セルフ脳破壊で過酷なソロぴょいをしてしまうカワイイカレンチャン 作:名無しの権兵衛
「あっ、お兄ちゃん見てみて! 海が見えたよ!」
「あぁ、本当だ。きれいだね」
今、カレンとお兄ちゃんは夏の合宿所に電車で向かっているの。
本当はみんなと一緒に行く予定だったんだけど、レースの関係でちょっと遅れて二人きりで向かってるんだぁ。
「えへへっ、楽しみだね!」
「ちょっ、カレン!? いきなり抱き着かないで!」
「えー、じゃあいきなりじゃなかったらいいんだ?」
「いや、そうじゃなくて……」
かわいい反応をするお兄ちゃんの腕に抱き着きながら頬ずりをする。すると、お兄ちゃんは少し困ったような顔をしたけど、すぐに優しく微笑んでカレンの頭を撫でてくれた。
「えへへ~」
「まったく、最近のカレンは甘えん坊だな」
そう、最近カレンはお兄ちゃんにべったり甘えてしまうことがある。
それもこれも、あの趣味のせいだ。
お兄ちゃんが私以外の誰かにとられる。そんな妄想をすると、どうしても暗い気持ちとは別の、喜びのような感情を感じてしまう。
そのことに気が付いてからは、どうしてもその行為を止めることができなくてしまったの。
そしてそのたびに、傷ついた脳を癒すためにこうやってお兄ちゃんに何度も甘えてしまっている。
「ほらカレン、そろそろ駅につくよ」
「あっ…… うん、わかった」
お兄ちゃんに言われて、仕方なくお兄ちゃんの腕から離れる。
すると顔に出てしまっていたのか、お兄ちゃんが苦笑して顔を近付けてきた。
「続きは、人のいないところでね」
「はうっ❤」
あっ、耳元でささやくのはだめ、反則だよお兄ちゃん❤
「わ、わかったよお兄ちゃん……」
「さあ行こうか」
「うん……」
そしてカレンはお兄ちゃんにエスコートされて、合宿所に向かうのでした。
「むぅ」
「あら、どうしたのカレンさん?」
合宿の休憩時間中、カレンが一人寂しくパラソルの下でビーチを見ていると、アヤベさんが声をかけてくれた。
「別に、なんでもないですよ」
「そんなこといって…… あら?」
何かに気が付いたアヤベさんが、浜辺のほうに顔を向ける。
そこにいたのは、お兄ちゃんと一人のウマ娘。
その娘の名前は、ダイワスカーレットちゃん。
私よりちょっと年下の女の子。
「ダイワスカーレットさん? どうしてあの娘とあなたのトレーナーが一緒にいるの?」
「なんでもスカーレットちゃんのトレーナーさんがどうしても外せない用事があったみたいで、その間お兄ちゃんが代わりに見てあげることになったんだって」
「あぁ、それで」
「はぁ……」
なんというか、ちょっと複雑な気分。
別にお兄ちゃんの新しい担当になったわけでもないのに、なんだかお兄ちゃんを取られちゃったような気持ちになっちゃう。
もちろんお兄ちゃんもいずれカレン以外のウマ娘を担当することになり、カレンだけのお兄ちゃんじゃなくなるのは分かってる。
でも、せめて今だけでも、カレンだけのものであってほしいと思うのは、いけないことなのかな?
「……あっ」
「……?」
その時気が付いてしまった。もしかしたらこれ、次のネタにできるのではないかと。
「いや、でも……」
「どうしたの?」
そこで私の心に待ったがかかる。
今まではほとんど知らない人だったから良かったけど、スカーレットちゃんとは知らない仲でもないし、そんな目でいいのだろうか?
そう考えると、少し躊躇してしまう。
「ちょっとだけなら……」
「あの、カレンさん?」
でも、もしかしたら、知り合いのほうがより
そう考えてしまってからは、もう自分で止めることができなくなってしまった……
この合宿を契機に、スカーレットちゃんはお兄ちゃんと契約を結ぶことになってしまった。
そうなるともちろんカレンとお兄ちゃんが一緒にいる時間は短くなるけど、それでもカレンはまだ余裕を感じているの。
だってカレンのほうがお兄ちゃんと一緒にいた時間が長いし、お兄ちゃんへの気持ちもカレンのほうが大きかったから。
たとえカレンがレースを引退して、お兄ちゃんとの契約が切れてしまっても、カレンには年齢のアドバンテージがある。
私のほうが早く卒業し、早く大人になってお兄ちゃんと結ばれることができる。
もちろん引退した後も、お兄ちゃんと一緒にお出かけをして二人の関係が途切れないようにする。
あの時のように頻繁にお出かけができたわけじゃないけど、それでも私は幸せだった。
……でも、スカーレットちゃんのほうが私よりも上手だった。
ある日の週刊誌に、そんな報道が掲載された。
まさかと思い、本人に確認を取ろうとするも、その時にはもう遅かった。
パチッ
……そう、この情報が出回るのがあまりにも早かった。まるで、あらかじめ根回しでもしていたかのように。
パチパチッ
そのままお兄ちゃんに会えないまま、二人の記者会見が行われる。
パチッ バチッ
その場では否定していたが、スカーレットちゃんの様子は明らかに熱のこもったものだった。
バチッ バチッ
結局報道は否定されたものの、その様子が様々な憶測を呼びワイドショーを賑わせた。
バチバチッ バチッ
そう、この時点でもう、お兄ちゃんの外堀は埋められてしまっていたのだった。
バチバチバチッ
結局この後、お兄ちゃんとは疎遠になり、二人の結婚もテレビの向こうで知るような関係になってしまった。
バチバチバチッ バチッ
そ、それで結局、二人は、幸せな家庭を築いて、子宝も、11人……
バチンッ!
「……っと、カレンさん!」
「……はっ!」
気が付くと、アヤベさんが私の肩をつかんで声を上げていた。
「ご、ごめんなさい、ちょっと考え事をしてて……」
「……はぁ、とにかく、あまり無茶はしないことね。とりあえず室内に戻って休んだら?」
「うん、そうするね……」
結局そのあと、カレンは合宿所に戻って休ませてもらい。後でお兄ちゃんにいっぱい甘えて脳を回復するのでした……
「アヤベさん、もうやめて! あの子は絶対そんなことを言う子じゃないよ!」
「……行ってくるわ」
「アヤベさん!」
合宿が終わって帰ってくると、アヤベさんの様子がおかしくなってしまった。
毎晩悪夢にうなされて、あの子の幻覚に傷ついて、自分を傷つけて……
「どうしよう、アヤベさんが……」
今の私では、アヤベさんの傷をいやしてあげることはできない。
でも、今のカレンにできることは少ない。
「……そうだ」
それでも、アヤベさんのことを放っておけない私は、藁にも縋る思いで携帯電話に手を伸ばす。
「お願い、助けてお兄ちゃん!」
「わかった、任せろ」
こんな時に頼れるのは、やっぱりお兄ちゃんだった……
ダイワスカーレットの秘密
実は、何故かお兄ちゃんのことを目で追ってしまう。