9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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人外魔境新宿決戦編
×0 無限


要望が多く、筆が乗ってしまったのでvs五条だけやります。

今更ですが補完という名の捏造多めなので改めてご注意を。

 


 

 11月19日、東京呪術高専にて。

 

「よーっす虎杖」

「九々等」

 

 慌ただしく小走りで廊下を進む虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)を見かけた九々等(くくら)八壱(やいち)は、尾のような後ろ髪を揺らしながら駆け寄って声をかける。

 

「聴いたぜ、復活するんだろ最強先生」

「おう……そのことなんだけど」

 

 獄門疆(ごくもんきょう)に封印された五条(ごじょう)(さとる)の復活……虎杖たちが目標に掲げたそれは、もう手を伸ばせば達成できる距離にあった。

 天元(てんげん)を拿捕しようと襲撃してきた羂索(けんじゃく)から守り抜いた獄門疆「裏」の存在。あらゆる術式を消滅させる『天使』とその受肉・共生体来栖(くるす)(はな)の生存。

 五条悟復活のピースは既に揃っていた。だがここで立ちはだかった問題がひとつ。

 

 ――獄門疆内部の状態が不明な以上、五条悟が精神に異常を来たしている可能性がある。

 その場合、もしも解放された彼が所構わず暴れ出したら……その被害は計り知れない。

 

 そんな事情を虎杖から聞き、しかし九々等はぱちんと指を鳴らして笑った。

 

「やりぃ、合法的に野次馬する理由が出来たぜ。虎杖、オレを緊急時戦力として紹介してくれよ」

「それは構わねえけど……」

「やった! 一目見たかったんだよなぁ、皆が言ってる『現代最強』を」

 

 そんなこんなで一行は東京の地から北に少々、埼玉県へ。

 呪術高専が所有している第四修練場、木呂子(きろこ)鉱山にて五条悟の封印解除は執行された。

 

 天使の術式によって綺麗サッパリ消滅した獄門疆「裏」。どこにも見当たらない五条悟。

 すわ失敗かと思われたが、しかし余りにもタイミングのいい地震によってその早計は覆る。

 

 高専に全速力で帰還した一行が見たのは……当たり前のように高専入り口に立つ白髪長身の漢、五条悟の姿だった。

 

「や、皆。ただいま」

 

 少し長い出張から帰って来たみたいな顔で笑う男に、虎杖がいち早く言葉を返した。

 

「おかえり、先生!」

 

 その後は少し複雑だった。

 親交の深かった者が駆け寄り、思い思いに五条悟の帰還を喜ぶ。

 だが喜んでばかりも居られないのも事実。

 

「……そうか。野薔薇に、七海もか」

「……ごめん、先生。俺……」

「悠仁が謝る事じゃない。恵のことも含めてね」

 

 重い空気も確かにあった。

 だが、五条悟を知る誰もが心のどこかで思っていた。「これでもう大丈夫だ」と。

 

 ただ、1人を除いて。

 

「(……なんだ、この感覚)」

 

 ざわ、と九々等八壱の背筋の内を、昂ぶりとも畏れともとれない波が駆け抜ける。

 

「(呪力量で言えば絶対に宿儺の方が多い。でも何でだ……宿儺以上に、勝てる気がしない……?)」

 

 そのセンスと本能が、目の前の術師が自身の脅威に成り得ると全力で警鐘を鳴らしていた。

 自然と身構えた九々等は、無意識のうちに術式を発動する。

 ――危機感知力:81倍

 

 瞬間、全身が総毛だつ。

 ぶわ! と九々等の全身から、逆さに冷や汗が噴き出した。

 81倍になった感覚は即座に悟った。「この人が本気で襲い掛かってきたら、間違いなくオレは死ぬ」と。

 

「(マジか。涼しい顔して、あのときの宿儺以上にバケモンじゃん……!!)」

 

 両面宿儺。奴を双頭の猛虎(もうこ)、全てを切り裂く爪牙を持った貪食の化生とするなら……。

 

 五条悟。此奴(コイツ)は『(りゅう)』だ。遥か天上より下界を睥睨する、白毛(はくもう)蒼眼(そうがん)の黒き龍。

 

 そんな龍の首が此方を向く。

 

「そんで、君誰?」

「先生、こいつは……」

 

 虎杖の他己紹介を遮って、九々等は五条の前に歩を進めた。

 

「どうも五条悟サン、オレは九々等八壱。虎杖と恵くんのお友達です」

 

 五条の六眼(りくがん)、澄み渡る蒼天を映す湖畔が如きそれと真正面から目を合わせる。

 龍と若獅子は少しの間至近で睨み合い。

 五条が先に歯を見せて笑った。

 

「成程、こりゃ傑作だ。あの失敗縫い目、自分じゃ手に負えない猛獣の目を覚まさせちゃったみたいだね」

「……お褒めにあずかり光栄だな。アンタ、オレじゃ比べ物にならないくらい強い癖に」

 

 臨戦態勢で身構える九々等、それを歯牙にもかけず微笑む五条。それがそのまま、両者の力量を表すようだった。

 それでファーストコンタクトは終了。五条は他の高専メンバーとの会話に戻る。

 そうして五条の視線から外れた九々等は、我知らず長い息を吐いた。

 

 と、不意に五条が爆弾発言を投下する。

 

「あ、そうだ。僕、12月24日に宿儺と決闘することになったから」

 

 その唐突に過ぎる言葉に全員が一瞬硬直し。

 

「「「――はぁ!?」」」

 

 その場の全員が、全く同じ驚愕と困惑の声を上げた。

 

 

 

■零■

 

 

 

 11月26日……あれから一週間。

 九々等八壱は第四修練場、木呂子(きろこ)鉱山にて修行に明け暮れていた。東京・埼玉間の距離など、マッハ5で移動できる九々等にとっては数分で足を運べる「近場」でしかない。

 

「……ぷはぁ。やっぱムズイな領域展開。宿儺がやってた外殻の解体とか、マジでどうやるんだよアレ。外殻無しで生得領域の具現化を維持、なんて『1㎜も触らずにボールを動かしてシュート入れて下さい、しかも公式戦で』って言われてるようなもんだぞ……」

 

 岩と砂に囲まれた景色の中、九々等は地面に斃れて荒い息を吐く。

 青く澄んだ空を眺め……自然、それと似た目を持つ男の顔を思い浮かべた。

 

 五条悟、帰還。

 その事実は呪術界を震撼こそさせたものの、未だそこの一員と言えるかは半端な九々等に直接的な影響は無かった。

 だが間接的には大いに関係していた。周囲の人間の変化もそうだが……九々等自身が五条の強さに触発されて自発的な修行を始めたからだ。

 

 「今のままじゃダメだ」。漠然とそう考えた九々等の行動は早く、また持続力も高かった。

 

 九々等の修行。一日の3時間を1人での修行に充て、極ノ番『冪』によって短縮された睡眠時間約5分と食事等に必要な1時間弱を除いたその他全ての時間を死滅回游結界(コロニー)内の平定に充てる。

 

 時に呪力回復のため術式を実質縛ったまま呪霊の群れを祓い。

 時に(ポイント)を乱獲している術師をのしてもうやるなよと脅し。

 時に巻き込まれた泳者が結界から脱出するのを護衛する。

 

 移動時間のみが休憩時間という激務。なんなら移動時間の半分は術式を使用した自力移動。

 それでも彼は、誰に言われた訳でもないこのスケジュールを1週間しっかりこなした。

 「まあ正直、オレ高専に居てもやること無いし」とは本人の談である。

 

 そんな「修行」を積極的に行った九々等だったが、しかし本人が思っていたよりも成長は見られなかった。1週間で計4度の黒閃を経験して尚、だ。

 もし今一対一で宿儺と再戦することになれば……何故か勝てるビジョンが見えない。

 

「……ここがオレの限界なのか?」

 

 そう空を見ながら悩んでいた時だった。

 ポケットの中の携帯(スマホ)が鳴った。通知音ではなくコール音。着信相手は――。

 

「虎杖?」

『九々等、今いいか?』

「問題ないけど、どうした?」

『それなんだけど――』

 

 と、ここで通話相手が切り替わる。電話の向こうで、虎杖のスマホを誰かがかっさらったらしい。

 その下手人は明るい声で己の名を言う。

 

『やっほー、九々等八壱クン。呪術界イチのGT(グレートティーチャー)、五条悟でーっす☆』

「!」

 

 その名を忘れるハズも無い。九々等の内に燻る強さへの渇望、その火種となった本人の名だからだ。

 スマホを握る手に力が入る九々等に対し、五条は軽い口調のまま話を続ける。

 

『報告書読んだよ。君、宿儺と()ったんだって?』

「(報告書? ああ伊地知さんのアレか) まあ、ハイ」

『どうだった?』

「……今やったら生きて帰れる自信はないすね、正直」

『へぇ?』

 

 一時的な弱気か、それとも正確な判断か。

 そんな答えを脇に置き、五条は用件のために問う。

 

『まあいいや。君、今何処に居るの?』

「埼玉の第四修練場っすけど」

『お。もしかして暇だったり?』

「……まあ、はい。2時間後には大阪の結界(コロニー)にひとっ走りしてこようかと思ってはいます」

『……君、そこまで何分で行けるの?』

「京都までは東京から出て、術式全開で20分弱くらいっすね」

『走り?』

「はい。走りは人目とか車とか色々気を遣いはするんすけど、新幹線の速度を『81倍』にする訳にもいかないんで」

『クック。滅茶苦茶だね君』

 

 極ノ番『冪』使用時の九々等の最高速度はマッハ5に達する。秒速にして1.5km。それは人気の少ない山・森や脇道、建物の上を優先して移動したとしても、新幹線や飛行機より遥かに速く移動できる速度であることは間違いなかった。

 その事実に驚き、少し脱線してしまった話題を五条は自分勝手に戻す。

 

『まあいいや。1時間後そっちに行くから、それまでにコンディション整えといて』

「?」

 

 首を捻る九々等に、五条は電話越しながらストレートに告げる。

 

『君と戦いたい。宿儺と渡り合った九々等八壱という術師と、ね。簡単に言えば模擬戦だ』

「――!!」

『君にとっても悪い話じゃないと思うよ? なにせこの僕、「現代最強の術師」との模擬戦だ。チケットを取ろうと思ったら億じゃ利かないかもよ?』

 

 冗談めかして言う五条だが、九々等の胸中で燃える感情は冗談では済ませられない程に熱くなっていた。

 彼は燃え上がる激情を、その熱を堪えられないとばかりに喉から吐き出す。

 

「当然、受けて立ちます……!」

 

 電話の先で、相手も笑ったようだった。

 

『そう来なくちゃね。それじゃ、1時間後に』

 

 プツン、と電話が切れる。

 その瞬間から、九々等の『準備』は始まっていた。

 

「(今の呪力状況は残り5割くらい……問題ない。術式全開にすれば呪力0からでも1時間弱で全回復できる。領域展開後の疲労感も1時間あれば全快する。腹は……ちょっとなんか食っとくか)」

 

 五条がフィールドを九々等が今いる場所に指定したのは、罠などの小細工を使っても良いよという言外の意思表示だろう。だが九々等はフィールドに罠を仕込む気は無かった。ただ己の状態にのみ全力で気を遣う。それは長年の運動部の経験からメンタリティの根幹がフェアプレーの精神だったのもあるが、自身は策を弄するのが上手いタイプではないという自己理解からでもあった。

 「小細工無しの真っ向勝負こそオレの土俵」。言葉にこそしないが、九々等はそう理解していた。

 

「……試合前のミーティングってとこか。相変わらずこの時間は血が騒ぐな……!」

 

 ぶる、と大きな武者震いをひとつ。

 龍を前にした若獅子は、牙を剝き出して強壮に笑った。

 

 

 

■零■

 

 

 

 1時間と数分後。

 瞬間移動のように突如第四修練場の殺風景な鉱山内に現れた五条は、近くに居た九々等を見つけて手を上げる。

 

「やっほー。八壱、って呼んでいいよね?」

「……五条悟、先生(センセー)

 

 五条は周囲を見回す。

 呪術高専第四修練場、木呂子(きろこ)鉱山は、五条復活作戦の場所に選ばれただけあって広く、周囲は岩と山ばかりで何もない。つまり被害を気にする必要がない。

 

「うん。やっぱりここなら暴れても大丈夫そうだ」

「……」

「一応ルールを決めとこうか。

 ①僕は君を殺さないよう気を付ける。

 ②第四修練場(ここ)から出たら負け。

 ③どちらかが戦闘不能になるか『まいった』って言ったら試合終了。

 でいい?」

「……問題ないっす」

 

 ここで、五条は九々等の顔色に気付く。

 真剣な表情、口数も少ない。悠仁から聞いた印象と違うな、と思った五条は笑いながら問う。

 

「どうしたの? 緊張してる?」

「……(イヤ)。ただ確認がひとつ」

 

 ――ピリ、と五条の背筋を電流に似た何かが奔った。

 

 九々等の表情。視線。立ち方。迸る呪力。

 その全てが、己を全力で打倒せんと叫んでいるのを五条の直感が受け止めたのだ。

 

 九々等は龍と相対した若獅子の笑みで言う。

 

「オレの方は『殺す気』でいいんすよね?」

「いいよ、出来ないから」

 

 そう返せば、九々等の笑みは更に深まった。

 

「ならもし()っちまったときは、オレが宿儺を倒すんで成仏してくださいね最強先生」

「言うね。俄然楽しみになってきた」

 

 五条悟も察した。

 この男の牙は、きっとこの『無限』さえ切り裂いて己の喉元に迫り得ると。

 

 ひゅう、と冷たい風が吹き抜ける。

 カラカラと小石が転がる音。かあ、と(からす)の鳴く音。

 

 そして。

 若獅子と龍の戦いが――現代最強の術師に1人の男が挑戦する戦いが、幕を開けた。

 

 


 

長くなりそうなので分割。

 

次回「×0^2 無限②」

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