とりあえず原作26巻まではやる予定(やれたらいいな)
ファンパレも始めたのでそのネタで単発短編とかも書けそうなら書きたいです
また落書きが増えました、いつも通り遠目薄目でお願いします
「――最初はね、あまり期待していなかったんだ」
どこかの廃墟で。
額に縫い目のある袈裟の男、
「? 何の話だ」
「当然、
胡乱気な目を向ける
「五条悟、乙骨憂太。2人の特級術師を輩出した、かの菅原道真の血脈。
宿儺の器・虎杖悠仁の超人的な肉体強度が人為的なものなら、アレが持つのは天性の肉体。しなやかで密度の高い筋肉、優れた動体視力に野生的な判断力は、猛獣と比べても遜色ないだろう。世が世なら歴史の表舞台で英雄と成れた筈だ。
けれど……天は二物を与えずの言葉通り、
彼はそこで一拍、言葉を置いた。
真理を紡ぐ賢者のようであり、しかし愉悦に満ちた道化のそれにも聴こえる声が、再び闇の中で響く。
「そう、最初は期待していなかった。所詮、呪いに愛されなかった非術師だ、とね。けれど実際に会ってみて、その印象はひっくり返ったよ」
零れたくつくつという笑いは、虫が体を擦り合わせる音に似ていた。
羂索は思い出す。一度だけこの目で見た、金の髪を尾のように揺らす細身の青年の立ち姿を。安定した重心に鍛え上げられた肉体は素晴らしかったが、真に驚嘆すべきはそこではなく。
「
……確かに、非術師からも呪力は生まれる。しかしそれは殆どの場合外部に漏出し、呪霊の発生要因となるだけだ。
だが
声が笑う。哂う。嗤う。
揺れる邪悪は、しかし真っ直ぐ無垢に
「つまり、こう思ったんだ。
あるいは、己を愛した呪いの才を、逆に彼自身が否定したのではないか」
誰も呪わないというその性質でね、と嘯く言葉のどこまでが本音なのか。
否。その言葉は恐らく偽らざる本音なのだろう。
『いずれ混沌が世を覆ったときは、存分に力を振るうと良い』
可能性の仔。呪いを持たぬ無辜の光にして、しかしその内に呪いの素質という闇を宿す者よ。呪いこそが全てを支配する混沌の中で、光に隠れたその
長々と語った言葉の終着点が見えず苛立ちだした裏梅の様子を察したのか、羂索はこう締め括る。
「ただまあ、間違いなく彼よりも五条悟の方が強い。それでも彼に目をかけるのは何故だい? 他ならぬ君が」
成程、独り言にも思えたその語りは、宿儺への問いかけだったのか。
しかし、問うて尚宿儺の首は振り向かなかった。その姿勢は語り始めたときと同じく微動だにしていない。
果たして、羂索の言葉に興味をそそられなかったのか。天上天下唯我独尊たる呪いの王、その横顔を羂索は裏梅と共に伺い。
ひやり、と。
まるで刃物の腹を首筋に押し付けられたかのような錯覚に、覗き込んだ2人は襲われた。
1人は戦慄と愉悦に、1人は歓喜と嫉妬にその身をぶるりと震わせる。
彼方に四つの視線を投げたままの両面宿儺。
その口の端は、確かに笑みの形に吊り上がっていた。
術式順転『蒼』により「吸い込む反応」を重ねられた拳は、相手の体に迫りながら相手の体を引き寄せ、相乗した一撃を容赦なく鳩尾に炸裂させる。
腹筋を貫き内臓まで衝撃が浸透、ともすれば背骨をぶち折り背中まで貫通するのではという拳は、しかし現実には相手の腹筋に止められていた。
術式順転『積』により防御力:81倍で致命の一撃を防いだ彼、
五条が己の側頭部間近で止まった九々等の足を掴み、投げようとする一瞬に放たれたもう片方の足の蹴りも無下限呪術が防御、そのまま九々等を地面に叩きつけるように投げるも、九々等は猫のようにしなやかな動きで衝撃を殺し距離を取る。
お互いに決定打に欠ける。
故に取る手も、鏡合わせのように同じもの。
「「領域展開」」
掌印を組み、呪力で空間を満たす。
片や暗黒。無数の星に満ちた宇宙の色。
片や黄金。蓮の花を思わせる浄土の色。
世界の色を塗り替えんと膨張する二色――しかしその片方、黄金にぴしりと罅が入る。
「げ」
硝子が砕けるように、成立前の九々等の領域が崩壊し。
それに合わせる形で、五条も領域を撤回した。こちらは蜃気楼が溶けるように掻き消える。
思いっきり「やらかした」という顔で固まる九々等に引っ張られるように、五条もまた臨戦態勢を解いた。戦闘の終わりを告げるように、教師の顔で口を開く。
「八壱。今、庭の大きさに合わせて結界の大きさを縮めようとしたね?」
使う公式を間違えた生徒を軽く叱るような声に、九々等はがっくりと肩を落として頷いた。
「うす……失敗したけど。やっぱまだ呪詞ナシだとミスるなぁ~」
12月15日、五条家当主邸宅庭内にて。
高い塀に囲まれた庭園の中に五条と九々等の姿はあった。
初対決から半月と少し。
復活後多忙を強いられた五条悟が、漸く九々等に修行をつけてやれるようになるほど落ち着いた日が今日であった。
盆栽をそのまま大きくしたようなねじれた松、白砂でつくられた枯山水、上品に鳴る
手入れにどれだけの金がかかっているのかという丁寧な奇麗さのせいで僅かな戦闘の余波が目立つ庭の中で、五条は九々等が領域を小さくしようとした原因である庭を見回しながら告げる。
「そもそも領域展開に元の地形は関係ないよ。領域の中っていうのは世界よりも術者の生得領域が優先される呪術的な異界だから、呪力を持たない無機物は結界成立時に自動的に除外される。『自分』っていうのは周囲の地形程度では変わらないものでしょ? 生得領域は術者の精神の具現だからさもありなんって感じかな。逆に言えば、呪力を帯びていないものを領域に入れることは基本的に不可能だ。つまり八壱の今のは要らぬ気遣いだね」
「マジか……」
その事実に愕然とする九々等に吹き出しながらも五条は続けた。その空よりも蒼い六眼で生徒の悪癖を見抜きながら。
「八壱はさ、結界術の基礎がグダグダだよね。大方帳と簡易領域から逆算したんだろうけど、それじゃ領域の外殻としては不完全だ」
数式で言うなら、確率の計算を総当たりで解くみたいな不格好さ。領域を成立させることは出来るが無駄が多い上に応用が効かない。それが今の九々等の領域である、と六眼は五条に告げていた。
そのことを伝えるため、五条はまず帳の原理から解説することにする。
「帳は日本各地に設置された天元の浄界――強力な結界によって精度を底上げされている。要するにより強い術に相乗りする形で結界を成立させてるワケ。でもそのやり方は八壱には向いてないでしょ」
人差し指を立てて語る五条の言葉は、九々等の理解を待って続く。今度は二本目、中指が立つ。
「簡易領域も領域展開の参考にするには微妙。領域展開が『キャンバスに絵を描く』ことに例えるなら、簡易領域はあくまでキャンバスの中の自分に色を塗らせない妨害の術だからね。キャンバスに被せる布、あるいはシールとか辺りがイメージとしては妥当かな。少なくとも
こちらは今言った通り、紙ではなく布に絵を描いているといった具合か。これもあまり賢いやり方とは言えないだろう。
自分の領域が「辛うじて成り立っていた」ものに過ぎないと知った九々等は、ほへぇとマヌケな息を吐く。
「成程……複雑なんだなぁ結界術って」
「ちなみに領域展延は『キャンバスを沢山用意する』って感じ。術式を中和する――術式という絵を完成させないための技で、僕の無限みたいな防御の術式を突破する他に、呪力による攻撃とかもある程度軽減することが出来る。ただ使用中は生得術式を使えなくなるから一長一短だけどね」
三本目、薬指を立てそこまで言って、五条は解説を終え手を崩した。これ以上は九々等の頭がパンクするという判断だ。
トバリ……テンエン……と目に見えてこんがらがり出した彼の思考を纏めるように、ぱしんとその頭を軽く叩きながら五条は言う。
「
その言葉に、九々等は一瞬目を見開いて。
「応!」
そう、力強く頷いた。
それから数時間。
空の天辺にあった陽が地平にかかり、空が茜に染まる頃。
庭全体を覆っていた、黒と金の領域が崩壊し。
五条の拳と九々等の蹴りが交叉する。術式が焼き切れた状態での格闘戦。形勢は6:4で五条の有利。10以上の遣り取りの後、遂に五条の拳が九々等の腹に入り、彼は噛み締めた歯の奥から堪えきれない苦悶を漏らす。
しかし九々等もただではやられないとばかりに反撃、選んだのは態々体を一回転させる回し蹴り――その狙いは尾のような髪を鞭のように振り回すことによる目潰しと蹴りの同時攻撃。視界を潰すための奇襲の金髪は、しかし復活した無下限呪術に防がれた。
同じように蹴りも「無限」に阻まれる……五条が幻視した一秒後の光景は、しかし次の瞬間否定されることとなる。
六眼が捉える。九々等の体を纏う呪力の変化を。
「これは――」
「
回し蹴りが五条に入る――だがその一撃はガードされ受け止められた。生得術式を併用できない、即ち術式で強化されていない九々等の攻撃は五条のガードを破ることは出来ない。
だが「五条悟がガードした」という事実が、九々等が一連の攻防で得た報酬だった。
止まった脚を払いながら、五条は反撃することなく素直な感情を吐露する。
「――驚いた。教えてその日のうちに展延まで出来るようになるとはね」
「ま、こっちはあんまりオレと相性良くないけど。術式使えないってのがなぁ」
九々等もまた追撃はせず、領域展延を解除し会話に応じる。場は既に戦場から教室に変わっていた。
「領域も随分良くなった。呑み込みが早いね。何というか、
「ま、先生がとびきり優秀なんで」
「クク、僕に似て可愛げもバッチリだね」
なんてやり取りを、折れた松、砂が剥がれた枯山水、ひしゃげて鳴らなくなった鹿威し、と惨憺たるありさまを晒す庭園で行い、「今日はここまでにしようか」という五条の合図で本邸に戻る。
巨大な屋敷の一角、庭に面した縁側に2人で腰掛け、女中さんが持って来てくれたタオルで汗を拭き水を飲んで一息つく。九々等も何日か五条家で過ごしていたため、「友達の家」くらいには落ち着くことができていた。
「『無敵』にもそれなりに対応できるようになったし、後は遠距離攻撃だなー。オレも先生の『赫』とか『茈』みたいな技やりたいぜ。こう、手からバシューって」
「いやいや、八壱の速度なら直で殴った方が早いでしょ」
「でもオレは先生みたいに飛べるワケじゃねえし? 選択肢は多い方が良いしな」
「欲張りだねぇ」
「そりゃ欲ばるぜ。なにせ『最強』目指してるんで」
「――」
2人。何の気なしに下りた沈黙の中、ふと彼方の空を見る。
夕日が沈みきって、暗くなった空に浮かぶ月が夜の訪れを告げていた。
太陽が地平の奥に隠れただけで、世界はやけに静かに思えて、まるで自分たち以外の全てが寝静まってしまったかのよう。
眠った世界で、この場のふたりきりが起きている。そんな錯覚が冷たい夜風と共に体を襲う。
だからだろうか。過去類を見ない速度で「最強」に迫る術師を前に、ぽろり、そんな言葉が零れたのは。
「――強くなるって、思ってるより侘しいかもよ?」
言って、五条悟は少しだけ後悔した。
それでも言葉は取り消せない。だから、
「……? なんで?」
そう不思議そうに返す九々等に、普段通りの飄々とした口調を繕うだけ。
「生き物としての線引きさ。周りに花は咲いても、自分と同じモノは居ない、ってコト」
嗚呼、けれど。その言葉尻に滲む侘しさは、夜の闇を以てしても隠しきれるものでは無かった。寧ろ2人を包む静けさは、彼の心情をより際立てる。
花を咲かせることも愛でることもできる。
害虫は鬱陶しいけれど指先で駆除できる。
けれど、花に己を理解して欲しいと思う者は居ない。小虫に全力を出そうとする者も居ない。
寂しくはない。けれど、侘しい。
――絶対的な強者、それ故の孤独。
それは告白だったのだろう。あるいはただの独白か。
きっと誰にも理解されない己の想いを、闇に乗せてただ吐き出したのだ。
だから、五条悟は九々等の返答など求めていなかった。
けれど。
「……うーん、やっぱオレには良く分かんねーよ。『強さ』ってそんなに単純で絶対なモンかなぁ?」
九々等八壱にとって、五条悟の言葉は受け入れがたいものだったらしく。
彼はいつも通りの、九九の答えを諳んじるような迷いの無い声で語り出す。
「だって、腕っぷしの強さが絶対なのは獣の世界だろ。人間の強さってのは、もっと複雑だと思うんだよ。
サッカーやってた時さ。チームには色んな奴が居た。確かに点を取るのはオレが一番うまかったけど……作戦立てたり、チームの仲を取り持ったり、シュートをセーブしたり、飲み物渡してくれたり……そういうのはオレには出来ないからさ。スッゲーかっこよくて、その分自分も自分に出来ることを精一杯やろうと思った。そん時思ったんだよね。強さってきっと、自分に出来ることを取りこぼさないってことなのかもなって」
うまく言えないけど、と前置きして、彼は続ける。
「俺が決めた点は、全てが積み重なって取った点なんだ。作戦、ドリブル、パス……練習のメニューや応援や水や飯、ひとつでも欠けてたらきっとその点は、勝利は無かった。だから点を取った俺が強いんじゃなくて、自分に出来ることを取りこぼさなかった俺たち――上手い作戦を立てたヤツ、相手にボール取られなかったヤツ、真面目に指導してくれた監督やマネ、美味い飯作ってくれた人たち、そしてシュートを決めれたオレ――全員が強いってことになるんじゃないかな」
簡潔に語れない、賢者ならぬ男の長台詞。
間延びしたそれを引き締めるように、九々等八壱は強い口調で締め括る。
「そりゃ先生はクソ強くてさ。基本誰からも殴られねえし、誰でも花を手折るように殺せるもんだから『なんだかなー』ってなるのかもしんねえけどさ。
――人間、きっと死ぬまで
なろうとする奴は別として、と九々等はあえてぶっきらぼうに、突き放すようにも聞こえる声で言った。
人間が独りで成立しているというのはただの驕りだ。
誰もが母から生まれ、父に学び、先祖から受け継いできた財で他人が作った食べ物を買い、関わる全ての人間に影響されてようやく「自分」になる。
……己が人間で、他は花で。
それはきっと錯覚なのだ。
誰もが他者と同じではない。相手は自分と同じではない。
それでも、五条悟も九々等八壱も非術師の誰かも、同じ「人間」でしかない。
「そうではない」と断じたのは、きっと花よりも脆い
全力でぶつかれないこと。全力で抱きしめられないこと。
そんなの、程度の差はあれ誰もが
そこまで言葉には出来なかったが、何となく九々等はそう思った。
言葉が夜に溶けていく。まるで冷たい空気と風に、言葉に込めた熱が奪い取られていくみたいに。
それを無意識で嫌ったのか、九々等は軽口じみた口調で五条に言う。
「そういう意味じゃ、先生はあんがい精神的には弱いのかもな。思いつめてる人みたいだぜ? なんかヤなことあった?」
「僕が、弱い?」
五条悟は、信じられないことを聞いたとでも言いたげに繰り返した。蒼い瞳は、しかして冗談を言ったふうでもない九々等の顔が否定の言葉を吐かないのを見る。
「あくまで精神的にはね。あ、だとしたらホラ、先生を元気づけれる奴はある意味で
縁側で、パーカーにジーンズという姿で座り込んだ男は、まるで星座の話でもしているみたいだった。そんなだからつい、その語る内容に抵抗なく耳を傾けてしまう。
「先生に一秒で殺される程度の強さしかないヤツが、先生の人生を揺るがす『何か』を持ってるかもしれない。それがきっと人間なんだ。つまり、先生は人間舐めすぎってコト。困った時とか誰かを頼った方が良いぜ? 悩みを吐き出すだけでも結構楽になるもんらしいしな」
冗談めかした口調とは裏腹に、彼は真剣に思っていた。
生存競争の中では、きっと暴力以外の強さは認められない。それだけが全てを決めてしまう。
けれどその
例えば愛であったり、美であったり、知恵であったり、思想であったり、協力であったり。そういう多種多様な「強さ」。
ひとりの賢者が世界の法則を変え、100年前に書かれた詞が作者も知らない命を救う。死の病さえ克服し、1億人が協力して国を作る。
それは、暴力では決して辿り着けない『強さ』だろう――。
九々等の頭では、己の内にあるその考えを上手くかみ砕いて伝えることが出来ない。だからありったけの言葉を重ねた。出来るだけ多く伝われと祈るように。
祈り。強者には不要な、弱者が縋るためにあるもの。
九々等八壱は己の弱さを知っている。だから他者を最大限に尊重する。
それがきっと、五条悟と彼との違いだった。
果たして、祈りが通じたのか。
白い息を吐きながら、青い眼の彼はぽつりと言った。
「――親友が、居たんだ」
それが「悩みを吐き出している」と気付いたのは、言葉が続いて暫くしてからだった。
「変に頑固で理屈っぽくて、普段から優しいアピール全開の癖に性格悪いし沸点低いし……規律だ規範だ言ってる割には
思い出すのは、三年間の青い春。
喜びがあった。怒りがあった。哀しみもあった。そして何より、楽しかった。
「俺たちは最強」。そう迷いなく言える友だった。
「――僕が、殺した」
回想は、苦い後味を残してぶつりと途切れる。
声も、すぐに夜風が浚って消えてしまった。込められた感情に対して驚くほどに重さの無い声。それは出来事を消化しきった大人の声で、だから彼の悩みはそこでは無いと直感できた。
「後悔って程じゃない。片時も忘れないなんて柄でもない。ふとしたとき顔を思い出す程度さ」
青い眼が見ているのは九々等ではなく、瞼の裏に浮かぶ
「不思議だよ。思い出すのは、いつも笑った顔ばかりだ。ひとつだけ心残りがあるとするなら、そう」
思えば、その顔が作り笑いかどうかも、もう僕には分からない気がする――。
伏し目がちにそう語る男は、九々等には戻りたがっているように見えた。
親友の笑顔を偽物と疑わなかった昔日へ。
親友と肩を並べ全力で走った青春時代へ。
寂しさも侘しさも感じなかった、過去へ――。
びゅうと冬の北風が吹いて、言葉を南に運んでいった。
過去を惜しむ男が語り終えると、九々等はただ、
「そっか」
と小さく呟いた。息を吐くついでに言葉がついてきたみたいな、少し頼り無い音だった。
彼は迷い、頭をがしがしと乱暴に掻いて、少し考え込んだ後に諦めたように肩を落とした。
「あー、オレ馬鹿だしガキだから、あんまり上手いこと言えねえや。きっと真にそのことを相談すべき人は、先生の周りにたくさん居ると思う……でもひとつだけ言えるなら」
オレは何も知らないけど、と前置きして、九々等八壱は静かに言う。夜の静けさにそっと混ざり込むような柔らかさで。
「その人が先生の中で笑う限り、先生は
ちょっと安心した、なんて言って、それきり彼は口を閉じた。下りた沈黙を慈しむような仕草だった。
反対に五条悟は目を見開いて……何かを反芻するように空を見る。
夜空に浮かぶのは、青白く輝く大きな月と、光の点にしか見えない無数の星々。いつもは比肩するものの居ない月に己を重ね、おまえも1人かと揶揄する所だ。
それなのになぜだか今日は、数多の星に囲まれた月が孤独であるようには見えなかった。
決戦の日、迫る。
五条悟に訪れる結末は、果たして。