レジェンドオブアストラル   作:Yukimidaifuku

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プリンセスナイトと式神の戦い

 某神社。

 

火竜(ひりゅう)様、よくぞお越しくださいました」

「チッ。てめぇらが鈍くせぇから、来たくて来たわけじゃねぇよ、クソが!」

 

 出迎える陰陽術師に悪態をつくのは、火山(ひやま)家に仕える筆頭陰陽術師の火竜剛健(ひりゅうごうけん)1人、である。

 単騎で鬼と渡り合える戦闘力をもち、火山家に仕える陰陽術師の中でも屈指の実力を有する1人だ。

 殲滅という一点においては、全陰陽術師の中でも彼の右に出るものはいないとさえ言われている。

 

「なんで俺が、猫探しなんてしなきゃいけねぇんだよ。剣城(つるぎ)のやろう、覚えてろよ!」

 

 彼が櫻川丘に来た理由は、行方不明となった白虎捜索のためである。

 戦闘以外の陰陽術は並以下であり、一帯を更地に変えるほどの広範囲殲滅を得意とする彼にとっては、住宅地での白虎捜索など明らかに適していない任務だ。だが、彼をこの任務に抜擢した燐には、しっかりとした考えがあった。

 剛健が本気を出せない環境に置くことで、暴走を防ぎつつ働かせる事。そして、身勝手で独善的な剛健を送り込む事で、同じ任務にあたっている者たちに発破を掛けることである。

 そんな燐の考え通り、自覚なく周囲の陰陽術師達へ焦りを感じさせていた剛健は、ある異変を見つける。

 

「ありゃなんだ?」

「あれは……偵察用の式神です!」

 

 ふと空を見上げると、白いカラスが寺院の上空を横切ろうとしていた。

 偵察用の式神。その言葉を聞いた剛健は獲物を見つけた獣の様な表情を浮かべ、周囲の陰陽術師へ指示を出す。

 

「ちょうどいい、結界を張れ!」

「初めて見る形状ですが、あれはおそらく、水瀬(みずせ)家の術者による式神です。結界を張れば、あの式神のリンクが切れ、術者に異常を知らせる事となってしまいます」

「今更だろうが! 白虎を取り逃がしてる時点で怪しまれてるに決まってんだろ! あの式神がその証拠だ」

 

 白いカラスを指さし、剛健が告げる。その言葉は正論であり、納得した陰陽術師達は指示に従って結界の作成を開始した。

 

「接続が切れた後は、自壊する前に俺が仕留める。その後は、残骸から術者を特定しろ。殴り込みに行くぞ」

「か、かしこまりました」

 

 式神を他派閥の寺院へ許可なく潜入させる事は、宣戦布告の合図となる。なので攻撃を加えられても仕方がないのだ。

 

「結界、完成しました!」

 

 1人の術師が叫ぶ。神社の敷地を囲う様に、透明の結界が白いカラスごと神社を包み込んだ。

 接続を切られたカラスはその場でホバリングを行い、自動操作に切り変わろうとしている。

 

「遅えよ!」

 

 偵察用の式神には戦闘能力が無い。そのため、『接続が切れた際には自壊する』という命令を受けている場合が多いのだ。そうすれば、術者を特定されずに済むためである。

 しかし、剛健の術はそのような結末を許さない。自動操作に切り替わってから自壊を行うまでの僅かな時間で、霊力を込めた札を放った。

 その札は空中で発火し、巨大な炎弾となって白いカラスへと着弾する。結界が軋むほどの衝撃が発生し、白いカラスは爆炎に包まれた。

 

「チッ、イラついてたせいでミスっちまった」

 

 偵察用の式神を襲うには明らかに過剰な攻撃に、周囲の陰陽術師たちは口を噤む。その光景を目の当たりにしては、剛健の機嫌を損ねないよう振る舞うのは当然である。

 術を放った本人は、自らの手で術者の痕跡を消してしまった事に苛立ちを高め、今にも爆発寸前だ。

 そんな中、1人の術師が異変に気付く。

 

「白いカラスが、います!」

 

 この場にいる全員が、その言葉に反応して爆煙の方を見る。次第に煙が晴れていくと、そこには無傷の白いカラスが居た。

 

「マジかよ……」

 

 しばらく観察するが、カラスは自壊するそぶりを見せない。それどころか、剛健をまじまじと見据え、敵意を向けているようにも感じ取れる。

 剛健は驚きを隠せず、眼を見張る。そして、獣のような笑みを浮かべながら術を唱えた。

 

「おもしれぇ! 炎、放、多、重、連、弾、『火炎障壁』!」

 

 空中にばら撒いた札の1つ1つが灼熱の炎弾となり、白いカラスへと向かっていった。炎弾は進むごとに小さく分割していき、無数の細かな炎弾となっていく。さながら、炎の壁と化した細かな炎弾の群れは、金のカラスに回避の余地を与えない。着弾は必至だ。

 だが、予想すらしていなかった金のカラスの行動に、術師たちは驚愕する。

 

「馬鹿な!」

 

 白いカラスは炎の壁を避けず、壁の中央へ突撃したのだ。そして、自らの霊力を放出する事で衝撃波を発生させ、壁を突破した。

 

「なるほどなぁ、霊力を叩きつけて俺の爆炎を吹き飛ばしたってわけか!」

 

 気炎は、この攻撃でカラスを仕留める気など無かった。炎弾をくらっても無傷だった理由を突き止めるため、逃げ場のない攻撃でそのタネを晒させようとしたのだ。

 カラスは無傷だが、剛健の策は成功したと言える。

 

「吹き飛ばされるなら、それ以上の威力でぶちのめすだけだ! 炎、砲、爆、滅、『火葬爆追撃(かそうばくついげき)』!」

 

 とてつもない熱量を内包した炎弾は光の弾となり、白いカラスへと放たれて爆発する。

 迎撃は不可能だと判断したカラスは、向かってくる光弾を回避した。しかし、光弾は軌道を変え、カラスを追尾する。

 

「そいつは目標にぶち当たるまで消えねぇぜ。さぁ、どうする!」

 

 カラスの速度は並みの式神を遥かに上回る。しかし、光弾の速度はそのカラスをも上回るのだ。逃げるカラスとの距離が、徐々に詰まっていく。

 だが、背後まで迫る光弾を見やりながらも、カラスに焦りはない。次の瞬間、カラスは後方へ向けて霊力波を放ち始めた。

 

「なっ、後ろにも撃てんのかよ!」

 

 後方へ放った霊力波により、光弾の速度は弱まる。そして、カラス自身は加速する。

 その光景には剛健だけでなく、この戦闘を見ていた全ての術師が驚きを隠せないでいた。

 霊力波による攻撃手段を持った偵察用式神など、誰も聞いた事が無いためだ。さらに、その場の状況に合わせて的確に対応できるほどの状況判断能力。それは、上級の戦闘用式神に匹敵するほどの思考力を兼ね備えているという事になる。

 理解を超える事実の数々に、この場にいる術師全員が驚愕を露わにする。

 しかし、術師達を驚愕させる事実は尚も続く。

 光弾に追われるカラスは後方に霊力波を放ちながらも、あえて引き離すことはしなかったのだ。光弾を至近距離に引き連れたまま垂直に降下し、寸前で切り返す事で、光弾を建物の1つへ着弾させた。

 

「お、おみくじ売り場がああ!!」

 

 神主の悲痛な叫びが響き渡る。

 敷地の片隅には防御結界が張られており、その中では非戦闘員が身を寄せ合いながら戦闘を見守っていたのだ。

 神主は、結界の中から消し飛んだおみくじ売り場を目の当たりにし、膝から崩れ落ちた。

 

「はははは!『火葬爆追撃』をそんな避け方したのはてめぇが初めてだぜ!おもしれぇ!来い、炎魔!」

 

 神主の思いなど関係なく、剛健はさらなる破壊を呼ぶ。

 剛健の背後の空間が歪み、爆炎が発生したのだ。そして、爆炎を纏う鬼が現れた。

 

「あ、あれが火竜様の従魔」

「火竜様が本気になった時のみ召喚される、爆炎の鬼か」

「みな、退避せよ!」

 

 術師達は、非戦闘員が退避している結界内へと逃げ込む。

 火竜剛健の使役する従魔『炎魔』。その姿が語る通り、爆炎を操る鬼の妖である。

 剛健と同じく広範囲攻撃を得意とし、両の手と両足、背中の鬣たてがみなど、あらゆる部位から爆炎を放つ事が出来る。ひとたび暴れれば、周囲一帯を火の海へと変えてしまう為に、炎魔の召喚後はその周囲から退避する事が義務付けられていた。

 

「儂の……神社が……」

 

 その鬼の本質を悟った神主は、虚空を見つめながら涙を流す。

 

「行くぞ!」

「ゴアアアアア!!」

 

 火竜の掛け声とともに、炎魔も白いカラスへと咆哮を放つ。

 結界を震わすほどの咆哮を受けつつも、カラスは空中で静止したまま何の影響も受けていない。

 そして、かかってこいと言わんばかりに嘴を上げ、挑発的に剛健と炎魔を見下ろした。

 

 この日、陰陽術師の間で後世まで語り継がれる伝説の一戦が、幕を開けたのだった。

 

「『火炎弾』!」

 

 火竜がカラスへ向けて手を掲げると、腕に刻まれた模様が脈打ち、炎の散弾が放たれる。

 あらかじめ術式を腕に刻みこむ事によって、札を媒介とせず、詠唱すらも短縮して術が行使できるのだ。ただし、高度な霊力操作が必要なため、この技を使用できる術師はそう多くない。

 

「くそがっ!」

 

 高速で飛来する炎の散弾は、1つ1つがグレネード弾に匹敵するほどの威力を持つ。しかし、カラスは擦りもせずにその全てを躱した。

 

「炎魔!」

「グルァ!」

 

 だが、躱す先を予測していた炎魔に回り込まれ、カラスは至近距離で爆炎を浴びせられる。

 戦闘を見守っていた術師達は戦いの終結を感じ取るが、対峙している火竜の目には別の光景が映っていた。

 

「面白ぇ……やるじゃねぇか」

 

 爆炎を潜り抜け、無傷のカラスは飛翔する。至近距離の爆炎すらも、霊力を叩きつける事で弾いたのだ。

 

「でもなぁ、それは効率悪過ぎだろ」

 

 剛健はふたたび火炎弾を放つ。より広範囲に、より速度を上げて。

 カラスは避けきれず、霊力をぶつける事で着弾を防ぐ。そして、待ち構えていた炎魔がふたたび広範囲の爆炎を放つ。

 

「このままでは、ジリ貧ですね」

「いや、火竜様はそれを狙っておる」

 

 まだ式神術の使えない術師へ、ベテラン術師は説明する。

 霊力糸による接続があれば、術師からの霊力供給で長時間の行動が可能だ。しかし、接続のない式神は内包している霊力を使い切ると、術が解けてしまうのである。

 偵察用の式神は比較的燃費が良い。だが、あれほどの爆炎を防ぐために 霊力を使い続ければ、長くは持たない。

 

「火竜様も、それを理解してああいった攻め方をしておられるのだ。慎重に戦えば、あれほど霊力を消費せずとも十分に倒せる。じゃが、あのカラスが他に奥の手を持っておるとも限らん。じゃからこそ、短時間で奴の霊力をそぎ落とすつもりなのじゃろうな」

 

 ベテラン術師は剛健の判断力に感服する。

 あのカラスが、何らかの策を弄するための時間稼ぎとして送られてきた可能性もある。それを考慮すれば、剛健の選択した短期決戦は最善とも言えるためだ。

 

「がっはっは!クソカラス、お前マジで最高だぜ!」

 

 しかし、ただ暴れたいがためにその選択をしたということは、本人以外誰も知らない。

 結界内で吹き荒れる爆炎と爆音。その全てを、カラスは躱し、防ぎ、打ち消した。

 終わってみれば、術師達の予想を大きく裏切り、三時間にも及ぶ長期戦となっていた。

 

「バカな……」

「火竜様……」

 

 目撃者全ての心に刻まれた歴史的一戦。それを制したのはーーー

 

 

 

 

 

「ーーーカラス、やっと帰ってきた」

 

 真白は庭で待っていると、白いカラスが帰ってきた。

 急に接続が切れたから、何かあったのかと思った。怪我はしてないらしいが、カラスからは微かに煤の様な匂いがする。真白はなんだか嫌な予感がした。

 

「このカラス、どうやれば消えるの?」

「ふむ、そのやり方は儂も知らんな。だが、放っておけば内包している霊力が切れて元の紙に戻るはずだ」

「なるほど。それじゃあ、居間で休んでて」

 

 カラスはこくりと頷き、パタパタと居間まで歩いていった。

 

「さてと、すっかり日も暮れたし。晩飯にしようか。あ、白猫って普通の猫とは違うけど、食べる物って人と同じ物でも大丈夫なの? あとネギ類も大丈夫?」

「うむ、普通にお主達が食べる物で構わんし、ネギ類も大丈夫じゃよ」

 

 今日も真白の平穏な日常が過ぎていった。

 

 

 

 

 

「すごい……本当にすごい」

 

 水瀬舞花は、今見た光景を思い返しながら、興奮をあらわにしていた。

 

「まさか、火山くんのところの火竜さんと炎魔を倒すなんて。あの白いカラスは一体……」

 

 神社で行われた、白いカラスと炎魔の一戦。偶然にも、式神の目を通してその一戦を目撃していたのである。

 神社に張られた結界は、外部へ音と映像を漏らさない作りとなっていた。しかし、舞花クラスの術師ともなれば、その中を覗き見ることなど容易なのだ。

 カラスの一戦を目撃する前、式神を通して目があった青年を思い出す。

 

「あの時は偶然目があったのかと思ったけど。もしかして、本当に見えていた? もしも本当に火竜さんを倒せるほどの陰陽術師だとしたら、白虎様を見つけ出す術も知っているかもしれない。確かあの制服は櫻川丘高校の制服……。明日もう一度式神を飛ばして観察してみよう。なにかわかるかも」

 

 神原真白の平穏な日常は、徐々に崩れつつあったのだった。

 

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