カナミに突然誘われて、簡単なクエストを一緒にやることになったシロウ。
「……しかし、カナミさんがアイドルだとは思わなかったです」
「え~。けどそれをいうなら私だって! あなたがまさかアストラルで有名なプリンセスナイトだったなんて、 ぜーんぜん思わなかったよ」
「あはは」
「おい、な、なんだあの男? カナミちゃんと一緒に!? なんかそういうイベントなの?」
「……きっと変なファンにつきまとわれているに違いない! ……なんて可哀相なカナミちゃん!!」
(やたら視線が痛いな……やっぱり、 アイドルと一緒だからそれで──)
カナミは人気アイドルなので行き交うプレイヤーの視線を集めていた。
なので男性プレイヤー達からは嫉妬の怨嗟を向けられていることに気がつく。
大人気アイドルであるカナミはかなり目立つ。
美少女で愛嬌もあり素直で元気で明るいということもあり、人気だ。
「おい、お前、消えろよ! おらっ!」
「危ないじゃないですか」
男性プレイヤーがカナミにつきまとっていると勘違いしてシロウに殴りかかってきた。
殴りかかってきたことに驚いた。そういう人たちがいるのはいるかもしれないと思っていたが、行動に移す人が本当にいるとは。
「カナミちゃんにつきまとってんじゃねえよ! カナミちゃんが可哀想だろうが!」
アイドルであるカナミとパーティを組んでいるので、嫉妬する気持ちはわからないでもない。
とはいえ、だからといって人を殴りかかるのはいけないことだ。
「おらっ! よけるんじゃねえ!」
「そんな理不尽な」
殴りかかってくるが、避けながらどうしたものかと悩んでいると。
「いい加減にして……! 危害を加えるなんて…… サイテー!」
「カナミ……ちゃん……?」
「勘違いしているみたいだけど、私は好きであるこの人と一緒にいるの! 何か文句あるっ!?」
「……」
「気分悪い、行こっ!」
カナミは殴りかかってきた男性に怒った。手を引かれてシロウはその場を離れる。
男達の方に視線向けると、カナミに怒られたことにショックだったのか口をパクパクさせながら放心していた。
人気アイドルに侮蔑を向けられたら動揺を隠す自信はない。
野次馬の山ができそうになっていたのでシロウは「お騒がせしました」と周りに頭を下げながら、その場から去るのだった。
「……あぁ、怒りすぎたかなぁ。なんだか、みっともない所見せちゃってごめんね。あんなに怒鳴る気はなかったんだけど、つい……幻滅した?」
「幻滅どころか…… 逆にすごく格好良かったです」
「あそこまで堂々と言えるのは凄かったぞ! でもよかったのか? カナミの評判が下がることに……」
掲示板にカナミの悪口を書き込まれるのが心配だ。
シロウは自分の悪口を書き込まれるのは別にいいが、自分のせいで心にもないことを書き込まれるのは心が痛む。
「あはは……確かに性格が悪いってネットの書き込みされるかもしれないけど。私の友達が嫌がらせされるのは見てられないよ」
カナミは自身がどう思われているかネットでエゴサーチをするので、今更悪口や批判をされても気にするような人間ではなかった。
『お前、良いやつだな』
「……カナミさん。ありがとうございます」
カナミは気にした様子はなく、シロウは自分のために怒ってくれたのは嬉しかった。
「頻繁にログインはできないけど、時々私とパーティ組んでくれる」
「もちろん、いいですよ」
「キミと一緒にいるとさ、 なんか普通の女の子になったみたいですごく楽しいんだ。みんなは私がアイドルだから、下心ありで近づいてくる人が多くて困ってたんだ。別にそれが悪いとは思わないけど、私はアイドルの叶魅じゃなくて、普通の女の子のカナミとして見てほしかったんだ。それに、私だって誰かと一緒に冒険してみたいの! ね、いいでしょ?」
「もちろん、いいですよ。カナミさん」
こうしてシロウとカナミはパーティを組むことになった。
「カナミさんはホラーとかって大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。むしろ得意」
「それなら、ホラーエリアにある場所に行きたいんだけどいいかな?」
「もちらん、大丈夫!」
シロウとカナミはホラーエリア【廃都ネビエラ】にやってきた。
廃都とは書いてあるが見た目は廃墟と化した建物だが、中に入ってみると中は普通になっている。
掲示板や攻略サイトを見ると、あまりの恐ろしさに攻略を断念するプレイヤーが多いとのこと。
「中は普通とはいえ外側から見るとなかなか不気味だよね」
「そうだね。けどドキドキ感があって面白いよね」
「カナミはホラー大丈夫だって言ってたけど、スリル系が楽しめるタイプ?」
「うん、スリルがあって私は好きだよ」
カナミとは気が合いそうだ。
【墓標迷宮】。
この【廃都ネビエラ】にある狩場の中で唯一つ、廃都ネビエラの中・にある狩場。
その正体は、廃都ネビエラの墓地区画の地下に広がった大迷宮ダンジョンだ。
攻略情報wikiをチェックしたところ、【墓標迷宮】は以下のような場所らしい。
その一、五階層ごとに趣や生息モンスターの異なる地下ダンジョン。
その二、深く潜れば潜るほど強力なモンスターが出現する。
その三、数十層も潜れば俺が戦った【アイアンゴーレム】とは比較にならない強さのボスモンスターが数多存在する。
その四、逆に言えば浅い階層ではモンスターの力も弱く、廃都ネビエラ周辺と同程度のモンスターが出現する。
その五、攻略wiki有志による探索では現在地下五十層までを確認済み。
「異邦者の方ですね」
「中に入っても、いいですか・」
「は、はい。お気をつけください」
兵士さんが何事かの呪文を唱えると、門が開いた。
門の向こうには仄暗い薄闇と、地下へと向かう石段が在った。
「行こうか」
『ああ』
「うん」
シロウとレメとカナミは【墓標迷宮】の内部へと足を踏み入れたのだった。
噂をすれば影。指し示した先にはボロボロの衣服を纏った人の骨だけ残った化け物がいた。
モンスターであることを証明するように、骨の頭上には【スケルトン】という名前が表示されている。
武器は持っておらず、素手の両手を広げてカチャカチャと鳴らしながら近寄ってくる。
白い骨に少しだけ体液が乾いた後の赤や黄色が微かについているのがリアル過ぎて嫌だ。
今だけは「視界選択はアニメにすればよかったかな」と思ってしまう。
シロウとレメとカナミは通路の角から現れたモンスターに言葉を失った。
そのモンスターもやはり【スケルトン】と同じアンデッドモンスターだ。
しかし、そのモンスターは【スケルトン】より“太かった”。
腐り、蛆の湧いた肉が骨にひっついていたからだ。
付随した肉もいたるところが欠けており、その断面からは黄色や赤黒い色をした体液が滴っている。
現実と寸分違わない五感を誇る<レジェンドオブアストラルアストラル>は余計なことにそれの発する名状しがたい腐臭までも伝えてくる。
そして怪物の頭上には【ゾンビ】という名称が表示されている。
この世ならざる醜悪な怪物を見てしまった探索者は1/1D6のSANチェックを……。
「……ハッ! あまりのグロさに意識が別のゲームに飛んでいた!」
あんまりにもあんまりなものが現れたのでつい……。
アンデッドの巣窟なら【スケルトン】以外に【ゾンビ】もいる。
物静かだった【スケルトン】と違い、【ゾンビ】は呻き声を上げて体液をビチャビチャと垂らしながらこちらに迫ってくる。
「【クロススラッシュ】」
「【ホーリースラッシュ】」
探索続行を決めてから五分後、シロウ達はそれを見つけた。
地上からこの階層に降りるときに使ったのと同じ意匠の階段だ。
その先は第二階層へと続いているのだろう。
「これがあるなら、一階はここで終わりみたい」
「ボスは居ないな」
「五階層毎に配置されているそうだからね」
<墓標迷宮>の様相は五階層でワンセットだ。
地下一階から五階はアンデッドの巣窟で、終点にはアンデッド系のボスが配置されているらしい。
ボスは数体のボス候補からランダムで出現するそうだ。
ボスを倒すと六階への道が開放され、六階からは植物モンスターの巣窟となり、以後はその繰り返しだ。
ちなみに十一階から十五階は獣系モンスター、十六階から二十階は鬼系モンスターという風に出現するモンスターのタイプと強さが変わっていく。
攻略サイトの情報は五十階まで記述されていたが、そこはドラゴンの階層であるらしい。
五十階層のボスは非常に強力で突破者がいないため、未踏領域と呼ばれている。
未踏と言うが、正確に言えば攻略サイトの運営者やwikiに書き込んでいる人間の中に攻略した者がいないらしい。
五十一階以降を知っていてもアドバンテージとして情報を隠している人もいるのかもしれない。
まぁ、今は行けない場所のことを考えても仕方ないか。
「行けるところまで行ってみる?」
「うん、行けるところまで行ってみよう!」
カナミの時間が許すまで、何階層まで行けるか挑むことになった。
道中のゾンビやスケルトンを倒していきながら二人は苦戦する事もなく、あっという間に五階層のボス部屋まで来てしまったのだった。
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