9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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【高専if√】2017年交流会

九々等に元から術師としての才能があって高専に行った場合のif√

九々等は現在高校3年生なので同期は秤・綺羅羅の3年組

 

 乙骨特級

 東堂1級

 九々等・秤準1級(昇級査定中)

 綺羅羅準2級(昇級査定中)

 

 九々等は反転術式・極ノ番・領域展開未収得、その代わり式神術・呪具などスキルツリーがバランスよく伸びてる

 

 こんなイメージでやって〼

 

 

 乙骨の暴走を東堂と一緒に止める√です

 


 

 

 パチューン、ギュイギュイ、ピュンピュンピュン、ジャラララララ。

 閃光、騒音、人の熱気。

 目と耳を、魂を突き刺す刺激が氾濫する「その場所」で、ひとりの少年が声を上げた。

 

「来たぞ(はかり)! 『交流会』の季節が!」

 

 ぴょん、と尾のような長い金髪が揺れる。後ろでひとつに括られた髪を揺らしながら、高専の制服を着た少年、九々等(くくら)八壱(やいち)は騒音に負けないよう叫ぶ。

 

「京都の姉妹校とバチバチの熱い呪術バトルを繰り広げ、仲を深め、共に呪霊に立ち向かう『仲間』になる! 去年はまだ1年で参加出来なかった分、その『熱』を今年にぶつける! 最高にワクワクするぜ、ワクワクするよな秤!」

 

 その言葉に対して、話しかけられた相手、(はかり)金次(きんじ)が何かを言うよりも先に、キュインキュイン!! と彼の前の台が派手な音を鳴らして光り始めた。

 その眩い光の点滅を顔に浴びながら、秤は九々等と対照的なローテンションで言う。

 

「しねーよ馬鹿。帰れ、今確変中だ」

 

 ここは東京にあるとあるパチンコ店の店内。

 ()()()()()()()台の前に座り賭けに興じる秤、その横の椅子に座りつつも台を操作する様子はなく、秤の方を向いて言葉を連ねる九々等。

 

 両者は何処までも対照的だった。

 ガタイが良く威圧感のある秤と、細身で人当たり良さげに笑う九々等。

 癖のある黒髪で強面の秤と、長い金髪を後ろで纏めた美形の九々等。

 

 高専の制服――どう見ても学生服な黒い服を着た少年たちは、周囲の視線を集めつつも気にせず会話を続ける。

 

「秤~、もちろんオマエは交流会出るよな? 『熱は熱いうちに』だもんな? オレと一緒に熱いバトルを繰り広げるよな!?」

「くだらねぇ。そもそも交流会なんか伝統って銘打たれただけの惰性行事、保守派の取り仕切ってる時代遅れのイベントだろうが。熱くなれる要素皆無、俺はフケるぜ」

 

 やはり鏡合わせのように、交流会に乗り気な九々等とそうではない秤。

 そんな秤の答えをその性格から予想していたのか、九々等は台の影に隠れていた人物を呼び寄せる。

 

「そう言うと思いまして。この方をお呼びしております」

「じゃーん、呪術界イチのGT(グレートティーチャー)、皆の五条(ごじょう)先生でーっす!」

 

 おちゃらけた声と共に現れたのは、サングラスをかけた白髪長身の男――現代最強の呪術師にして、高専にて九々等・秤たちの担任を務めている教師・五条(ごじょう)(さとる)

 その登場に、秤の表情は確変中とは思えない程歪んだ。

 

「金次~、君、ホントに交流会出ないつもり?」

「……チッ。アンタが出ろっつうんなら出るよ。それが保守派連中の御機嫌取りイベントだろうがな」

「いやいや、交流会はそんなお堅いもんじゃない、君たち若人の為のイベントだ。普段絡まないといっても、京都校の生徒も同じ呪術師。彼等との交流は良い刺激になるハズだ。それに結果次第では、誰も君の昇級に文句は言えなくなるしね」

 

 五条の言葉に九々等も追従する。

 

「そうそう。それに、『学生時代の不完全燃焼感は死ぬまで尾を引くもの』なんだぜ秤!」

「オマエは黙れ九々等。それ、どっかのアイドルの受け売りだろ。偉人の格言みたいに言うんじゃねえ」

「私も金ちゃんと交流会出たーい!」

「げ、綺羅羅(きらら)まで連れて来やがったのかよ」

「『げ』は無いでしょ金ちゃん!」

 

 いつの間にか(ほし)綺羅羅(きらら)も秤の首元に背中から抱き着いており、気付けば現高専2年組が全員集合していた。

 1対3となった圧倒的不利な状況の中、秤は「でもよ」と反論する。

 

「人数が足りねぇだろ。今、3年は揃って呪霊の呪いで療養中。人数不足で今年は不参加になるんじゃねぇのか?」

 

 交流会は2・3年が主体のイベント。だが東京校の3年生は全員厄介な呪霊の呪いを受けてダウンしており、交流会に行ける人員は2年生の3人のみ。対してあちらは2年生が3人、3年生が3人居るという。

 流石に倍の人数差では交流会が成り立たないのでは、という秤の意見は。

 

「あ、そこは問題なし。1年から助っ人を連れていくからね」

 

 五条が即座に否定した。

 

「助っ人? ……あ! まさか!」

 

 綺羅羅がいち早く「助っ人」の正体に勘付き、九々等・秤も遅れて同じ人物の名を思い浮かべる。

 それを肯定するように、五条はその端正な顔で悪戯っぽく笑った。

 

「なにせ彼は『特級』だ。もしかしたら君たちよりも強いかもよ?」

 

 呪術界に3人しかいなかった『特級術師』――単独での国家転覆が可能な呪術師。その4人目となった、突如として現れた新星にして特級被呪者。

 

 ――乙骨(おっこつ)憂太(ゆうた)

 

 それが、五条が推した『最強の助っ人』の名前だった。

 

 

 

■if■

 

 

 

 窓の外では、見慣れた東京の街並みが後ろに流れていく。

 東京と京都を繋ぐ新幹線の中、乙骨(おっこつ)憂太(ゆうた)はその景色を不安げに眺めていた。

 

 そんな彼に対し、隣に座った金髪の男が話しかけてくる。

 

「どしたの乙骨くん、窓の外ばっか見て。もしかして緊張してる?」

 

 長い金髪を後ろでひとつに括り、それを尾のように揺らす青年――1年生である己のひとつ先輩、呪術高専東京校2年生の九々等(くくら)八壱(やいち)先輩。

 その軽薄そうな外見と言葉に苦手意識を感じつつも、乙骨はなんとか相槌を返す。

 

「は、はい……」

「まあ1年生でいきなり交流会だもんね。でも大丈夫、多分死にはしないから気楽に行こう!」

「(今『多分』って言わなかった!?)」

 

 ますます委縮する乙骨。彼が落ち着かない理由のひとつは、やはり同行する2年生の存在だった。

 金に染めた長髪、事あるごとに騒がしい九々等八壱。

 威圧感のあるガタイに人相の悪い秤金次。

 色んな意味で触れづらい星綺羅羅。

 正直に言って、乙骨のキャパを容易に超える3人組だった。同級生の真希・棘も最初は少しとっつき辛かったが、こっちはそれ以上だ。無下限呪術で五条が先に京都校に向かったことも乙骨の不安と疎外感を煽る。

 

 京都に向かう新幹線の中、乙骨の頭の中で何度も同じ言葉が巡る。

 

『2年生の先輩は君にも劣らない才能揃いだ。中でも八壱(やいち)は人見知りしないタイプだし、何かあったら頼っていいと思うよ?』

 

 それを裏付けるように、九々等は隣の乙骨に30分間留まることなく話しかけていた。

 

「ねえ乙骨くん、特級て報酬一杯貰えたりするの?」

「白い制服カッコイイなー。それリクエストしたの? オレも黒じゃない服頼もうかな」

「乙骨くん、酔ってない? なんか口数少ないけど」

「あ、見て乙骨くん。富士山! おまえらも見たか!?」「うるせえな。なんでオマエは富士山ひとつでそんな騒げんだよ」「えー、良いじゃん生富士山!」

 

 やはり「騒がしい人だ」という印象は膨らんでいく。

 でも、と乙骨は考える。

 彼は恐らく、此方に気を遣ってくれている。絶えず言葉を振り沈黙を遠ざけることで、賑やかに場を保っている。

 それは「優しさ」だ。

 ぎゅ、と乙骨は膝の上で拳を握り、ゆっくりと口を開いた。不安を吐露するために。

 

「その、僕は里香ちゃんに呪われてて……」

「ゴジョセンから聞いてるよ。めっちゃ強いんだって? 良い事じゃん!」

 

 九々等の楽観的な言葉を、乙骨はすぐに否定する。

 

「ち、違うんです。もし里香ちゃんが次()()()出て来てしまったら……僕と五条先生は死刑だって。交流会でもしそうなったらと思うと……」

 

 交流会。普通は2年と3年しか出れない特別な行事。仲間も居ない中、何が理由で出てくるか分からない里香を制御しきれるのか……それが乙骨の心中の大部分を占める不安だった。

 そんな弱音に……しかし九々等は笑顔で返す。

 

「大丈夫大丈夫、五条先生最強だから。自分と生徒が死刑になったら総監部吹っ飛ばしてでも助けてくれるさ」

「え……」

「それに」

 

 ここで、九々等は己の胸を叩いた。乙骨の目を真っ直ぐ見ながら。

 

「オレも秤たちも居る。もし『里香ちゃん』が出そうになったときは、オレたち先輩に任せなさい!」

「おい、勝手に人を巻き込むな。そんな危険なこと、俺は御免だぜ」

「あ、大丈夫だよ(ゆう)ちゃん。今はこう言ってるけど、金ちゃんはイザという時絶対助けてくれるから」

「そうそう! 秤はちょっと(ヒネ)てるけど、根っこはヒーロー体質だからなー」

「……表出ろ九々等。テメエは泣かす」

「新幹線の中ですケド!? 京都までマラソンする気かおまえ!」

 

 ぎゃいぎゃいと己を置いて騒ぎ出した2年生を前に……しかし乙骨は不安が軽くなっていくのを感じていた。

 この人たちは……楽観的なだけでも、怖いだけでも、派手なだけでもない。頼れる高専の「先輩」なのだ。そう心で理解した乙骨は、この旅で初めて小さな笑顔を返した。

 

「よ、よろしくお願い、します。九々等先輩、秤先輩、星先輩」

「こちらこそよろしく!」

「……」

「綺羅羅で良いよ! よろしくね(ゆう)ちゃん!」

 

 そうして一行を乗せた新幹線は、京都の地へと到着した。

 

 

 

■if■

 

 

 

 京都校で開催される交流会。

 1日目、団体戦のルールは『チキチキ・呪符ダブルタッチレース』。

 参加者はそれぞれ、事前に配られた呪符1枚を体のどこかに張り付ける。これは事前に登録された自身・味方以外の呪力で2回触れられると変色する特殊な呪符で、これが変色した生徒は即退場となる。要は相手の呪符を狙えば効果的に妨害が出来るという訳だ。

 そして気になる勝利条件。戦闘区域の森の中には、高専側が用意したプロの術師が1人隠れている。その術師も生徒と同じように体のどこかに呪符を張り付けており、それを2回触り変色させた方のチームが勝ち。

 

 乙骨の参加により急遽用意された『呪符ルール』は、生徒の死亡事故を可能な限り減らすための試みだ。攻撃力の高い術式を持つ生徒の殺傷力を抑え、呪符を守り切れない戦闘力の低い生徒を早めに退場させることが出来る……そして格上相手でも術式・連携を駆使すれば勝利を収められるルール。

 

『それでは姉妹校交流会、スタート!』

 

 アナウンスによって団体戦が開始した。

 まず東京校の4人――九々等、秤、綺羅羅、乙骨はスタート地点で立ち止まって作戦会議をする。

 

()っちゃん、目標の術師の場所、分かる?」

「……いや、ダメだ。知らん呪力が沢山ある。エリアに放たれた呪霊と、対戦相手の京都校の生徒のだと思うけど……オレの索敵は基本『知ってる呪力を探す』ってヤツだから、この段階で誰かも分からない目標を探すのは無理だなー」

 

 九々等の、いや2年生組の術式を知らない乙骨を置いて会議は進む。

 こういう時仕切り役になる事が多い秤が、いつものように作戦を提案する。

 

「二手に別れるぞ。相手が来る方向なら大体分かる。俺、綺羅羅はそっち方向に向かって相手の妨害。その隙に九々等と乙骨で目標の捜索・確保だ」

「お、やる気じゃん秤。あんなに参加を渋ってたのに。熱くなっちゃった?」

「……良いからさっさと行け。負けたら1週間飯奢りな」

「オッケー、任せとけって!」

 

 九々等は言われた通り、乙骨を連れて森の中に消える。

 その姿を見送った綺羅羅は、ふと低めの声を出した。

 

「金ちゃん。もしかして、(てい)よく八っちゃん・憂ちゃんを遠ざけてサボるつもりじゃないよね? もしそうだったら殴るけど。グーで」

 

 びく、とその場にしゃがみこんでいた秤の方が跳ねる。彼に刺さるじっとりした視線。

 

「……チッ。分かった、真面目にやりゃいいんだろ」

 

 仕方ない、と秤は立ち上がり、京都校の生徒が来るだろう方角に歩を進める。

 

「それに……五条さんの評判、上げれるなら上げてやりてえしな」

「! よーし、私も全力で手伝うよ金ちゃん!」

 

 

 

■if■

 

 

 

 森の中、九々等が触れた呪符が変色し、悔しげな声と共に術師が倒れる。

 

「ほいっと。これで2人脱落だね」

 

 作戦会議から10分ほど。

 九々等・乙骨組は、妨害の為襲い掛かって来た京都校の3年生を返り討ちにしていた。

 その戦闘で見せた九々等の動きを思い返し、乙骨はごくりと喉を鳴らす。

 

「(この人……強い! スピードは真希さん以上、力も多分パンダくんより上……)」

 

 共闘によって相手の力量を認めたのは乙骨だけではなく。

 

「『里香ちゃん』無しでも全然動けるじゃん乙骨くん。流石特級。守ってやらないとと思ってたけど、これはオレが守られる側かな?」

「い、いえ。そんな……」

 

 乙骨の謙遜を受け流しながら、九々等は木々に覆われた空を見る。

 秤たちの妨害をすり抜けて九々等たちが襲われたのは、その空に理由があった。

 

「しっかし、あっちに飛行術式持ちが居たとはね。これじゃこっちの動きは筒抜けだ。探索より妨害を優先して動いた方が良さそうかな?」

 

 京都校現2年、西宮(にしみや)(もも)。彼女は箒に乗って飛行する事ができ、索敵力に非常に長けた存在だった。

 そんな彼女への対処にあんまり出来の良くない頭を悩ませる九々等に、乙骨は先の会議を思い出しながら発言する。

 

「……あの。九々等先輩も索敵ができるんじゃないんですか?」

「あー、オレのは単純な呪力感知の強化だからね。こうも広い場所で、それも複数の呪力があるとなると大して役には――」

 

 そう言って頬を掻いた九々等は、急に口を閉じて身構えた。

 

「――乙骨くん。気を付けて」

「?」

「2時の方角から、かなり強そうな奴が来た」

 

 果たして、乙骨もすぐにその呪力を、物音を、姿を確認する。

 がさり、と木々を掻き分け現れたのは――顔に大きな傷のある、上半身裸の男。その肉体は秤を超えるほどガタイが良く、太く硬い筋肉で覆われている。何より、その呪力。威圧感は正真正銘1級術師のそれだ。

 

 その姿に、九々等の脳裏に思い当たる名前があった。

 京都校の最高戦力、2年生にして1級術師となった怪物。

 

「……君、東堂(とうどう)(あおい)くん? 天才って有名だぜ」

 

 それを否定しないことで肯定した男、東堂は、すぐさま九々等に問い返す。

 

「そういうオマエは乙骨か?」

「いや、乙骨くんはこっちの彼。何、文通でもしてた?」

 

 ぶんぶんと首を振る乙骨。

 そんな乙骨の姿を見て……東堂は不敵に笑いながらその問いを口にする。

 

「乙骨。どんな女がタイプだ?」

 

 その余りにも堂々とした問いを受け……沈黙が場を支配した。まあ順当だった。

 乙骨の喉から困惑が溢れる。

 

「……はい?」

「ただの品定めだ。早く答えろ乙骨」

 

 この場で唯一動じていない男、東堂の催促にますます困り果てる乙骨。

 そんな彼に救いの手を差し伸べる者が居た。

 

「大丈夫、乙骨くん。ここは先輩に任せなさい」

「! 九々等先輩……!」

 

 助かった、乙骨は素直にそう思った。

 そんな彼を庇うように一歩前に出た九々等は、東堂と真っすぐ目を合わせ、そしてすうと息を吸い込んで。

 

「――九々等八壱、17歳! 好み(タイプ)の芸能人は佐々木(ささき)(のぞむ)とか南川(みなみがわ)景子(けいこ)とか! 年上か年下なら年上派! 胸か尻なら尻派! デニムのパンツが似合いそうな女の子が好きです!」

 

 ――余りにも。余りにも堂々とした宣言であった。

 

 己の性癖を大声で曝した男、否(おとこ)・九々等八壱は笑いながら乙骨の方を振り返りウインク。

 

「(にっ!)」

「(えええええ!? いやそんな『こうやるんだよ』みたいな顔されても……!)」

 

 天国から地獄。乙骨の心情は先にも増して困惑で包まれた。

 そんな彼を置いて話は進む。どうやらここで、東堂は初めて九々等に興味を持ったようだった。

 

「……九々等と言ったな。良い趣味だ」

「だろ! そういうおまえはどうなの?」

「俺は(ケツ)身長(タッパ)のデカい女が好み(タイプ)だ。オマエの流儀で言うなら『好きなアイドルは高田ちゃん』、だな」

「良いね~、俺も知ってるぜ高田ちゃん! カッコカワイイよな!」

 

 一拍間を置き。

 どちらともなく歩み寄り。

 ――がしっ! と固い握手を交わす2人。

 

「九々等……いや、八壱(やいち)。オマエとは友に成れそうだ」

「おいおい、水臭いな。性癖を(さら)しあった今、オレたちもう友達……だろ? (あおい)

「ハッ、違いない。俺としたことが野暮だったな」

 

 そして変なテンションの(バカ)2人は、同時に乙骨の方を振り向く。

 

「(そんな2人して『おまえの番だぞ』みたいな顔で見られても……!)」

 

 乙骨はぎゅうと刀の柄を握る。

 動悸、耳鳴り、過呼吸。ぐるぐると回る頭で、縺れる舌で、なんとか喉から言葉を吐き出す。

 

「……え、えっと。タイプとかは、その、分からないですけど――結婚の約束をした人なら、居ます。居ました」

「ほう」

「へえ!」

 

 注目に足が竦む。

 それでもごくりと唾を飲み込んで、言う。

 

「里香ちゃん……僕を呪ってる女の子が、その子です。小さいころ、結婚しようって約束して……だから、好み(タイプ)の女の子って言えるのは、多分、里香ちゃんくらいで……!」

 

 その答えに。

 九々等は彼の初々しさと幼少より貫いた一途さに、うんうんと満足げに頷き。

 東堂は具体的な人名を出し更にそれが怨霊という度胸に、乙骨をおもしれー男だと認め。

 

 ――そして、()()は歓喜した。乙骨の制止を振り切りその姿を現すほどに。

 

ゆ う 、 た

 

 ずるり、とその体が乙骨の影から溢れ、呪いを振り撒きながら顕現する。

 

憂 太 あ あ ぁ ぁ !!

「!? だ、ダメだ里香ちゃん!」

 

 特級過呪怨霊――呪いの女王・祈本(おりもと)里香(りか)

 その咆哮が、森の中を駆け巡った。

 

 ボシュウ、と東堂の体に付けられていた札が変色した。里香の咆哮に込められていた呪力が、彼が纏っていた呪力のガードを貫通したのだ。

 

 そして京都校全員の呪符に同じような事が起き、全員が脱落となった。

 しかし東京校は、事前に里香の呪力を登録しているため呪符へのダメージはゼロ。

 

「やった、これでオレらの勝ちだ……なんて言える状況じゃないんだろうな、コレ」

 

 肌を刺す膨大な呪力の波動を感じながら、その源である『折本里香』を見ながら九々等は傍らの()に叫ぶ。

 

「葵!」

「みなまで言うな八壱! 俺たちは既に友、オマエが往くなら俺も往くまで!」

「よっしゃ! 背中は任せたぜ!」

「応とも!」

 

 彼の協力を取り付けた九々等は、片手の指2本を立てる掌印を構え素早く呪詞を唱える。

 

闇より()でて穢れを祓え!」

「(呪詞短縮……流石だな友よ!)」

 

 ドプ、と空に闇が溢れ、それが濁流となって周囲を夜で覆っていく。

 『帳』。通常、術師が民間人に呪霊の存在を悟られないように使用する結界術。

 それを九々等は自身を中心に展開した。

 

「これで例え『里香ちゃん』が完全顕現しようと、帳の外にバレる心配は無いぜ」

「帳が破壊されるか、教員たちが中に入って来ない限りはな。というか既に……いや、言わぬが花か」

 

 東堂の視線の先では、『里香』が凄まじい呪力を放ちながら此方を見ていた。その姿は、既に完全顕現しているように見えなくもない。東堂も九々等も完全顕現状態の里香を知らないので何とも言えないが。

 

あ 、 あ あ 、 あ い つ ら 、 ゆ う た を 虐 め た! ぐ ち ゃ ぐ ち ゃ に 、 し て や る !

「待って里香ちゃん、話を聞いて!」

 

 完全に乙骨の制御を離れて暴走する怨霊を前に。

 彼女からロックオンされた九々等八壱と東堂葵は、背を合わせるように並び立つ。

 

「行くぜ葵!」

「任せろ友よ! 俺たち2人で『特級過呪怨霊・祈本(おりもと)里香(りか)』を完全顕現発覚前に(しず)め!」

「乙骨くんを死刑から救う!」

 

 『特級』の位を与えられた呪いの女王に向かって、2人の漢は同時に駆け出した。

 

 

 

■if■

 

 

 

 30分後。

 事態が収束した京都校の校内で、五条悟が軽い口調で問う。

 

「それで、お2人さん。『特級過呪怨霊・祈本里香』は完全顕現しちゃったのかな?」

 

 その問いに、ボロボロの東堂・九々等は即答した。

 

「――いいや、全く」

「――顔しか出て無かったね、オレが見る限り」

 

 その答えににんまりと笑い、五条は後ろを振り向き言う。

 

「なら問題なしだ。でしょ? 学長達」

 

 それを受けた学長2人……東京校学長・夜蛾(やが)正道(まさみち)と京都校学長・楽巌寺(がくがんじ)嘉伸(よしのぶ)は揃って難しい顔をした。

 そんな2人、特に楽巌寺の方に顔を寄せて五条は言う。

 

「保守派の方々にもちゃあんとそう報告して下さいね、楽巌寺学長?」

「……東堂。本当じゃろうな」

「二度言わすな。『折本里香は完全顕現しなかった』。それが()()()()()()()()()事実だ」

 

 『俺たちが勝ち取った』の部分を強調したその言葉に楽巌寺は含みを感じたが、それ以上追及することはなく引き下がった。東堂は一度放った言葉を撤回する人間ではないと分かっていたからだ。

 

 『折本里香は完全顕現しなかった』。

 それが結論となり、場は解散となった。

 

 学長の姿が見えなくなった辺りで、五条は九々等の肩を組み笑う。

 

「ナイスだよ八壱。良く『帳』まで頭が回ったね」

「何のことですか先生(センセー)、ボクは被害が出ると危ないから帳を下ろしただけですよー?」

「クック。誰に似たんだか聡明だね」

「いつもでっかい背中を見てるからですかね?」

「相変わらず口が上手いねぇ」

 

 六眼に頼るまでも無く、九々等と東堂が全身に負った傷から里香が完全顕現したのは五条には明らかだった。それ以外で2人がこれ程のダメージを負うなど考えられない……それ程五条は東堂・九々等の実力を買っていた。

 

「あ、九々等先輩!」

 

 と、ここで乙骨が合流。

 五条に「行っておいで~」と解放された九々等に、駆け寄った乙骨は何かを言おうとして。

 

 ずぅん、と顔を上げた乙骨の前に東堂が仁王立ちしていた。

 ひぃ、と思わず漏れた声が聴こえなかったのか、彼は一方的に言う。

 

「乙骨。明日までとは言わん、来年の交流会までにその呪いを制御出来るようにしておけ。血沸き肉躍る俺たちの戦いはその時に持ち越すぞ」

「え、はい……?」

 

 そのまま東堂は九々等の方を振り向く。

 

八壱(マイフレンド)

「なんだ? 葵」

「明日の個人戦、楽しみにしているぞ」

「こっちこそ! 言っとくけど容赦しねーぞ?」

「フッ、無論だ」

 

 がし、と最後に固い握手をして、東堂は京都校の仲間の方へ去って行った。

 残される九々等と乙骨。

 

「じゃあ、オレらも2人のとこ戻るか」

「あ、あの!」

「?」

 

 乙骨の言葉に足を止め、振り返る九々等。

 そんな彼に、乙骨は頭を下げた。

 

「あ、ありがとうございました! 里香ちゃんのこと……」

 

 心からの感謝に……しかし九々等は頭を掻く。

 

「いや、里香ちゃんが鎮まったのは乙骨くんが声をかけ続けたからだろ? 最終的にオレらは時間稼ぎしかしてないし……」

「……あ、そ、そうですよね。でもその、見捨てないでくれた事が嬉しくて……」

 

 乙骨がそう俯くと……九々等はその肩に手を置いてにっと笑う。

 

「当ったり前だろ、後輩見捨てるバカがどこに居んだよ。先輩は後輩を助けてカッコつける、それが石器時代から決まってるこの世のルールなの」

 

 そのまま彼は、後輩に背中を見せるようにして歩き出した。

 

「行くぜ乙骨くん。交流会は明日も続くんだ、美味いもん食って力を蓄えないとな!」

「! は、はい!」

 

 その背に付いて足を踏み出す乙骨。その頼もしい先輩の背中に、自分が目指すべき理想の姿の一端を見た気がした。

 

 2017年交流会、1日目――東京校の勝利。

 

 

 


おまけ【九々等、東堂とライブに行く】

 

 京都のとあるライブ会場。

 

『はじめまして トキメキに呼ばれて

 どこまでも 飛べるようなJump(ジャンプ)

 君のもとまで~♪』

「「はい! はい! はい!」」

「イエーイ!」

 

 客席にて、ぴょんぴょんと跳ねる尾のような金髪。

 サイリウムを振るファンの群れに混ざってその空気感を楽しむ少年、九々等八壱は、ふと後ろを振り返った。

 そこには後方腕組み彼氏面してる東堂の姿が。

 

「葵は混ざらなくていいのかー!?」

「問題ない。オマエはオマエの楽しみ方を貫け、八壱(マイフレンド)

「分かった!」

 

 ちなみに九々等は、交流会終了後に東堂に連れてこられた身であり、高田ちゃんについての知識・印象は「何回かテレビで見たカッコカワイイアイドル」くらいだ。

 だが九々等はノリノリだった。

 

『飛び出してみようよ 知らない場所まで~♪』

「「たんたかたーん!」」

「(コールってやつか!) たーん!」

 

 歌詞もコールも知らない九々等は、そのセンスで体を揺らす速度を周囲と合わせ、僅かに遅れながらも初見のコールをこなす。才能の無駄遣いが極まっていた。

 

『どんな時も忘れない 世界にひとつの想いを~♪』

「「うおおおおおおお!」」

「イエーイ!」

「……(無言で頷く)」

 

 静と動、厄介ファンと何も知らない陽キャ。

 余りにも場から浮いている2人は、けれどしっかりとライブを楽しんでいた。

 

 

 さて、ライブ後はお楽しみの握手会タイム。

 

「握手会?」

「ああ。オマエの分のチケットは取っておいた。オマエも高田ちゃんの素晴らしさを肌で体感すると良い」

「ふーん。まあおまえが(すす)めるならやっとくか」

「(地道な布教活動。これもファン、未来の夫たる者の務め……!)」

 

 東堂に促されるまま握手会の列に並ぶ九々等。

 雑談をしていると2人の番が来る。

 

「見ていろマイフレンド。手本を見せてやる」

 

 経験者である東堂が先に高田ちゃんの元へ。

 

「あ、東堂くん来てくれたんだー♡」

「フッ、当然」

 

 東堂は高田ちゃんと握手をすると、お決まりのアレをリクエスト。

 

「高たんビーム、お願いします」

「いきますよー♡ たんたかたーん☆」

「わぁ~///」

「お時間でーす」

 

 普段絶対聞けない声を出す巨漢を慣れた手つきで引き剥がす係員。

 九々等の番が来た。

 金髪ポニテ、しかもそれが似合うくらいツラの良い男というバカ目立つ風体に高田ちゃんは少し目を見開く。

 

「始めての人だよね? お名前は?」

 

 そういうの分かんのか、と派手の自覚がない男は驚きつつも溌溂と自己紹介。

 

「じゅ……高専2年、九々等八壱17歳です!」

「どこから来てくれたの?」

「東京から! ライブめっちゃ楽しかったっす!」

「わあ、遠くからありがとね♡」

 

 両手で握手をした九々等はここで東堂がやっていたことを思い出す。

 

「あ、高たんビーム? をひとつ――」

「お時間でーす」

「げ、(みじか)!?」

 

 無慈悲にも引き剝がされる九々等に、高田ちゃんはウインク。

 

「ククラくん、『忘れ物』は次来たときにねー♡」

「! うっす!」

 

 終了後。

 会場の外で、九々等は東堂から短く聞かれる。

 

「どうだった?」

「……」

 

 九々等はしばし沈黙し……そして言う。

 

「何か、こう、そこはかとなくエッチでした……!」

 

 九々等八壱、彼は嘘が吐けない男、否漢である。

 その答えに、ちょっと東堂の目が鋭くなる。

 

「言っておくが、高田ちゃんを(よこしま)な目で見たら――」

「大丈夫、友達(おまえ)の恋路は応援するって! ダチの女に手出すほど馬鹿に見えるか?」

「当然否……だが高田ちゃんの魅力が人を狂わせる可能性は十分にある」

「わお、そこまでマジで惚れてんのなー。茨の道だぜ?」

「無論、承知の上だ」

 

 東堂葵。アイドルと本気で結婚しようとしている男、否(バカ)

 九々等八壱。それを止めようとせず寧ろ応援する男、否ただのバカ。

 

 彼等は夕焼けを背に、どちらともなく歩き出す。

 

「ライブと握手会のチケット奢ってもらったし、飯奢るぜ。この辺で美味いラーメン屋教えろよ」

「ああ。お言葉に甘えるとしよう」

 

 そうして男2人の後ろ姿は、夕暮れの街に消えていった。

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