「ヤエさん達、今は一時休戦ってことで協力しませんか?」
「意外な提案ですね。貴方が協力を申し出るなんて」
「あはは……。僕としてはこの分からない状況をどうにかしたいんで、今は敵対するより協力することが良いと判断しただけですよ」
「っ!? 正気か!? アイツらはPKをして大勢のプレイヤーに迷惑をかけているんだぞ!」
「確かにやっていることは許せないけど、敵対するよりも協力した方がいいと思うんだ」
このゲームではPKも認められている以上、それも一つの楽しみ方だ。迷惑ではあるし、他人の恨みを買うだろうが、そのリスクを背負ってまで決めたプレイスタイルを貫くならば、他人がどうこう言うのは筋違いである。
だが、ヒカルはヤエ達と協力するのは大反対みたいだ。正義感の強いヒカルだからこそ、人に迷惑をかける人間は嫌いなのだろう。
「俺は反対だ。アイツらと手を組むなんて」
「ヒカルくんの気持ちはよーくわかる。けど、今回だけでも」
「ヒカルだったな、落ち着くんだ。人数では僕達の有利だ。彼女達は自分達が不利だとわかっている。僕達を襲うほどバカではないはずだ」
「……わかりました。カズハさんがそう言うなら。ですが変な真似をしたら即切ります」
「ああ、今はそれでいい。そちらもどうだ? 一時休戦で共闘するのは」
「ええ、いいですよ。二人もいいですね?」
「ああ! ヤエがいいって言うなら従うぞ!」
「まあ、構わないよ」
ヒカルは不承不承ながら了承した。シロウが言ったところで聞く耳を持たなかっただろうが、カズハのおかげでヒカルは了承してくれた。
『グルガァァアアァァァァッ!!』
オルトロスは再び大きな咆哮を上げる。話は中断され、まっすぐにシロウらへと向けて飛びかかってきた。
『グルガアァァァァッ!!』
耳が痛くなるほどの咆哮をあげて、シロウらへと飛びかかってきたオルトロスが、右前脚の爪をカズハに振り下ろした。
「いきなりかッ……!?」
剣を盾のように寝かせ、その腹でガードしたカズハだったが、オルトロスの一撃に堪え切れず、身体が宙に浮いてしまった。
そしてそのまま吹っ飛んで地面へと落ちる。すごいパワーだ。
「【クロススラッシュ】」
セレナは【加速アクセル】を使い、駆け抜けるようにオルトロスの前脚をスキルで斬りつける。
オルトロスはセレナのつけた傷などなんでもないかのように、正面にいたミナトへと向けてその爪を振るった。
「くっ!」
襲いかかる爪を後方へ飛んで躱し、ホムラが火の玉を放つ。
「【ファイアーボール】!」
しかしこれもダメージを受けたそぶりも見せずに、ケルベロスは口から炎を吐いた。
「!? っ、まずい……!」
「【石壁】」
目の前に石の壁が現れて、炎からの直撃を防いだ。
しかしその石の壁はあっという間に消し炭になった。
シロウはまずいと思い咄嗟に魔法を使い、ホムラを守ったのだ。
あの炎のブレスはヤバいだろ。
「すまない、助かった!」
「いえ、無事でよかったです」
「【氷槍】」
そう呟いたナギサの周りに氷柱が現れて、オルトロスに突き刺さった。
「ちょっ! なにするんだ! 気をつけろ!」
シロウと同じく巻き込まれかけたホムラがナギサに文句を言うが、彼女はどこ吹く風と聞き流し、今度は宝石が埋め込まれた細剣レイピア型の杖を上にかざすと、そこにバスケットボール大の氷の塊を発生させた。
「え、ちょっと……!」
「まさか……!」
「【氷塊】」
嫌な予感がしたシロウとホムラは急いでオルトロスから離れる。次の瞬間、ナギサから放たれた氷の塊がオルトロスへと炸裂した。
『グルガアァッ!?』
さすがにこれは堪えられなかったのか、オルトロスが唸りを上げて一歩後退する。しかしそれも一瞬で、すぐさまオルトロスは自分にダメージを与えたナギサへとヘイトを移し、駆け出していく。
「【アストラルバインド】』
『ガッ!?』
シロウの魔法がオルトロスの足を拘束させる。それを力任せにバキバキと壊していくオルトロス。少しの足止めにしかならない。
「【落雷】!」
ライカの放った雷がオルトロスへと降り注ぐ。その間に倒れていたカズハがオルトロスへと接近し、高く跳躍して剣を振りかぶった。
「【雷聖剣らいせいけん】!」
『シャアアアアァッ!』
勢いよく振り下ろされた雷を纏った剣を、鞭のようにしなった尻尾の蛇が弾く。空中でバランスを崩したカズハはなんとか着地したが、その間にオルトロスは【アストラルバインド】からの呪縛を脱出し、後方へ跳んで逃げた。
『ゴガァアアァァッ!』
再びオルトロスは炎のブレスを吐き、首を振って広範囲に撒き散らす。シロウらはダメージを受けつつもそれを全力で避け、オルトロスから距離を取った。
「ちょっとお前! さっき私たちを巻き添えにしようとしただろう!」
「……別に。勝手に避けると思った。避けられないタイミングじゃなかった」
「この……!」
ホムラがナギサへ食ってかかる。確かにさっきのは避けられないタイミングではなかった。しかし一声かけてもよかったんじゃないかともシロウは思う。視線をオルトロスへと戻した。なんというか、ドライな子だ。
『ゴルガアァァァッ!』
「来るぞッ!」
オルトロスが真っ直ぐにこちらへと駆けてくる。シロウらは散開して逃げたが、ケルベロスはナギサへと狙いを定め、その身を宙へと踊らせた。
「……ッ、【氷刃】」
スキルによる力を込めた突きの一撃がナギサをひと飲みにせんとばかりに大きく口を開いたオルトロスは、その鋭い牙を外され、喉元に冷気を帯びた一撃を食らう。
「っ……!?」
軍配はナギサに上がったかに見えたが、細剣を食らわせた右腕が、無数に生えた蛇の鬣たてがみにがっしりと絡め取られている。
オルトロスはそのまま軽く地を蹴り、首から地面へとダイブした。
「ぐふ……ッ!」
グシャっと、リアルなら内臓が破裂してもおかしくないほどの衝撃。
「【雷拳】!」
『ブグアッ!?』
ナギサを押し潰したケルベロスの横っ面に、雷を帯びた拳がぶち当たる。
オルトロスが立ち上がった瞬間、ナギサが蛇の手から離れ、地面に落ちた。
「【加速(アクセル】!」
シロウはオルトロスの脚の間をくぐり抜けるように駆け抜けて、倒れたナギサを拾い上げる。そしてそのまま大回りをして、ホムラのところまで戻ってきた。
「【ヒール】」
シロウは回復魔法を発動させる。
「大丈夫ですか? 動けます?」
「……別にハイポーションとか持ってた」
回復魔法をかけられたナギサがシロウの視線を外しながら立ち上がる。いや、助けてもらったのにその言い草はないだろうとホムラは思った。
ホムラが一言文句を言おうかとすると、
「……でも助かった。ありがとう」
「あ、はい」
ぼそりと素っ気なく、ナギサの口から感謝の言葉が漏れ、ホムラは開きかけた口をパクパクとさせてしまう。
「……ホムラもありがとう」
「いや、まあ……うん」
悪い人ではなく ちょっと人とのコミュニケーションが苦手というか取り方がわからないっぽいみたいだ。
「えっと……ナギサさんはパーティプレイの経験は?」
「ない。ずっとソロ」
「ちょっと! 突っ立ってないで手伝ってくださいッスよ!」
オルトロスの攻撃を凌しのぎ続けるライカから怒号が飛んできた。立ち話している場合じゃなかった。
『シャアアアッッ!』
オルトロスの尻尾である大蛇の口から、紫色の霧のようなものが辺りに噴出される。もうもうと立ち込めた紫色の霧は辺りに広まり、視界を薄っすらと染める。
ピコン、と音がして自分のHPを見ると、ごく僅かだが減っていた。
「毒霧か……」
大きなダメージが付与されるものではないようだが、こう広範囲ではキュアポーションなどで毒を消してもまた食らってしまう。それなら……。
「【オーロラベール】」
広範囲に光が包まれた。
効果は状態異常の回復と無効化。リジェネ効果がある。
『ゴガァアアアァァァァッ!』
オルトロスが火炎放射器のように三つの口から炎を吐く。毒霧の中、シロウが【土壁】、ナギサが【アイスウォール】、カズハが【守りの聖剣】で壁を作り上げた、
「【エレキアクセル】!」
ライカは最大速度でオルトロスへと迫る。
「みんな目をつぶるッス! 【雷閃らいせん】!」
閃光がケルベロスの顔面に当たると同時に爆発し雷鳴が鳴り響き、眩しい光が周囲に炸裂する。
『グルギュアァァァッ!?』
視界を奪われたケルベロスがその場で暴れまくる。シロウたちはその隙にケルベロスの射程範囲外へと退避した。
「【アローレイン】!」
「【スネークショット】」
「【大地ノ力】!」
後方からツカサの放った矢が雨のように振り、オルトロスを襲う。躱すことのできない黒い巨犬はその矢すべてを全身に受けて、ヤエの鞭が蛇のように動きをしてケルベロスの全身に打たれる。ノウェムは大剣を地面に叩きつけると地面が割れ、岩の礫と斬撃が全身に受けた。
と、後方に数歩下がったオルトロスが、その三つの頭を太陽へと向け、怒りの咆哮を上げる。
前に戦った炎狼と同じ【ハウリング】が来るとシロウは予想した。
「【防音】」
『グルオオオオオオオォォォォォォォォォッ!』
『ゴルガアアアアアアァァァァァァァァァッ!』
大気を震わせる衝撃波がダブルでシロウたちを襲った。身体が硬直して動くことができないということはなかった。
全員に【防音】張ったおかげで硬直することがなかった。
シロウ達はチャンスだと言わんばかりにスキルを放った。
「【断罪ノ聖剣】!」
「【閃拳】!」
「【シグナス・スライサー】」
「【零ノ太刀・絶影】」
「【ファントムラッシュ】」
「【桜吹雪】」
「【天斬光(てんざんこう】」
「【零ノ太刀・瞬閃】
「【黒炎】
「【雷火崩拳らいかほうけん】!」
「【流星連打りゅうせいれんだ】」
「【天刃斬撃てんはざんげき】!」
「【水龍双星斬すいりゅうそうせいざん】!
『ギュアララララァァァ!?』
全員での一斉攻撃にケルベロスは悲鳴を上げた。
オルトロスは目が回復してきたのか、シロウらの方へと怒りの視線を向ける。
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