レジェンドオブアストラル   作:Yukimidaifuku

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プリンセスナイトと神前試合3

「ってぇなぁ」

 

 五本の槍に貫かれた剛健は、何事もなかったかのように立ち上がる。

 身代り札も効力を失っていない。ダメージは蓄積されたが、死に至るほどでは無かったのである。

 

「お前が放った水の槍は、十本とも迎撃したはず……なるほど、本当は十五本あったって事か」

 

 剛健はすぐに、答えへと辿り着いた。

 初めに迎撃された、舞奈の巨大な水槍。舞花は、その際に飛び散った水分を用いて槍を生成し、剛健の背後から放ったのだ。

 

「飛び散った水分にはお前の妹の霊力が残っているが……それも利用したのか?」

「その通りです。姉妹だから、霊力の波長が近いんです」

 

 舞花はそれだけ伝えたが、この技を真に支えているのは別の要素だ。

 10メートル近く離れた位置にある水を、槍へと作り変えるほどの並外れた霊力操作。彼女の持つその技こそが、この術を実現させているのである。

 剛健はそれ以上何も聞かなかったが、直感でその事実にも気が付いていた。そして、笑みを深める。

 

「お前も面白れえやつだったんだな。楽しくなってきたぜ!炎、放、多、重、連、弾『火炎障壁』!」

「ディーネ!『ウォール』!」

 

 迫り来る炎の壁と水の壁が衝突し、激しい水蒸気が発生する。

 

「舞奈! 右よ!」

「っ!? 『ウォール』!」

「火炎弾!」

 

 カラスは霊力波を放つ、剛健はそれをお構いなしに突っ込み至近距離で散弾を放った。それを舞奈はギリギリで防ぐ。

 

「この距離を、一瞬で……」

「火炎弾とかいう術を、足の裏から撃っているみたい。それを推進剤にして進んできたのよ」

 

 舞花は一瞬で剛健の技を暴き、焦る舞奈を落ち着かせる。

 

「正解だ! 俺は四肢に『火炎弾』の術式を刻んでいる。その気になれば空も飛べるぜ!」

「全然羨ましくないです! ディーネ、『ブレード』!」

 

 水で作られた無数の刃とカラスの霊力波が、剛健へと迫る。しかし、加速した剛健には掠りもしない。

 攻防戦の状況が続く。

 カラスは舞花のためにとある術の詠唱を終えるまで時間を稼ぐ。

 カラスと剛健の高速での攻防戦。舞花が術を完成させると。

 次の瞬間、結界の割れる音が響き渡る。

 音の方へ顔を向けた剛健の隙を、舞花は逃さなかった。

 

「『無上・水龍顕現』!」

 

 舞花が纏う全ての霊力を吸収し、とぐろを巻く龍が姿を現したのだった。

 

「くそっ!」

 

 剛健は『火炎弾』を放ち、とぐろを巻く龍から全力で距離をとる。

 

「時間がない……水龍!」

「グオァアアアアア!」

 

 龍は咆哮を上げながら、剛健へと迫る。

 

 『無上・水龍顕現』。それは、水瀬家に伝わる術の中でも最高位の秘術である。

 式神術の要素を持つこの術は、龍王を一時的に顕現し、使役することができる。しかし、その持続時間はあまりにも短い。

 舞花の並外れた霊力操作と、保有霊力の全てを持ってしても、顕現できる時間は1分が限界である。だが真白の強化のおかげもありなんとか三分は顕現できる。

 

「おいおい、とんでもねぇな……」

 

 その破壊力はまさに、一撃必殺と呼ぶに相応しい。

 剛健が先ほどまで立っていた場所は、龍の突進で跡形もなく消し飛んだ。その衝撃は、結界全体を震わせる。

 

「はーい。暁くん、アウト〜」

 

 緊張感の無い声が会場に響くが、それを聞いている者は誰1人として居ない。龍王の圧倒的な存在感によって、誰もが意識をそらせずにいるためだ。

 

「そいつは今の俺じゃ倒せねぇが、術者がやられりゃ消えるだろ!」

 

 剛健は舞花へと接近を試みるが、龍王は主人を守るようにとぐろを巻き、それを阻み、カラスも全力で阻む。

 

「くそっ。だが、長くは持たねぇはずだ。かかって来いよ!全て避けきってやるぜ!」

「言われなくても、水龍!」

「グォアアアアアアアアア!」

 

 水龍を十全に操ることのできない舞花には、剛健を捉えることはできなかった。

 

「もう、限界……」

「ごめん、姉貴。私の霊力が渡せれば……」

 

 舞花と舞奈は霊力の波長が似ているため、互いの霊力を共有することができる。しかし、それは姉である舞花の霊力操作があってこそ可能な技であり、霊力操作の苦手な舞奈では渡すことができない。

 もちろん、水龍を操作している舞花には、そんな余裕などないのだ。

 

「大丈夫よ……次の一撃で……状況を変えてみせる!」

 

 歯を食いしばりながら必死に意識を保ち、水龍に命令を与える。

 

「グォアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 その覚悟に応えるかのように、水龍も突撃を行なった。

 

「あ?声がでかくなっただけじゃねぇか」

 

 剛健はつまらなそうな表情を浮かべ、龍王の突進を難なく躱す。しかし、目標を失ったにも関わらず進むのをやめない水龍の姿に、剛健は気づいた。

 

「炎魔! 避けろ!!」

「ガ!? グガアッ!!」

 

 炎魔は場外へと吹き飛ばされ、身代り札が崩れ去る。

 

「はーい。炎魔ちゃんもアウト〜」

 

 そして、炎の壁とともに水龍の姿は消えていった。

 

「チッ、最初から炎壁と炎魔を狙ってたのか。やられたぜ」

 

 そうは言いながらも満足げな表情を浮かべる剛健は、さらに言葉を続ける。

 

「もうお前らは戦えねぇだろ。そこで大人しくしてろ。俺は剣城のところへ行く」

 

 そう言い終え、さらなる異変に剛健は気づいた。水龍の姿に意識を奪われていた観客も、その異変に気づく。

 

「あれは……誰?」

 

 その言葉を発したのは、霊力を使い果たしながらも辛うじて意識を保つ舞花だった。

 

 炎の壁が消えた先には、仮面の術師と膝をつく剣城燐。そして、切り落とされた阿修羅の首を持つ、白髪の幼女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は……僕の式神なの?」

「……」

 

 腰に短刀を携えた幼女は、黙ったままコクリと頷き、可愛く駆け寄ってくる武者の首を持ちながら。

 

「ちょっ、待って怖いから。それ捨ててっ」

「……」

 

 残念そうな表情を浮かべながら、幼女は首を放り投げた。

 

「あ、消えた」

 

 武者の胴体と首が、光の粒子みたいなのを放ちながら消えていった。式神って、倒されると塵の様に消えるみたいだ。

 

「私の阿修羅……一瞬で?その式神は、その式神は一体何なのですか!?」

 

 燐が叫ぶが、真白にもわからなかった

 そもそも、武者の術式を真似て生まれたのだ。

 

「あ、炎の壁も消えてる」

 

 いつの間にか、真白と水瀬姉妹を隔てていた炎の壁が消えている。

 そして、剛健と水瀬姉妹が、驚愕の表情でこちらを見ていた。

 

「驚愕してるのは、僕の方だけどね……」

 

 炎の壁を発生させた後、真白は震える手で術式を完成させた。しかし、召喚の寸前に壁を突破され、大太刀が迫ってきたのだ。その時は迫り来る大太刀にビビって、痛みがくるのを覚悟して目を瞑ったのだ。

 だが、突然響き渡った大音量の咆哮によって燐の意識が逸れ、その隙に式神を召喚できたのである。

 そのあとは、姿が現れる前の式神に「武者を倒してくれ!」と叫び、気がつくと武者の首と胴体がお別れしていたのだ。

 

「剣城!!」

「はっ、私としたことが……術者を直接狙います!火竜、あなたは空中から攻めてください!」

「了解だ!」

 

 剛健の声でフリーズ状態の燐が目を覚まし、2人で突っ込んできた。

 

(っていうか、火炎弾の人、空飛んでる……すごい。 あんな使い方もあるんだね。いつかやってみよう)

 

「はっ、そんな事考えてる場合じゃない! し、式神さん! あの人達を倒して!」

「……」

 

 幼女はコクリと頷き、腰の短刀に手を添える。そしてーーー

 

 

「キャー!」

「みんな逃げろ!退避だ!」

「非常口はこちらです!はやくっ!」

 

 

 ーーー鈴のような音色が響き渡り、ドームの屋根が崩れ落ちた。

 

「はっ!ここは……」

「火山様、気がつきましたか」

 

 市内の総合病院にある3人用の病室で、火山暁(ひやまあきら)は目を覚ます。

 横のベッドには、慣れた手つきでリンゴを剥く剣城燐(つるぎりん)が腰掛けていた。

 

「安心してください、ここは病院です。これでも食べて、落ち着いてください」

 

 暁は、差し出されるリンゴに怪訝な目を向ける。剥かれたリンゴは全て、ウサギの形に切りそろえられていたためだ。

 しかし、腹が空いているのは事実。嫌な顔をしながらも、そのリンゴを食べる。

 

「剣城。お前、怪我を負ったのか?」

 

 入院着を着る燐の姿が目に映り、暁は彼の身を案じる。

 

「いえ、『身代り札』のお陰で無傷ですよ。念のために、精密検査を受けただけです」

「そうか、それは良かった」

 

 燐の言葉に、暁は安堵する。だが、自分が病室にいる理由を思い出し、慌てて暁に問いかけた。

 

「そうだ! 試合は、試合はどうなった!?」

 

 当主である暁は、試合途中からの記憶がない。水龍の突進による衝撃波で吹き飛ばされ、そのまま場外で気絶していたためだ。

 

「残念ながら……試合には負けました」

「なんだと!?」

 

 仮面の術師が召喚した式神に対して燐と剛健が挑むも、飛ぶ斬撃によって2人の身代り札が崩れ去ったこと。また、斬撃は三重結界をも貫通し、試合会場の屋根を斬り崩した事を簡潔に話した。

 

「バカな! 火竜を倒した白いカラスといい、そんなことがあるわけ無いだろう!」

 

 それでも、暁は聞く耳を持たない。その理由は、燐と剛健の強さを知っているが故の信頼によるものだ。

 それを理解したうえで、燐は言葉を続ける。

 

「火山様。私はあなたの教育係として、間違ってしまったようです。共に、お叱りを受けましょう」

「お叱り?」

 

 燐の言葉にポカンとした表情を見せる火山は、すぐにその言葉の意味を理解する。

 病室の扉を蹴破りながら、鬼のような形相の老人が駆け込んできたのだ。

 

「じ、爺ちゃん!?」

「爺ちゃん? じゃないわい! この、バカ孫が!!」

 

 爺ちゃんと呼ばれる老人の鉄拳が、暁の頭蓋へ炸裂する。

 彼の名は火山佐之助(ひやまさのすけ)。御年九十歳にして、病床を軋ませるほどの鉄拳を放つパワフルお爺ちゃんだ。

 病により引退を余儀なくされたが、現当主である暁が後を継ぐまでの数十年、当主として火山家を支えてきた豪傑である。

 

「な、なんで爺ちゃんがここにいるんだよ!?」

「水瀬の坊主から連絡があったんじゃよ。お前がバカな理由で、神前試合を挑んできたとな!」

 

 さらなる鉄拳が炸裂する。

 

「いでぇ……にしても、櫻川丘からこんなに早く、どうやって……」

「水瀬の坊主からいい病院を紹介してもらってのぉ。半年ほど前から、こっちで療養しとったんじゃ。何やら企んでいたせいで、儂が転院した事を誰も知らなかったようじゃがな!」

「いでっ!!」

 

 さらなる鉄拳が炸裂する。

 そんな中、「半年ほど前」という言葉に、燐は違和感を覚えた。そして、1つの答えに辿り着き、水瀬家当主の手腕に1人感嘆する。

 

「神前試合はビデオで見させてもらったぞ。仮面の陰陽術師とは……比較せんでよいが、水瀬の姉妹は、火竜を驚愕させるほどの活躍じゃったな。対して、お前はどうじゃった?」

「そ、それは……」

 

 何一つ出来ず、無様に場外となった自分の姿を思い出し、火山暁は項垂れる。

 

「まぁ……儂も悪かったと思っておる。後継はお前しかおらんかったがゆえ、厳しく育て過ぎた。そして、当主という責任ある立場に、まだ若いお前を無理やり座らせた」

 

 悲しげな表情を見せながら、前当主である佐之助はそう呟いた。

 

「佐之助様。今回の件は、私の責任でもあります。教育係としての命を受けておきながら、暁様と共に、誤った道を進んでしまいました」

「そうじゃな。派閥内の者達に、暁を新たな当主として認めさせるため……とでも思ったんじゃろうが、白虎様を襲うのはやり過ぎじゃ。もちろん、神前試合もな」

 

 前当主、佐之助は、項垂れる2人に対して言葉を続ける。

 

「じゃが、今回の試合で皆学ぶ事が出来たじゃろう。暁、お前は自分の浅はかな考え方を正せ。それと、惚れた女は自分の力で勝ち取れ。そのために火山の権力を使うなど、言語道断じゃ!」

「わ、わかったよ、爺ちゃん……」

 

 暁は頭を押さえながら、その言葉に頷く。

 

「剣城。お前の忠義は見事じゃが、主人に従うだけが忠義ではない。今後は間違えるでないぞ」

「はっ!」

 

 佐之助の言葉を胸に刻み、燐は深く頭を下げた。

 

「そして火竜、お前は戦いに固執し過ぎじゃ。少しは頭を使え」

「げっ! 気づいてたのかよ!」

 

 カーテンを閉め、気配を消していた剛健が驚きの声を上げる。

 

「剣城、火竜……並べ!」

 

 2人の頭蓋へ、鉄拳が炸裂したのだった。

 

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