「カナミちゃーん! 俺と一緒に冒険を…… いや、せめて握手だけでも!」
「カナミーン! 僕と一緒に冒険しようよ!」
「もう、ついてこないでって言ってるのにーっ!」
「なんだが騒がしいな見に行ってみようぜ」
「うん」
なにやら騒ぎがするので気になったシロウとレメは騒ぎの場所に行ってみる。
騒ぎのする場所に向かう途中走ってきたプレイヤーとぶつかった。
「いてててて…… すいません大丈夫ですか?」
「ごめんなさい……私は大丈夫…… ──ってこんなことしてる場合じゃなかった!」
女の子のプレイヤーは後ろを振り返る。
「待ってくれよー!」
もしかしてこの女の子を追いかけているのだろうか?
女の子は困っているみたいで、焦っているようだ。
なんだか追いかけられていて困っているということは察した。
「こっちについて来てください」
「えぇ!? ちょっとキミ!?」
今は緊急事態なので彼女の抗議を無視してプレイヤー達から逃げる。
エトワール王国の街は複雑に入り組んでいて迷いやすい。
シロウは記憶力がいいので追ってから巻き、逃げることに成功した。
「これでしばらくは追ってこないでしょう」
「ふうー、ありがとう助けてくれて」
「なぁ、なにかあったのか? 追いかけられていたみたいだけど」
「あ、えーっと、あれ……もしかしてキミ達、私のこと知らない?」
「ごめんなさい、お姉さんのこと知らないです。今、初めて会ったので」
「オイラもだ。どこかで会ったのか?」
「ううん、私もキミ達と会うのは初めてだよ。……ぷっ……はは、あはははは! ……そうか、そうだよね。私もやっぱり、まだまだだなぁ……」
「「ん?」」
急に彼女が笑い困惑する。シロウとレメ顔を合わせて首を傾げる。
「それじゃあ、お姉さん気をつけてくださいね」
「じゃあな、気をつけろよ!」
「ちょっと待って! ちゃんとお礼言いたいからさ、 今日この後時間あったりする?」
「え、ま、まあ、あるにはありますけど……」
「よかった! じゃあ、あとでメッセージ送っとくからさ、私が言う場所に来て」
「えっ、それってどういうことですか?」
「何かあるのか?」
「それは来てからのお楽しみ! 私はカナミ。キミたちは?」
「僕はシロウです」
「オイラはレメだ」
「シロウくんとレメちゃんね。それじゃあ、私は待ち合わせしている人がいるから行くね」
「待ってくださいカナミさん。なんで追われていたのかは知らないですけど、そのままで行ったらまた騒ぎになっちゃいますよ」
彼女がなぜ追われていたのかは知らないが、出ていったらまた騒ぎになりそうだ。
シロウはトレードウィンドウに、隠密マントを表示する。
隠密マントの効果は羽織っているとプレイヤーや敵から発見されにくくなる効果を持っている。
ただし、【索敵】スキルや【看破】のスキル持ちには発見されやすくはある。
「助けてもらった上に、こんな物まで貰っていいの?」
「いいですよ。約束があるみたいですし」
「ありがとう! このお礼は必ずまたね!」
隠密マントを受け取るとカナミと名乗った女の子とシロウとフレンド登録をし、カナミはシロウにお礼を言って広場に戻って行った。
「カナミのやつ、なんで追いかけられていたんだろうな?」
「そうだね。んー……ちょっと気になるけど後でメッセージを送るって言ってたし、そこへ行けばきっとカナミさんの正体が分かるでしょ」
「それもそうだな」
カナミは広場に戻ってくると、待ち合わせしていた人物がいた。
その人物とはトッププレイヤーの一人カズハだった。
「お兄ちゃん、お待たせー!」
「少し遅かったがなにかトラブルにでもあったのか?」
「あはは、ファンの人達に追いかけれちゃって」
「大丈夫だったのか?」
「うん、シロウくんとレメちゃんって人に助けてもらったの」
「彼に会ったのか?」
「お兄ちゃん知ってるの?」
「ああ、彼はイベントで上位に入るトッププレイヤーの一人だよ」
「そんな凄い人だったんだ」
「彼となにかあったのか?」
「ううん、なにもなかったけど、私がアイドルだって知らなかったの。私もまだまだなって思ったよ」
「そんなことないと思うが。カナミは充分、アイドルとして頑張っているさ」
「ありがとうね。でも私もっと頑張るよ!」
今をときめくアイドルなのだが、それでもカナミは自分はまだまだと思うのだった。
カナミと別れた後、シロウは広い町の中を一人スタスタと歩く。まず分かりやすく町に変わった様子がないかを確認しているのである。シロウは町を探索している間にすれ違ったNPCの顔は全て覚えている。そのため、一人一人総当たりなどしなくともいい。既に分かっている、どこでどんなクエストがあるかやNPCがどこにいるかという情報と今の町を照らし合わせれば見たことのないNPCはすぐに明らかになる。
目的もなくブラブラと歩いていると、魔族である老爺が座り込んでいた。
「お爺さん大丈夫ですか?」
「こ、腰を痛めてしまったのじゃ」
「【ヒール】」
シロウは手をかざすとお爺さんに回復魔法をかけた。
「おお! 腰の痛みがなくなった」
「回復魔法が効いてよかったです」
「優しいのう、お前さんは」
「大したことじゃないですよ」
「すまない助かったぞ」
「いえいえ、治ってよかったです。今日は安静にしてくださいね。それじゃあ」
「待て待て、礼がしたい。ワシはラカムじゃ。お前さんたちは?」
「シロウと言います。よろしくお願いしますラカムさん」
「オイラはレメだ!」
ラカムが差し出してきた手を握り、自己紹介をする。
「お礼をしたいのじゃが、時間はあるか?」
「お礼なんていいですよ。たまたま通りかかっただけなので」
「まあ、そう言わずに。ワシの家はこの先の本屋じゃ」
★クエストが発生しました。
◼️個人クエスト
【本屋に行ってみよう】
⬜︎未達成
⬜︎報酬 ???
※このクエストはいつでも始められます。
特に今すぐ受ける必要はないみたいだが、時間はあるのでシロウはクエストを受けることにした。
ラカムについていき、こぢんまりとした店が、通りから少し外れた場所にひっそりと建っている。パッと見、本屋とは思えない地味な店構えだ。
扉を開けると同時に、控えめなドアベルが鳴って、奥のカウンターに魔族の女性が突っ伏している。長い紫色の髪がカウンターにぶわっと広がっており、顔が見えない。普通に不気味だった。
扉を開けると同時に、ポーン、という音とともにウィンドウが開いた。
★クエスト達成しました。
◼️個人クエスト
【本屋へ行ってみよう】
◼️達成
◼️報酬 3000ルピ
本屋に入っただけでクエストを達成した。行ってみようとしか書いてなかったが少しだけお金も入った。
「うぅ……。客が……こなーい……」
「ちょっと不気味で怖いぞ」
「まったくなにやってるんじゃ」
「ラカムさん、この人は?」
「驚かせてすまんのう。この子はワシの孫じゃ。ニーナ、お客さんじゃよ」
「えっ? お客さん!? う、うわー……。私、お客さんの前でなんて態度を……。す、すみませんでした」
「いえ、気にしてないですよ」
「この店を見る限りじゃ、ニーナが嘆くのも分かるぞ」
ここまで繁盛してなきゃ、恨み言の一つも言いたくなる。
レメがそう言うと、ニーナが涙目になって話し始めた。
「うぅうう……。そうなんですよ~。ホントにもうびっくりするくらいお客さんが来なくて……来たとしても、商品をチラッと見ただけで帰っちゃうし……。一体、何が悪いのかしら……」
店員としての言葉遣いも崩れている。よほど困っているようだ。
「大変なんですね……」
「そう! 大変なの! おじいちゃんの店を引き継いだのに……。このままじゃ、潰れちゃうよ……」
「どうして、お客が来ないんだ?」
「……貴方、異邦人よね?」
と、いきなりニーナはシロウの顔をじっと見ながら、話の流れをぶった切ってそう聞いてきた。
異邦人とお店が繁盛してない理由と何か関係があるのだろうか。
シロウが不思議そうな顔をしていたのに気づいたのか、ニーナは慌てたように開いた手を横に振った。
「あ、えっと。別に貴方が異邦人ってことと、お店にお客さんが来ないことは関係ないのよ? ただ、こんなふうに話を聞いてくれる異邦人の人って初めてだったから」
「そうなんですか?」
「ええ、異邦人の人たちって、店に来ても買い物を済ませたらさっさと行っちゃうから。異邦人が来て一年くらいになるけど、こんなに長く会話をしたのって初めてなの」
「そうじゃな。交流しに来る異邦人はいないわけじゃないのだが、なにせこの店は人通りが離れた場所にあってこぢんまりとしているからのう」
そう言って微笑むラカムとニーナ。
つまり、プレイヤーはあまりNPCと交流をしていないってことになる。NPCとの交流目当てで始める人もいるとシロウは聞いたことがある。
シロウもあまりNPCと交流をしていなかったが、最近はラピスやトトと交流を深めている。
この店員さんを見て、最初顔が隠れていて不気味に見えたが、こうして見るとニーナはかなりの美人さんである。一度知られれば、根強いファンができるんじゃないかとシロウは思う。
「そうだったんですか。何でしたら、もう少し話をしませんか? 僕達でよかったら、愚痴でもなんでも聞かせてもらいますよ」
「それはありがたいけど、いいの?」
「ええ、もちろんいいですよ。愚痴でも話せば多少は気が楽になってくれれば嬉しいです」
「本当? 最近は、友達とかと話す機会もあんまりなかったから、色々と話したいことがあったの。聞いてくれるなら嬉しいわ。……でもどうして初対面の私の話なんか聞こうと思ったの?」
ニーナが、嬉しさ半分疑問半分という顔でそう聞いてきた。
どうしてか、いきなりこんなことを言ってくる男なんて、警戒して当然だ。なんて返すのが正解かとシロウは考える。
別に理由なんてなく困っているから少しでも力になれればと思っているのだ。
「コイツわな、困った人を放っておけないお人好しなんだ。理由なんて大したことじゃないのさ」
「まあ、レメの言う通りです。別に理由なんてなく力になれればと。なので遠慮なく話ちゃってください。その全てを受け止めますよ」
「そっか、そういうことなら、遠慮なく聞いてもらうわよ」
「はい、喜んで」
そのあとニーナは十分くらい絶え間なく話し続けた。大半は上手くいかないお店の愚痴。後は母親から「いい歳なんだから、恋人の一人でも作ったらどうなの?」と言われて困っている。などの日常感あふれる話を聞かされた。
シロウとレメはその間、「ふんふん、そうですか」とか「それは大変だな」とか「わかりますよ。その気持ち」なんて感じで、相槌を打っていた。
「ふぅ……。なんか。こうやって全部話しちゃったら、少しは楽になったかも。ありがとうね」
「お役に立てたなら何よりです。何とかやっていけそうですか?」
「うん。おじいちゃんから受け継いだお店を潰さないためにも、頑張ってみるわ」
決意のこもった言葉と共にニーナが浮かべた笑顔は晴れやかなものだった。
シロウとレメも、その笑みにつられて、クスリと笑ってしまう。どこか寂しげな雰囲気が漂っていた店内が少し明るくなったように感じられた。
「それじゃあ、僕達は帰りますね。何か困ったことがあればまた言ってください。力になれるかどうかわからないですけど」
「そんなことないわ。おかげで気が楽になったわ。ありがとう。そういえば貴方たちの名前を聞いてなかったわ。私はニーナ。貴方たちは?」
「シロウです」
「レメだ」
「シロウくん、レメちゃん、ありがとう。また来てね。貴方たちが来たら安くしておくわ」
「ありがとうございます」
「またな!」
「シロウ、お礼がまだじゃったわ。少し待っててくれ」
ラカムはカウンターの奥にあった古そうな本を引っ張り出してきた。
「これがお礼の本じゃ。珍しい魔獣を集めた図鑑……らしいぞ。うちには一冊しかないもんじゃが、持っていくといい」
「いいんですか? 貴重な本に見えますけど……」
「ははは、貴重かどうかわからんのう。その本に載っている魔獣は聞いたこともないからの。存在してるかどうかさえわからんし」
これはもしかしたらレアモンスターの図鑑かもしれない。単なる偽書って可能性もあるが、シロウはありがたくいただいた。
図鑑を受け取り、渡された図鑑は『幻獣図鑑』と書かれていた。これは全一巻みたいだ。
ニーナの店を出て、噴水広場へと向かう。
噴水広場に設置してあるベンチに腰掛けて貰った『幻獣図鑑』を取り出した。
独特のタッチで描かれた絵に、名前と簡単な習性、生息地域などが書かれている。
パラパラとページをめぐるとモンスターの名前は記載されているが、シルエットイラストになっていて生息地域が??? になっているのが多い。
図鑑シリーズは持ち主が実物を確認するか、一定数以上のプレイヤーが認識すると更新するようになっている。
「なあ、これ情報公開するのか?」
「独占するつもりはないし、公開してみようかな。情報公開するのはいいけど、どこで手に入れた情報とか根掘り葉掘り聞かれて大変そうになりそうだなって。それにたぶんこの『幻獣図鑑』は今のところ一冊しかないみたいで、欲しがるプレイヤーもいると思う。似たような本があればいいんだけどねー」
似たような本があればそのうち出てくるかもしれないが、『幻獣図鑑』を狙ってPKに合う可能性もある。
「それじゃあ、どうするんだ?」
「そうだねー……。トッププレイヤーの人に僕のことを伏せてもらって情報公開するか、記者をやっているプレイヤーに情報公開をしてもらうかだね」
この『幻獣図鑑』はかなりの価値がある物だ。情報公開してもいいんじゃないかとシロウは思う。
ただ、存在が確認しているモンスターを先行した方がよさそうだ。
この図鑑に載っているからといって、本当に存在しているかはまだわからない。とりあえず書き込んだりして『出ないじゃないか!』と来たら嫌だ。
シロウは自分で情報公開するのは嫌だ。自身が目立つのは仕方ないとして、『幻獣図鑑』は価値ある物なのでもしかしたら他のプレイヤーに狙われる可能性もある。
『幻獣図鑑』を手に入れたことを伏せて自身で情報公開するのもありだが、その際にどこで情報を知ったかと根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だ。
情報公開を誰かにしてもらうと考える。トッププレイヤーだとカズハか、ミナトのツートップがいいだろうが、二人とは面識がないのだった。
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