挨拶の後に軽く雑談を交わし、早速本題である護衛の話が始まった。
「今日はわざわざ来てもらって申し訳ないのですけど、護衛の話はなかった事にしてもらってもいいでしょうか?」
「えっ?」
「今日待たせた分の代金は支払いますので」
「そんな勝手に困ります。私が頼んだんですよ?」
「そうですよ! ユースティアナ様がお願いしたんですよ!?」
「いくら彼が気に入らないからって、勝手なことをしないでください」
侍女の人とセリアとリーゼの間には険悪な雰囲気がある。
「理由を聞いても?」
「これはただの護衛の仕事じゃありません本来はプロのボディガードや戦闘職の経験がある大人でも難しい仕事です。ただ少し強いだけの高校生に勤まる仕事ではありません。遊びではないのです」
「うっ」
眼鏡をかけた侍女の正論ではある。もちろん遊びではないことはわかっている。
だが真白も目的があって護衛を引き受けることにしたのだ。侍女の人は私情半分本音半分と言ったところだろう。
「せめて実力だけでも見てください。必ず期待に応えます」
「実力ですか……。ふっ、確かに、何も見ずに不採用とするのは失礼過ぎますね。わかりました。では貴方が勝てたら採用としましょう」
「そんな勝手に決められては困ります! 彼の力を信用してないんですか!?」
「彼がユースティアナ様をお守りしてくれたのは知っています。ですが、私は彼の戦う姿を目の前で見てないので半信半疑なのです。ですので証明してもらいたいのです」
ユースティアナの言っていたことは本当なのだが、眼鏡の侍女は信じていないようだ。
真白を少し小馬鹿にしたような態度を取り、ただの高校生に見える真白を見下しているようにも見える。
そんなあからさまな態度に琥珀達は主を馬鹿にされているようで怒りが湧く。
仕方がないと思い、真白は実力を見てもらって認めてもらうしかなかった。
地下へと案内された。
「トレーニング施設があるから、そこであなたの実力を計らせてもらいます」
「得意な戦法は? 武器は必要でしょうか?」
「いえ、素手で大丈夫です」
一般的な体育館の半分くらいの広さがある立派な部屋だ。壁には竹刀や木刀、ゴムナイフなどが備えられている。さまざまな状況下での訓練が行えるのだろう。
「それじゃあ彼と模擬戦をしてもらいます。相手を拘束するか気絶させれば勝ちという事でいいでしょうか?」
「大丈夫です」
相手役は黒服の大男さんだ。スーツの上からでも体格の良さが伺える。体格は倍近く違う。
「それでは、試合始め!」
侍女の掛け声とともに、模擬戦が始まった。
◇
(どう見ても頼りないですね。ユースティアナ様はこの男のどこが気に入ったのやら)
侍女は、落胆の色を浮かべていた。
男性にしてはどこか頼りなく、なんの威圧感も感じられない。そして、傷のない綺麗な手と顔は戦闘経験の少なさを物語っている。
(今がどれほど深刻な状況なのか理解しているかと思っていましたが、説明が足りなかったのかもしれないですね)
会話では、格闘経験もなく部活にも入っていないと聞いていたため、会話が進むにつれて侍女の気持ちはますます落ち込んでいった。
「今日はわざわざ来てもらって申し訳ないのだけど、バイトの話はなかった事にしてもらってもいいでしょうか?」
「えっ?」
そのため、今回の待ち合わせで時間を使わせてしまった分の給料を払い、侍女はを帰そうと考えていたのである。
「せめて実力だけでも見てください。必ず期待に応えます」
「実力ですか……」
侍女はテストを行うことにした。
「確かに、何も見ずに不採用とするのは失礼過ぎますね」
侍女はどうせ勝負はわかりきっていたので了承した。
「それでは、試合始め!」
そう考えながら試合の合図を出した侍女は、信じられない光景を目撃した。
「遠慮なくかかってきなさい」
「あ、はい」
真白の右手がブレた瞬間、ロイマンは膝から崩れ落ち意識を失った。
顎下皮膚一枚を掠めて綺麗に気絶させることが出来た。
アイに検査してもらったが問題はなかったようだ。後遺症はないだろう。
「……認めましょう。ユースティアナ様の護衛を。ですが節度を保った態度をお願いします」
眼鏡の侍女はというと真白が勝ったことで渋々だが認めて採用されることになった。
「やめられても困るんでな、組織の情報は小出しにしていく感じでいいか?」
「別にやめる気はないですけど、それでいいですよ」
「戦闘術と強化の使い方講座は合間の時間に練習する」
ユースティアナの護衛をやりながら、エンデヴァーによる戦闘術の講座を真白は合間に教わることになった。
「とりゃあ!」
「なかなかいい感じだな。もうナイフ術は終了でいいだろう」
護衛初日。ホテルの地下にある訓練場で、エンデヴァーに『強化』の異能の使い方や様々な戦闘術を学んでいた。
その横では楓が燐から戦闘術を学んでいて、木剣を構え打ち合っている。
「楓といったな、なかなか筋がいい」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
時折、横でチラッと見ていたが手加減していたとはいえ凄まじい剣戟が行われていたのだ。
それなのに楓と燐は汗もかかず疲れた様子もなく涼しい顔だ。
燐はたいそう楓を気に入ったみたいだ。
「楓ちゃん、一式さんについてこれるなんてすごいね。彼女何者なんだい」
「ありがとうございます。楓ちゃんは僕が作り上げた戦闘用に特化した式神なんです」
「なるほど……。だから燐の相手になれたんですね」
「すごいですね。見た目は幼いのに燐さんと渡り合えるなんて……」
対異能対策課の面々は燐相手に楓が渡り合えていたのに感心している。
「化け物じみた上達速度だな。この調子なら2週間くらいで俺の持つ技術は全てマスターできそうだな」
「神原さんがいて正直私達いらないと思いませんか、姉さん」
「……」
「姉さん?」
「へ? な、なに?」
「姉さん……神原さんに見惚れていたんですか?」
「そ、そんなわけないじゃない。舞奈ったらなに言ってるのかな!?」
明らかに動揺している舞花。そんなわかりやすい反応に舞奈は呆れていた。
(わかりやす……。父さんと姉さんから異能者の組織の事件は聞いてたけど、あの事件から姉さんボーっとすることが多くなったなって思ったら……そういうことですか。父さんがこのことを知ったらどうなるやら)
あの真面目な姉にもついに春が来たかと思った。
「スーツに着替えてから現場に行くぞ。行くまでの道中で仕事内容を説明する」
「了解」
軽くシャワーを浴び、事前に用意されていたスーツに着替える。護衛の人たちに支給されているものと同じで動きやすく耐刃性に優れた素材でできている特注のスーツらしい。このスーツのお値段だけで真白の1ヶ月分のバイト代より遥かに高そうだ、汚さないように大切に着よう。
「仕事内容はユースティアナ王女の護衛と見回りだ」
「護衛と見回りですか……」
なにも起きなければそれでいいのだが。
ユースティアナを狙う組織がいるから要注意だ。
「怪しい動きや雰囲気のやつはマークしろ。実際にトラブルが起きた際はすぐに駆けつけて状況に応じた対応だ。対処法は実際に見せながら教える。警備体制が強化してあるからそんなバカな奴はいないだろうが、酔っ払いには気をつけろ、何か起こるかはわからないから用心して警戒しろ、以上だ」
エンデヴァーに連れられてきたのは豪華絢爛なパーティー会場だ。
いかにもセレブ達が集まる場所だ。
真白は緊張した面持ちでパーティー会場に入るのだった。
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