レジェンドオブアストラル   作:Yukimidaifuku

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プリンセスナイトとアストラルの秘密

「あ痛いたっ!?」

 

 背中から来た衝撃に、シロウは思わず叫んでしまった。実際は軽く叩かれたような感覚で、痛くはない。条件反射だ。

 

「あっ、あれ!?」

 

 起き上がり、辺りを見回すと、闘技場の屋台がずらりと並ぶ広場の前で、プレイヤーやNPCの皆さんが訝しげな目でこちらを見ている。

 

「兄ちゃん、大丈夫か? なんにもないそんなところで転んで。……通信障害が起きたんか?」

「え? あ、ああ、いや、なんでもありません。ちょ、ちょっと足がもつれて……」

 

 心配してくれたのか、声をかけてくれたお姉さんに、あはははは、と、愛想笑いをしながらその場を去った。クスクスと女性の笑う声を背中で感じる。恥ずかしい思いをした。

 

(どうなってる? ここって元の場所だよね? 僕らは確かにオルトロスを倒して……)

 

 パニクっているシロウの耳にポーン、とメッセージ音が聞こえ、続けて公式からのアナウンスが流れてきた。

 

『システムトラブルにより、先ほど数名のプレイヤー様に数秒間の通信エラーが起こりました。現在は復旧しております。なお、このエラーによる障害の埋め合わせは、ご本人様にメールにてさせていただきます。大変申し訳ありませんでした』

 

(通信エラー? どういうこと?)

 

 シロウが首を捻っていると、再びポーン、と着信音がして、一通のメールが届いた。

 そこには通信エラーについてのお詫びの文面と、それに対する補償アイテムの配布だった。『ソルコイン』が二十枚。

 これがシロウに対しての補償ということなら、シロウに通信エラーが起きたということになる。

 

(さっきのオルトロスとの戦いが通信エラー? だとすると……)

 

「っ、セレナは……!」

 

 シロウはチャットウィンドウを開き、セレナへと連絡を取る。

 

『シロウさまですか!?』

「セレナ、今どこにいる? 無事!? レメもいる!?」

『私わたくしとレメ様は無事です! シロウ様もご無事で何よりです』

 

 セレナはシロウが無事でホッとする。大丈夫みたいで、次はセイジに連絡を入れてみた。

 

『シロウさんですかか?』

「セイジくん、今どこにいる? 無事!?」

『どうしたんですか、そんなに焦って? あ、もしかして連絡してくれたんですね? なんかシステムエラーとかで数秒間強制ログアウトされてたみたいで。連絡取れなくてすみません』

「システムエラー? 強制ログアウト?」

『ああ。なんかお詫びメールが来て……』

 

(ちょっと待って、なにかがおかしい。なんでセイジくんはこんなに落ち着いているんだろ?)

 

「セイジくん、オルトロスと戦ったこと覚えているかな?」

『え? オルトロス? オルトロスってなんですか?』

 

 シロウはセイジの返事に言葉を失う。

 

(どういうことだ……? 覚えてない? あの荒野で戦ったことを忘れているのか? いや、それともオルトロスと一緒に戦ったセイジくんは偽物だった? そんな馬鹿な)

 

 ミナト達とは連絡を交換していないのでわからないが、全員システムエラーとかで数秒間ログアウト扱いされている。おそらくシロウもログアウトしたとされているんだろう。

 わずか数秒なので、現実世界に戻ることなく、『アストラル』の世界へと戻されたとなっているが……おそらく真相は違う。

 その数秒間の間にあの戦いがあったのだ。そしてなぜだかみんなはその記憶を失い、シロウとセレナとレメがあの戦いを覚えている。

 ヤエは言っていたどうせ忘れるから言っても意味がないと。

 

「あっ……」

 

(精神……耐性……あれ? なんか引っかかる……? なんだったっけ……)

 

『おまじないをかけておいたよ』

 

「あっ!?」

 

 フラッシュバックのようにシロウの脳裏にラピスが放った言葉が蘇ってきた。

(あのとき僕はおでこに『おまじない』とかをされて……! それにと戦う前……ラピスがやってきてなんて言った? 『応援しにきた』と言ったのだ。てっきり僕が試合に出ると勘違いしてるんだな、と思ったが、あの言葉はラピスは『知っていた』のではないか? 僕らがオルトロスと戦うことを。

 ひょっとしたらラピスがなにか知っているのかもしれない。あのケルベロスの一件も、監視者ウォッチャーと名乗った天使リオのことも。

 聞いてみるか。藪をつついて蛇が出るかもしれないが……。少なくともラピスは『味方』だと思う。そこには別の思惑があるのかもしれないけど)

 

「セレナ、どうして僕達が記憶を消されずに覚えているのかわかったかもしれない」

「本当ですか!?」

「ラピスと初めて会った時のこと覚えている?」

「ええ、もちろんです」

「その時にラピスがおまじないって言って、何かをしたのは覚えてる?」

「確かに……そんなことありました。つまりラピス様のかけたおまじないで私わたくし達はオルトロスとの戦いを覚えていると……?」

『そういうこと。それと実はオルトロスと戦う前にラピスと会ったんだけど、応援しに来たって言ってたんだけど、最初僕が『チャンピオン大会』に出ると勘違いしたのかと思ったんだけど、もしかしたらオルトロスとの戦いのことを言っていたのかもしれないんだ』

『つまりラピス様は何か知っていたということですか?」

「うん、そういうこと。今からラピスのところに行って来るよ」

『お気をつけください』

 

 シロウは人がいないところに移動してから星門スターゲートを使った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

『花園の庭園』。

 通常の方法では入ることのできないシークレットエリアに存在する場所。ラピスの住む場所だ。

 シロウは石段を登り、中央の建物にやってきた。

 そこにはお茶を飲んでいるラピスと、メイドのアナスタシアがいた。

 

「言ったではないですか。ラピス様が迂闊なことを喋るから、来てしまいましたよ」

「あはは、ごめんね」

 

 アナスタシアが主人であるラピスを叱ってはいるが、それほど怒りは感じられない。どちらかというと、呆れている感じだ。

 

「今さらどうしようもないですし。シロウ様、こっちにお越しください」

 

 アナスタシアに手招きされて、いつもとは違う緊張感がシロウに走る。

 招かれるままに席に座ると、テーブルの上にあったお茶をアナスタシアが淹れてくれた。

 

「さて。ボクに何か聞きたいことがあって来たんでしょう?」

「はい……」

 

 ラピスの翡翠色の目がシロウを射抜く。その目は楽しんでいるようなイタズラめいた光を宿していた。

 

「で、何を聞きたいかな? ボクの年齢は秘密だよ」

「あ、いや、その……何から聞けばいいのか……。え、と……じゃあ……『監視者ウォッチャー』ってのはなに?」

 

 シロウの質問にラピスは腕を組み、小さく首を傾げた。

 

「ふむ。そうだね……。なんと言えばいいのか……。シロウくんたちの言葉で言うと、『試験官』のようなものかな。問題を与え、その回答を吟味し、結果を判定する。そんな役どころの人たちだよ」

「GMゲームマスターとは違うの?」

「違うね。この世界を管理している人とは別口だよ。ま、全く関係がないとは言えないけど」

「確か管理者ってアルテミスだったよね?」

「うん、管理者はアルテミスだけど、『監視者ウォッチャーに一部の権限を与えられているんだ」

「七冠セブンクラウンズはアルテミスを狙っているみたいだけど、『監視者(ウォッチャー』の人たちはアルテミスは狙ってはいないの?」

「あの人たちは試験官みたいなものだから、アルテミスを狙ってはいないよ。願いを叶える人たちに値するかどうか見極めているんだ」

「オルトロスと戦ったみんなの記憶を消したのは、やっぱり『監視者ウォッチャー』なの?」

「うん。記憶を残すとなにかと面倒だから。あの人たちがよくやる手だよ。シロウくんとセレナちゃんとレメちゃんの記憶が失われていないのはボクが護りの印を付けたからね」

 

 シロウはラピスに現実世界で体験した、あの出来事を話した。雨の日に猫又の様なものと出会い、急に意識を失ったのだ。

 あの時の記憶消去を防いだのもラピスの術に間違いないと思う。だがVRで施された術が、現実世界でも効果を発揮するなんてことがあるのだろうか?

 

「さて、キミたちはあの人たちを何者だと思っている?」

「何者って……。その、う、宇宙人か異世界の人じゃないかな、と……」

「あはは。宇宙人か異世界ね!」

 

 ラピスが楽しそうに笑う。

 回答を間違えたか。宇宙人ってのがしっくりくる。

 自分の発言に小さくなったシロウに、ラピスがニヤリとした笑みを浮かべる。

 

 

「言い方はあれだけど正解だよ」

「へ?」

「そこにいたシロウくんに騒がれたら大変だから記憶を消したんだと思うよ。でも守りの印のおかげでシロウくんの記憶が消えなかった」

「宇宙同盟? 惑星連合?」

 

 いかにもSF小説に出てきそうな団体だ。ポカンと口を開けて呆けているシロウを置き去りにして、ラピスはさらに説明を続ける。

 

「シロウくん達が住む地球はね、監視されてるんだ。常にあの人たちが目を光らせているの」

「な……なんのために……?」

「あの人たちにとって害となる星なのか、益となる星なのか、その見極めをするために……かな。そう、怖がらなくても大丈夫だよ。未発達な星に直接干渉することは星間法で禁止されているからね。シロウくんがいま頭に浮かべた侵略行為などは起こらないよ」

 

 また心を読まれた。確かにSF映画などの宇宙人の侵略シーンを思い浮かべてしまったけど。

 そもそもラピスは何者なんだろう? 単なるNPCとはとても思えない。やっぱりNPCに偽装した運営側の人間なんだろうか。それともラピスも宇宙人なのだろうか。

 

「ボクもアナも宇宙人だよ?」

「やっぱりか……」

 

 普通のNPCじゃないとは思ってたけど。

 

「う、宇宙人が『アストラル』やってるの?」

「宇宙人はやってはならないと規約にはないからね」

「なるほど……。その『アストラル』のNPCって全員宇宙人だったりする?」

「運営側が作ったNPCも一応はいるよ。ちなみにこの『アストラル』という世界は数多ある星々の社交場になっているよ」

 

 くらっ、と軽いめまいがして椅子に腰掛ける。このゲームにいるNPCの中身が全部宇宙人? どうやって何万光年も離れたところからログインしてるんだと思った。 恐るべし宇宙のテクノロジーってそんな問題じゃない。

 ということは、七冠セブンクラウンズである昴は開発者でもあるから知っているのだろう。

 その関係者であるセレナも知っているのだろうか。

 

「この事実って、当然プレイヤー側には知らされてはいないんだよね?」

「もちろん、当たり前だよ。じゃなければ記憶を消したりなんかしないしね。管理者以外で知ってるのはシロウくんと七冠だよ」

 

「ああ、言っとくけどこのことを吹聴しないほうがいいよ? 記憶を消すことができないとわかれば、今度は文字通りシロウくんらをを消そうとするかもしれないから」

「なにそれこわい!」

 

 命を狙われるくらいなら記憶の方を消してほしいと思った。

 パニックになりかけていたシロウの額に、ラピスが以前と同じように、人差し指で短くさらさらとなにか書いた。

 

「安心していいよ。その印がある限り、シロウくんとセレナちゃんとレメちゃんはボクの庇護下に入る。誰にも手出しはさせないから」

 

(庇護下? よくわからないけど、ラピスが宇宙人から僕を守ってくれるってこと? いや、ラピスも宇宙人なんだけれども)

 

 

 押し寄せる不安にシロウが黙り込んでしまうと、またもラピスが呵々大笑してこちらへとその翡翠の瞳を向けた。

 

「安心して。シロウくんらに危害を与える人たちなんてボクが許さないから。ただシロウくんらは今まで通り、この世界で遊べばいいよ。それが身を守ることにもなるから」

 

 ずいぶんな自信だけど、いったいラピスは何者なんだろう。さっき言ってた宇宙同盟とか、銀河連合とかに太いパイプでもあるのだろうか。

 

「ま、シロウくんには心強い『ボディーガード』をつけるから大丈夫だよ。とりあえず今日のところはもう休みなよ」

「え?」

 

 そんなラピスの言葉を聞いた瞬間、ふらっと意識が遠のいていく。微睡まどろむようにしてシロウは闇の中へと落ちていった。

 

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