プリンセスナイトとお姫様との出会い
夏休みに入った。
ラピスからアストラルの秘密を知らされた真白は気分転換に外に出ていた。
『──いやぁ! だれか、たすけてぇえええええ!』
コンビニにアイスを買いに行った帰り道、何やら女の子が叫ぶ声が聞こえてきた。
──周囲からは人の気配が消えた。人払いの結界に入り込んだようだ。
民家は並ぶが、耳を澄ませても生活音が聞こえない。
気になり、路地裏をこっそり覗き込むと──。
『おとなしくしてもらおうか』
『叫んでも無駄だ。助けは来ない』
『いやぁ、放してください……!』
全身黒で統一されたローブを着て素顔を仮面で隠した怪しい男三人が、帽子を被っている女の子の腕を掴んでいた。
どう考えてもやばい状況だ。
白昼堂々と、誘拐……?
警察に通報案件?
てか、どうして外国人がこんなところで?
しかも人払いの結界まで施されている始末だ。
相手は能力者だと考えるべきだろう。
不測の事態に、真白はいろんな思考が頭を巡ってしまう。
そうしている間にも、女の子は連れていかれそうになっているわけで──。
『誰か助けてください……!』
女の子が、涙を浮かべ叫ぶ。事情は全然わからないけど、女の子が泣きながら助けを求めている。
「アイ。助けに行くよ」
『了解デス』
「『アストラルバインド』」
「な、なんだこのガキ!?」
「まずい、見られたぞ!」
「人払いの結界は張ったはずだ。ガキが入ってきたんだ!?」
「体が動かない!? こいつ能力者か!?」
相手は体を拘束されて動けない。その隙に女の子を助け出す。
「走って……!」
真白は男の後ろにいる女の子に対して叫ぶ。
意図が伝わった女の子は、コクッと頷いて奥に走っていった。
「しまった……!」
「この拘束解けないぞ!?」
「逃すか!!」
不審者の一人が筋肉を盛り上がり、拘束から無理矢理力で抜け出した。なんという馬鹿力。
「待てクソガキ……!」
「うそっ、拘束を無理矢理力で引きちぎった」
男が鬼の形相で追いかけてきた。
凄く怖い人相が見えている。
あの様子……捕まったら何されるかわからない。
平気で命を奪いそうな人間だ
「うわぁー、足速っ……!?」
全力で逃げているというのに、みるみるうちに距離が詰められている。
筋肉ムキムキのようなごつい体をしておきながら、なんでこんなに足が速いんだ……!
よく見ると魔力というもの体に纏い、身体能力を上げているようだ。
「捕まえ──」
「──っ。えぇい、これでどうだ……! 『強化』」
追い付かれる直前、真白は急ブレーキをすることで、相手のタイミングをずらす。
そのまま後ろを振り返り、『強化』の異能で身体能力を上げて男の股間を蹴り上げた。
その時プチっと嫌な音がしたがローブを纏い、怪しい集団である以上、容赦はしない。
それに明らかに真白に殺気を向けて殺そうとしているのだ。
「……!!??」
男の急所にクリティカルヒットした相手は、声にならない悲鳴を上げて地面へと転がる。
残る二人もまた、拘束から抜け出してきた。
ナイフを真白向けて投げてきた。
「『三重結界』」
三重に重なり合った透明の光の壁が、迫り来るナイフを全て受け止めた。
真白は相手の首を掴み、二人をアスファルトに叩きつけた。
「「がっ、ぐはっ……」」
相手は何者かは知らないが殺してはいない。気絶させただけだ。
やはり戦いというのは慣れない。殺気を向けられただけで足がすくむ。
「…………」
「あっ……」
額の汗を腕で拭っていると、奥にある曲がり角から女の子がこちらを覗き込んでいることに気が付いた。
あのまま逃げたと思ったけど……こっちのことを気にしていたらしい。
真白は急いで女の子のところに向かう。
「大丈夫でしたか……?」
通じるかわからないけど、英語はほとんど話せないので日本語で話しかけてみた。
すると──。
『凄い……まるでヒーローみたいです……』
何やら女の子は、頬を赤く染めながらジッと見つめ返してきた。
吸い込まれそうなほどに大きくて澄んだ、碧眼へきがんの瞳。
筋が通った高くて小さな鼻に、薄すぎず厚すぎない桃色の綺麗な唇。
日本人離れした純白の肌といい──帽子で気付かなかったけど、この子凄く美人だ……。
よく見てみると顔立ちがセレナに似ている。なんというかセレナを少し幼くしたような感じだ。
(セレナに似ている……‥。もしかして妹さん?)
すぐに思い出して、数年前の写真だが面影はあった)
『危ないところを助けて頂き、ありがとうございました』
女の子に見惚れていると、彼女は帽子を脱ぎながらお礼を言ってきた。
『mimi』の翻訳機能を使って日本語に聞こえる。
『私は、ユースティアナ・フォン・アストライアと言います。気軽に、ユースティアナとお呼びください』
そう自己紹介をする彼女は、綺麗なオレンジの髪を風に靡かせながら、見惚れるほどにかわいらしい笑みを向けてきたのだった。
「ユースティアナ・フォン・アストライア……」
名前と顔には見覚えがあった。今朝のニュース番組で王女様が来日しているというのを見た。
王族や貴族相手のマナーを知らないのでその点は目を瞑ってほしい。ユースティアナはクスッと笑みを浮かべる。
あんな怖い目に遭ったばかりだというのに、随分と落ち着いた子だ。
とりあえず、真白も自己紹介をしてみる。
「あっ、えっと……神原真白です。よろしくお願いします……」
彼女はジッと真白の顔を見つめながら、噛み締めるように真白の名前を口にする。
「真白様……」
「様はいらないですね……」
「では真白くんとお呼びさせてもらいますね」
「場所移しながら話をしましょうか。警察に連絡をしたほうがいいですよね?」
男たちが復活したら今度こそやばいので、真白は奥に続く道を指さしながら話を続ける。
しかし──。
「駄目、です……。警察への連絡は、してはいけません……」
何やら訳ありのようだ。
「でも、誘拐されそうになってたんですよ……?」
「警察は駄目です……」
警察が駄目……?
何か理由でもあるのだろうか。
「ユースティアナ様は何か理由があるんですか?」
「私はある人を探しているんです」
「ある人、それって……?」
(セレナのことだろうか?)
「はい、十年前ほど前、公的には病気で亡くなったとなっています。ですか本当は病気で亡くなってはいないんです」
「なるほど……」
ユースティアナは首にかけてあるペンダントの中にある写真を見せてくれた。
「名はセレスティアナ・フォン・アストライア。私の姉です。何か知りませんか?」
「……ごめんなさい。わからないです」
「……そうですか。ありがとうございます」
セレナの部屋にあった写真と同じだ。
真白の予想通りセレナは貴族あるいは、王族なのじゃないかと予想はしていたがあっていたようだ。
ユースティアナはセレナのことを聞いてくる。もちろん知ってはいる。事情がわからない以上、今は知らないフリをしておく。
少し動揺したが、真白の変化にユースティアナは気付いてはいなかった。
「ユースティアナ様。探すのはいいですけど手掛かりはあるんですか?」
「手掛かりはこの櫻川丘のどこかにいるとは聞いています」
どうしものかと考える。
理由はわからないがユースティアナは何かの組織に狙われている。それでもユースティアナはセレナもとい、姉であるセレスティアナをどうしても探したいらしい。
『真白くん、お願いがあります。私のことを護衛してくれませんか? 見たところ真白くんは戦えるようですし、もちろん私にできることならなんでもします。どうかお姉様を探すために協力してくれませんか? お願いします!』
「わかりました。お礼はいらないので大丈夫です。僕だけだと護衛は頼りないので頼れる仲間を呼んでもいいですか?」
『はい、もちろんです。真白くん、私には敬語も様もつけなくていいですよ。気軽に接してください』
こうして真白はユースティアナ・フォン・アストライアの護衛を引き受けることになるのだった。
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