とセレナはティーカップが大丈夫だったらしい。
「うん……ごめん、少し休めば大丈夫だから……」
酔ってはいるけど、船酔いほど酷くはない。
言葉にした通り、少し休めば動けるはずだ。
「こういう時は、横になったほうがよさそう」
見かねてか、セレナが助言をしてくれる。
確かに、横になったほうが楽なのかもしれないけどベンチは固いので、寝心地が悪そうだ。
何より、周りから見てあまりいい光景ではないだろう。
真白だけならともかく、ユースティアナたちまで変な目で見られるくらいなら、我慢したほうがいい。
そう思っていると――。
『お隣、失礼します』
ユースティアナが隣に座ってきた。
『真白くん、身体から力を抜いてください』
「えっ……?」
突然のお願いに戸惑いながらも、真白は力を抜く。
それを見てすぐに、ユースティアナが真白の体――肩と、頭に手を伸ばしてきた。
そして、ゆっくりと真白の体を横にしようとしてくる。
「ユ、ユースティアナさん……?」
『危ないので、力を入れないでください』
声を掛けてみるも、注意をされてしまった。
真白に酷いことをするような子でもないので、真白は流れに身を任せることにした。
それによって――ポフッと、柔らかくて温かいものが頬へと当たる。
――ユースティアナの、太ももだ。
『ふっ……んっ……髪がくすぐったい……』
直後、嬌なまめかしい声が真白の耳に届く。
見上げれば、くすぐったそうに目を閉じるユースティアナの顔が――ではなく、大きな山が二つそこにはあった。
それが遮って、ユースティアナの顔が見えない。
(うん……知ってはいたけど、やっぱり大きすぎる……。
凄い……。空が見えないや)
「…………まぁ、今は見逃しましょう」
「――っ」
突如、耳に入ってきた凍りのように冷たい声。
とても小さな声量だったのに、やけに耳へとはっきり聞こえる声だった。
無意識に漏れた言葉じゃない。
わざと、真白に聞こえ、理解できるように言った言葉だ。
「ユースティアナ、とても大胆ですね?」
「ち、違います……! これはわざとではなくて、真白くんが楽になられるよう、太ももを枕代わりにして頂いたほうが良いと思っただけです……!」
視線を向けられたユースティアナは、激しく顔を横に振ったのだろう。
真白の上にある大きな山が、激しく横に揺れ始めた。
……目の毒だ。
というか、揺れが激しく、サイズも大きいせいで、ちょくちょく真白の顔に当たっている。
(まずい、思春期の少年にこれは刺激が強すぎる……。――いや、まぁ……おかげさまで、とてもいい思いをしているのだけど)
目の毒だったが、真白も男なので少しいい思いをしていた。
「…………」
少ししてユースティアナは落ち着いたようで、黙り込んでしまった。
真白はさすがに胸を真下から見上げるのは悪いと思い、体を横にして視線を逃がしたのだけど――そうすると、スベスベとしていてとても柔らかい彼女の太ももに、自分の頬が直に当たってしまう。
正直、同じ人間とは思えないほど太ももは異常に柔らかく、スベスベとした肌も気持ちが良すぎて、鼓動が高鳴ってしまっている。
このモチ肌からは、真白は逃げられないかもしれない。
「――あの」
「――っ!? すみません……!」
ユースティアナの太ももに夢中になっていると、セレナに声をかけられたので真白は慌てて謝った。
あまりにもユースティアナの太ももが最高すぎて、セレナのことを忘れていた……。
「いえ、真白に声をかけたわけではないので」
しかし、彼女は真白に話しかけたわけじゃないと主張する。
ということは、ユースティアナに話しかけたということだ。
早とちりして損した。
咄嗟に謝ったから、やましいことを考えていたと自ら言ったようなものじゃないか。
察しがいいセレナは冷たい目で真白を見てくる。
それにやけに不機嫌だった。
「どうかしました?」
例の山の上から、ユースティアナの優しい声が聞こえてくる。
彼女は真白の慌てた様子をあまり気にしていないようだ。
これはわかっていて見逃してくれているのか、それともそもそもわかっていないのか、どっちなのだろう?
天然な子だからわかっていない可能性が高い。
だけど、優しい子でもあるから、見逃してくれている可能性も十分にある。
となると、いったいどちらなのかわからない。
ただ、できればわかっていないでほしいと思った。
「先程から手を出しては引っ込められ、手を出しては引っ込められ――と、躊躇いるけど、真白は気にしないと思うよ」
『――っ!』
セレナの言葉により、ユースティアナがわかりやすく息を呑む。
どうやら真白の見えていないところで、ユースティアナが何かをしようとしていたようだ。
話の流れ的に、真白に関係があるようだ。
「何かしたいことがあるなら、していいんだよ?」
何をしようとしているのかはわからないけど、ユースティアナなら変なことはしないだろう。
こうして凄くいい思いをさせてもらっているのだし、彼女にも好きなことをしてもらいたい。
そう思った真白は、明るい声を意識してユースティアナに言ってみた。
「よろしいのでしょうか……?」
ユースティアナは心配そうに尋ねてくる。
そんなに、勇気がいることをしようとしているのだろうか?
「ユースティアナさんなら何してくれても大丈夫だよ。それにほら、僕は膝を貸してもらってるわけだし」
今日はユースティアナのためになんでもお願いを、叶えてあげるつもりなので断れるはずがない。
彼女が何をするのか待ってみた。
すると――
「それでは、お言葉に甘えて……」
――ソッと、彼女の手が真白の頭に触れてきた。
そのまま彼女は、ゆっくりと真白の頭を撫でてくる。
なるほど、撫でてみたかったのか。
『ふふ……甘えるのも好きですが……こういうのも、とても幸せな気分になりますね……』
撫でれて満足しているのか、ユースティアナの楽しそうな声が聞こえてきた。
女の子に撫でられるなんて随分と久しぶりなので、少しくすぐったい。
だけど、ユースティアナの温かい気持ちが伝わってくるせいか、とても幸せな気分になった。
真白はユースティアナに身を委ゆだねて、心地いい雰囲気を楽しみながら、おとなしく撫でられ続けるのだった。
「ユースティアナさん、そろそろ大丈夫だよ」
あれから少しして、真白気分が良くなってきたのでユースティアナに声をかけた。
せっかく遊園地に来ているのに、真白のせいでアトラクションで遊べなくなるのは駄目だろう。
早く、次のアトラクションに連れて行ってあげないと。
そう思ったのだけど――。
『そうですか……』
ユースティアナは残念そうな声を漏らして、真白の頭から手を離した。
これは……。
「もう少し、このままにしておく?」
「いいのですか……?」
明るい声で尋ねると、ユースティアナは顔色を窺うような声で尋ね返してきた。
相変わらずユースティアナの大きな山によって顔は見えないのだけど、《いいのですか》と聞いたということは、彼女はまだこのままいたいと考えているはずだ。
「もちろんだよ。今日は一日ユースティアナに楽しんでもらうための日だからね、ユースティアナのしたいようにしたらいいんだ。何かしたいこととか、やってほしいこととかあったら、遠慮なく言ってくれたらいいからね?」
遊園地に来たのも、あくまでユースティアナに喜んでもらうためだ。
彼女の気持ちを第一に考えないと意味がないので、当然彼女の気持ちを尊重する。
「真白くんは、優しすぎます……」
「そんなことないよ、これくらい普通のことだから」
少し時間が経った。
「――もうそろそろ行きましょうか?」
真白の頭を優しく撫でていたユースティアナは、満足したのか手を離した。
だから真白は体を起こしてユースティアナに視線を向ける。
「もういいの?」
『はい、十分楽しませて頂きました』
そう答えるユースティアナの表情は、ホクホクとした幸せそうなものになっている。
言葉にしている通り、楽しんだようだ。
この笑顔を見ていると、心がスッと楽になるのだった。
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