やりたかっただけのヤツがひとつ、推測という名の捏造が沢山、原作に無い技がひとつあります
どうか頭を空っぽにして、ノリと勢いで誤魔化されてください
12月中旬、五条家本邸庭園にて。
「できたー!! やっと成功したぜ『合体技』!!」
喜色満面な九々等の声が響く。
どさ、と汗まみれで地面に倒れ込んだ九々等に、五条悟は呆れ半分感心半分で声をかけた。
「全く。よく思いついたね
「えー、こういうの領域使いは誰でも一度は考えるだろ?」
「まさか。考えたこともなかったよ」
今しがたの『合体技』を六眼から得た情報で分析しつつ、五条は九々等に水を投げ渡しながら。
「……極式『
「? オレが?」
「え、何その反応」
「だってさ、強さに貪欲、ってのは理由が無いのに普段から鍛えてるヤツのことだろ? オレはもっとこう、その場その場でやりたくなったことを好きにやってるだけっていうか……今は『最強』に憧れて修行してるだけだぜ。宿儺の決戦も控えてるし……次は勝つ、って虎杖に言っちまったってのもあるしなー」
その言葉に、五条は何度目かの念押しをする。
「……前から言ってるけど」
「宿儺とは1人で
「そう。だからこの『合体技』はきっと使う機会無いよ? 領域使いは少ないし、この技できる程の術師が八壱と相性良いとは限らないしね」
しかしどこまで分かっているのか、九々等の言葉は明るいままだ。
「まあ良いじゃん、この経験が何かに活きるかもだし! できそうな生徒に教えるとかね」
五条は少し複雑な気分で、この楽天家の少年を見やる。
真理を見透かしたような鋭いことを言うと思えば、何も分かっていなさそうな呑気さで笑う。かつての親友とは全く違う雰囲気の、六眼を以てしても未だ測りかねている少年。
全く、なんでこんなのに悩みを吐露してしまったんだか……なんて頬杖をついていると、視線の先で彼が笑顔のまま口を開く。
「それにさ――」
その彼は後なんと言ったのだったか。
記憶の蓋は、来たる12月24日、決戦の最中にて唐突に開かれることとなる――。
2018年12月24日、新宿。
破壊の爪痕を刻まれた、放棄された街並みの中。
この街に居る今はたった4人の人間のうちの1人、五条悟は、さしもの最強とはいえ戸惑いを隠せず思わず溢す。
「……八壱、これどういう状況?」
彼が先程まで両面宿儺と1対1の決闘をしていた新宿は、しかし2人の乱入者を迎えていた。
即ち逃げ込んで来た羂索と、それを追って来た九々等八壱。
五条の呟きに、九々等はいの一番に反応する。
「ゴメン先生、助太刀に来る途中でアイツに邪魔されて……んで勝てそうになった途端宿儺に頼られた!」
アイツ、と九々等が指さす先には、宿儺を盾にするように彼の横に立った羂索の姿。
その姿に、五条は思わず、
「困ったらお兄ちゃん呼ぶ子供かよ」
なんて、呆れたように呟いてしまった。
そんな彼らの遣り取りを前に、羂索は隣の宿儺に笑いかける。
「悪いね宿儺。そういう訳だ」
軽薄な笑みに、しかし天上天下唯我独尊、今しがた1対1の決闘を邪魔された宿儺は。
「まあ佳い。美酒佳肴、一度試してみたかった所だ」
意外にも、と言うべきか。
そう愉しそうに、美食に舌鼓を打っていたらそれに合う美酒を献上された王の顔で笑った。
「それは重畳。ご相伴に与っても?」
「……構わんが、くれぐれも興を削ぐなよ」
「勿論。まだ殺されたくはないからね」
どうも最後のは本音らしく、羂索はそこで軽口を閉ざした。あるいは宿儺が回顧する気配を感じたからか。
呪いの王の脳裏に過ぎるのは、己にその牙を突き立てんと迫った猛獣が如き挑戦者の姿。
『「次」なんかねぇよ、ここで死ね!』
才覚という牙を剥き出しに、呪いの王たる己に喰らい尽かんと迫る恐れ知らずの生意気さ、強さ。
その男の雄姿を、名を、天上天下唯我独尊たる呪いの王は覚えている。
「クク。『次』が在ったな、九々等八壱」
「……どーも、呪いの王様。あんときはそれはもうボロに負けたが――」
そんな男は、「最強」の隣で、あの時と同じ笑みと生意気さで拳を合わせる。
「――今回は1人じゃねえからな、『最強タッグ』でリベンジさせてもらうぜ!!」
その意気に、宿儺の笑みが満足気に深まった。
対して、五条悟は咎めるように彼の名を呼ぶ。
「八壱」
「良いっしょ先生。どうせ相手も2人なんだから、オレが参戦しないと不利だぜ」
はぁ、と五条は溜息ひとつ。こうなったら聞かないな、と半ば諦めながら、ひとまず共闘を受け入れることにした。
「……しっかり付いてきてよ? 八壱」
「勿論! 気ぃ抜いてると追い越しちゃうぜ!」
竜虎の決闘に乱入した若獅子と悪鬼。此処に戦場は、制御不能の混沌に落ちた。
風が彼らの間を通り過ぎる。じり、と空気を焼くのは、高ぶった呪力か濃密な殺意か。
合図は無かった。
ただ、彼等は一様に――
「領」「域」「展」「開」
『
『
『
『
四者同時の領域展開。
二者と比べより煩雑な領域の四者間相殺、各々の結界構築時の対内条件と対外条件の相違。不可視の火花を散らしぶつかり合う四つの必中効果。
――結界が、崩壊する。
四者、領域結界の破片舞う空中から落ちる。
両面宿儺は呪いの王に相応しい不遜な笑みで。
五条悟は余裕綽々と言いたげな不敵な表情で。
羂索は面白いものを見たと書いてある薄笑い。
そして九々等は、若獅子を思わせる恐れ知らずの
着地は同時。動くのも同時。
先ず動いたのは宿儺。
領域展開直後は、一時的に術式が焼き切れ使用困難となる。
つまり今、九々等に術式由来の超防御は無い。
そして宿儺は、五条悟から「術式の回復」の手段を学習している――。
「『
ゾン!! と放たれた斬撃が九々等八壱を袈裟に斬る。空を染める血の赤。
一切の手加減無し、宿儺の全力の『
が。
「ぐゥッ――っ
九々等、健在。その体を切り裂いた斬撃はしかし背中まで抜けてはおらず、負った傷も反転術式ですぐに修復されていく。宿儺全力の『
依然、九々等に術式は戻っていない。呪力量も斬撃を受けきれる程ではない。
ならば何故生きているのか。そのからくりを宿儺は見抜く。
――
「(ククッ、展延でダメージを最小限に抑えたか。
領域展延は術式を付与しない領域を纏う技術、つまり術式が使用不能でも問題なく行使可能。生得術式と併用できない難点も、術式が焼き切れているなら無視できる。
領域展延は、空いた容量に相手の術式を流し込むことでその術式を中和する。今回は宿儺の『
九々等が展延を発動していることを、五条悟は
「(やるね八壱。あれなら即死はないな。今のうちに僕は――)」
宿儺の術式復活と同時、五条の術式も本来あり得ざる速度で復活していた。
五条の狙いは、九々等同様術式が焼き切れている羂索。
「(後に残っても厄介だ。術式が無い今のうちに確実に殺す!!)」
――出力最大・『
無限の順転によって作られる「吸い込む」反応。豊富な手数を持つ羂索も、術式が使えなければ広範囲を圧縮プレスする『蒼』に対応する術は無い――。
ばちゅ、と柔らかいものが潰れる音が響く。次いで舞うのは勢いよく絞られた血。
だが。六眼を持つ五条にはハッキリと分かった。今潰れたのは人では無く呪霊であり、舞った血の色は人体の赤ではなく呪霊の紫。
「危ない危ない」
「チッ、(領域に付与した術式は呪霊操術とは別の術式か!)」
羂索の生存は、呪霊を呼び出し己を庇わせることで『蒼』の効果範囲から辛うじて逃れられたが故。
領域展開時に焼き切れ使用困難となるのは、あくまで領域に付与した術式。羂索が『
ここまで、九々等が展延で宿儺の斬撃を受けたのと、羂索が呪霊で五条の攻撃を避けたのは同時。
選択を迫られたのは宿儺と五条。
「(呪霊操術は使えるようだが、それだけで
「(宿儺から八壱を守るか、羂索に追撃を仕掛けるか――)」
4321――逡巡は刹那。
九々等と背中合わせの五条は、そのままくるりと回転することで自分と九々等の位置を入れ替えた。これにより五条は宿儺と、九々等は自分と同じく術式が焼き切れている羂索と対峙することとなる。
「(八壱は生きてるだけで
「(展延の防御がある以上、九々等八壱に拘泥するのは愚策だな……
利害の一致。向かい合った五条と宿儺が衝突する。
五条の『蒼』と拳を、此方も領域展延で無下限防御ごと中和する宿儺。
展延で当たるようになった拳を防ぎ、カウンターの蹴りを胴に叩き込み――それも腕で防御されたが――つつ、五条悟は訝しむ。
「(案外素直に乗って来たな。宿儺としても羂索を失いたくはないのか、それとも『縛り』の関係か……まあ1000年生きてる術師なら領域展開も1回きりで終わりってことは無いだろうし、対『無量空処』の保険ってとこかな)」
それでもどこか飲み下せないものを感じつつ、五条と宿儺は殴り合う。
同時、九々等も羂索と戦闘開始。領域展延の防御で地中からの呪霊の不意打ちのダメージを軽減、羂索を守る10体程の呪霊の盾を一体一体破壊しつつ、九々等は背中で五条と宿儺の術式がぶつかり合うのを感じる。
「(なんで先生と宿儺はこんなに術式の回復が早えんだ!? 領域がすぐ壊れたから、っつってもそれはオレも同じだろ!?)」
「(彼等がやっている『術式の回復』は、私にとってはリスクが高すぎる。できれば最終手段にしたいね)」
「反転術式による焼き切れた術式の回復」……その原理に見当がつかない九々等と、察しつつも手が出ない羂索。
呪霊の壁がゼロになると同時、そんな両者、九々等と羂索の術式が戻る……その気配を呪力の流れから感じたのか、残る2人の動きはそれよりも一歩早かった。
「八壱!
「! 分かった!」
五条悟の婉曲かつ簡潔な檄に、九々等は言葉内に込められた意図を読み取り二つ返事で反応。
同時、再び呪力が猛る。
「「領域展開」」
今度は五条と宿儺、二者同時の領域展開。
展開された領域は五条悟と宿儺を飲み込むと、そのままサッカーボールくらいのサイズまで縮小した。結界の強度を上げ外部への耐性を上げる「小さな領域」。
その中で、『伏魔御廚子』を背負う宿儺を前に五条悟は勝気に笑う。
「さて、こっちも頑張らなきゃね」
領域内には五条と宿儺のふたりきり。九々等と羂索の姿は無い。領域発動時、術者である五条が2人を除外したからである。
五条悟は宿儺のみを領域に巻き込み、九々等と羂索を領域外部に弾き出した。
『無量空処』の必中効果は領域内にいる五条悟と彼に触れている者以外の全てに及ぶ。つまり九々等を領域に巻き込んでしまうと、彼まで『無量空処』の効果を受けてしまうのだ。手と手を繋いで戦う訳にもいかないので、五条悟は九々等・羂索を領域から除外する選択を取った。
即ち、自分が宿儺を相手取っているうちに、九々等に羂索を倒させるため。
九々等と羂索では九々等が有利。その判断は概ね正しい。
誤算があるとすれば――。
同刻、領域外部。
領域外に弾き出された瞬間、五条悟の作戦を瞬時に理解した九々等は、同じく領域外の羂索目掛けて突進する。
「また1対1だな縫い目野郎。今度は逃げんな、よッ!!」
言うや否や、九々等は腕力:81倍で羂索の頭部を狙う。
反転術式で再生させないための、脳を狙った『
ぐるん、と。
羂索の縫いつけられていた頭上部がスリッピングアウェーの要領で回転し、攻撃と同時頭を回転させ衝撃を受け流した。ぶわ、と空気が震える衝撃は、しかし羂索の脳を貫いてはいない。
だがそれは、そんな芸当を見せる程には追い詰められているということで。
「(勝てる! 追い込んだ!)」
九々等がそう確信した瞬間。
後方に飛びのき、外れた頭を再び縫い合わせながら、
「『1対1』、ね……
にやり、と羂索が悪辣に哂い――
――にィ、と領域内で宿儺が不敵に嗤う。
そして。
羂索を追おうとした九々等の背を、
「が――!?」
鮮血が舞う。骨肉を裂く激痛に、九々等の視界が真っ赤に染まる。
反射で防御力:81倍を出せたのは、羂索に対する警戒心の高さが幸いした形であった。術式対象の変更があと0.2秒遅れていれば、その時点で九々等の命は危うかっただろう。
ばつばつ、と絶えず全身に走る斬撃。それを術式由来の超防御によって掠り傷で抑えつつ、負った傷を反転術式で再生させながら九々等は今の攻撃の正体を探る。
全身を襲う斬撃。周囲の道路や建物を切り刻んでいく不可視の攻撃は、雨のように止むことなく周囲の全てを襲い続ける。
「(これは――宿儺の領域の必中攻撃!? でも
困惑はしかし、次いで展開した簡易領域によって氷解する。
簡易領域を発動した瞬間、斬撃は九々等を襲うのを止める。だが凄まじい速度で簡易領域が剥がれると同時、再び斬撃が九々等を襲った。
「(この領域強度、間違いなく宿儺の領域! でもなんで――)」
その時、九々等の脳裏に過ぎるとある光景。
『折角だ。冥土の土産に教えてやろう、「本物の呪術」というものを』
瞬間、刹那に走った驚愕はふたつ。
「(――まさか!?)」
同時、推測する余裕を断ち切るように、九々等の体に重圧が圧し掛かった。
「ぐ!」
がくん、と墜ちる膝が地面に減り込む。羂索の重力の術式。次いで放たれた顔面への蹴りは防御力:81倍の前では大した威力では無いが、とにかく体が動かないというのが厄介。
だがそんな妨害を受けつつも、九々等は現状を理解した。
「(宿儺の領域は
『
そして、驚愕すべきはもうひとつ。
「(オレと違って
斬撃に削られていく街の中に在って、重力を繰る九々等の目の前の羂索だけが無傷だった。何か防御をしているという訳では無く、斬撃が街の中で彼だけを襲わないのだ。
五条悟の誤算。それは宿儺が、その卓越した技量によって、領域内から領域外への援護を行う可能性を考えなかったこと。
九々等の全身を襲う斬撃は止まない。重力に押さえつけられた状態では、最低でも体重:1/9倍を使わなければ立ち上がることすら不可能。だが、
「(防御力:81倍を解くべきか……!? 数秒だけなら……
九々等は術式対象を変更できないでいた。
九々等の術式『冪乗呪法』の弱点は、同時に使用できる術式対象が最大2つまで、『冪』なら1つまでだという点。つまり『冪』を使った81倍の超防御を使いながらでは他のものに術式を使えない。
悩んでいるうち、フッと重力が掻き消える。
「!」
九々等は咄嗟に立ち上がり、羂索へ肉薄して格闘戦を挑む。
迫る九々等の蹴りを両手を交差させ受け止める羂索。蹴りにはその呪力防御を貫ける威力は乗って居ない。
「(大体5~6秒か、重力術式の継続限界! だが――)」
「重力が途切れても宿儺の斬撃は途切れない。君の得意の超威力攻撃は、『伏魔御廚子』の必中効果範囲内では使えない」
羂索の言い当てた通り。
『伏魔御廚子』の効果範囲内では、九々等といえど守りに入らざるを得ない。その状況で『伏魔御廚子』の効果を受けない羂索を倒すのは至難と言えた。
あえなく10発目の拳が受け止められ、再び九々等を重力が襲う。
「ぐ――(インターバルも5~6秒! そういう『縛り』だなコレ! クソ、どうする――)」
片膝を付く九々等に、しかし羂索は防御力:81倍を無視して九々等を殺す為の呪霊を出さない。呪霊操術で操る呪霊は、式神と違い術者本人の呪力で構成されている訳ではない。故に『伏魔御廚子』の効果範囲内で呪霊を出せば、その呪霊は一瞬で宿儺の斬撃に祓われる。
ならばどうするか。
倒れた九々等を更に地面に打ち付けるように、その背を重い衝撃が貫く。
「がッ――」
羂索が放ったのは、自分自身に超重力を上乗せした踵落とし。防御力:81倍を、80Gの力で突破する荒業。みしり、と背骨の奥で鳴った嫌な音が全身に響く。
「(頭を狙ったつもりだったが。自分に重力を乗せると狙いが狂うな……)」
「ぐ――(防御を貫かれた! この威力、受け続けるのは不味い!)」
降る二撃目が狙うは頭部。
九々等は咄嗟に防御力:9倍に倍率を切り替え、余った術式対象で体重:1/9倍を発動、二撃目の踵をなんとか躱す。
それにより頭蓋骨が踏み砕かれるのは避けられたが――。
「――ッ」
ばつばつ、と全身に走る斬撃。一撃一撃はそこまで深い傷ではないが、確実に肉を裂き血が流れ、痛みが脳から正常な判断力を奪っていく。
すぐに簡易領域を発動するも、宿儺の領域に対しては数秒の時間稼ぎにしかならない。
だが、数秒で充分。
「(6秒!)」
羂索を中心に展開されていた超重力圏が消滅する。
同時、九々等は術式対象を切り替えながら前に出た。
体の硬さ:81倍――
「
再び九々等の体は襲い来る斬撃を弾き。
振るわれた拳が、羂索のガードした腕にミシミシと防ぎきれない衝撃を与える。
「(これは防御力:81倍ではない!? 鈍器で殴られているような感覚!)」
体の硬さ:81倍……その効果は防御力:81倍と似通っているが、主な相違点はふたつ。
1つ。単純に肉体の硬さを増すため、副次的効果を低減することはできない。
2つ。肉体の硬さを上げることで、全身が鈍器と化し格闘力も上昇する。徒手の拳と鉄鎧の手甲を付けた拳、どちらの方が殴った時の威力が高いかは自明の理。
「(攻防一体という訳か! だが――)」
鈍器の如き硬さの殴りや蹴りを防ぎつつ、芯まで響く痛みを感じつつも羂索のカウントの正確さは揺るがない。
金属バットをフルスイングしたみたいな蹴りが羂索の腿に入り、動きが鈍ったそこをすかさず追撃せんと九々等は踏み出す。
その瞬間。
「6秒経過」
ズン! と再び九々等の全身を重力が襲う――。
だが。
「さっきはよくもやってくれたな――お返し、だッ!!」
九々等は天才的なセンスを以て重力発生直前に飛び上がり、タイミングを合わせての踵落としを放つ。それは先ほど羂索がやったように超重力に後押しされた、硬度:81倍状態だけでも即死の威力を手に入れた一撃。
死の踵が降り、一切の抵抗なく地面まで墜ちる。罅割れるアスファルト――その蹴りの軌道にあった羂索の右腕は防御も空しく抉り取られ、掠った鎖骨が粉砕する。
「く――(重力のインターバルを読まれ、逆に利用されたか!)」
「何回もおんなじことやりやがって、流石にバカでも分かるぜ馬鹿が!!」
更に接地と同時簡易領域を発動、一瞬だけ体重:1/9倍×速度:9倍に術式対象を切り替えることで羂索の胴に連撃を叩き込み、その体をよろめかせ後退させる。
右腕使用不可の重症に胴に入れた攻撃で反撃困難なダメージ。追撃すれば勝負は決まる――だがそこで簡易領域が砕かれ、再び全身を襲う斬撃に肉体の硬さ:81倍を発動せざるを得ない……すると重力が体を襲い、追撃の足は止まってしまう。
九死に一生を得た羂索は、反転術式で右腕と鎖骨を治療しながら戦慄する。
「(九々等八壱――真に恐ろしいのはこの対応力、天性の戦闘センス! 術式の超防御から反撃の一手に繋げつつ、即死級の攻撃を放つ機会を伺っている怖さ!)」
羂索は反撃として重力を乗せた手刀を肩に放つも……殴った掌を貫く痛み。防御力:81倍の時には無かった物理的硬度が、殴った者の拳を無傷では返さない。
攻防の趨勢が援護の不利を覆し九々等に傾きだした、その時――もう片方の戦場の趨勢もまた動く。
カシャァン!! という音と共に、五条悟の領域が破壊される。
宿儺による領域の外殻攻撃に、耐久限界を迎えた領域結界外殻が破壊され、領域が崩壊したのだ。
同時、重傷を負った宿儺の領域のシンボルたる『伏魔御廚子』も消滅した。
再び互角――否。
「(なんだ!? 今、ひとりでに宿儺の領域が崩壊した……!?)」
今回、『伏魔御廚子』は「崩壊」ではなく「消滅」した。五条が宿儺に痛打を与えたのはその
六眼を有する五条は、そのことから宿儺の取っていた手段を逆算する。
「(発動時間を制限することを『縛り』とした威力の底上げか! だがそれは無意味だろ!? それじゃあ良くて『引き分け』にしかならない――違う! 八壱か!)」
宿儺の目的は領域外に居る九々等への攻撃にあった。
今まで効果範囲を絞ることで威力を増していた斬撃、その効果範囲を元に戻し、代わりに発動時間を絞ることを『縛り』として出力をカバー。結果、領域内では五条悟と互角の戦いを演じつつも、五条には出来ない領域外への援護までやってのけたのだ。
五条悟相手に領域の維持可能時間を絞るという胆力と、正確無比なる戦術演算。そして羂索を術式対象から外す卓越した領域技術。
まごうこと無き、呪いの王。
同時、羂索も動いていた。
サッカーボール程の大きさの『うずまき』。それを展開し、無下限防御の無い術式焼き切れ状態の五条悟を狙う――。
「させるかよ!!」
そんな五条を狙った射線に素早く割り込むと、九々等八壱は地を蹴り砕く。
持ち上がった瓦礫のひとつを掴み、それを術式を流し込むことで即席の盾とする。
瓦礫の硬さ:81倍!!
鉄を遥かに超える頑丈さを与えられた大岩は、迫る『うずまき』の怒濤を防ぎきった。
五条を守れたことに九々等は岩陰で安堵するが、羂索もまた完全に目論見を外された訳では無かった。
「(良いのかな? 五条悟が術式を使えないということは、宿儺も
決して口には出さず、意地悪く哂う。
羂索の狙いは、宿儺が術式を回復する時間を稼ぐこと。術式の焼き切れた宿儺が九々等に即死させられることを防ぐため、九々等を防御に回す為の『うずまき』。当然、五条悟が痛手を負うならそれでも構わないというどちらに転んでも得である、老獪な戦術。
その献身により、宿儺・五条の術式が回復する――が。
「(――羂索は生存、八壱も術式回復を持つ宿儺の隙を突けるコンディションでは無いか? 考えろ、次の領域はどうする? 閉じない領域を使える以上、一か八か八壱を領域内に巻き込んで術式対象から除外できるか試してみるしかないか? くそ、どうする――)」
ことここに至って、五条の中には迷いが在った。
常に一人で戦って来た五条悟は、集団戦の経験が浅い。あるいは隣に居たのが夏油傑なら違ったのかもしれないが……とにかく彼は、味方に頼ったりその戦力を勘定に入れて戦術を考えた経験が浅いのだ。
――五条悟、刹那の逡巡。
故にそれを切り拓くのは、今五条に並び戦っている
「先生!
「!」
婉曲な言葉に、一瞬で言わんとすることを理解する。
選択肢にはあった。除外していたのは、失敗時のリスクが高すぎるからだ。
だが、何故だろう――今なら出来る、むしろそれが最適解だ、と五条悟は直感した。
術式復活とほぼ同時、無下限呪術の座標圧縮による高速移動で九々等の隣へと移動した五条は、意図を悟られないように言葉少なに問う。
「どうする?」
「当然、2人とも巻き込む!」
「OK。分かってると思うけど、結界の対内条件と対外条件は逆転させてよ。奴ら、外から領域を破ろうとしてくるから。――それじゃ、
「
失敗すれば高確率で2人とも死ぬ。だというのにその声には微塵の迷いもない。
嗚呼――今胸を掠めたのは、かつての青い春の残り香か。
懐かしいような、初めて味わうような、奇妙な高揚感が五条悟の中で騒ぎ出す。
思い出す、あの日の言葉の続き。
『それにさ――本番で決まったら絶対最高だぜ、コレ』
そう、彼はそう言って笑ったのだ。ちっとも似ていないのに、どうしようもなく
嗚呼、自分は薄情なのか。それともこれは気の迷いか。
それでも……自然と笑顔になっている自分が居た。
「――今日だけ特別、青春延長戦ってとこかな」
溢してしまった軽口は、隣の彼に聴こえたか。あるいは亡き彼に聴かれてしまったか。
どちらでも構わない。今はただ、胸に澄んだ青の高鳴るままに。
「(文句があるなら止めに来い――)八壱、ちゃんと
「当然! そっちこそミスんなよ先生!」
口調が荒くなってしまったのも気にせず、五条悟は九々等と共に『合体技』の構えを取る。
2人とも片手で掌印を組み。
その腕を隣へ伸ばし、相手の腕と交差させる。丁度「×」、つまり掛け算の記号を作るみたいに。
即ち、ここに数式は成立した。
『無量空処』×『玖繰醍奔蓮』――
「「
声が重なり、ここに解は現実へと変わる。
そう、平安を生きた彼等なら知っていたかもしれない。日本にて古来より漠然と数が多いことを示すのに使われた数字――つまり、「無限」を表す数のことを。
それは傾ければ
なればこそ、8と9が重なり連なるように。その結果は必然だったのであろう。
ふたつの領域が融合した、その領域の名こそは。
『
触れられぬ無数の星しかない、無限と続く荒涼の夜闇でもなく。
黄金の蓮の花弁で囲まれた、閉ざされた金一色の浄土でもない。
無限の星々が
――此処に、「最強」は全く未知の境地に至った。
彼の隣に並び立った少年は、かつての
「忘れんなよ先生。アンタは独りで戦ってるワケじゃないってコト!!」
「――そうだね。行くよ八壱!」
師弟は、友は、2人は笑う。勇者のように獰猛に、それでもどこか楽しそうに。
きっと、今だけは。並び立った九々等八壱にとってそうであるように。
この
そうして、
領域に付与された二重の必中必殺の術式が、宿儺と羂索に炸裂した――。