セルフ脳破壊で過酷なソロぴょいをしてしまうカワイイカレンチャン 作:名無しの権兵衛
みんなは運命って信じる?
カレンはね、運命を信じるよ。
子どものころ、迷子のカレンを助けてくれて、カレンの夢を聞いても笑わないで応援してくれた『お兄ちゃん』
そのお兄ちゃんとこのトレセン学園で再会して一緒にトゥインクルシリーズを駆け抜ける日々。
こんな素敵なことがあっていいのかと思えるくらいの、奇跡的な出会い。
これを運命といわずして、なんていうのかな?
もちろんそれだけじゃない、カレンの大切な夢、お兄ちゃんが応援してくれた夢に向かって頑張っているんだよ。
ウマスタやウマッター、いろんなものを通してカレンの『カワイイ』を世界中に知ってもらうの。
そして最後には、最後にはお兄ちゃんと……
だから私は、レースもカワイイも妥協しないよ。
カレンのカワイイを極めるために、レースもウマスタも手を抜かないで毎日頑張って……
もちろんお兄ちゃんへのアピールだって忘れない、日々のコミュニケーションの中でアピールしたり、休日には一緒にデート!
お兄ちゃんと一緒の生活の日々、毎日がドッキドキで、キラキラで、胸いっぱいで……
本当に、夢みたいな生活で。
だからかな、こんなに幸せなのに、それより上を目指しちゃったから天罰が下っちゃったのかな?
「あれ、お兄ちゃん? おーぃ……」
今度流行りそうだと目を付けていたカフェに一人で向かっていた時のこと、たまたまお兄ちゃんを見かけて声をかけようとしたの。
「……! ……」
「…… ……!」
だけど、お兄ちゃんは知らない女の人と一緒に楽しそうにおしゃべりをして歩いていた。
今まで、お兄ちゃんが女の人とあんなに楽しそうにおしゃべりをしているところなんて見たことがない。そもそも本人が女性とかかわるのが苦手だと言っていたのだ。
いっつもマヤトレさんやライトレさんと一緒でほとんど女の人と一緒にいないし、女の人の中で一番仲のよさそうなアヤベさんのトレーナーにすら、少し苦手そうな雰囲気を出しているのに……
「だれ、その人……」
思わず口からこぼれる言葉は、お兄ちゃんには届かなかった。
それはそうだよね、だってこんなに距離が離れているんだもん。
「あっ……」
そして声もかけることもできないまま立ち止まっていると、お兄ちゃんとそのお姉さんは、雑踏に紛れてどこに行ったか分からなくなってしまった。
「……お兄ちゃん」
結局そのあと、カレンは最初のカフェに行こうという気持ちはなくなってしまった。
それよりも、お兄ちゃんがあの女の人とどんな関係なのか……
そればっかりが頭の中に渦巻いて、寮に帰る間、ううん寮に帰ってからもずっと考え込んじゃったの。
「……痛い」
「苦しいよ、お兄ちゃん……」
いつもは少し頼りないけど、いざというときには迷わない、頼りになるお兄ちゃん。
少しからかったら顔を真っ赤にして反応してくれる、カワイイお兄ちゃん。
カレンのやってるウマスタやウマッターを頑張って覚えて、カレンのことを理解してくれようとしているお兄ちゃん。
カレンとのデートで、顔を真っ赤にしながらもエスコートしてくれる、優しいお兄ちゃん。
カレンのためにレースや練習のことを真面目な表情で考えてくれている、かっこいいお兄ちゃん。
カレンがレースで勝った時、誰よりもカレンの勝利を喜んでくれて、優しく微笑んで頭を撫でてくれたお兄ちゃん。
カレンが知っている、優しくて、かっこよくて、素敵なお兄ちゃんの、いろいろな表情。
……でも、今日のお兄ちゃんの表情は、カレンの知らないお兄ちゃんの表情だった。
あんなに純粋に、楽しそうに笑うお兄ちゃんの顔、見たことなかった……
「ぐすっ、お兄ちゃん……」
ベッドに倒れこみ、天井を見上げる。そうでもしないと、涙があふれてしまいそうになるから。
今日はアヤベさんは天体観測で部屋にいない。たった一人の、静かな空間。もしアヤベさんがいれば、相談できたかもしれないのに……
「あの人と、どんな関係なんだろう?」
そうつぶやいた瞬間、思わず後悔してしまった。だってそんなことを考えてしまったら、もう止まらなくなってしまうから。
……町中を楽しそうに歩く男女、お兄ちゃんの隣を歩く女性はウマ娘ではなかった。
趣味の話で盛り上がっているのか、二人は楽しそうに笑っている。
いつもカレンとデートしているときとは違って、気負ってない、自然体で女性と接するお兄ちゃん。
横並びに歩く二人の距離はだんだん狭くなっていき、気が付けば触れてしまいそうなほどだった。
ちょんっ
手の甲と甲がふれあい、一瞬の静寂が二人を包む。
パチッ!
そして気恥ずかしそうに手を差し出すお兄ちゃん、その手を取る女性。
さっきまでの楽しそうな雰囲気はどこへやら、顔を真っ赤にさせて無言のまま歩いていく。
しかしそこに気まずさはない、ただ二人の間に気持ちの変化があっただけ。
パチッ! パチッ!
そのあと二人で行くのはいつもより少しお高めのレストラン、お兄ちゃんはぎこちなくエスコートして、あの人がそれをクスリと笑って、それにつられてお兄ちゃんも笑って……
パチッ! パチパチッ!!
いつもの調子に戻った二人、あの時のように楽しそうに話し合っている。
二人の会話は弾み、しかしあの時とは違い、少し熱を帯びた目をしている。
……そして、一瞬の静寂とともに、手を重ねる二人。
互いを見つめあうその顔は、やがて段々と近づいて行って……
だっ、だめだよお兄ちゃん! そっちに行かないで! カレンのもとに帰ってきて!
パチパチパチパチッ!!!!
あっ、そ、そのまま二人の距離は、あっあっ、どんどん近くなって、あっ、や、やがてゼロ距離に……
いっ、いや、いやあぁぁぁ!!
パチンッ!!!!
「~~~~!!!!」
脳が焼き切れるような感覚に、視界がチカチカとしているようだった。
「ケホッ、ケホッ、オエェ!」
お兄ちゃんが他の女の人と仲良くして結ばれようとしているなんて、つらくて、苦しくて、吐きそうで、胸が張り裂けそうで、心が締め付けられる、それほどまでに悲しい気持ちになるのに、なるのに……
「なんで、なんでちょっとだけ……」
これはきっと、言語化してはいけない気持ち。
結局カレンは、この気持ちを受け入れられないまま眠ってしまいました……
「カレンさん、本当に大丈夫?」
「もう大丈夫ですよアヤベさん、心配かけちゃってごめんなさい」
「……大丈夫ならいいのだけれど、無理はしないでね?」
「はい!」
一晩寝て気持ちがすっきりしたのか、目が覚めた時には気持ちが楽になっていました。
(……でも、気にならないわけじゃない。やっぱりお兄ちゃんに聞いてみよう)
あの人とどんな関係なのか、付き合っているのか、付き合っているならいつからなのか……
(それがわからないことには始まらない!)
そんな思いを胸に、覚悟を決めてお兄ちゃんのいるトレーナー室へと向かうのでした……
「えっ、ただ道案内してただけだよ?」
「えっ!?」
お兄ちゃんの返答は、意外なものだった。
だってあんなに楽しそうに話しているのだから、てっきり仲のいいお友達だったり、付き合っているのかと思っていたのに……
「で、でもなんだか楽しそうにお話してたよね?」
「あぁ、話してたらたまたま趣味が一緒でさ、なんだか初めて会った気がしないくらい話してて楽しかったから……」
「そっ、そうなんだ。カレンてっきり……」
「てっきり?」
「い、いや何でもないよ?」
とりあえず付き合っていないということが分かっただけでも収穫だね。
ひとまず安心していると、お兄ちゃんは思い出したように話し始めました。
「あっ、でもまた会いましょうって連絡先を交換したんだけどさ」
「えっ!?」
やっぱり恋のライバル!? っと思っていると、お兄ちゃんは少し残念そうな顔で肩をすくめた。
「なんか結局次の約束をキャンセルされちゃって、そのあと連絡突かなくなっちゃったんだよねぇ」
なんか気に障るようなことしたかなぁ…… と少し落ち込むお兄ちゃんを見て、思わずホッと息をついてしまう。
するとお兄ちゃんはそんなカレンの反応に気が付いたのか、カレンのほうに歩いてきました。
「どうしたんだカレン?」
「えっ、あっ、なんでもないよ?」
「もしかして……」
ずんずんと迫ってくるお兄ちゃんに気圧されて、少し後ずさってしまう。
するとお兄ちゃんは優しく微笑んでカレンの頭に手を伸ばしてきた。
「寂しかったのか?」
「……えっ?」
そういってお兄ちゃんはカレンの頭を優しく撫でてくれたの。
(あっ、これ、いい……!)
最初は恥ずかしくて逃げようとしたのだけれど、その優しい手つきが幼いころのあの日のようだったから、思わずいっぱい撫でてもらっちゃった。
なでてもらうたびに、昨日傷ついた脳がどんどんと癒されるような、素敵な気分になる。
こうしてカレンは、いっぱいお兄ちゃんによしよししてもらって、脳を回復するのでした……
お兄ちゃんの秘密:実はマヤトレとお兄様とは幼馴染で、好きになる人はいつもどちらかのことを好きになっていた。