9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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【高専if√】百鬼夜行/京都編 後編

■if■

 

 

 

 百鬼夜行・京都内中心部。

 術式は持たないが、その巨体と強靭な体躯が何よりも恐ろしい武器となる準2級~2級の呪霊。

 多彩な術式を操り呪術師を翻弄する、血の匂いを纏った準1級~1級の呪霊。

 そして、その中に潜む真なる脅威、未だ(まみ)えぬ特級呪霊。

 

 そこは正に地獄であった。

 百鬼夜行とはよく言ったもの。魑魅魍魎の跳梁跋扈、海千山千の呪術師達が悪戦苦闘の人外魔境。

 人の悲鳴。呪いの断末魔。それらは混ざり合い、より濃い闇に街を沈める。

 死の螺旋。悪の謳歌。誰もが思う、此処が地獄でない筈が無いと。

 

 血で血を洗う程死が溢れる闇。

 そんな闇を祓うように、街の中心で二つの音が同時に弾けた。

 

 パン!!

 それは柏手(かしわで)。邪を遠ざける明朗なる響き。

 

 斬!!

 それは剣閃。闇に一筋の光を刻む銀の流星。

 

 拍手と剣閃。

 それをそれぞれ放った両者は、その音にて互いの存在を把握する。

 

(あおい)!」

「来たか八壱(マイフレンド)!」

 

 ざ、と未知の中心で呪霊を撲殺した東堂の近くに着地し、背中合わせに立つ九々等。

 背中で友の呪力を、そこに込められた闘志を感じながら、東堂葵は満足げに歯を剝き出して笑った。

 

「やはり、捥げたリンゴが地に落ちるが如く! 俺たちは惹かれ合う運命のようだな!」

「応、その友情パワーでこの辺の呪霊一掃するぞ!」

「ああ! 俺たちが揃えば、この百鬼夜行の結末はひとつ――即ち『勝利(ビクトリー)』!!」

「イエイ、ビクトリー!!」

 

 背中合わせの彼等に呪霊が迫る。建物よりも巨大なもの、濁流の如き群れのもの、武器を手にしたものから空中より飛来するものまで。

 

 その悉くを。

 

「邪魔だ!!」

攻撃力、速度:9倍!!」

 

 東堂の徒手空拳と、九々等の剣術が迎え撃ち、粉砕した。

 

 ザフッ、と煙のような消失反応の中、更に奥へと歩み寄る影がふたつ。

 

「俺と八壱の友情の前では、おまえたち程度では役不足だ」

「オレらを殺したいんだったら、特級呪霊か夏油傑本人を連れて来い!!」

 

 鋼の肉体を惜しげもなく晒す東堂葵。

 尾のように揺れる金髪、猛獣のように笑む九々等八壱。

 彼等こそが、この地獄で最も強い怪物――人間にとっては救いの神の御使いであり、呪霊にとっての地獄の使徒だった。

 

 東堂が拳を振るい蹴りを放てば、それだけで山のように大きな呪霊が悲鳴を上げて消滅する。

 九々等が刀身が伸び縮みする刀――『九頭龍剣』を振るたびに、逃げる呪霊も迫る呪霊も全てが同じように両断される。

 

「まだまだ行くぜ呪霊共ォ!!」

「そんなものか夏油傑、貴様が企てた百鬼夜行というのは!?」

 

 所狭しと京都の街を暴れ回る2人。その度吹き飛び消滅する呪霊。

 

 そんな彼らの蛮行を止めるかのように――東堂の発言を否定するかのように、その呪霊は現れた。 

 

「「!」」

 

 東堂と九々等は、同時に同じ方向を振り向く。

 他の呪霊とは一線を画す呪力量。呪霊の呪力と残穢で接近が感知出来なかった。

 

 それは、毛むくじゃらで牙の生えた顔と一体となった胴体、そこから病人のそれを思わせる腕を生やし、足を持たず浮遊する人間よりも一回り大きな呪霊。

 

 名を――特定疾病呪霊疱瘡婆(ほうそうババア)

 

 呪霊は東堂・九々等と目が合うや否や、両手を広げて「掌印」を組んだ。

 途端、世界を覆い塗り潰す呪力。言葉を発さずとも、その呪霊は確かにそう言った。

 

 ――()()()()

 

 薄暗く寂れた不気味な墓地。そんな生得領域が、現実世界を上書きし東堂・九々等を包む。

 

「「(領域展開! なら――)」」

 

 対して彼らの反応は迅速だった。

 必中の術式が発動する前に、同じ構えを取り()()を発動する。

 

 それは領域の必中効果を中和する「弱者の領域」――。

 

「「――『簡易領域』!!」」

 

 ぴぃん、と2人の足元に円形の簡易領域が展開され、必中の術式から彼らの身を守った。

 呪霊の困惑をよそに、九々等は簡易領域を発動したまま、チャキ、と鯉口を切る。

 

 ……九々等は領域展開を習得している。簡易領域がほとんど削られていないのを見れば、領域展開で呪霊の領域を押し潰し仕留めるのは容易いだろう。

 だが、九々等はそれを選ばなかった。

 

「(ここで一時とはいえ術式を失う訳にはいかない、この呪霊は『簡易領域』だけで祓う!)」

「(そこまでを瞬時に理解――流石だ八壱(マイフレンド)!)」

 

 百鬼夜行はまだ続く。その上、ここは既に敵地。最悪、領域から出た瞬間に再び特級クラスの敵と会敵するかもしれない。故に呪力消費量の観点からも、最低限の技のみでこの呪霊(てき)を祓うと九々等は判断した。

 

 九々等の思考が高速回転を開始する。

 

 敵呪霊との距離、概算7m。11時の方向。

 東堂葵との距離、概算3m。9時の方向。

 今構えている『簡易領域・抜刀』は、両足が発動時の(ポイント)から離れると解除される。

 刃の間合いは約2m。呪霊までは7m。

 ――投擲、否、リスクが高い。式神、否、これも不確実。

 

 瞬間、隣から感じる呪力。

 目配せすれば、同じくこちらを見ていた東堂と視線がぶつかり。

 瞬間、九々等の脳に電流走る。

 

 ――葵の術式!

 

 思考開始からこの間0.01秒。

 

「葵!」

「ああ!」

 

 瞬間、東堂も全てを理解していた。

 九々等が呪霊ではなく東堂の方に向いた瞬間、東堂は素早く手を叩く。

 

「(パズルのピースは揃った。俺の不義遊戯(ブギウギ)で!!)」

 

 パンッ! と柏手の音が響き。

 東堂葵の位置と疱瘡婆の位置が、入れ替わった。

 

 これにより東堂葵の『簡易領域』は失われた。

 だが、事態を把握できていない疱瘡婆は――九々等八壱の前に、その間合いの内に立つことになった。

 

 ――九々等の『簡易領域』の最大展開範囲は半径3.13m。対して刀身1mほどの『九頭龍剣』によって繰り出せる斬撃範囲は、元・東堂葵の位置である3mには一歩届かない。

 だが、九々等の術式は――。

 

 九々等の簡易領域が入れ替わった瞬間に疱瘡婆を感知、全自動で設定されたカウンターを発動した。

 

 シン・陰流――『抜刀』!!

 

 『簡易領域』による敵感知と『抜刀』発動の間にタイムラグは無い。

 だが『抜刀』が剣術による攻撃である以上、鞘から刀を抜き放ってから敵に斬撃が命中するまでは必然的にタイムラグが発生する。

 剣豪と呼べるほどの技術を持つ九々等の居合切りにシン・陰流最速の技を掛け合わせた斬撃。それが鞘から抜かれ疱瘡婆が居る座標に到達するまでの時間は約0.008秒である。

 

 敵どころか自分すら知覚できない、余りにも狭く僅かな時間。

 だがその刹那の間に、九々等は術式発動をやってのけた。

 

「(刀身の長さ:9倍×鋭さ9倍――)」

 

 不義遊戯(ブギウギ)によって足元の簡易領域を失った東堂を、領域の必中効果たる棺桶が捕らえるよりも前に。

 

「秘儀『居合・生駒龍閃(いこまりゅうせん)

 

 疱瘡婆の上半身と下半身に境を作るように、横薙ぎの居合が一閃した。

 そのまま剣の軌道が東堂に差し掛かる前に、

 

「(解除!!)」

 

 刀身の長さが元に戻り、短くなった刃の残身は空のみを裂く。

 

 ばひゅ、と墓地に一陣の風が吹き。

 ずるり、と疱瘡婆の体が上と下で分かれる。

 

 だが。

 

――!!

 

 疱瘡婆は、分かれた上半身と下半身を偶然残った片腕で必死に固定、肉体を再生させようとする。

 流石は特級というべき再生能力。

 だが。

 

「おまえの負けだぜ呪霊。『二つに分かれて』『くっつけてないと再生できない』んなら、」

 

 パンッ!と柏手の音が響き。

 「東堂葵」と「疱瘡婆の上半身」の位置が入れ替わった。

 

(あおい)が見逃すハズが無い」

 

 ドチャ!! と東堂が疱瘡婆の下半身を踵落としで破壊し。

 絶望に歪んだ疱瘡婆の顔を、更に九々等は9倍刀身の一撃で今度は左右に両断した。

 

 もはや死を待つだけの呪霊に背を向け、チン、と刀を鞘に納める九々等に東堂は笑いかける。

 

「流石だな友よ。術式の発動と解除が呼吸のように滑らかだ。剣筋も惚れ惚れするほど美しい」

「おまえもな葵。術式対象選択のセンス、オレの意思を一瞬で汲み取るセンス。どれを取っても一級品だ。超頼もしいぜ」

「……前半の賛辞は受け取るが、後半は違う」

「?」

「俺がオマエの意図を一瞬で受け取ったのは俺の力ではなく……俺たちの友情が為したことだ。そうだろう?」

「――くっは、そうか、そうかもな! おまえホントに良い奴だな葵、友達(ダチ)んなれて良かったぜマジで!」

「フッ……オマエの心からの言葉、少し面映ゆいが悪くない」

 

 2人の友情劇を背景に呪霊が消滅し、領域が消滅する。

 

 現実に帰還した両者は、元居た京都の街路に着地……することは無かった。

 

「は?」

「む?」

 

 足が地面に付かない。これは――、

 

「浮いてる~!?」

 

 ぐわん、と空中で回転する体。天と地が無くなってしまったかのような感覚。これは……客観的に見れば、宇宙ステーションの中に居る人たちに近いか。

 どんどん地面から離れていく体。藻掻いても体は制御出来ず、ただ空中をふわふわと浮遊するのみ。

 一体何が、という疑問は、すぐに氷解することとなる。

 

निकालना――『गुरुत्वाकर्षण』

 

 その歪んだ声に。

 何よりもその凄まじい呪力に、九々等と東堂は空中でなんとか身を捩って振り向いた。

 

 天地が逆転した中で見たそれは――巨大な呪霊。

 

 頭は象に似た形。頭の上に鈍く輝くのは王冠。

 腕は四本、足は二本。京都らしい武家屋敷の屋根の上で座禅を組むように座り、こちらを見ながら四本腕を合わせている。

 驚くべきは、その巨体。座った屋根から頭の天辺まで10mはあるだろうか。

 

 そんな呪霊は、自分よりも高くまで浮かんだ九々等と東堂を見上げ。

 

रद्द करना

 

 瞬間、九々等と東堂はずんと体に重さを感じた。否、取り戻したというべきか。

 

 約20mの高所。そこから2人は為す術もなく落下する。掴めるものも何もない空中を、下へ。

 通常の人間なら即死。並の術師も無事では済まないだろう。

 だが。

 

 ぐるん、と体を回転させ、両の足で豪快に石畳を粉砕しながらも無傷で着地する東堂。

 くるん、と体をしならせ、4足で衝撃を殺し猫のように着地する九々等。こちらも無傷。

 その両者は、どちらも「並の術師」の枠を遥かに超えた存在である。彼等は無傷で着地した後、こちらを睥睨する像頭の呪霊を仰ぎ見る。

 

「(この呪力、先のと同じ特級クラス……否、更に格上の呪霊か!)」

「(まるでボスラッシュだな!)」

 

 彼我の距離、15mか。

 それを詰めるため走り出す両者。

 

『गुरुत्वाकर्षण』

 

 だが、再び呪霊が何事かを唱えると同時、2人の足が地から浮く。

 

「うお!?」

「(またか!)」

 

 地を蹴った勢いのまま斜め上空に飛び出してしまう九々等・東堂。

 体を制御できない空中を巨大呪霊に向かって斜めの軌道で滑りながら、九々等と東堂は高速で思考。

 

「(体の重量:9倍――変化ナシ、単純な引力・斥力じゃない。『九頭竜剣』重量:9倍……一瞬手を離したがこれも変化ナシ。術式対象はオレじゃなくて空間か? そしてこの現象は――恐らく『無重力』)」

 

 そこまで考えた九々等は更に術式を発動。

 

「(速度――お、やっぱりか!)」

 

 瞬間、九々等の空中を滑る速度が9倍に。

 呪霊の驚きをよそに接近し、無重力状態の体を強引に捻って剣を振るう。

 

「そら!」

 

 ざしゅ、と呪霊の肌を切り裂き、紫の血が噴き出る。

 だが。

 

「(浅い!)」

 

 それは手を浅く裂いただけの傷。無重力状態では力の入った斬撃など不可能。加えてこの巨体、九々等が大きなダメージを与えられなかったのは当然と言えた。

 だがその傷は、呪霊にとっては許し難いものだったようで。

 

――『इंसान』

「!?」

 

 ぐん、と九々等の体が後ろに飛んでいく。東堂もだ。2人は巨大呪霊と引き離されるように吹き飛ばされ、30mほど離れた場所で着地した。

 重力は感じる。地を踏みしめては居られる。が、進もうとしても斥力的な力に弾かれて呪霊に近付けない。

 手を前に出し、押されるような力を感じながら九々等は呟く。

 

「……無重力の術式だと思ったが、違うのか」

「いや、オマエの推測は恐らく間違いではない。完全ではないだけでな」

「! 葵、アイツの術式分かったのか?」

「そちらはまだだ。だがあの呪霊の『正体』の方は簡単に予測できる」

 

 東堂は30mほど離れていてもしっかりと姿が分かる巨大な呪霊を見ながら笑う。

 

「あの特徴的な象頭……『あらゆる障害を取り除く』ことで有名なインドの神、ガネーシャ神の呪いだろう。フッ、夏油傑め。呪霊の輸入とは異なことをする」

 

 東堂の推測は正しい。

 象頭の巨大呪霊、名を――特級土地神仮想怨霊(とっきゅうとちがみかそうおんりょう)群衆象主(ガネーシャ)

 夏油傑がインドで入手した、正真正銘の土地神である。

 

 そんな東堂の説明を受け、九々等は。

 

「『障害を取り除く』……オレと同じ概念干渉系か。それを踏まえて、今やってきたことを考えると、アイツの術式は――」

 

 そして東堂も、同時に敵の術式を看破した。

 

「「『概念の除去』、だろうな」」

 

 そう考えれば全ての辻褄が合う。

 

「重力を『除去』して人を浮かばせ、」

「相手を『除去』して距離を取る」

「重力除去が解除されたのを見るに、術式対象は1つだけ」

「術式範囲は恐らく前方向、視界内の一部のみ。アイツから2、30mくらいか?」

「『除去』されたものは術式範囲の空間から取り除かれるのか」

「だが『消滅』ではなく『除去』ゆえに、俺たち実体のあるものが術式対象にされれば影響は『逸らす』か『弾く』の範囲で済む」

「となれば」

 

 口々に情報を共有した2人は。

 

「両側から」「攻めるでしょ!!」

 

 同時に横方向に駆け出した。そのまま群衆象主(ガネーシャ)を左右両側から強襲する。

 

「(並の術師なら重力が消えるだけで相当な苦戦を強いられるだろう。だが!)」

「(オレと葵のコンビなら)」

「(俺と八壱の2人なら、如何様にも攻略可能(できる)!!)」

 

 群衆象主(ガネーシャ)は素早く左右を確認し。

 

इंसान(人間)

 

 九々等の方を向き、術式を発動。そのまま九々等を巻き込みながら、横薙ぎに視線を動かし東堂の方を振り向こうとする。

 

「(刀でリーチの長い八壱から先にとは、知能も高いな呪霊! だが!)」

 

 パンッ!

 九々等と東堂の位置が入れ替わる。これによって後ろに弾かれていた九々等は群衆象主(ガネーシャ)の視線から外れ。

 

「刀身の長さ鋭さ:9倍――『居合・飛龍旋空(ひりゅうせんくう)!!」

 

 9倍刀身の一撃が、群衆象主(ガネーシャ)を切り裂いた。

 だが、届いたのは剣先のみ。巨大な群衆象主(ガネーシャ)の致命傷にはなっていない。

 

「(これも浅いか!)」

निकालना(除去)

 

 群衆象主(ガネーシャ)の視線がついに九々等を捉え、ぐん! と東堂諸共背後に押し出された。

 再び振り出しに戻った2人は、前方向からの斥力を感じながら呟く。

 

「……デカいから単純にダメージを与えづらいな」

「その上視界に入るだけで弾かれるか……30mは一息に詰めるには長い。それに、あのサイズの呪霊は俺の術式では入れ替えの対象にできん」

「つまり、力押しじゃなくて『穴』に付け入る方が良さそうだ」

「! 八壱――」

 

 何かを思いついた東堂が九々等を見。

 九々等は何も聞かずに頷いた。

 抜き放っていた刀を逆手に構え、呪霊に向けて口を開く。

 

「……オレの『9倍』する術式も概念干渉(タイプ)でな。腕力とか単純明快なものに比べると呪力効率は悪くなるが、結構曖昧な能力も術式を使って強化できるんだ」

 

 刀を握っていた手を後ろに回して構え、彼はその対象に向けて術式を発動する。

 

「――投擲力:9倍!!」

 

 そして九々等は、投げ槍のように『九頭龍剣』群衆象主(ガネーシャ)目掛けて投擲した。

 

 ギュン! という勢いで空を裂いて飛翔する刃の銀弾は、30mの距離を一気に詰める。

 当たれば脅威。だが。

 

हथियार(武 器)

 

 群衆象主(ガネーシャ)にとって、その刃は己の力で簡単に「除去」可能な脅威でしかない――。

 

 パンッ!

 『九頭龍剣』と九々等八壱の場所が入れ替わった。

 

 東堂葵の術式不義遊戯(ブギウギ)は、一定以上の呪力を持つモノの位置を入れ替える。そして入れ替わったモノは、入れ替わり先が持っていた運動エネルギーを引き継ぐことが出来る。

 

 刃の銀弾は、拳を構えた金の流星へ。

 

! 『इंसान(人間)

 

 術式対象が『武器』のままでは迫る九々等を「除去」できない。

 術式対象を変更した群衆象主(ガネーシャ)は、間近に迫った九々等を「除去」しようとして。

 

 パンッ!

 九々等八壱と『九頭龍剣』の位置が、再び入れ替わった。

 

「オマエは詰んでいたのだ呪霊。俺と八壱(マイフレンド)を相手にしたその時にな」

 

 不義遊戯(ブギウギ)によって入れ替わったモノは、入れ替わり先が持っていた運動エネルギーを引き継ぐことが出来る。

 そして。

 

「言い忘れてたな。オレの九頭龍剣(くずりゅうけん)は術式効果を持たないが、『特性』があるんだ。それはオレの式神と同じ――手から放れててもオレの術式対象になれること」

 

 『九頭龍剣』鋭さ:9倍質量:9倍!!

 

 それは、全てを貫く銀の砲弾。術式対象の変更は間に合わない。

 刃が群衆象主(ガネーシャ)の腕を貫き、その首筋に深く突き刺さった。

 

ओ、ह्ह्ह्ह、ह्ह……!!

 

 群衆象主(ガネーシャ)が口から血を吐きながら悲鳴を上げる。

 だが、呪術師の攻撃は終わりではない。

 

 パンッ!

 『九頭龍剣』と東堂葵の位置が入れ替わった。

 

 群衆象主(ガネーシャ)の顔面を前に、東堂葵は笑う。

 彼の中にあったのは――ただ、無限大の感謝であった。

 

「(八壱、我が無二の友よ! この一撃はオマエに捧ぐ……!!)」

 

 一瞬で己の意図を察し、刃を投擲してくれた八壱。

 女の好みを共有し、高田ちゃんとの恋路を応援してくれた八壱。

 友達(ダチ)になれて良かったと笑ってくれた八壱。

 ――彼と肩を並べて戦うことの、なんと胸高鳴り心躍ることか!!

 

「呪霊よ! 貴様に教えてやろう――『友情の力』というものを!!」

 

 東堂葵のパフォーマンスは、その精神状態によって大きく変動する。

 そんな彼の、無上とも言える喜びに包まれた心が――彼に言わせれば「友情の力」が、その現象を現実へ呼び込んだ。

 

 ――黒閃(こくせん)』!!!

 

 その黒い火花を、東堂葵は「祝福」と受け取った。これから共に高みへと昇り詰めるだろう2人への「祝福」。

 

 群衆象主(ガネーシャ)の下顎が砕け消し飛ぶ程の蹴り。それを放った東堂は、その一撃でも絶命せず傷を再生し始めた群衆象主(ガネーシャ)を見て尚笑う。

 

「(流石だな呪霊。その巨体では、打撃の衝撃は奥まで届きにくい。だが――俺たちの勝ちだ)」

 

 何故なら。

 

「(俺は独りじゃないから――八壱(マイフレンド)、オマエがいるから!)」

 

 彼の後詰めとして剣を構える九々等の気配(じゅりょく)を、東堂は黒閃経験後のゾーン状態で何よりも鋭敏に感じ取っていた。

 不義遊戯(ブギウギ)の連打により、最終的に群衆象主(ガネーシャ)に肉薄したのは東堂。つまり九々等の手元には、近くに入れ替えられた『九頭龍剣』が握られている。

 

「(俺の打撃では届かない急所も、八壱、オマエなら――)」

 

 九々等は剣を構え。

 

 パンッ!

 東堂葵と、『九頭龍剣』を握った九々等八壱の位置が入れ替わる。つまり九々等は、先程東堂が居た位置、群衆象主(ガネーシャ)の首元へ。

 

 ――『九頭龍剣』は九々等の呪力のみが込められた呪具。そのため九々等が握っている状態では、衣服などと同じく「体の一部」と見做される。

 

 首元に飛び込んだ九々等は、群衆象主(ガネーシャ)が術式を発動する前に抜刀。

 

「行け八壱!」

「任せろ葵!」

 

 刀身の長さ:9倍×鋭さ:9倍――『居合・飛龍旋空(ひりゅうせんくう)!!

 

 斬、と群衆象主(ガネーシャ)の顔面が上と下で泣き別れた。

 

गणानां、त्वा、गणपतिं……

 

 得体の知れない断末魔の声と共に、ザフッ、と消滅反応を残して群衆象主(ガネーシャ)は消滅した。

 

「フッ。やはりオマエの太刀筋は美しいな八壱」

「おまえの黒閃もシビれたぜ、葵」

 

 2人は勝利のグータッチ。

 特級でも止められない怪物たちは、百鬼夜行の只中にあっても、己が主役だと全身全霊で叫んでいた。

 

 

 

■if■

 

 

 

 百鬼夜行の開始から何時間が経っただろうか。

 段々と終わりが見えて来た戦い……呪霊の勢いが衰え、術師たちが軍勢を押し返し出した時間帯のこと。

 

 最前線にて単騎で暴れ回っていた九々等八壱は、不意にその呪霊と会敵した。

 

 夜の帳に覆われた街の中。

 チカチカと街灯が点滅する路地裏から、ぐちゃ、と水っぽい音が断続的に響く。

 ぐちゃ、ぐちゅ。ぎちゅ、ぐちゃ。

 薄闇の中。闇夜に慣れた目でそちらを覗き込んでみれば、そこに居たのは。

 

「あ……あっあっ、あっ」

 

 未だ死にきる事すら出来ず、ただ意味のない言葉を羅列する血塗れの人間と。

 

 ――ソレを貪り喰う、異形。

 黒い体。明らかに人のモノではない、複数の目と触角を持つ昆虫に似た頭部。

 そんな異形が、4本の腕で「獲物」を掴み、ぐちゃぐちゃと音を立てながら喰らっていた。腹を啄み、内臓を顎で掻き出して噛み付き、血を啜りながら飲み込む。

 

「――」

 

 瞬間、九々等の姿が掻き消え、一瞬後に彼が立っていた街路の石畳が爆発したように吹き飛んだ。

 

 それ程の踏み込みで得た速度で、一瞬で異形が掴んでいた人間をその手から奪い去りすれ違った九々等は、地面にその人間を横たえて様子を確認する……。

 

「ぁ、うあ……」

 

 ソレは、もう生命では無かった。食い破られた腹の中、そこに納まっているハズの内臓は見当たらず、あるのはただ赤色の闇だけ。

 助かる助からないの話ではない。この人はもう死人だ。ただ術師ゆえに死に切れていないだけ……このまま放置しても数分は持つが助かりはしない。その間ただ、無駄に長く苦しむだけ。

 

「……アンタ、言い遺すことはあるか」

「ァ、あ……ぁ、えぅ」

「……そうか。よく頑張った。後は全部任せろ」

 

 九々等はその死人の喉に刃を落とす。頸椎を切断し首から下に繋がる神経を断ち切る、そしてそのまま即死させる一刀。九々等の技量により、その一撃は死人にこれ以上の苦痛を与えなかった。

 そうしてその術師を看取った九々等は、立ち上がり異形の呪霊に向き直る。

 

「……チッ、クソ呪霊(カス)が、舐めた真似しやがって。おまえは絶対(ころ)す」

ナ、 ナ ナンッ ダ オマ エ

「! (人語を発する――そのクラスの呪霊か!)」

 

 『九頭龍剣』を構え、空いた片手でスマホを操作する九々等に対し、呪霊は不気味に歪んだ発音で問う。

 

何故 邪魔 ヲ スル

「邪魔ってなんだクソ虫。この人はハナからテメエの餌じゃねえよ。そんなに腹減ってんならテメエの糞でも食ってろ害虫」

 

 ――特級相当の蜚蠊(ゴキブリ)呪霊・黒沐死(くろうるし)

 無限の食欲を持ち、食べただけ単為生殖を行う黒沐死は。

 食事を妨げる九々等を本能のまま、貪り喰うことを決めた……!!

 

私ハ 鉄ノ味 ガ好キ ダッ

「そうか、オレは大嫌いだよ。鉄の味もゴキブリもな!!」

 

 ずるり、と黒沐死が()()を取り出す。

 爛生刀(らんしょうとう)――生と死の交雑する、魔剣。

 

 瞬間、九々等は地を蹴っていた。

 速度:9倍脚力:9倍による最速移動。

 そのまま間合いに黒沐死を捉え、脚力:9倍腕力:9倍へ。

 

 斬!

 

ギ ――

 

 爛生刀(らんしょうとう)を握る腕を斬り落とし、そのまま二の太刀で黒沐死の首を狙い。

 ザワザワザワ!! と黒沐死の体の中から現れたゴキブリの群れが、その剣戟を受けなんとか逸らした。

 

「!」

 

 そのまま襲い掛かってくる黒い濁流を速度:9倍のバックステップで回避する九々等。

 止まらず迫り来るその群れを、

 

呪力出力:9倍

 

 剣先に乗せた呪力を放つことで吹き飛ばす。

 パラパラとゴキブリの死骸が空中を舞うのを見ながら、九々等は腕を再生させた黒沐死を油断なく睨む。

 

「(今のゴキブリ、本物を呪力で強化してんのか。あの量の群れを隠してたってことは、あの体、思ったより中身はスカスカなのか?)」

 

 そんな彼に対し、黒沐死は。

 

鉄ノ味 ヲ 喰ワセロ!

 

 爛生刀(らんしょうとう)を持っていないもう片方の手で掌印を組み呪詞を唱える。

 

(くらい)』、『(くらい)』、『(くらい)』――

 

 土中蠕定(どちゅうぜんじょう)!!

 黒沐死の周囲に2体の式神が出現。例えるなら頭の下に睾丸を持つ羽虫。大きさ・込められた呪力量共にそこまで脅威ではない。

 

鏐蛇(ナーガ)

 

 九々等も髪を2本千切り、2体の式神を召喚。黄金の鱗を持つ蛇の姿だ。

 

「式神を壊せ」

 

 その命令に従い、2体の鏐蛇(ナーガ)は地を滑る。それに合わせ九々等も突進。

 

 

 黒沐死は迎え撃つためゴキブリの軍勢を差し向ける。が。

 

「邪魔」

 

 再び呪力出力:9倍の一撃で吹き飛ばされ、九々等が迫る。

 

鉄 ノ味 ヲ――

 

 カウンターで振るわれる爛生刀(らんしょうとう)を身を捻って回避した九々等は、そのまま刃を黒沐死の足へ。

 

 斬、と黒沐死の右足が半ばから断ち切られるのと。

 がぶ、と鏐蛇(ナーガ)土中蠕定(どちゅうぜんじょう)に噛みつくのは同時だった。

 

 だが土中蠕定(どちゅうぜんじょう)は「破壊されるのを前提とした式神」。

 破壊された土中蠕定(どちゅうぜんじょう)、その睾丸に似た部分から液体が噴き出、九々等の視界を奪う。

 

「チッ――」

 

 その隙に、黒沐死は片足を再生させ距離を取りながらありったけのゴキブリ軍勢を招来、九々等に向けて黒の濁流を差し向ける。

 

 視界を覆われた九々等を、ゴキブリの群れが呑み込み――。

 バチン!! と最初に触れたゴキブリが、真っ二つになって吹き飛ばされた。

 

『落花の情・意無(いなし)

 

 九々等は両手を前に出す構えを取りその技を発動、呪力の籠った攻撃が触れた瞬間にカウンターで呪力を解放し身を守る――否、切断して叩き落とす。

 

 バチチチチチチチチ!! とゴキブリの濁流を叩き落とし続ける九々等。

 ――呪力効率:9倍×呪力回復速度:9倍

 『落花の情・意無(いなし)の消費呪力は、例え全開で展開し続けようが強化された自己補完の中に納まる。だが黒沐死のゴキブリは本物、その数は膨大ではあるが有限である。

 

喰ワ セ ロ !!

 

 持久戦では不利と悟った黒沐死は、ゴキブリの軍勢に紛れて接近、爛生刀(らんしょうとう)を振り上げる。

 ゴキブリの濁流の只中、九々等は『落花の情・意無(いなし)を維持する為構えを解けない。故に爛生刀(らんしょうとう)を防御する方法は――。

 

「――鏐牙羅蛇(ナーガラージャ)

 

 九々等の髪、後ろで括ったそれがまとめて変化した1匹の蛇が、爛生刀(らんしょうとう)が振り下ろされる前にその手首に嚙みつき受け止めていた。

 

「よっぽどその剣当てたいんだろうが。知恵比べで人間様に勝てると思うなよクソ虫」

 

 式神のパワー:9倍

 ブチィ!! と鏐牙羅蛇(ナーガラージャ)が黒沐死の腕を捥ぎ取り、そのまま剣ごと遠くに放り捨てた。

 

 更に鏐牙羅蛇(ナーガラージャ)が黒沐死に追撃。黒沐死は反撃に蛇の首根っこを掴もうとするが、それに『落花の情・意無(いなし)の自動反撃が反応、黒沐死の腕を切り裂いて弾き、鏐牙羅蛇(ナーガラージャ)の噛みつきが黒沐死の腕を捉える。

 

 ――鏐牙羅蛇(ナーガラージャ)『落花の情・意無(いなし)の相性は最高と言えた。『落花の情・意無(いなし)の「構えを崩すと解除される」、つまり発動中は動けないという欠点を、第五の四肢である鏐牙羅蛇(ナーガラージャ)がある程度カバー。更に元が九々等の髪である鏐牙羅蛇(ナーガラージャ)には『落花の情・意無(いなし)の自動反撃付与が適応される。

 

 腕を自切し、堪らず後ろに下がる黒沐死。

 ゴキブリの濁流の中、鏐牙羅蛇(ナーガラージャ)『落花の情・意無(いなし)をどちらも解除しないまま全ての攻撃を叩き落とす九々等。

 

 そして黒沐死は――ゴキブリの軍勢に九々等への攻撃を続けさせたまま、自分は彼に背を向けた。

 

「(クソ虫が、逃げる気か!! チッ、なら多少のダメージは覚悟しても『落花の情・意無(いなし)を解除、追って(ころ)す――)」

 

 そこまで考えて九々等は……しかしふっと笑って構えを続けた。

 

 「その気配」を――見知った呪力が近付いてくるのを感じ取ったからだ。

 

 パンッ!

 柏手の音が響き――呪力を込めて投げられた石と「彼」の位置が入れ替わる。

 

究極(アルティメット)メカ丸・砲呪強化形態(モード:アルバトロス)

 

 本来タメの必要な大技。

 ソレが場所の入れ替わりにより、不可避の速攻となって黒沐死に襲い掛かる。

 

 ――三重大祓砲(アルティメットキャノン)!!

 

ギ ――!!

 

 上空から降り注いだ砲撃を、足を巻き込まれつつもギリギリで回避した黒沐死。

 だが一瞬動きの止まった黒沐死に向けて、その赤色は投げ込まれた。

 

 それは、とある人物の血が詰められた輸血パック。

 

赤血操術(せっけつそうじゅつ)――」

 

 赤縛(せきばく)!!

 黒沐死の体を、血の縄が縛り付け動きを止めた。

 

「西宮!」

「ハイハイ!」

 

 それを成した術師、加茂憲紀が上空に叫べば、箒に乗って空を飛ぶ西宮桃が応える。

 

 付喪操術(つくもそうじゅつ)鎌異断(かまいたち)!!

 

 ザウッ! と広範囲の風の刃が放たれ、九々等を包んでいたゴキブリの群れを吹き飛ばした。

 

「サンキュー西宮ちゃん、皆を連れてきてくれて!」

「ホント、感謝してよね!」

 

 九々等は戦闘開始前、西宮に「特級相当と会敵した、応援求む」という連絡を送っていた。

 京都を覆う『帳』は高専側が下ろしたもの。術師たちが連絡を取り合えるよう、電波の遮断は行っていない。

 

 結果から言えば、九々等1人でも黒沐死は祓えた可能性が高い。

 だが、「可能性が高い」ではダメだと九々等は判断した。

 

「憲紀もメカ丸もありがとな。葵もか」

『問題無イ。呪霊の数はかなり減っていル、戦力を集中させる余裕アリと判断しタ』

「九々、いや八壱、コイツは……」

「ああ、多分ゴキブリの呪霊。持ってる剣はどう見ても呪具。そんで……絶対(ころ)したい。手伝ってくれ」

 

 「絶対に(ころ)す」という彼の決意が、亡き術師に代わって抱いた怒りが、この「詰み」の状況を呼び寄せたのだ。

 

「! 分かった」

「無論だ。友の願いだ、大人しく死ね呪霊」

「私も手伝うよ。この呪霊が生きてるって考えただけでも超キモいし」

 

 黒沐死を囲む5人の術師。

 九々等。加茂。メカ丸。西宮。東堂。

 

 赤縛(せきばく)を引き千切り拘束から抜け出すも、未だ絶体絶命の黒沐死は。

 

私 ハ ――

 

 何らかの動きを見せようとして。

 

穿血(せんけつ)!!」

大祓砲(ウルトラキャノン)!!』

 

 穿血(せんけつ)に肩を穿たれ、大祓砲(ウルトラキャノン)で全身を焼かれ。

 苦し紛れで出したゴキブリの群れも。

 

付喪操術(つくもそうじゅつ)――『鎌異断(かまいたち)!!」

 

 あえなく風の刃に吹き飛ばされ。

 

『動きを止めル!』

赤縛(せきばく)!」

 

 メカ丸が黒沐死に抱きついて拘束し、更に血の縄で動きを止め。

 

鉄 ノ味 ガ ――

 

 動きの止まった黒沐死に、東堂が上空から襲い掛かる。

 

好キ ダ!!

 

 黒沐死はそんな東堂に向けて、拘束されながらも無理矢理爛生刀(らんしょうとう)を振るい。

 

 それを読んでいた東堂は、爛生刀(らんしょうとう)を器用に蹴り飛ばし、そのまま剣を持っていた手を捥ぎ取って。

 

「残念ながら、()()は俺じゃない」

 

 パンッ!!

 東堂葵と九々等八壱の位置が入れ替わる。

 

「刀身の鋭さ:9倍×腕力:9倍――」

 

 爛生刀(らんしょうとう)は東堂に奪われた。動きは止められている。ゴキブリの群れはとうに品切れ。

 

「……言ったよなクソ虫。おまえは絶対に(ころ)すって」

 

 そして九々等は、刀に手を添え呪詞を唱えた。

 

南無、天満大自在天神

 

 それは、シン・陰流の派生にして邪道、(シン)・陰流の基本技にして奥義。

 反転術式――正の呪力を剣に流し込み、対呪霊に特化した「退魔の剣」を作り出す。

 

(シン)・陰流――奥義十握剣(とつかのつるぎ)

 

 言うなればそれは「正義の剣」。

 呪霊にとっての死、聖なる力が籠った剣が、無限の食欲すら忘れさせる恐怖と共に黒沐死の頭上に振り上げられ。

 

ワ 私ッ ハ ――

「テメエの遺言は聴きたかねぇよ、黙って死ねクソ(カス)!!」

 

 一刀、両断!!!

 

 其の剣、あらゆる邪を祓う退魔の剣。

 その剣閃の軌道上にあった黒沐死の体が、腕と足の端を遺してこの世から消滅した。

 

 ザフッ、と消滅する呪霊。だがその姿を見もせず、また勝鬨のひとつも上げず、九々等は路地裏の中へ。腹を喰われた術師の死体を出来るだけ丁寧に横抱きにして持ち上げ、東堂たちが待つ路地の外に戻る。

 

「……八壱、それは」

「知らない人だ。多分術師だろ」

 

 ぶっきらぼうな口調と裏腹に、死体を抱く九々等の手つきは最大限の敬意と優しさに溢れていた。

 

「仇は討ったぜ」

 

 そう誰にでもなく呟く。

 

 と、ここで『帳』が上がった。

 西宮が持っていた携帯に連絡が入り、彼女はその内容を周囲に伝える。

 

「京都に放たれた呪霊はほぼ全部祓ったって! 主犯の夏油傑も、五条悟によって討伐……」

「つまり」

「俺たちの勝ちだ」

 

 その言葉を証明するように、夜の街に光が差した。

 白い光が、温かい熱が、街に蔓延っていた冷たい闇を祓っていく。

 

 その光に目を細めながら、九々等は死者を抱いたまま静かに微笑んだ。

 

「――綺麗な朝日だな」

 

 全ての術師が同じように空を見上げ、陽を眩しく思う己に生を感じ、朝の到来に勝利を知る。

 

 京都百鬼夜行、閉幕。

 高専側の勝利。

 


 

群衆象主(ガネーシャ)

 「あらゆる障害を取り除く」アジアの神の呪い。術式により概念を含んだあらゆるものを「除去」する。ただし除去のための物理的斥力の出力には限界がある為、地面などの重すぎる・大きすぎるものは除去できない。酸欠攻めとか領域展開とかさせたかったけどテンポが悪いので泣く泣く割愛。

 原作23巻から引っ張ってきたが、名前から能力まで全てが捏造(推測)。原作と違う部分があったら、そこは結構前に掴まえた同じモチーフの別個体ということで。

 

・黒沐死

 単為生殖でコッソリ生存。

 

・シン陰派生について

 全てが捏造。作者のFate好きが暴走した結果の産物。でもアニオリ映画とかでこういうの出て来そうだし、多少はね?

 『十握剣』は武器限定で反転術式のアウトプットを行う技。普通の反転術式と全然感覚が違う(正のエネルギーではあるが治療には使えない呪霊殺しに特化したエネルギーを生成・アウトプットする)ので、反転術式が使えない者でも才能があれば使うことが出来る。裏設定として、神・陰流は菅原道真の血脈にしか使えない。

 以下、テンポの問題で省略した殴り書き没説明文。

 

 

 シン・陰流。平安より現代に受け継がれてきた流派。

 それは剣術に結界術を組み込む――即ち非呪術と呪術を融合させることで、凶悪巧者な呪詛師・呪霊に立ち向かうことを目的に興された。言わば、強力な術式を持たぬ者の為の「弱者の戦術」を確立した流派と言える。

 そんなシン・陰流には、表と裏とも呼べる2つの分派が存在する。

 簡易領域を含む、比較的誰でも扱える結界術と剣術を中心とする『(シン)・陰流』。一般に『シン・陰流』と呼ばれるのは此方である。

 そしてそんな表と対を為す裏――『(シン)・陰流』。邪道とされ、殆どの門下生が知らない「陰の流派」。

 (シン)・陰流が邪道とされたのは、編み出された技の悉くが「弱者・万人の為の技術」であるシン・陰流の理念とは正反対の、「選ばれし者の技術」だったからである。

 結界術の素養があれば誰でも習得できる(シン)・陰流と異なり、(シン)・陰流の技はその全てが強さに比例するように類稀なる才能を必要とした。「特異」とは争いを産む種であり、シン・陰流の理念から外れるもの。故にその技たちは、邪道として歴史の裏に押し込められたのである。

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