9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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要望にあった高専での交流回です。
今回は前回に増して軽い感じなので、肩の力を抜いて読んで頂ければ。


コウセン×デ×コウリュウ

【家入硝子】

 

 高専内の医務室にて。

 九々等(くくら)八壱(やいち)は尾のような金髪を揺らしながら頭を下げた。

 

「家入先生! この度はオレの命を救って頂き、マジでありがとうございました!」

「……ふぅ」

 

 相手である家入(いえいり)硝子(しょうこ)は、上を向いて煙草(たばこ)の煙を吐き出しながら気だるげな声で言う。

 

「ツッコミどころが多いから順に言うけど」

「はい! ……はい?」

 

 ぴ、と家入硝子は白い指を一本立てた。

 

「まず1。私は君を()()しか治療してない。ちょっと血を増やして切断された手と足を縫い付けた時点で、自前の反転術式で勝手に生き返ったからね、君」

 

 そんな患者中々居ないよ、とぼやきつつ立てた指の本数を増やす。

 

「それで2。わざわざ礼を言う為に此処に? 総監部が君を血眼(ちまなこ)で探してるハズだけど」

「あ、追手的なのはさっきノしました」

「……ふぅ。そう」

 

 再び煙草を吸い、吐く。紫煙と共に空気に溶けるストレスより、今体に入ってきているストレスの方が多い気がした。

 そんな彼女の内心に気付かず、九々等は元気に礼を続ける。

 

「それに、オレが助かったのはやっぱ家入先生たちのお陰っすよ。オレ一人じゃ多分手足も繋がらなかったし、反転が間に合わずに失血で死んでたと思うんで」

「で、それをわざわざ伝えに?」

「はい! やっぱデカい恩ある人には直接お礼を伝えないと、なんか気持ち悪いじゃないすか」

 

 悪い奴じゃないのがよりタチが悪い、と家入は再び煙草を吹かす。

 短くなった煙草の火を消し、立てた指を更に一本増やす。

 

「……まあそれはいいや。じゃあ3」

「はい!」

 

 体育会系らしい元気な返事をする九々等に、家入は医務室のベッドに並んだ複数の患者を指さしながら言う。

 

「忙しいんだけど、見て分からない?」

「それはマジすんません……!」

 

 しかも患者は全員、数時間前に九々等にぶっ飛ばされた「総監部直属護衛隊」の術師なので彼女の多忙は九々等のせいなのだった。

 そんなこと露も知らない(ベッドで倒れてるのが自分がぶっ飛ばした相手だと気付いてない)九々等は顔を上げる。

 

「でも、丁度いいかもとも思っちゃって」

「?」

 

 そして彼は再び頭を下げた。今度は礼でも謝罪でもなくお願いをするために。

 

「オレも家入先生みたいに反転術式を他人に使えるようになりたいんです! 習得した暁には治療手伝うんで、やり方教えてください!」

「無理」

「あれぇ!?」

 

 がく、と九々等がずっこけた。

 そんな彼に家入は言う。

 

「私、才能あるから出来るだけで人に教えられないし。それに」

「それに?」

「君は五条――出来なかった奴に似てる。そいつは天才で最強だけど反転術式のアウトプットは習得出来なかった。だから多分、君にも出来ないんじゃないかな」

「そっすか……そっかぁ」

 

 九々等は残念そうだったが、しかし数秒で持ち直したようだった。立ち上がり再び頭を深々と下げる。

 

「帰ります! すんません、ありがとうございました!」

 

 それを無言で手を振って見送った家入は、患者に向き直ろうとして……。

 

「あ、忘れてた! 来栖ちゃんの病室知りませんか!?」

「……」

 

 慌ただしい奴だな、と質問に応えながら思いつつ、家入は彼が去った後新しい煙草を咥えて火をつけるのだった。

 

 

 

【来栖華/天使】

 

 高専内、来栖(くるす)(はな)の病室。

 そこを果物を持って見舞いに訪れた九々等は、彼女が座るベッドの横の椅子に座って、開口一番に謝罪した。

 

「ごめんね」

 

 唐突な言葉に、視線を動かさないまま来栖は問う。

 

「……それは、どういう?」

「色々。来栖ちゃんには、恵くんを助けられなかった事と、大怪我してたのに放置しちゃった事。天使には、宿儺を殺せなかった事」

 

 来栖に、九々等の方に顔を向ける気力は無かった。その代わりというように、彼女の頬に口が出現する。現れた口、『天使』は主の代わりに言葉を返す。

 

『私個人への謝罪は不要だ。宿儺(だてん)を祓えなかったのは私も同じ。そんな私に君を責める権利はない。あるのはただ、奴が私の想定を上回る程の怪物だったという事実だけだ』

「……そっか」

 

 それきり、病室を重い沈黙が支配した。

 

「……」

 

 来栖の傷は天使と家入の反転術式によって完治している。そんな彼女が今も病室のベッドの上に居るのは、経過観察の為でもあるが、彼女の精神状態を加味してでもあった。想い人が立たされた苦境を思えば、その心情も自ずと知れる。

 そんな沈黙を守る来栖を元気づけるため、九々等は明るい声を出した。

 

「オレが言うのもなんだけど、きっと大丈夫! 虎杖たちが恵くんを助ける方法を探してる! 天使が居れば『五条悟』が復活する! オレたちはまだ負けてない、暗い顔するには早すぎるってヤツじゃね?」

「……」

 

 彼の励ますような態度に、来栖は顔を動かせず。

 それでも心が動いた証に、小さく口を開く。

 

「どうして……」

 

 その問いの意味は明らかではなかったが、九々等はやはり明るく返す。

 

「オレは他人の色恋沙汰大好きだからね。恵くんが復活して最初に見る来栖ちゃんの顔が、最高の笑顔であって欲しいだけ。それまでに笑い方忘れちゃったら大変だろ?」

 

 ようやく少し頬を赤らめ九々等の方を見た来栖に、九々等は悪戯っぽい笑顔を返す。

 九々等が去った後、病室に残った果物の匂いは、沈黙の色を少しだけ変えたような気がした。

 

 

 

【禪院真希&乙骨憂太】

 

 来栖の病室を去ってすぐ。

 九々等は廊下の先から歩いてくるその姿を確認し、手を振りながら声を上げる。

 

「あ、真希(まき)さーん! オレの千切れた手と脚探してきてくれてありがとう……ってお礼言いたかったんだけど……」

 

 そこで彼の言葉はすぼんだ。火傷を負った美女・禪院真希の隣にもう1人、見知った顔が居たからだ。

 彼女と一緒に歩いていたのは、白い制服の特級術師・乙骨(おっこつ)憂太(ゆうた)

 

「お邪魔でしたかねぇ?」

「? 何のだ?」

「九々等さん!」

 

 気付かない真希と対照的に乙骨が非難めいた声を出せば、九々等はすぐ茶化しモードを引っ込めた。相手が本気で嫌がってるかどうか、九々等はその辺り敏感だった。

 

「ナンデモナイデスヨ~。それより、マジでありがとね。お陰でこの通り、手も足も繋がりました」

 

 完治した右手・右脚を揺らせば、真希は少し意外そうな声を出す。

 

「意外と律儀なのな」

「流石に命の恩人には顔見てお礼言わないとね! 家入先生のとこに運んでもらえなかったら死んでたし、オレ」

 

 九々等の見た目は金髪の長髪でチャラく、態度も基本おちゃらけているため一見恩義を大事にするタイプには見えない。ただ彼は大事にしないといけないことは弁えているタイプだった。

 そんな彼に触発されたか、真希は頭を掻きながら言う。

 

「……命を救われたってんなら、私らもだ」

「?」

「おかっぱの術師に凍らされた時、私たちは宿儺(アイツ)の気分次第で死んでたかもしれねえ。それを妨害して、撤退まで追い込んだのはアンタだろ」

「……そうなん、かな? 見逃されただけなような気もするけど」

 

 九々等はあんまりしっくり来なかったが、真希の気持ちを軽くするためとりあえず明るく受け入れた。

 

「じゃあここは相互ありがとうってことで!」

「そうだな。あの時は助かった」

「ありがどういたしまして!」

 

 ここで九々等は乙骨にこっそりウインク。これ以上お邪魔はしないぜ、という彼のアイコンタクトを、乙骨は困り顔で読み取ってしまう。

 別れ際、九々等は思い出したように問う。

 

「そうだ。虎杖何処に居るか知らない?」

「知らねえ。分かるか?」

「いや、僕も……」

「そっか。まあその辺探してみるわー。じゃあねー!」

 

 彼が去った後、なんだかさっきよりもぎこちなく笑う乙骨に真希はハテナマークを浮かべるのだった。

 

 

 

【パンダ&狗巻棘】

 

 2階廊下にて。九々等は「それ」を目撃した。

 

「パ、パンダが! ちっさいパンダが歩いてるううううううう!?」

 

 パンダが歩いているのである。九々等は咄嗟に歩いているミニパンダを確保、脇を掴んで持ち上げながらパニックになる。

 

「ど、どどどどどうする!? 上野動物園に連絡か!? いやもしかして高専のペットなのか!?」

 

 と、ここで彼の手の中のパンダが口を開く。

 

「悪いが、上野は勘弁してくれ」

「ぎゃあああああああ! パンダが喋ったああああああ!!」

「まあそうなるよな……(俺を知らないってことは高専の外の術師か?)」

 

 一見パンダに見える彼は故・夜蛾正道が作成した突然変異呪骸――つまりパンダはパンダじゃない。

 だがそれを知らない九々等は喋るパンダにパニックを深める。

 喋るミニパンダを抱えて騒ぐ髪の長い男(18)――そんなカオスな状況に一筋の光が差す。

 

「高菜」

「うん?」

 

 パンダのクラスメイト、狗巻(いぬまき)(とげ)が助け舟を出すため訪れたのだ。

 パンダは一瞬だけ「助かった」という顔をして……すぐに希望は絶望に変わった。なぜなら。

 

「しゃけ。おかか」

 

 狗巻棘。彼は呪言師のため、会話に使える語彙がおにぎりの具しかないのだ。訓練されたものなら彼の思いを具から読み取れるが、初対面ならそれはほぼ確実に不可能。

 もはや収拾がつかなくなるのは必然とパンダが諦めかけたそのとき。

 不意に九々等が叫んだ。

 

「……ライオン!」

「すじこ!?」

 

 何故か九々等の語彙も吹き飛んでいた。

 彼はパンダを抱えたまま狗巻と向き合い、続けて叫ぶ。

 

「キリン! サイ! コアラ!」

「明太子、こんぶ!」

 

 すかさず返ってくる具に、九々等は一瞬言葉を詰まらせる。

 

「あ、えー……ハダカデバネズミ!」

「ツナマヨ!」

「ぐぬ……あ、はい! トラ! サーベルタイガー!」

 

 なんか早押しクイズみたいになってた。どちらかというとルールを知らない者同士がするしりとりか。

 しばらく動物と具を戦わせた両者は、示し合わせたようにがしっと固く手を握り笑い合う。

 

「やるな、心の友よ……!」

「しゃけ……!」

 

 2人の頬を爽やかな汗が彩る。それは正に青春の輝き、強敵(ライバル)との友情の証であった。

 

「次会った時は負けないからなー!」

 

 そうして、九々等はパンダを置いて満足げにその場を後にした。

 残されたパンダは隣の狗巻に問う。

 

「棘……今の奴知り合いか?」

「おかか」

 

 狗巻は首を横に振る。

 

「そうか……人間には色んな奴が居るんだな……」

「ツナツナ」

 

 狗巻曰く普通に初対面らしい2人のやりとりを思い返し、パンダは遠い目で呟いた。

 

 

 

【鹿紫雲一&秤金次&星綺羅羅】

 

 パンダたちと別れて少しした頃。

 虎杖の場所が未だに分からない九々等は、壁に寄りかかって腕を組んだ一人の男を発見した。

 

「(高専の術師の人かな?)」

 

 白い服に独特な髪色と髪型。その全身を包む強い呪力。

 パッと見で刺々しい雰囲気を放つ彼が高専所属の術師だと当たりを付け、恐れを知らぬ男・九々等八壱は話しかける。

 

「すんませーん。虎杖って奴が何処に居るか知りませんかー」

「あん?」

 

 ぎろり、とその目だけが九々等を威嚇するように射る。

 

「知らねぇよ。どっか行け……いや、ちょっと待て」

「はい」

 

 言われた通り止まった九々等に。

 男、鹿紫雲(かしも)(はじめ)の蹴りが炸裂した。

 

「!」

 

 顔面目掛けた不意打ちを腕でガードした九々等。

 その様子――動き、呪力の流れ、ダメージの少なさで彼の力量を察した鹿紫雲は獰猛に笑い、建物の外を指しながら言う。

 

「表出ろ。()るぞ」

「はい?」

 

 ここまで九々等にしてみれば意味不明。

 だが彼は九々等八壱。一歩間違えればヤンキー街道まっしぐらだった男。

 

「よく分からんけども、喧嘩売ってんなら――」

 

 彼が呪力を高ぶらせて答えようとしたときだった。

 

 鹿紫雲の頭を、突如現れた強面の男がぶん殴った。

 

「『表出ろ』じゃねぇよ。何知らん奴に喧嘩吹っ掛けてんだ馬鹿」

「チッ……高専の術師じゃねえなら良いだろ」

「良い訳ねえだろ戦闘狂」

 

 そのまま鹿紫雲を羽交い締めにしてどこかに連れていく強面の男。

 状況について行けない九々等に助け舟を出したのは、派手な格好をした男の仲間。

 

「ゴメンね。彼、ウチの協力者なんだけど……ちょっと戦闘狂で」

「いやまあ大丈夫っすけど……あ、オレ九々等八壱。お姉さん、虎杖って奴が何処に居るか知りません?」

()っちゃんね。あれ、でも九々等ってどっかで聴いたような……。あ、私は(ほし)綺羅羅(きらら)。悠ちゃんの場所は心当たりないから、(きん)ちゃんに聞いていい?」

「あ、はい」

 

 綺羅羅が離れた場所で鹿紫雲を押さえている強面の男、金ちゃんこと(はかり)金次(きんじ)に大きい声で訊くと、彼も大きめの声で返す。

 

「虎杖なら一階のホールで見たぞ。何の用か知らねえけど、俺がコイツ抑えてる間に行って来い」

「あざす! 綺羅羅さん、金ちゃんさん!」

「秤金次だ!」

「あざす秤さん!」

 

 そのまま九々等は1階ホールに向かって小走りで移動を開始した。

 背中に感じる鹿紫雲の殺気混じりの視線に、努めて気付かないフリをして。

 

 

 

【冥冥&憂憂】

 

 1階に下りる階段前で、九々等はその女性と鉢合った。

 

「おや」

 

 彼女は髪を持ち上げて目を露出させ、九々等の顔をハッキリと見る。

 

「九々等八壱くん、だね?」

「! お姉さんも追手っすか?」

「いや。私はそんな損失の大きい選択をする程馬鹿じゃないよ。総監部のご老人たちと違ってね」

「はぁ……」

 

 九々等が戸惑っていると、彼女の隣に居た少年が声を上げる。

 

「姉さまが敵ではないと言ったのです、警戒するのは失礼ですよ九々等八壱!」

「こら憂憂(ういうい)。彼が困っているだろう?」

「すみません姉さま!」

「すまないね。この子は憂憂、私は冥冥(めいめい)。名前を憶えてくれると嬉しいな」

「は、はぁ……」

 

 またしてもあんまり付いていけてない九々等に、冥冥は唐突かもしれないけど、と前置きして問う。

 

「九々等くん。命の価値、命の重さは何に比例すると思う?」

 

 すると九々等は動揺を消し、怪訝な顔で即答する。

 

「? 命に重いも軽いも無いでしょ」

「(……驚いた。誤魔化しじゃない、本気だね。本気で命の価値に貴賤を感じていない……いや、『疑っていない』というのが正しいかな)」

「何、トロッコ問題ってヤツ? 申し訳ないすけど、オレそういうの嫌いなんすよね。頭痛くなっちゃうから」

 

 冥冥はその答えに笑って、頭を下げずに軽く謝る。

 

「ごめんね。君には少し意地悪な問いだったみたいだ」

「いや、オレがバカなだけなんで謝られると気まずいというか……」

「姉さまの謝罪です! 素直に受け取りなさい」

「ええ……そういう崇拝の仕方あるんだ……」

 

 「値踏み」を終わらせた冥冥は、九々等の方に手を伸ばす。友好の握手をするために。

 

「フフ、面白そうだ。仲良くしようね」

「(よく分かんないけど) うっす!」

 

 美人だからヨシ! と何も考えずその手を取った九々等は知らない。目の前の女性がとんでもない守銭奴で、「用益潜在力」の高そうな九々等と友好的な関係を築きたいだけだという事を。

 そのまま彼女たちと別れた九々等を、窓の外から真っ黒な烏が見つめていた。

 

 

 

【脹相】

 

 1階廊下にて。

 薄暗い廊下で、九々等は唐突に黒髪の男に話しかけられた。

 

「九々等八壱。悠仁が世話になったな」

「うん、どういたしまして……で、アナタ誰?」

「俺は悠仁の兄だ」

「へぇ! あいつ兄弟居たのか!」

「ああ。悠仁は俺たち10人兄弟の末っ子だ」

「マジかよ! 大家族じゃん! 全然知らんかったぜ!」

「悠仁はシャイだからな。俺たちのことを言い出しづらかったのかもしれん」

「水臭い奴だなーもう。そんで、お兄さんの名前は?」

 

 九々等が問うと……黒髪の男は一瞬固まった。そして少し顔を寄せて言う。

 

「……もう一回言ってくれないか」

「? 虎杖悠仁のお兄さん、名前なんて言うんすか?」

「――、ふぅ。脹相(ちょうそう)だ」

「虎杖脹相さんね、オレは九々等八壱! よろしくっす!」

 

 殆ど表情を変えず「兄認定」に感動する脹相、そんな彼の内心を読み取れる筈も無い初対面の九々等。

 そんな脹相に、九々等は問う。

 

「あ、お兄さん。オレ虎杖探してたんだけど……折角だから虎杖の幼少期のエピソードとか教えてよ! 本人が嫌がりそうなら別に良いけどさ」

「!」

 

 ――突如脹相の脳内に溢れ出した、()()()()()()()

 

「いいだろう。座れ九々等八壱」

「うっす」

「少し長くなるぞ。そう、あれは悠仁がまだこのくらいの背丈だった頃……」

 

 廊下端のベンチに座らせ、脹相は存在しない記憶を延々と語る。

 それに相槌を打ったり笑ったりして耳を傾ける聞き上手の九々等も相まって、脹相の捏造☆虎杖メモリーズ~幼少期編~の語りは一時間にも及んだのだった。

 

 

 

【虎杖悠仁】

 

 1階ホールにて。

 そこに居た虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)を見つけた、2階の吹き抜けから顔を出した九々等は叫ぶ。

 

「あ、虎杖ー! おまえ昔おんぶ中のお兄ちゃんの背中で寝落ちしておねしょしちまったって本当!?」

「はああぁ? なんだそれ……あ、脹相だな!? 絶対アイツだろ! くそ、アイツのこと説明するの忘れてたー!」

 

 ガラスの柵を飛び越えてホールに着地した九々等に、虎杖は駆け寄りその肩をがっしりと掴む。

 

「いいか頼むから聞け九々等。おまえが聞いた話は全部ソイツの捏造だ」

「? おまえの兄ちゃんそんなタイプには見えなかったけど」

「そもそもアイツは兄じゃなくて……ああめんどくせー!」

 

 どう説明したものか頭を抱える虎杖。

 そんな虎杖の肩にぽんと手を置き、九々等は優しく言う。

 

「なんか複雑な事情があるっぽいけど。あの人はおまえの良い兄で居ようとしてる。なら後は弟のおまえが受け入れるだけ……そうなんじゃないのか?」

「だ・か・ら、兄弟じゃないの! 俺は1人っ子で、アイツは寝返った呪物の受肉体!」

「……? 血が繋がってないってこと? でもほら、最近はそういうのも珍しくないっていうか……」

「だあああもうダメだ! 分かった、もう良いから黙ってくれ九々等!」

 

 虎杖は諦めた。何があったかは知らないが、コイツは完全に脹相に洗脳されている……そう確信した。

 溜息を吐き、虎杖は話題を切り替える。

 

「まさかそれだけ訊きに来た訳じゃ無いだろ?」

「……あ、そうだった! お礼を言いたかったんだよね」

 

 九々等は右手・右脚をアピールしながら言う。

 

「手も脚もくっついて完全復活だ。高専連れてきてくれてありがとうな、虎杖」

「……そっか」

「そんだけ!? もっとこう、良いリアクションしてくれよ! 寂しいぜ」

「うるせえよ」

 

 眉を下げながらも笑った虎杖。彼の肩を組み、九々等は思うまま騒ぎ出す。

 その騒がしさが少しだけ、ほんの少しだけ1人になった虎杖の救いになった。

 

 

 

【伊地知潔高】

 

 そんなこんなで「恩人にお礼を言う」というミッションを達成した九々等が、良い感じの潜伏場所を探している時だった。

 

「すみません。九々等八壱さん、です、よね……?」

「? ハイ」

 

 黒いスーツを着た一見サラリーマンのような人物が、彼に話しかけて来た。冷や汗を垂れ流すビビり顔で。

 

「私は呪術高専補助監督の伊地知(いじち)と言います。九々等さんはその、今現在において『不法侵入者』と見做されておりまして……」

「……まあそうっすよねー。オレ、手続き的なのした憶えないし。てか偉い人ぶん殴っちゃったし、なんなら死刑だし……」

 

 冷や汗を流すのは九々等も同じだった。

 

「その件で、九々等さんの報告書を上に提出したく……それが叶った暁には、九々等さんが高専に駐留する許可が得られる筈ですので、その、どうかお話を……」

「!」

 

 その言葉に、九々等は努めて元気にはきはきと自己PRを始める。

 

「了解、何でも答えます! 九々等八壱、18歳! 漆門寺高校3年生、好きな食べ物は唐揚げと白米! 部活はサッカー部をやってました……あとあれ、潤滑油できます自分!」

 

 その様子に、伊地知さんは少し動揺しながら。

 

「あの、面接とかではないので肩の力を抜いて貰っていいですよ……?」

「あ、うっす!」

 

 照れ照れ、と頭を掻く九々等。思わず受験のための面接練習の成果が出てしまった。

 そんな彼の人間味に少し恐怖心を拭われた伊地知は、先程よりも柔らかい表情で問う。

 

「それでは、まずは呪術を知った経緯からお願いできれば――」

 

 その後作成された報告書は、しかし総監部に提出されることは無かった。

 その前に、五条悟が高専に帰還したからである。

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