プリンセスナイトと幽霊屋敷
「よーし、今日も探索しよう」
シロウがギルドホームから出ようとした所で、扉を開けてセレナが中に入ってきた。
「あ……シロウ様」
セレナはシロウにここへ来た理由を話す。
理由としては、どうしても逃すわけにはいかないあれこれがあった。
しかしフィールドへ出てすぐに無理だと悟って、誰かに助けて貰おうとしたというものだった。
「おっけーおっけー。じゃあ、僕が手伝うよ。ちょうどやることも特になかったし」
「本当……ありがとうございます……」
こうしてシロウはセレナの手を引いてギルドホームを出ていった。
シロウはセレナの手を引いたまま、【廃都ネビエラ】転移してフィールドへと出た。
「セレナ、目的地は?」
「【廃都ネビエラ】から西に行った所に洋館があるので……そこに」
「分かった。西だねー」
「セレナ、大丈夫かー?」
「だ、大丈夫です……」
「ダメそうだな」
セレナは酷く怯えていて、シロウの腕にしがみつく。
そんなに無理しなくてもと思うが、どうしてもスキルを入手したいらしい。
腕にしがみつくセレナはとても可愛いのだが、胸が当たりどうしても気になってしまう。
「セレナさん怖いのはわかるけど、離れてくれると嬉しいなー……」
「す、すみません」
無意識でもわざとでも勘弁して欲しいという気持ちを込めて指摘すれば、セレナが弾かれたように離れる。
頬が赤くなるのをなんとか抑えつつセレナを見れば、セレナの方も顔を赤くしているところだった。
「はぁ……ここからが……嫌です」
順調に進んでいたもののシロウが唐突に声を上げる。
「あっ!」
「どうかしたんですか?」
シロウの声に反応してセレナが顔を上げる。
すると、目の前には青白い顔をした女性が浮かんでいた。
それはセレナの顔にすうっと手を伸ばして触れてくる。
「…………!!」
「【ホーリーアロー】
セレナがシロウに飛びつくのと魔法で霊の姿が霧散したのはほとんど同時だった。
「結構近くに出てきたね」
「あ、っあれ!だ、駄目でしょ!」
セレナがシロウにひっついたまま、虚空を指差して言う。素が出ている。
「そんなに強くはないから、安心して」
「うぇぇ……」
「すぐまた寄ってくるな。あ、二人来た」
辛そうな呻き声を上げながらふらふらと霊が寄ってくる。
「除霊です」
シロウのマントに隠れ始めたセレナはそのままにしておいて、シロウは霊を追い払っていった。
しばらくして、眼下にボロボロになった大きな洋館らしきものが見え始める。
その周りは他の場所に比べ霧が濃く、全体をはっきりと確認することはできそうになかった。
「セレナ着いたよ。えっと、多分……確認して?」
「何もいない?」
「んー、いないぞ! 大丈夫」
シロウとレメが周りを確認してセレナに伝えると、セレナはマントをずらして隙間から下を確認する。
「うん。大丈夫、合ってる。よし……よし、行きましょう」
セレナの手を引いて地面に降りる。
流石に探索をするというのにマントに隠れているわけにもいかないため、セレナもいつも通りの格好に戻った。
「一回駄目だと思ったら無理……心を無にする、無にする……」
「行くよ? セレナ」
「ま、待ってまだ心の準備が……」
「……セレナのためにも早く終わらせたいから、僕は心を鬼にします!」
セレナを逃げさせないために、半開きの扉に向かってセレナの手を引いて選択をしたのも仕方なかった。
シロウの多少の強引はセレナのために他ならない。
「し、シロウ待ってください」
「悪いけど、セレナを強引にでも連れて行かないといつまで経っても入れないだろうからごめんね」
セレナを連れて洋館へ入ると、背後で扉がバタンと閉まった。
「セレナ頑張ろう! 目的のものがあるんでしょ?」
「あ……はい。シロウ……離れないでね」
「もちろん!」
シロウは辺りを見渡した。
随分と大きな洋館のようで、今いるエントランスらしき場所から、入り口とは別に正面と左右に扉が三つ。
さらに階段があり、二階にも扉が見えた。
天井にはボロボロのシャンデリアがある。
また、壁に取り付けられている燭台の上で小さくなった蝋燭がゆらゆらと小さな火を灯していた。
「広いねー。で、どこへ行ったらいいのかな?」
シロウがセレナに尋ねる。
「えっと……あれ?……ちゃんと調べられてない」
セレナの調べた情報にはいくつも穴があった。
それはまだ情報が集まりきっていないからというよりは、いつも通りの情報収集ができていないからであった。
「ならー、全部見て回るしかないか」
シロウがそういうとセレナは首をぶんぶんと横に振った。
「ちゃんと調べてもう一回来よう。そうしよう? 今このまま探索しても効率が悪いし、モンスターも弱くはないですし。戦闘回数も増えるだろうし最短距離を確認してから……」
そう話し始めたセレナをシロウが目を細めてじっと見るとサリーは口を噤つぐんだ。
「だーめ。ささっと探索して終わりにしよう? ほら、僕がいるから大丈夫」
「うん……」
「じゃあ僕の勘で……右っ!」
シロウが右の扉まで歩いていき扉を開ける。
すると、少し埃が舞い上がった後で扉の向こうに伸びる廊下が見えた。
シロウは耳に手を当てて廊下の向こうに聞き耳を立ててみるが、特に物音はしなかった。
「うん。何もいないかな」
シロウはそう言って廊下を進んでいく。
長い廊下には左に曲がることができるところがいくつかあった。
またそれだけでなく、部屋につながっているのだろう扉もあって調べる場所は多そうだった。
「雰囲気があってたのし……うわっ!」
シロウが足に違和感を感じて下を見る。シロウとセレナの足を、地面から伸びる無数の透けた白い手が掴んでいたのである。
手は少しずつ伸びて体を掴んでくる。そして、女性の霊が壁からするりと抜けて二人に近づいてくる。
「しっ、ししし、しっしシロウ!」
「待ってねー」
シロウは魔法で攻撃して払いのける。すっと消えていった。
しがみついてくるセレナの足元も丁寧に払い、女性の霊も魔法で撃ち抜いた。
「ふぅ。よし。 もう大丈夫だよ?」
「はい……シロウと一緒でよかった」
ひたすら弱々しいセレナは既にもう半分心が折れているようだった。
セレナが言っていたように一度駄目だと思ってしまえばそれで最後なのである。
「セレナのためにも急いで探索して帰ろうか」
「そうだな」
シロウが歩き出した所で足元が鈍い青色に光る。
いつものセレナだったら逃げることくらい容易いことだっただろう。
光は大きくなり、気づいた時には二人は転移していたのである。
光に包まれる中、緊急事態を察したセレナの感覚は、知りたくないことを鮮明に伝えてきた。
それは、掴んでいたシロウの手がすうっと消えていく感覚だった。
光は薄れて、セレナが目を開けた時には目の前には知らない廊下が広がっていた。
「シロウがいないぞ!?」
「し、シロウ? ど、どこ……?ひっ……!」
震える声でシロウを呼ぶセレナの左肩が、背後からポンと叩かれた。
セレナはビクッと背筋を伸ばして硬直し、本能的に左肩を確認してしまう。
そこには明らかに生きている人のものではない白く細い手があった。
そのまま異様に冷たい細い腕が目を見開いて硬直するセレナを背後から抱きしめてくる。
「あっ……あ、あ、やっ、わあああぁあっ!!」
「に、逃げろー!!」
セレナが叫びながら走り出すとその腕はするりと通り抜けることができた。
セレナとレメはそのまま逃げて一つの部屋に飛び込んだ。
「は、はっ、はっ。ろ、ログアウト……」
セレナがログアウトをしようとパネルを出した瞬間、パネルに赤い赤い手形がドンドンと音を立てて現れる。
「ひうっ……」
一周回って生まれたセレナの冷静な部分が情報を思い出す。
一部エリアでのログアウト制限、そしてそこにいる徘徊モンスターの性質である。
触れられる度に【AGI】を減少させられ、それがゼロになった時に即死攻撃が飛んでくるというものだ。
そこは、普通に動ければ脱出は容易なエリアだった。
「お、追いかけてくる……」
猶予は長く、止まることなく注意して屋敷を歩き回れば捕まることもそうそうない。
もっとも、セレナにとってそれが容易でないことは自明であったのだった。
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