ピ──ッ、ピ──ッ、ピ──ッ……。
『ログアウト終了。お疲れ様でした』
「う……?」
電子音声に叩き起こされて、シロウは重たい瞼まぶたを開く。ログアウトしたのかというより、された近い。
思わずため息が出た。先ほどラピスから聞いた話のショックがまだ尾を引いているようだ。
信じられない話だが、なんとなく腑に落ちた部分もある。
とんでもない秘密を知ってしまったなあ。本当に大丈夫かな。
神様、陰陽師、異能、宇宙人、アストラルの秘密などなど、ここ最近濃い日常を送っている様な気がした。
「シロウくん、疲れてるけど大丈夫かい?」
「あはは、ここ最近色々な出来事に巻き込まれてね……って、なんでラピスがいるの!?」
「転移魔法を使って来たんだよ」
目を覚ますといつの間にかラピスと二人の男女が部屋にいた。
「転移魔法? 宇宙船じゃなくて……?」
「あはは、宇宙船じゃなくて残念みたいだねー。宇宙船もあるけど魔法の方が便利だし」
「というかラピスさん、不法侵入……」
「まあまあ、細かいことは気にしないで」
「……」
細かいことではないのだが、色々と突っ込みたいところはある。
家には結界を張っているのだが、悪意ある者が入れない様になっているのだがラピスからは悪意などがないから素通りできたのだろう。
「後ろにいる人たちがラピスの言ってた、ボディーガードの人たち?」
「うん、そうだよ。紹介するねー」
「やあ、初めまして僕はカノン。よろしく」
「現実こちらでは初めましてだな。我はノイン」
「初めまして、カノンさん、ノインさん。僕は神原真白です」
カノンと名乗る男性は爽やかなイケメンだ。ラピスもそうだがこの二人も底が見えない。
うちの中では琥珀と楓が強いのだが、真白達が束になっても勝てないことはわかる。
「こう見えても二人は強いから。安心していいよ」
「うん、めちゃくちゃ強いってことがわかるよ。ラピス、本当にボディーガードつけてくれていいの?」
「シロウくんらが狙われることはまずないと思うけど、万が一の保険のためにカノンとノインを置いていくよ。この二人なら大概の相手は撃退できるからね。ま、この二人に敵意を向けるということは、ボクに敵意を向けるということだから、そんな馬鹿はいないと思うけどね」
「ラピスたちのこと、セレナ達に話しても問題ない?」
「うん、もちろんいいよー」
真白はラピスに許可をもらい、緊急家族会議を始めることにした。
セレナ達には集まってもらいアストラルの秘密を話した。
「ラピスとやら、つまり『アストラル』という世界は星々の社交場じゃと?」
「うん、そうだよー」
「お姉ちゃん、このこと聞いて大丈夫でしょうか……。私たち消されたりしませんよね?」
「それは笑えない冗談だよ。真白くんといるとほんと色んなことが起きるね」
「そうでございますね。主さまには平穏な生活を送ってもらいたいです」
「ああ……なるほど。記憶が消されたから違和感があったんだ」
「カー」
「アストラルガ他ノ惑星トノ交流デスカ……ナカナカ面白イデスネ」
琥珀達はアストラルの秘密を知って驚いていたが、慣れたのか反応は薄かった。
「ノインさんの角って隠せますか?」
「ぬ? 主らの世界には魔族が存在しないのだったな」
ポンッ、と煙が上がって、ノインから角が消えた。確かにこれなら外国人の美女にしか見えない。銀髪は目立つけど、角ほどじゃない。
「ノイン、家の中なら角を隠さなくてもいいけど、外では角を隠してね」
「うむ、わかった」
「それじゃあ二人共、真白くん達の護衛しっかり頼んだよ!」
「はい、ラピス様。任せてください」
「うむ、しっかり守ってみせよう」
ラピスはノインとカノンに護衛を任せてその場からシュン、と消え去った。
真白は呆然としながらも自分の頬を抓った。痛い。やはり夢じゃない。
置いてあったスマホが鳴り響く。
知らない番号だ。
「はい、もしもし?」
『ああ、真白くん。忘れていたけど、生活費はシロウくんの「口座」に入れておいたから。余ったら好きに使っていいよ。もしも足りなくなったら言ってねー』
「え!? ラピスさーん……。 なんで僕の電話や口座の番号知って……!」
『あはは、それくらい宇宙人には朝飯前だよー』
(言いたいことだけ言って通話がブツッ、と切れる。ちょっと待ってよ、宇宙人ってなんでもアリなの!?)
ともかくスマホのアプリで残高を確認する。
「ぶっ!?」
表示された金額を見て、真白は思わず吹き出してしまった。桁が……桁が違う!?
真白の両親は口座には生活が困らない額が振り込んである。
一千万振り込まれていた。
「っていうか、余った分は好きに使えって、怖くて使えないよー!」
(なんか犯罪的なことしてないよね!? 誰かの口座から僕の口座へ横流しとかさ! 頼むぞよ、宇宙人の超技術!)
「なんかもうムチャクチャ過ぎて、わけわからなくなってきた……」
ボヤく真白の視界に『アストラル』公式サイトのウィンドウが映る。
なにげなく開くと今日の闘技場での試合結果が記されていた。
「おっ、すごいですね! ノインさんがチャンピオンになった」
結果からいうと、ノインが優勝、なんとツカサが準優勝、そしてカズハが三位だった。
『氷帝』ことナギサも準決勝までいったらしいが、辞退したらしい。なにかあったのか。
「というか、ナギサさん達は僕やみんなのこと覚えてないんだろうなあ」
カズハ、ミナト、ヒカル、セイジとはもともと知り合いだったから、オルトロスとの記憶がないだけで、さほど困らない。けど、ナギサ達とはあれが始めての出会いだったから、真白と出会ったことも全部リセットされてしまったと思う。
せっかく知り合いになったのに、少し残念な気持ちになるのだった。
「ひゃっはー! オレ達の夏休みがやってきたぜえええええ!」
「ひゃっはー! 夏休みだー!
「わー……。二人がなんだが荒ぶってる」
七月も後半、終業式と連絡事項を告げるホームルームを終え自由の身となった生徒達は和気あいあいと夏の予定を話していた。
玲二とひなたはホームルームが終わった瞬間ハイテンションで、見ている真白としては暑苦しくて仕方ない。気持ちはわからなくもないが。
「当たり前だろ、地獄の授業が終わりを告げて天国……楽園がやって来たんだぞ……!」
「そうだそうだ! 真白は元気がなさすぎるよー!」
「二人が勉強好きでないだけで僕は別に嫌いではないし」
「インテリはおだまり。というか、明日から夏休みだってのに今日はテンション低いけど、何かあったのか?」
「別にいつも通りだと思うけど……」
宇宙人のこととか、『アストラル』の秘密こととかを考えてたら眠れなくて、気がついたら朝になってた。
肉体的な疲労はないのだが、精神的な疲労があるのだ。
「ごめん、先に帰るね」
「ああ、うん。またね」
「またねー!」
メールが来ると、ウエンディは慌てて教室から出て行った。
「なんだか慌てて急いで帰っていったな」
「何かあったのかな?」
ラピスはウエンディが宇宙人と言っていたが、緊急事態が起こったのだろうか。
「なんかものすごく慌ててた。国の方でなにかあったのかな? お父さんとかお母さんとかが来るのかも」
「ウエンディのお父さんって貴族なんだっけか? どんな感じかちょっと見てみたいよな」
靴を履いて四人で学校を出ようとした時、なにやら校門前に人だかりができているのに気がついた。
「なんだ?」
「なんか集まっているけど……」
女の子たちはなにか『かわいい』とか『かっこいい』、『綺麗』などと男の子たちは『でっっっか!』
『大きい……」やたら聞こえる。
集団の横を通り過ぎようとすると、集団の中から五人の男女が出てきた。
「あっ、おーい真白くーん!」
「ラピスにセレナにカノンさんとノインさんと楓ちゃん!?」
「なんだか勢揃いだねー」
飛び出してきたのは、家にいるはずのセレナ達だった。
校門前に美男美女がいれば目立つし、人だかりもできるものだ。
「真白、この人たちは?」
「うちにホームステイしている人たちだよ」
玲二が聞いてきたが宇宙人ですと言うわけにもいかずに、家にホームステイしてる設定で紹介する。
「うわっ、かわいい!」
他の女の子と同じく、ひなたも目の前のラピス達に目を奪われていた。
「と、とにかくここを離れよう。ここだと目立つから」
「そうですね」
「了解しました」
「うん、そうだね」
「真白くん、ごめん」
「了解した」
素直についてきた五人を連れて、真白らは駅へと向かう。駅近くにある喫茶店に入った。
喫茶店に入っても目立つことに変わりはないが。
「それで、ラピス達はどうして学校に?」
「真白くんの通う学校がちょっと気になってね。迷惑だったかな?」
「別に迷惑ではないよ」
別に迷惑とは思っていないが一言連絡を入れてほしかった。
「急だったのには驚いたけど……」
「シロ……真白くんのお友達たちかな? 僕はラピスラズリ、よろしくねー。こっちの二人がノインとカノンだよ」
「ノインだ」
「カノンだよ。よろしく」
「私は小清水ひなただよ! よろしくね」
「相馬由紀です。よろしくお願いします」
「白鳥玲二です。よろしく」
「私はある……お兄様の妹、神原楓でございます。よろしくお願いします」
「セレナです。よろしくお願いします」
みんな自己紹介していき、セレナと玲二は初対面だ。
楓は真白の妹ということで紹介した。
「真白に妹なんていたんだね」
「幼いのにしっかりとしてるんだな」
「ふふふ、自慢の妹です」
「なんでお前がドヤ顔なんだよ……」
楓は幼いながらもしっかりしていて、とても良い子なのだ。
ドヤ顔で自慢する真白に玲二がジト目を向けてきた。
「ラピスちゃんはいつから真白の家にホームステイしてるの?」
「昨日からだよ」
「昨日からなんだな」
昨日は色々とアストラルの秘密を知ってしまったんだよねとしみじみ思う。
それからはひなたたちと雑談した。ひなたとラピスは何となくこの二人が似ているような気がした。
思考回路が似ているのだろう、二人は一瞬にして打ち解けたようだった。
「ノインさんってスタイル良くてとても綺麗ですね。何か秘訣とかあるんですか?」
「いや、私は特に何もやってないぞ」
由紀はノインがこんなに綺麗なのか気になったのか聞いてきたが、ノインはこれといったことはなかった。
「もう、こんな時間か。そろそろ開きとしようぜ」
「そうだね。ラピスちゃんたちとお話しできて楽しかったよ!」
「うん、僕もひなたちゃんたちと会えてよかったよ」
そろそろ時間ということで玲二が解散を告げた。
「ここはボクが奢るよ~」
「いや、流石にそれは……」
いくら年上だとは言え見た目は少女のラピスに奢ってもらうと言うのも気が引けてしまう。
「ここは自分たちで払うからラピスちゃん大丈夫だよ」
「大丈夫。これでもボク、そこそこお金は持ってるからね」
「奢ってもらうのは悪いよ」
「だな。俺たちで払うよ」
「突然押しかけてきたわけだし、そのお詫びさ」
「別に気にしてないよ」
「まあまあここは大人のお姉さんに奢らせてよ」
(お姉さん……? 年上ではあるけど見た目幼女で胸は平た……)
「真白くーん? 何か失礼なこと考えているでしょう?」
「あ……いえ、失礼しました」
「よろしい」
顔には出していないのにラピスにはバレてしまい冷や汗が流れた。
「お姉さんって……ラピスちゃんって大人なの……?」
「見た目は幼いけど、ラピスは列記とした大人なんだ」
「ラピスさん……?」
「あはは、僕は気にしないから普通通りでいいよ」
「じゃあそうさせてもらうね」
みんな驚いているようだ。気持ちはわかる。
ラピスは真白たちの分まで奢ってくれた。
「ラピスちゃんありがとう! またねー!」
「奢ってくれてありがとうございました」
「なんだか奢ってもらって悪いな。ありがとう」
「いいよいいよ。みんなまたね♪」
ひなたたちはラピスにお礼を言って喫茶店で別れたのだった。
「これがVRドライブなんですね……」」
家に帰ってきた真白は 耳に付けるタイプのVRドライブ『mimi』と、ノインとカノンのVRドライブを比べていた。
「腕輪型……。さすがは宇宙の技術ってところか」
ノインとカノンが右腕に装着していた、一見、シンプルな銀の腕輪。まさかそれがVRドライブだとは。
「それだけじゃなくて、通信機にも、医療分析にも、宇宙船のコントローラにもなるんだよ」
多機能な腕輪だ。アレか、これって宇宙人のスマホみたいなものみたいなもの。宇宙人にとっては地球のVRMMOはソシャゲみたいな感じなのかもしれない。
「とにかくこれを使えばノインさんとカノンさんもログインできるわけですか」
「そうだね。ラピス様から真白くん達がゲームで遊んでいるときは僕たちも遊んでいいって言われたからね」
言われましたか。
真白らのボディガードとかって言っていたが、VRドライブを使用中は一番本体が隙だらけになるはずだ。
ダイブ中に宇宙人に襲撃されたら、二人がどれだけ強くても、自分とセレナの身体を守ることができないんじゃないかと思った。
「それは大丈夫だよ。『ログイン』しても僕もノインさんも半分はこっちに残るから。何かあってもすぐに対処できるよ」
半分とはどういうことだろうか。意識を半分、現実世界こっちに残せるとか。
よくわからないが、大丈夫らしい。
ここまでになったら真白にはもうどうしようもない。本気で他の宇宙人が真白らを狙ってきたら、二人に任せるしかないのだから。
もう開き直ろうと決めた。考えるだけ無駄だ。ラピスが大丈夫だと言うならそれを信じよう。
「主の家には結界が張ってあるから、そう簡単に入れはしないだろう?」
「確かに簡単には壊れないようにはなってますけど、二人と同じ強さの相手なら簡単に結界を壊せますよね?」
簡単に結界を壊せるだろう。
「それは安心していいよ。僕らやラピス様ほどの力を持つ人なんてそうそういないから」
「安心するがいいなにがあっても我らが主らを守る」
(あらやだ。かっこいいトゥンクしちゃう……)
美男と美女に守ると言われて、真白は胸がときめくのだった。
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