レジェンドオブアストラル   作:Yukimidaifuku

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プリンセスナイトと連合

 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。

 

「誰か来たみたいだね」

「我が出よう」

「あっ、ちょっ、待てください!」

 

 真白が制止するよりも早く、ノインが玄関へと飛び出して行った。ラピスの言いつけ通り角と尻尾は隠しているが。

 なにかマズい状態になってもラピスがなんとかしそうな気もしないでもないが。

 

「む? 主は確か連合の者だったな?」

「………………」

 

 ノインがガチャリと玄関を開けた先に立っていたのは、お隣さんのウエンディだった。手には小さな鍋を持っている。

 そのウエンディはノインを見上げたまま翡翠色の瞳を見開いて固まっていた。

 ノインが『連合の者』とか口走ってしまった。【惑星連合】のことか。

 

「な、なんであなたたちがここに……っ! あっ、きょっ、局長に報告しなきゃ……!」

「あはは、それはやめてもらえると嬉しいなー。痛くもない腹を探られるのはまっぴらだから」

「ひっ……!?」

 

 ウエンディの手から鍋が落ちる。危うく玄関の三和土たたきに落ちる前に、素早く真白がキャッチした。

 声のした背後を振り向くと、笑みを浮かべてラピスが立っている。

 

「め、冥王……!」

 

 ラピスを見て、ウエンディがガタガタと震えている。

 ラピスは力を持っているが、不思議と恐怖はなく、安心感がある。

 なのにウエンディは震えている。そんなに怯える必要があるのかと思う。

 

「め、冥王が地上に降りるとは……。ち、地球をどうする気、ですか……?」

「そう怯えないで、その反応されると傷つくな。ボクは別にどうもしないよ。ちょっとした息抜きさ」

 

 震えながら言葉を紡いだウエンディにラピスが答える。リーゼがまるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

 

「それ、は、星間法に触れる、のでは……」

「今更じゃないかな。キミらも同盟の人らも、隠れて大なり小なり同じようなことをしてるじゃないか。なぜトリニティアだけ律儀に守らなきゃいけないのかな。まあ、ウエンディちゃんが喋らなければいいだけのことだよ」

「こ、断ったら……?」

「さあてね。連合の新米調査員が一人、地球で行方不明になるかもしれないねー……。そんな事件は起きてほしくないでしょう?」

 

 悪い顔をしたラピスの視線を受けて、カクカクとウエンディが首を縦に振る。顔から血の気が引いている。よっぽどラピスが怖いらしい。

 ラピスはからかっているつもりだが、ウエンディにとっては違うらしい。

 

「ラピス。ウエンディが怖がっているから、からかうのもほどほどにね」

「あはは、ごめんねー。ついからかいたくなっちゃった」

「まあいいけどさ。説明してくれると嬉しいな」

 

 ラピスはからかったつもりなのだが、ウエンディにはたまったもんじゃなかった。

 

「簡単に説明すると、地球が存在する銀河にはいろんな組織があるんだ。中でも大きな集団が二つあってね。以前話した【惑星連合】、【宇宙同盟】だね」

「はぁ……」

 

 スケールが大き過ぎてあまりピンとこない。

 

「それでトリニティアって言うのは、ラピスたちが住む惑星? それと冥王っていうのは?」

「私が説明するね。惑星【トリニティア】は神界、人界、魔界と三つの世界が目には見えない次元の壁に隔てられ、隣り合わせに存在しているんだ。簡単に言えばサンドイッチの様な形を想像してもらうと分かりやすいかな? 冥王たちは魔族が住む世界、魔界には国という区切りは無く、六の領地に分かれているんだ。そしてその頂点に君臨するのは六体の魔族……通称『六王』と呼ばれる方々なんだ。『冥王』『戦王』『死王』『界王』『竜王様』『幻王』……それぞれ何千年と言う時を生きた魔族であり、その力は世界を優に滅ぼせる程の物と言われているんだ」

 

 六王、聞くからにやばそうな名前だ。

 この世界でいう七冠セブンクラウンズみたいなものか。七人ではないため一人足りないが。

 

「その冥王様がラピスっていうこと?」

「うん、そうだね。中には命知らずな人たちが攻めてくるんだけど、ことごとく返り討ちに帰ってくるんだ。しかも死者を一人を出さずに」

「とんでもないねー」

 

 とりあえずわかったことはラピスが冥王と呼ばれていて、世界を一人で滅ぼせる力があるということ。

 

「それじゃあラピスはすごく偉い人ってっていう認識でいいのかな?」

「ボクは別に偉いわけでも冥王って名乗った覚えがないんだけどね。それでウエンディちゃんが【惑星連合】の調査局員で、その星の種族や文明、文化を調査するために地上に降りる……ま、潜入捜査員だね」

 

 ソファーに腰掛けるラピスの前で相変わらずウエンディは青い顔をして座っていた。

 

「やっぱりウエンディも宇宙人……なの?」

 

 ウエンディは真白の言葉にビクッとしたが、やがて小さくこっくりと頷いた。

 

「私、は、【惑星連合】の調査機関、『アメシスト』所属の調査局員なの。任務は地球人の生態、文化、行動を観察、調査すること……」

「それだけじゃないよね。地球に滞在する他の異星人に対して、強制撤去させる権限を持つ。もちろん星間法に触れた異星人だけだけど」

「や、私まだ二級調査員なんでその資格は持っていません。せいぜい先輩方が処理するまで監視したり、ちょっとしたお手伝いをするくらいで……」

 

 お隣さんが宇宙人だったよ。

 カノンにノイン、ウィルにシスベルがいる今や、同居人も宇宙人か。

 

「ウエンティが宇宙人……。まあ、そう言われると納得できる部分もあるけど……」

「えっ? えっ!? そ、そんなバレバレだった!?」

 

 目を見開いたウエンディがこちらを振り向く。

 

「ん、まあ。世間知らずなところとか、なんか隠し事をしてるようなそぶりとか……。今から思うと、ああ、それで……って納得できる」

「そんなぁ……」

 

 UFOの話をしてた時もなんか挙動不審だった。ボロを出さないように気をつけていたんだと思う。

 潜入捜査員としては新人らしいから、どうしてもそういった不自然さが出てしまうのだろう。いや、宇宙人とわかった今だからわかることで、それがなければ気がつかなかったと思うけどさ。

 ガックリとうなだれたウエンディにどう声をかけていいかわからず、僕は話題を変えてみる。

 

「そ、それより地球にはそんなに宇宙人が降りているの?」

「……きちんと手続きを取れば、ある程度は許可されているの。旅行に来る宇宙人もいるしね。無断で強引に降りようとして墜落したのもいるよ。地球人が隠蔽しちゃってるけれど」

 

 それって『ロズウェル事件』とか、そういうのか。よくオカルト的な番組で流れたりするけど。

 

「ひょっとしてウエンディの【惑星連合】って、どっかの国と取引とかしてる……?」

「してないよ。どんな理由があれ、未発達の星の、特定の政府なんかと接触するのは星間法で禁じられているから。現在、地球のどの国も異星人との交流はしてないはずだよ。一応、【連合うち】が地球の担当ってことになっているから、【同盟】も接触は許してないはずだし。……まあ、国じゃなく、個人でなら何人かいると思うけど」

「現地での協力者がいなければ調査もままならないからね。近いところだと、ほら、【アストラル】を作った七冠セブンクラウンズかな。それと七冠の一人が宇宙人だよ」

「セレナは知ってた?」

「私はアストラル開発に多少は関わっていましたが、全てを知っているわけではなくて。一人ですが一度も顔を合わせたことがない方がいました。もしや……」

 

 セレナとラピスは知っているみたいだが、真白は関係者じゃないので全くわからない。

 七冠の一人が宇宙人とは驚きだ。

 

「セレナちゃんが思い浮かべたのは幻境竜后ヴィジョンズエンプレスだね」

「はい、そうです」

 

 七冠の一人、幻境竜后ヴィジョンズエンプレス。

 アストラルの記事や雑誌、写真にも一度も載ってない謎の人物で、性別は女性というくらいしか知らない。

 

「まさかだとは思うけど、その幻境竜后ヴィジョンズエンプレスが宇宙人だったりするのかな?」

「うん、その幻境竜后が宇宙人だよ」

「その幻境竜后はどんな人、いや宇宙人かな」

「私や他の七冠の方も会ったことがないそうなのですが、長老様だけは知っているみたいでして、昴様が言うには人との価値観と感性が全く違う方と言ってました」

「なるほど。ラピスはアストラル開発に関わってたりはするのかな? なんでも知っているみたいだけど」

「あはは、ボクはアストラル開発には関わっていないかな。何でもは知らないよ。知っていることだけだよ。真白くんに忠告はしておくけど幻境竜后には気をつけてね。宇宙人のボクが言うのはなんだけど彼女は何か企んでいるから」

「……わかった。気をつけるよ」

 

 

【アストラル】の開発者たちか。NPCがみんな宇宙人だと言うのなら、それに関わっている人たちが関係者なのは間違いないのだろう。

 詳しく聞くと、開発者の中には宇宙人も含まれているらしいという。てことは、【アストラル】ってのは、宇宙人と地球人との共同制作のゲームってことみたいだ。

 しかもNPCは全員、宇宙からログインしているらしい。地球に降りた宇宙人じゃないのか。遠距離恒星間通信ってことか。

 

「結局、宇宙人……ウエンディやラピスたちの目的はなんなの? 地球侵略とかじゃないんだよね?」

「地球人が宇宙に進出することが、他の異星人にとって益となるか害となるか……それを見極めようとしてる。ざっくばらんにいうと、友達になるかならないか、様子を見ているところだね」

「友達って……まあ、当たらずといえども遠からずってところだけど……」

 

 ラピスの言葉に対して、複雑な表情のウエンディがそうつぶやく。

 友好を結べる存在かどうか、確認をしているところってことかな。

 

「人間は身内で争ってばかりだから。警戒するのは当たり前だよね。個人ならまだマシだけど、集団になると凶暴さが増す。意に添わぬ者を排斥し、少数の意見は異端だと決めつける。自分を律することもできず、多数の他者に考えを委ね、暴走してしまう。未熟な種族だよね」

 

 ……群集心理ってやつか? 人は素質に関係なく、状況や集団の中での環境により、善にも悪にも簡単に変貌するという……確か『ルシファー効果』だったかな? そんな説をテレビで見たような。

 匿名性の高い状況や、集団での責任が分散される状況下においては個性が失われ、自己規制の意識が低下するとか。ネットなんかは特にそうだな。

 みんながしていることを当たり前だと考えてしまう。それが正しいと思い込んでしまう。『正義感』を持って、みんなで他者を迫害する。

 確かにそういうところが人間にはあると思うけど……。

 

「だけど、未熟の人間には無限の可能性もまた存在する。ボクらにはない、新たな風を宇宙に呼び起こすやもしれない。ボクらはそれを期待しているのさ。そのためには地球の人間をもっと知らないとね。そのための調査をしているのさ」

「基本的には地球上では私たち【惑星連合】の者が調査をしているの。でも【アストラル】の中では共同で調査しているから、いろいろと大変なんだよ。お互い方針が違ったりするから……」

 

 ウエンディが、はあっ、と深いため息をつく。どうやら宇宙人も足並みを揃えるのは大変らしい。

 こういった異星人とのコンタクトは、星によっていろいろ方法が変わるらしい。

 ある程度文明が育っていなければ、また次の機会に、となることも多いとか。未熟過ぎる種族だと、異星人を神と崇めてしまい、その成長を妨げることになるからだそうだ。

 その点では地球人は試験を受けるだけのレベルに達していると認められたわけか。

 

「じゃあ『監視者ウォッチャー』ってのは……」

「言っただろうけど。『試験官』みたいなものさ。真白くんが会ったのは【同盟】側の人だね。彼ら大勢力は地球人が宇宙に進出することに反対しているから。基本的に厳しい試練を当ててくるのは大概そっちだね」

 

 てことは、あの場にいた自分とセレナ以外のカズハ、ミナト、ミヤビ、ヒカル、ナギサ、ホムラ、ライカ、ヤエ、ノウェム、ツカサの十二人は地球人ってことなのかな?

 ウエンディのように宇宙人のプレイヤーにも『監視者ウォッチャー』は試練って与えるのか?

 

「私みたいに普通のプレイヤーとしてログインしている者は仕事じゃなく、【アストラル】を私的に楽しみたいからログインしているの。もちろん運営側にも知り合いはいるけど、そこは公私混同しないから。もちろん【同盟】の側も同じ。でも冥王は……」

 

 ちらりとウエンディがラピスに視線を向ける。

 

「あの世界でボクの身内はほとんどプレイヤー側ではないし、他の地球人プレイヤーに干渉もしてはいないよ。決められた箱庭シークレットエリアでのんびりとしているだけさ。ま、まさか地球人のプレイヤーが来るなんて思ってもなかったけど」

 

 真白とセレナの方をチラリと見てくる。

 

「ウエンディのところの【連合】は地球をどう考えているの?」

「慎重論もあるけど、友好派が圧倒的に多いかな。私たち【連合】はいろんな種族が多いから、他の星とはなるべくうまく付き合っていこうって方針なの。まあ捕食者プレデターとか、殺戮機族キリングマシンとか、どうしても仲良くなれない種族もいるけどね」

 

(それはまあ……敵対的な人とは僕も仲良くしたくはないね)

 

 ウエンディの【連合】は地球人に友好的、と。じゃなきゃ一緒に【アストラル】を開発したりはしないか。

 

 とりあえずわかったことを整理してみるのだった。

 

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