レジェンドオブアストラル   作:Yukimidaifuku

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プリンセスナイトと拠点突入2

「楓ちゃーん!!」

「楓! なんてことをしたんじゃーッ!!」

「カー……」

 

 ズレ落ちていくビルを眺めながら、真白と琥珀とクロウの顔は青ざめていく。

クロウが音波で人質の居場所を見つけ、琥珀がビル内へ突入する。という策を彼らは練っていたのだが……楓がビルを斬り裂いたのである。

 

「カー、カカー」

「そうか、死人は出ていないか。それは、本当に良かった」

「ふぅ……よかった。死人がでていなくて」

「も、申し訳ありません」

「次からは斬る前に儂らの許可を取ってくれ」

「今回は死人がでなくてよかったけど、」

「申し訳ありません。主さま、主さまのご期待に応えようとしました」

 

強く怒ったわけではないが、主に叱られて楓はしゅんとしている。

反省はしているようで、次からは気をつけてくれば問題ない。

 

「。建物を壊すほどの技は極力控えてくれれば、大丈夫」

「……わかりました。皆さまに聞いて判断します」

 

 2匹と真白は胸をなで下ろす。

 

「そういえば、ビルの倒壊が止まったようだな」

「『捕縛』の異能者のおかげだね」

「なるほど、八階にいる者の異能か。敵ながら、感謝せねばな」

 

2匹と真白は、いずれ楓に道徳を教える事を、心の中で固く誓うのだった。

 

「救出は儂と真白がやるとしよう。楓とクロウは、邪魔をしようとする者達を倒してくれればよい。クロウ、楓を頼むぞ」

 

 「任せろ」と伝えるように、クロウは頷きながらひと鳴きした。

 

「カー」

「お任せください」

「うむ。では、いってくる」

「それじゃあ頼んだよ

 

 1人と1匹に見送られ、琥珀と真白は人質のいる七階へ向けて空を駆けていった。

 

「一体外では何が起きてるんだ!?」

 

 ギブスで右腕と左足を固定された楓原一葉は、天井がズレていくという不可思議な光景に驚愕していた。

 

「捕縛の異能が建物全体にかかっているのか? 何が起きたのかはわからないが、どうにかしてこっから出る方法を考えて……」

「その必要はない」

「なっ……! お前たちは……!」

 

 そんな彼の驚きは尚も続く。

 突然扉をぶち破り、白虎と真白が室内へ侵入してきたのだ。

 2人が監禁されている部屋は、20畳ほどのスペースがある。しかし、白虎放つ圧倒的な威圧感によって、至近距離で対峙しているかのような感覚に一葉は襲われた。

 

「……こんな訳わからない状況の中で、僕は死ぬのか……」

 

 自身の不運を一葉は恨む。

 だが、彼の人生はまだ終わらなかった。

 

「捕らえられたというのは、お主だな?」

「一葉さんですよね。無事でよかったです」

「えっ? ああそ、そうだが……」

「む、怪我をしているようだな、大丈夫か?」

「え、は、はい。だ、大丈夫だ」

 

 現れた白虎と少年は一切の敵意を持たず、気さくに話しかけてきたのである。それだけでなく、一葉を心配している様子すらある。

 

「え、えっと……」

「すまない、怯えさせてしまったようだな。だが安心してくれ。儂らはお主を助けにきたのだ」

「助けに?」

 

 白虎が言葉を話し、自分達を助けにきたという理解を超えた出来事に、一葉の混乱は頂点に達する。

 

「えっと、あの……隣にいるのは神原真白でいいのかな?」

「はい、初めまして神原真白です。色々と混乱していると思いますが、今はここから逃げましょう」

 

 この建物を斬り裂いた人物も、同じ眷属の1人である事。そして、妹である叶魅に皐月も無事で、既に保護されている事を話した。

 

 

1階にて待機していた戦闘員は皆、ズレた上層階を見上げながら呟く。

 

「うそ……だろ?」

「支部が、斬られた……」

 

 彼らは驚愕に目を見開きながら、この状況を生み出した白髪の幼女を見る。

 今の斬撃がもしも、1階を横に裂くよう行われていたら……。そんな最悪の状況を考え、背筋を凍らせた。

エンデヴァーとサンゴにジェントルがいない以上。叶うはずがない。

 

「た、頼む殺さないでくれ!」

「こ、降参だ!」

 

 その光景を目撃していた戦闘員達は次々と武器を捨て、と同じく両手を挙げる。

 

「カー……」

「戦わずに勝ってしまいました……」

 

ジェントルとサンゴとエンデヴァーがいない状況では、戦闘員達は勝てるはずもなく降参した。

楓とクロウは戦わずして勝ってしまい消化不良になるのだった。

 

「『擬似・水療波』」

 

 ギブスに包まれた一葉の腕と足が、光の波に包まれる。

 

「よし、これで骨折は治ったはずだ」

「えっ……ほ、本当だ。本当に治っている」

「『擬似・水療波』という業じゃ。まぁ、おりじなるより効果は薄いがの」

 

 少し歩きづらそうにしながらも、一葉はギブスをつけたままの足で立ち上がる。

 そして、折れていた右腕を何度か振り、腕の状態を確かめた。

 

「ともかく脱出じゃ、全員儂の背中に……」

「まっ……待ちなさいッ!」

 

三人は部屋の入り口を見ると、2人の男女が入ってきた。

 

「誰が……大人しく帰すと、思ったかしら…? 私たちにも、使命があるの。神原真白、楓原一葉を渡しなさい…!」

「……どうやら、このまま帰してはくれないようだな」

「ルチル…! ジルコン…!」

「二人とも気をつけてくれ…! あいつらが、僕たちを捕らえた異能者……この支部のトップだ!」

「ええ、分かってますよ」

「ほっほっほ……。『捕縛』の異能者よ…。随分と辛そうに見えるが、この巨大なビルを支える異能。いくら強力な異能使いと言えど、もはや十分と持たぬのではないか?」

「……」

 

図星なのかジルコンは答えない。明らかに辛そうに見える。

 

「儂らは人質を解放し……貴様らが、この国を去ってくれさえすれば、深追いはせん。解ったのなら……」

「黙りなさい!! 一度目もならず、二度目も私たちの邪魔をして……! こちらにもメンツがあるの。ただで帰すわけにはいかないわ、ジルコン!」

「はい!異能『捕縛』解除!!」

 

ルチルの指示に従い、ジルコンは『捕縛』の異能を解除した。

『捕縛』の異能が解除され、ビルがが再び崩れ始める。

 

「いかん!!」

「異能!! 『千手縛葬』!!」

「『擬似・防御結界!!』」

 

ジルコンによる捕縛が真白達に迫り、琥珀は結界を張り防御した。

 

(危なかった……!! 琥珀のバリアが間に合った! これなら……)

 

「舐めるなぁッ!!」

「うわあっ!!」

 

真白がほっとしたのも束の間、ジルコンは鬼気迫る様子で琥珀の結界を破壊し、一葉を捕らえた。

 

「一葉さん!」

「ふふ」

「……!!」

 

ルチルは二人に銃を向けてくる。

 

「何故捕縛を解いたのかと、聞きたいでしょうね。無論、あなた方から彼らを奪うため、パワーが不可欠だったというのは、当然だけれど…」

「……自らの命をも、賭けた駆け引きという訳か…」

「あなたが降伏し、このまま人質を渡すならあなたとお仲間は無傷で解放するわ」

「も…いい…君たちだけでも逃げろ……ッ」

「すみませんが、それはできません。約束しましたから、必ず一葉さんを助けるって」

 

真白は覚悟を決める。

 

(仕方ないか……。できれば派手な作戦を取りたくなかったけど、一葉さんを助けるのが先決だから迷ってる暇はないね。雅さん、龍翠さんまた迷惑をかけますが、すみません。後の事故処理お願いします)

 

事は穏便に済ませて終わらせたかったが、考えは甘かったようで相手はメンツを守ることが大事なのようだった。

 

「……カ!?」

 

 クロウはビルの上層階に起きた異変にすぐさま気づく。

 

「すごーい、おおきーです」

 

 クロウだけでなく、その異変には楓も気が付いた。

 

「えっ……」

「変形……してる?」

 

 戦闘員とも次々と気付いていき、その光景に目を奪われる。

 

 彼らが見つめる視線の先には、巨大ロボットに変形しつつあるビル上層階の姿があった。

 

 ドロドロに溶かされた銃、動きを止められた自身との体。そしてーーー

 

「ーーー巨大、ロボット……?」

 

 自分達がいるフロアを足蹴にして立ち上がる巨大ロボを見ながら、ルチルは驚愕する。

 隣で動きを止められているジルコンも、驚きのあまり言葉を失っていた。

 

「ちょっと! 神原真白! 一体これはどういうことよ!?」

 

 それらの事実を見たルチルは、声を荒げる。

 

「どういうって……あなた達の能力を使わせてもらっただけですよ。まず『溶解』の異能で足もとの床を溶かしました。そのまま、即『捕縛』の異能で固定して…最後は『玩具』で、ビルの崩壊を防いだってわけです」

「そんでもって、素早く儂が、人質を確保したわけじゃな」

「そういうことです。分かりにくかったですか?」

 

真白はキョトンとしながら行動の説明をした。

 

「誰が行動の説明を求めたってのよ! そうじゃなくて…! こんなことができるなら、さっさとやればよかったじゃない! まるで茶番だわ」

「いやー…そう言われても、僕にだって事情があるんですよ。できるだけ派手な作戦は取りたくなかったんですよ。ことが穏便に済むなら、越したことはないですし。……けど、あなた達はさっき死のうとしましたよね。『デウス・エクス・マキナ』……あなた達のしたことはすごーくムカつきました。それでも僕は誰かが死んだりするのは本意じゃないです。全員無事に降りられる方法がこれだけなら、まぁ……しゃーないです」

「……ほんと何なの? あなた……」

 

組織のやったことは許せないが、敵であっても死なせたくはなく。全員無事でいられるように、派手な作戦を取ることにしたのだ。

 

(初めてよ。ここまで、気に食わない人間は……)

 

「す、すごい……」

 

 その光景を見ていた一葉は、感嘆の声を漏らした。

 

「無事ニ一葉サンヲ救出デキマシタネ、マスター」

「うん、だね。いやー、よかったよかった」

「救出は無事成功じゃな」

 

全員を無事に地面に下ろした真白は、一葉を救出成功に喜び、アイと琥珀にグータッチした。

 

「主さまー!!」

「カー!」

「楓ちゃん、クロウ、お疲れさまー」

 

真白が降りてくると楓とクロウが抱きついてきた。

 

「神原くん!」

「龍翠さん!?」

 

龍翠が『デウス・エクス・マキナ』の本拠地に出向いていることに驚く。

 

「怪我はないかい?」

「僕は大丈夫です。念の為、異の……じゃなくて陰陽術で、確認しましたけど『デウス・エクス・マキナ』の人達にも、目立った怪我人はいませんでした」

 

(この男まさか……。私の『感知』まで……!)

 

「……なるほどね」

 

真白は異能を使えることを龍翠には話してはいない。

 

「神原くん、君の動かしたビルの……式神については気にしなくていい。ここ一体は、うちの人間が包囲して結界を張っているから、情報が一般会社に漏れることはまずないだろう」

「そっ…それは本当に助かります…ありがとうございます!」

「人質の一人は大事を取って、もう一度病院に搬送しよう。頼めるかい?」

「はっ!」

 

異能を使えることを隠してはいるが、頭の切れる龍翠のことだ。異能を使えることを察してはいるが、知らないふりをしているように感じた。

聞かないでいてくれることに、内心では真白はほっとした。

龍翠は術師に一葉を病院に届けるように頼み、ルチル達に向き合う。

 

「さて……。『デウス・エクス・マキナ』のお二方…ここからは、大人の話をしようじゃありませんか」

 

龍翠の凄みにルチルとジルコンの二人はゾッとした。

 

(龍翠さんは絶対に敵に回さないようにしよう)

 

真白は心の中でそう固く誓った。

 

「何……。特段悪いようにするつもりも、ございませんから。どうぞ、ご安心なさってください」

 

龍翠の隣で様子を見ていた真白だが、二人のように凄みを感じてゾッとしたのだった。

 

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