「なんだそりゃあ!!??」
モニターを見ていた日下部篤也の声が響く。
新宿決戦を見守る高専内のモニター室。
羂索が九々等を引き連れて参戦して来た時も、宿儺が領域の効果範囲を広げながらも無量空処外殻を破ったときも彼は「なんだそりゃあ」と叫んでいたが、今回のはそれよりも一層大きな声だった。
日下部を驚かせたのは――五条と九々等の領域融合。
「アレは――2人でひとつの領域を発動している?」
「領域を合体させて破られにくくしたのか!?」
日車、虎杖らが口々にそう叫ぶ中、日下部だけが首を振る。
「いやいや……狙いは兎も角、あり得ねえだろ!」
「何が有り得ないんですか?」
三輪の純粋な疑問に、日下部は己にとっての――呪術の常識を叫ぶ。
「領域展開ってのは結界内に生得領域を具現化する技術……例え結界外殻を協力して作ったとしても、そこに具現化できる生得領域はひとつだけ! ふたつの生得領域なんか出したら重なった生得領域がぶつかりあっちまって、成立前に領域が崩壊して終わりだ! 単純な話、生得領域――精神ってのはぶつかれば拒絶し合うもの! ひとつの器にはひとつの中身しか許容されない、それが領域のルールなんだよ! だから領域の押し合いなんてことが起こるんだろうが!」
彼の発言は正しい。領域を融合させるなんて前代未聞、成功するハズが無い。
だが領域内に取り込まれた烏の視点を追う限り、融合領域が崩壊する兆しは無かった。
「生得領域が混ざり合っている……?」
その発言と日下部の説明を受けて、答えに辿り着いたのは家入硝子だった。
「生得領域が精神の具現だとするなら……お互いの全てを受け入れるような精神状態であれば、あるいは……?」
だが、言った彼女すら思わず「あり得るのか?」と疑ってしまう。夏油傑とならともかく、五条悟が出会って間もない、年齢差も大きい
その言葉尻の弱さは日下部にも伝わったらしい。
「んな馬鹿な。生得領域ってのはそう簡単に――」
「議論は後だ。動くよ」
と、日下部の言葉を冥冥が遮った。
モニターの先、混沌と化した戦場が大きく動く――。
領域融合『
「忘れんなよ先生。アンタは独りで戦ってるワケじゃないってコト!!」
「――そうだね。行くよ八壱!」
黄金の浄土の天を裂き、無窮の天蓋が星々を瞬かせる。
足元を擽る黄金の蓮華の上、漆黒の星空に見下ろされながら、宿儺・羂索は咄嗟に領域を展開した。
「――ッ」
「(何かあるとは思っていたが、これは――)素晴らしい!!」
融合領域展開『
宿儺・羂索は領域最盛期の平安を生きた術者。領域展開への反応は反射レベルで体に刻まれており、領域融合という未知の領域にも完璧に反応できている。
だが、それは状況が互角という訳では無かった。
『無量空処』の必中効果――領域内の術者以外へ無限回の知覚・伝達を強制し、情報圧による脳負荷で対象の思考力・行動力を奪う。
『玖繰醍奔蓮』の必中効果――領域内の術者以外への思考速度:1/81倍により、対象の状況対応力を大きく削ぐ。
ふたつの必中命令はお互いを相殺せず、重複して領域内の術者以外へと炸裂する。ここでいう「術者」とは五条悟と九々等八壱、領域を合同で展開した二者のことであり、お互いの必中術式はお互いを襲うことは無い。
言うなればそれは、情報処理能力を大きく低下させた相手の脳に無限の情報量を叩き込む――名を。
「喰らえ」「必殺」「「八十一倍無量空処!!!!」」
五条と九々等が同時にびしりと指を突き付け。
同時、その先に居る宿儺と羂索に異変が起こった。
「(! 思考速度の鈍化、九々等八壱の領域の必中術式――)」
「(これは無量空処……だが思考停止というレベルではない、
宿儺は『玖繰醍奔蓮』の必中効果を受けた経験が、羂索は『無量空処』の必中効果を見た経験がある。故にそこから己が今受けている術式効果をある程度分析することが出来た――が、不可解。
「(何故必中効果を受ける! 領域は間に合っている……まさか、これは、)」
「(必中効果を相殺しきれていない!?)」
ふたつが重複した必中の術式は、ひとつの必中命令では相殺しきれない。しかし『
お互いに必中を邪魔しない2つの術式と、邪魔をしあってしまった2つの術式の衝突。
結果、相殺し切れなかった二重術式は、元の出力と比べればごく僅かにではあるがしかし確実に、宿儺と羂索にその効果を与えていた。
「八壱!」
「ああ、効いてんね! と来たら、」
「
「オッケー、2人で殴り倒すぜ五条先生!!」
同時、五条と九々等が動く。
『無量空処』の必中効果は術者本人と判定されている九々等を襲うことは無い。つまり融合領域内では五条・九々等は自由に行動できる。
2人は地を蹴り――
宿儺の顔面に五条悟の拳が、
羂索の腹部に九々等の蹴りが、それぞれ
宿儺、羂索の防御は間に合わず、モロにその攻撃を受けてしまった。何故なら。
「(知覚・伝達の重複と思考速度の鈍化、これは、)」
「(反応が遅れる!! 相手の動きに対応できない!!)」
相殺しきれない無限の情報量と思考速度:1/81倍が、確実にその対応力を削いでいる。
慌てて羂索が必中効果をオフにし、術式効果の相殺を宿儺に譲る……が、それでも二重の術式に対抗するにはパワー不足のまま。
このままでは無防備に攻撃を受け続け、領域維持が困難な程のダメージを叩き込まれてしまう。
そう察した宿儺は、あの時のように――かつて九々等の思考速度:1/81倍を無制限で受けたときのように、普段にも勝る速度で即断した。
「(このタイミングで!?)」
宿儺の影から現れた巨体の式神――魔虚羅に、思わず五条の足が止まる。その動揺は融合した生得領域を通して九々等にも伝わった。
魔虚羅。宿儺が持つ無下限防御を破る、領域以外の唯一の手段。五条がずっと警戒していた式神。
五条が術式反転『赫』を構え。
九々等が体の向きを変えて跳躍しようと力を溜め。
それよりも早く、魔虚羅が足元、結界下部である黄金の花園に、地を砕かんばかりの勢いで右腕の剣を突き立てる――!
――だが。
金蓮華の大地、健在。
魔虚羅の一撃によって領域が崩壊することは無かった。
同時、黒金の世界が真紅に染まる。
「術式反転『赫』!」
五条の『赫』が魔虚羅に直撃――魔虚羅に回避や防御の素振りは無かった。赫き呪力の波動がその上半身の半分、右肩から腹辺りまでを消し飛ばしたものの、五条に焦りがあったからか一撃で破壊することは出来なかった。
魔虚羅に動きは無い。否、動きが極端に鈍い。
その理由が九々等と領域を共有している五条にはすぐに分かった。
「(既に『無量空処』に適応している――だが『玖繰醍奔蓮』には対応出来てない、となれば)」
それならば魔虚羅が融合領域を破壊できなかったことにも説明がつく。恐らくここでの魔虚羅召喚は、宿儺にとっても一か八かの博打だった。そして彼は
確信。
宿儺と羂索の領域が消滅し、八十一倍無量空処が無制限で炸裂したなら――魔虚羅を完全に破壊し切るまでもなく、その時点で五条・九々等の勝利は確実となる。
「(優先するべきは敵領域の破壊! 融合領域の外殻強度なら宿儺の斬撃相手でも絶対に5分以上耐えられる!)」
――宿儺・羂索に領域維持困難なレベルのダメージを与え、彼らの領域を破壊する。
それで全ての決着が付く。そしてそれは充分可能である、と五条悟は判断した。
魔虚羅に背を向け再び宿儺に迫ると同時、魔虚羅対応の為動こうとしていた九々等も再び羂索に肉薄する。生得領域共有による以心伝心。
五条の踵落としが宿儺を強打する。宿儺の防御は間に合わない。
九々等の手刀突きが羂索の肩を貫く。羂索の回避も遅れている。
「(宿儺も羂索も動きが鈍い! 今も相殺し切れない分だけ術式の効果を受け続けている。魔虚羅は相殺しきれない分の『思考速度:1/81倍』の効果を受けていてほぼ戦力外。これなら3分と言わず、1分以内に領域維持不可能なレベルのダメージを与えられる!!)」
宿儺に連撃を当てながら、九々等が羂索を追い詰めるのを感じながら、五条悟はそう確信する。
領域外殻が『伏魔御廚子』の斬撃をフルで受けたとしても絶対に間に合う。融合領域の外殻強度は元来の単独領域の限界強度の約2乗、いくら宿儺でも初見では正確な対応は不可能なハズ。羂索は領域を展開してこそいるものの、宿儺の必中効果を邪魔しないために領域内での必中命令をオフにしているのが六眼を持つ五条には分かる。
つまり、もう敗北の要素は無い――
――勝てる!
五条悟はそう確信し、その確信は九々等にも伝播。強い想いは拳に乗りその威力を高め、蹴りのキレを確実に上げる。
宿儺が領域展延を発動して反撃の拳を繰り出すも、その動きのキレは格段に悪く、五条にクロスカウンターを決められてしまう。
羂索が重力術式を発動するも、読んでいた九々等に逆利用されマウントポジションを取られ、重い拳に術式を解除せざるを得なくなる。
――
更に五条と九々等のボルテージが上がる。
魔虚羅が宿儺を守ろうと動くも、思考速度を制限されたその動きはあまりに鈍く、五条に簡単に無視され宿儺を攻撃されてしまう。
羂索が呪霊を呼び出すも、魔虚羅と同じく相殺しきれない八十一倍無量空処の余波でまともに命令を聞くことは出来ず、九々等に秒で祓われるか無視される。
結局、領域内での戦闘は一方的なままだった。
融合領域展開から丁度53秒後。
五条の指が宿儺の心臓を貫き。
九々等の水月蹴りが羂索の内臓を破裂させ。
反転術式の間に合わない程の大ダメージを負った、宿儺と羂索の領域、『伏魔御廚子』と『胎蔵遍野』が同時に崩壊する――
――
「(な――)」
意味不明、理解不能。
驚愕の中、しかし確かに五条と九々等は
ボロボロと崩れていく『
「――
五条悟はその正体を見破ると同時、融合領域が何故破られたのかを理解した。
領域は「破壊」ではなく「解体」されたのだ。
羂索が領域に付与していた必中術式は重力ではなく呪霊操術。融合領域の外殻に及ぶ必中範囲により結界外に天元を呼び出し、融合領域を丸ごと空性結界で覆って分析・解体させた。
領域展開時の刹那の判断。領域融合への対応だけに限れば宿儺よりも、1000年呪術の新たな可能性を求め続けた羂索の方が上手であった。
「(完全にノーマーク! 宿儺の方を警戒し過ぎた! 天元が羂索の手に落ちたって話は聞いてたのに……我ながら浮かれすぎだな全く!)」
――空性結界による領域の分析と解体。
そう、それがかつて羂索が身を以て経験した対領域の策であり、空性結界の真価であった。
領域崩壊による術式焼き切れにより呪霊操術で操られた天元は虚空に消え、同時空性結界も解除されたが、六眼を持つ五条悟にはその一瞬で十分だった。
「(だが天元の呪力は覚えた。アレさえ消せば羂索の企みは阻止できる。それに)」
「(五条悟に六眼がある以上、同じ手は二度使えない。天元を再び使うのは止めた方が良いな。つまり、もし再び
崩壊する領域の中で羂索が悩めたのは一瞬。
即座に四者は再起動する。
五条は「術式の治癒」を行いながら魔虚羅を消した宿儺に。
九々等は領域展延を発動して羂索に迫る。
宿儺は「術式の治癒」を行いながら五条を、羂索は九々等を迎え撃つ形。
五条の裏拳をぱしと手の平で受け、そのまま掴んで引き寄せることで肘打ちを顔面に叩き込もうとする宿儺。その肘を此方も手のひらで受け止め、直前で止める五条。
領域に付与した呪霊操術ではない、重力術式で九々等の接近を阻む羂索、飛び道具として瓦礫を蹴ってシュートするも重力に撃ち落とされる九々等。
領域内と違い、互角。寧ろ羂索は術式がある分九々等に有利か。
全員術式が焼き切れ手数が減っているが故の数手の互角。
だがその時間は長く続かない。
反転術式による治癒で五条悟の術式が復活する――つまりそれは宿儺の術式も復活することを意味する。
「(宿儺は術式復活と同時に領域展開を発動してこっちの融合領域を潰しに来るはず――後追い融合は至難だが今の
五条は一息でそこまで思考を組み立て、
しかし、そんな予測を裏切るように。
「――『
宿儺は領域展開ではなく、単純な術式攻撃で九々等を狙った。
咄嗟に宿儺と九々等の間に割り込み、『御廚子』の斬撃を無下限防御で霧散させる五条だが、その内心の驚愕と困惑は隠しきれるものではない。
「(なんで宿儺は領域展開を使ってこない!?)」
五条の当惑は自然。それが最適解であることは宿儺だって分かっているはずなのに、何故。
「(相殺を嫌って単純な術式で八壱を殺す為か!? どうする、宿儺が使ってこないなら僕も領域展開する必要は無い、八壱の術式回復を待って確実に領域融合するか……それとも今の宿儺には領域展開できない理由があるのか? そうは
六眼による呪力分析では、宿儺にそのような不調は見受けられない。
後追いの領域融合が成功する前提で動いているのか……確かに五条からすれば分が悪い賭けではないが、もう宿儺側にはそれに縋るしか選択肢が無いハズ。
あるいは――何かあるのか。領域融合に対する策が。
心中に沸いて出た不穏な予感、「今領域展開しなくていいのか」という内心の焦りを、しかし五条は理性と思考で抑え込む。
「(今単独で『無量空処』を展開するよりも、絶対に領域融合の方が有効なはずだ! 後追い融合は成功率が怪しいし、
――宿儺は悪手を打った。
最終的に、そう五条悟は判断した。相殺しきれない僅かな分だけとはいえ、八十一倍無量空処を約1分間喰らったのだ。判断力――脳に何らかの不調があっても不思議はない。
宿儺が斬撃を飛ばして九々等を狙うのを防ぐため、五条は宿儺へ距離を詰め近接戦を挑む。宿儺も領域展延でそれに応戦。
羂索の重力術式の効果時間が切れる。それを察知した九々等が羂索に突進する。
五条の拳と宿儺の拳。
九々等の飛び蹴りと羂索の交差した腕が激突する。
まるでそれが合図だったかのように、羂索と九々等の焼き切れていた術式が復活。それを宿儺も五条も察知する。
「先生!」
「ああ、これで決める!!」
呼ぶ一言で意図を理解。五条・九々等は再び並び立ち掌印を交差させる。
刹那、五条は、羂索に掌印を組む様子が無いのを見る。こちらはしっかりと掌印を組んだ宿儺に対処を任せるつもりか。
そして
誰の思惑も、逡巡も、もう全ては後の祭り。
領域融合、
「「『
二度目の融合領域が成立し、結界内に取り込まれた宿儺と羂索を必中術式が襲うまであと0.01秒もない。
その刹那の内で、宿儺は思考する。
一度見せた以上、羂索が操る天元による領域解体はもう使えないものと考えて良いだろう。
無策で領域展開するならば二重の必中術式を相殺しきれず、強度を増した外殻を破壊する前に内部の戦闘で押し負ける。
一度受けただけの魔虚羅では、この僅かな時間で『玖繰醍奔蓮』への適応は間に合わない。例え間に合ったとしても、ソレとも『無量空処』とも違う『
残るは羂索との領域融合だが……不可能、と宿儺は断じた。領域融合は天上天下唯我独尊である宿儺には決して習得できない技術。あるいは裏梅なら彼に合わせられるかもしれないが、宿儺と羂索の相性はあまり良くない。試しても失敗するだけだろう……それは羂索も分かっているはず。
敗色濃厚。それを確かに認めながら、しかし宿儺は口の端を吊り上げた。
「(……あの時とは立場が逆になったな、九々等八壱)」
どれを選べど、死。
ならばどうするか。
それを 教えてくれたのは――
「(
両面宿儺、一か八か――0.2秒の領域展開!!!!
0.2秒は宿儺が勘で設定した。『伏魔御廚子』の上限発動時間を短くすることで術式密度を凝縮できる限界の時間。
領域展開を短時間で終了させることにメリットは無い。だからこそそれを『縛り』とすることで斬撃の威力を底上げ――否、最大展開時間で放てる斬撃を0.2秒間の内に一息に放つ。当然ある程度の総攻撃力の減少は避けられないが、融合領域内の必中効果を捨てることでそれもカバー。
神がかりな技術力と胆力が無ければ成立しない、神業であり荒業。
超密度の斬撃を0.2秒のうちに叩き込まれ、融合領域が――五条と九々等の必勝の策が、崩壊する。
ガシャァァン、と崩壊の音が長く残響する中で、宿儺だけが全てを理解し嗤っていた。
「クック。0.2秒の領域展開、斬撃密度の限界圧縮――この手は間違いなく博打だった。圧縮した斬撃で融合領域外殻を破壊できなければ俺の敗色は濃厚だったが……」
結果はこの通り、と言わんばかりの
1秒、2秒……五条、九々等はようやく状況を理解し、驚愕で固まった表情を動かすに至る。尤もそれはいつもの強気な笑顔ではなく、大量の汗を流す憔悴を隠しきれない表情だったが。
そんな2人の表情を見て笑みを深め、駄目押しとばかりに影から魔虚羅を呼び出す宿儺……ガコン、と方陣が回転する音が響き、魔虚羅の抉れていた上半身が元に戻る。適応したのは『玖繰醍奔蓮』にか、それとも領域融合にか。
魔虚羅を出したのは損傷をリセットさせる為だったらしく、宿儺はすぐに魔虚羅を己の影に仕舞った。
その間に、五条はなんとかこれからの戦術に思考を回せるだけの余裕を回復させる。
「(領域に時間制限を付与することによる術式効果の上昇……クソ、それは『既に見た技』だったのに。僕の想定が甘かったな)」
さしもの「最強」も、この状況には――領域融合を攻略されたことには焦りを隠せない。
だがまだ心は折れていない。術式を反転術式で治癒しながら考える。
「(
しかし、その確信とは裏腹に。
ズキンッ、と領域を展開しようとした五条の頭の内側に激痛が走り、その鼻からボタボタと血が零れる。
「五条悟。貴様はもう領域を展開できない」
そう告げる宿儺は五条と同じく反転術式による術式の回復を行っている。つまりそのからくりを理解している。
それは、右脳の前頭前野を己の呪力で破壊し反転術式で治癒することで焼き切れた術式をリセットするというとんでもない荒業。一度でもリスクが高すぎるその行為を都度7回――とある理由で本来よりも多い回数持ったが――領域展開不可という後遺症が出るのも当然と言えた。
「肉や骨を治すのとはわけが違う、限界だろう? 仮に領域を出せたとしてもその時点で死ぬか、俺に対抗できるほどの精度は出せないさ。反転術式によって術式を復活させたのはお互い様だが、俺の方は貴様より二度回数が少ないぶん余裕がある」
そして宿儺は視線を、未だ術式の回復していない九々等の方へ向ける。
「九々等八壱、オマエもだ。尤もオマエの理由は『呪力切れ』、だがな。もう領域展開できる程の呪力は残っていないだろう?」
「……当たり」
宿儺の指摘に、九々等は悔しさを隠しきれない強がりで肯定した。
六眼を持つ五条、呪いの王である宿儺。二人と比べると九々等の呪力効率は雲泥の差。そもそも一日に三度も領域展開が出来ただけでも奇跡的な呪力効率の良さであり、五条・宿儺がずば抜けているだけなのだが。
そんな2人を前に、宿儺は語る。絶対的優位――勝利を確信した者の顔で。
「俺が圧縮領域を融合領域に先んじて使わなかったのは、この状況が欲しかったからだ。貴様ら2人が領域を失い、此方はどちらも領域を失っていないこの状況が。無論、どちらかに圧縮領域を耐えられてしまえばその時点で敗北するという可能性も考えた上での判断だがな。それは術式効果の圧縮が『出力上昇』ではなく『早回し』である以上、九々等八壱の超防御を踏まえると充分警戒に値する。だから俺は
欲しかったのは「確実な
五条悟にとってのそれは無制限の八十一倍無量空処の直撃であり、
宿儺にとっては、五条悟・九々等八壱から領域を奪うことだった。
そして、どちらが描いた勝利の予想図を現実に出来たかは、最早言うまでもないだろう。
片や勝者の笑みで立つ宿儺、優位を確信し余裕を取り戻した羂索。
片や地面に片膝を付いた五条と九々等。
これで詰み。
宿儺はそう確信し、頭上に方陣を出現させる。無限に適応し無下限防御を攻略するための方陣を。
「俺に敗北を覚悟させたのは天晴だ。誇るがいい。だがその奮闘もここまでだな。後は俺と羂索、どちらかの領域に閉じ込め動きを止めつつ、まず九々等八壱を殺し、その後貴様の無限にも対応させてもらう――」
羂索は領域を温存している。術式の
敗北を覚悟した五条悟・九々等から反論は出ない――否。
「ハッ。殺れるもんなら殺ってみな、王サマ」
反撃の気力も手段も無い癖に立ち上がった男――九々等八壱が死に際ですら中指を立ててそう言うことを、呪いの王は知っている。
「ククッ。どこまでも生意気な奴だ。先ずはその指から落としてやる――」
宿儺の愉悦に満ちた言葉を合図に、羂索が領域を展開する――。
ボタタ、と。
羂索の鼻からも血が零れた。
「!?」
領域は展開されない。五条悟・九々等八壱に術式が戻っている場合、高速移動で逃走される恐れがある。
宿儺は咄嗟に「外殻を持つ領域」を展開しようとして、
ボン!! と。
現れた『
宿儺も鼻から流血する。それが意味するのは、深刻な脳へのダメージ。
宿儺・羂索両名が八十一倍無量空処を無制限で受けたのは0.2秒。殆どを相殺した術式効果は、無制限の無量空処に換算すると17秒にも満たない。思考速度:81倍は直接『無量空処』に作用しているとは言えない為、実際の効果量はもっと少ないと考えるべきだろう。
それでも両名共に、領域を展開するのが不可能になる程のダメージを脳に負っていた。
特に宿儺は、本来羂索よりも『無量空処』に耐性があるものの、度重なる術式の
形成逆転、詰みの盤面は崩れた――否、そんなものは初めから成立していなかった、砂上の楼閣であったのだ。
「はっはっはっ!! しっかり効いてるじゃねえか!!」
五条悟が九々等に続いて立ち上がり、そう宿儺たちを煽る。それに影響を受けてか、九々等にも猛獣の笑みと反撃の気力が戻って来た。
「まだまだカッコつけさせてもらうよ。大事な生徒が見てる前だし――」
烏を指さした五条悟はそこで一旦言葉を切り、ドン、と今度は親指で己の胸を示し。
「カッコ悪いとこ見せたく無い奴が、
どこまでも勝気に笑った。
言い終わるや否や五条悟は術式を発動、『
四者全員が領域を失って、尚も決戦は終わらない。不可解にも、全員が笑顔で術式を行使し殴り合う。
九々等八壱は五条悟と肩を並べて共闘している高揚に。
羂索は革新的な神業が入り乱れる超高レベルの呪術戦に。
そして五条と宿儺はいかなる理由でか――笑う。愉しそうに、楽しそうに笑っている。
余人立ち入れぬ人外魔境の混沌乱戦は勢いを増し、新宿決戦は次なる段階へ。
絶対的な強者
それ故の孤独
あなたに愛を教えるのは――