9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

30 / 60
×8 不俱

 静寂を掻き消すような衝撃音と共に、ガラス窓ごと壁が吹き飛ぶ。

 散乱するガラスの破片、コンクリートの瓦礫と共に、ふたつの人影が無人の建物内に飛び込んで来た。

 

 新宿・都議会議事堂――半ば放棄されたその建物の中に乱入してきた2人の術師。

 呪いの王、両面宿儺。

 最強に並び立つ者、九々等八壱。

 

 彼らの一対一の戦闘は熾烈を極めていた。

 

 九々等の蹴りが放たれる。しなやかな動作で放たれるそれはしかし鋼鉄の感触で蹴りを受けた宿儺の両腕を軋ませた。一撃の威力に逆らわず、自分から背後に飛ぶことで衝撃を受け流した宿儺は、空いた九々等との距離を確認する。

 彼我の距離約5m。格闘戦を挑むには遠間と見るや、宿儺は素早く影絵を作る。

 

貫牛(かんぎゅう)

 

 現れたるはバイソンを思わせる巨大な漆黒の牛。

 それは直線でしか動けない代わりに、距離を取る程突進の威力が増す式神。5mは助走距離としては充分、牛は現れるや否や、超速で九々等に突進する。

 対し、九々等は迷わず地を蹴った。

 ハードルを飛ぶ走り高跳び選手のように、背面飛びで巨体の牛の突進を飛び越える。角が脇腹に掠り僅かに出血するが、動きが止まる程の傷ではない。

 

「お、らァ!」

 

 九々等は背面飛びの姿勢からそのまま器用に体を捻り、ぐるん、と落下と回転の勢いを利用して宿儺へ蹴りを落とす。

 しなやかな動作で放たれた蹴りを宿儺は腕で防ぐ――ズガ! と再び硬質な衝撃が腕を襲い、威力に宿儺の足元の床が罅割れた。

 宿儺は反撃とばかりにガードした九々等の足を掴み、近くの柱目掛けて勢いを付け放り投げる。硬い柱に罅が入る程の勢いで背中から激突した九々等へ、宿儺は新たな影絵を作りながら接近する。

 

玉犬(ぎょくけん)

 

 宿儺の影から現れる、巨大な白黒の犬の上半身。怪物じみた巨体の腕の先、肉厚な爪がぎらりと鈍く輝く。

 柱を背にした九々等へ迫る宿儺の拳、玉犬の爪。

 対し、九々等は前に出た。柱を蹴ることで急加速、風のように一瞬で宿儺との距離を詰める。

 タイミングを外された宿儺の膝を踏んで跳躍しその顔面を蹴り抜き、その反動を利用して眼前に来た玉犬の横っ面をぶん殴る。

 ぐらり、揺れる玉犬の体。だが顔面を蹴り飛ばされた宿儺は笑った。

 着地する九々等へ迫るは漆黒の巨体――

 

 ドゴ!!! とトラックが激突したみたいな衝撃と光景。

 貫牛による突進が、九々等を勢いよく跳ね飛ばしたのだ。

 

 九々等はそのまま吹き飛ばされ壁に激突し、そのまま壁を貫通して建物の外へ。

 その隙に態勢を立て直した宿儺は、すかさず追撃しようと壁に開いた穴に向かって走り……ズガ! とその穴の横の壁を吹き飛ばし、金の砲弾が宿儺に突っ込んで来た。

 金の砲弾、九々等八壱による突進の勢いを乗せた蹴りが、回避を許さず宿儺の鳩尾に炸裂する。だが間一髪、宿儺も蹴りと腹の間にガードを挟み込んでいた。

 

「(牛の式神を消してなかったとは、油断したぜ全く!)」

「(ダメージが少ない、そしてこの速度……奴の術式対象は決まりだな)」

 

 突進して来た九々等の頭からは血が流れ、貫牛の突進を受けた方の腕は折れ曲がっていたが……既に反転術式によって治癒を始めている。致命傷にはならないだろう。

 10m以上の距離を取った貫牛の直撃を受けて致命傷にならない防御力。鈍器のように硬い打撃の感触。

 そして柱を蹴ったとはいえ宿儺ですら反応が遅れた超速度。

 そこから宿儺は、九々等のふたつの術式対象を看破していた。

 

 肉体の硬度:9倍敏捷性(アジリティ):9倍

 

 攻防一体……ではあるが、どちらかと言えば防御寄りの安全策。硬度:9倍で即死しないようにしつつ僅かに打撃力を高め、敏捷性(アジリティ):9倍で攻撃を躱しながら攻め立てる。

 速く硬いのは厄介ではあるが、超速度も超火力も無いのは宿儺にとっては――。

 

「つまらんな」

 

 至近距離で殴り合いながらも笑みを消しそういう宿儺に対し、しかし九々等は対照的に笑う。

 

「ハッ、そう言いながら実は焦ってんだろ! 『最強』が帰ってくる前にオレを殺せねえとマズいもんなぁ王サマよぉ!」

 

 そう、焦る必要があるのは宿儺の方。九々等は安全策で宿儺の攻撃をいなしながら、ただ五条悟の到着を待てばいい。反撃は合流してからで充分だ。何故なら――五条悟は「最強」。宿儺以外に敗北することは万が一にも無いだろうから。

 

「ククッ、どこまでも生意気な奴だ」

 

 宿儺が嗤い――その腕が一回り大きくなる。ざしゅ! と九々等の腕に刻まれる、三つ並んだ切り傷。

 

「(!? これは――)」

『玉犬・(がい)……とでも言った所かな」

 

 宿儺の両腕、そして頭を覆う、犬の毛皮をそのまま被った狩猟部族の衣装のような鎧。ただ頭に被った犬の頭はぎょろりと目を動かし、腕では巨大な犬の腕が爪を晒して蠢いている。

 『玉犬・(がい)――玉犬を直接顕現させず、鎧として纏いその攻撃力と防御力を己に上乗せする。

 

「(単純な式神では小回りが利かん。式神を直接顕現させず、その能力だけを引き出す――)」

 

 九々等の拳を腕でガード。鈍器の拳も、玉犬の毛皮の前では衝撃を殺される。玉犬の爪を使った攻撃は九々等の体に爪痕を残す威力があるものの、初撃の後は上手く躱され大きな傷を与えられてはいない。

 一進一退の攻防。そうなっている時点で援軍を待つ九々等の有利。

 だが九々等は余裕顔の裏で冷や汗をかいていた。

 

「(とは言ってもオレもきっつい! 呪力の残量がヤバいんだよなぁ!)」

 

 冪乗呪法の術式順転(セキ)、その呪力消費量を発動時最低10、維持に毎秒1とするなら、九々等の現在の残存呪力量は500といった所。毎秒の自己補完量は4~5……術式反転(ショウ)の発動・維持コストは『積』の2倍、極ノ番・『冪』は約3倍。そして反転術式で傷を治癒すれば、傷の度合いにもよるが平均50の呪力を消費する。つまり、通常の呪力強化に必要な呪力量なども考えると、全力戦闘中は基本的に収支がプラスになることはない。

 九々等の当初の狙いは、領域展開に必要な呪力3000超、領域維持に必要な呪力毎秒50を回復し、領域展開で決着を付けることだった。『冪』呪力回復量に回せば術式維持に必要な呪力を差し引いても毎秒350程度の呪力を回復、約10秒で領域展開発動可能なラインまで呪力を回復できる。

 だが……その10秒は、本物の猛者の前では余りにも遠い。否。宿儺の前では、『冪』どころか『積』でさえ、1秒たりとも呪力回復量に回す余裕が無い。

 

 それは当然と言えた。

 九々等は領域展開を失っていない。術式の治癒や無量空処で脳にダメージを負った五条たちと違い、彼が領域展開を使えないのはただ単に必要な呪力が不足しているから。

 それは宿儺にも分かっている。故にこそ呪力の回復に術式のリソースを回さない為に、絶え間なく猛攻を続けているのだ。

 だが、と宿儺は考える。

 理想は「呪力を回復させない」ではなく「五条悟合流前の九々等の殺害」。このまま呪力切れに追い込み殺すのは可能だろうが……果たして五条悟帰還までに間に合うか。

 

「(呪力切れ前に焦らせ大技を使った所を殺す……果たして素直に誘いに乗ってくるか? 全く、ほとほと退屈させん奴だ)」

 

 攻撃に全力を使う九々等は脅威だが、防御に回った彼もまた一筋縄では崩せない。

魔虚羅の適応に術式のリソースを回し、御廚子(みづし)や大型の式神をまともに使えないなら猶更だ。

 宿儺をもってしても殺害が間に合うかは不明。その上、九々等は今状況によって自分から守勢に回っているだけで、攻勢に出られればそれもまた厄介。宿儺と言えど、脳のダメージで反転術式の出力が落ちている今、九々等の『冪』の一撃を貰えば致命傷もあり得るからだ。

 ――退屈しない。できる筈が無い。互いの一挙手一投足が死に直結しうるこの感覚は、宿儺という強者にとって得難いものだった。

 

 遠距離攻撃手段の乏しさ故に距離を開けない九々等。

 術式をフルで使わせて呪力を消費させるため接近戦を許す宿儺。

 何度目かの攻撃が交叉する。

 

 縦一線の爪撃が、九々等の左肩から腹までを切り裂き。

 風を切る踵落としが、宿儺の左肩を直撃し鎖骨を砕く。

 

 舞う鮮血も、奔る痛みも、しかしその動きを止められない。寧ろ一層の鋭さを以て呪力が踊る。

 九々等は呪力消費を気にした最低限の、宿儺は脳のダメージによって出力の落ちた今できる最大限の反転術式で傷を治癒しつつ、次の動きの為肉体を呪力を躍動させる。

 

 ドガ! と九々等が宿儺を痛烈に蹴り抜く――ドロリ、と崩れる蹴りが命中した相手の影。宿儺が溶けた!? と九々等は目を見開くが、すぐに真実に気付く。

 九々等が蹴り抜いたのは宿儺ではなく、脱ぎ捨てた玉犬の鎧だったのだ。宿儺本人は大きく間合いを取り、遠間で拳を構えている。

 

「(身代わりの術かよ!? だが殴るには遠くないか? 距離を取って影絵を作る訳でもなく、ただ拳を構えるなんて何を――)」

 

 瞬間、宿儺の姿が掻き消えた。否、超速で突進して来たのだ。

 ズギャ!! と今までとは段違いの破壊音が響く。宿儺の突進は行き止まりである壁まで一直線に進んでおり、突き出された拳は壁に大穴を開けていた。

 直撃すれば人体などひとたまりもない超威力の拳を突き出した宿儺の腕には、牛の頭を思わせる角の生えた手甲が。それを九々等は、床に体を投げ出した状態で視認していた。

 

「(うっげぇ、当たったら体に穴開いてるぞコレ! てか今度は牛のグローブ、か?)」

 

 『貫牛・(けん)。直線でしか動けないが距離を取るほど威力が上がる『貫牛』の能力を利用した突進正拳突き。命中すれば今の九々等なら間違いなく体に大穴が開いていただろう……そうならなかったのは彼の天性の獣じみた直感で咄嗟に体を真横に投げ出したからであり、つまり殆ど幸運によるものだった。否、敏捷性:9倍が無ければそれでも回避に失敗していたかもしれない。

 

 宿儺は振り向き様に再び『玉犬・(がい)を発動。

 迫る鋭い一撃を九々等は顔を背けて回避、その頬に爪痕が刻まれ鮮血が舞う。対して九々等は突き出された腕を取り宿儺の回避を封じて膝蹴りを叩き込む――ずるり、と宿儺の腕から犬の部分だけが分離し、三本目の腕となって九々等の打撃を受け止めた。反対側の腕も人と獣とで分離して四つ腕となり、ふたつの右腕が同時に九々等を襲う。

 打撃と爪撃を飛びのいて回避する九々等、追撃せんと距離を詰める宿儺。彼等は高速白兵戦を展開しながら、同時に頭も回していた。

 

「(今のとこ、火力的に一発致命傷が有り得るのは玉犬アーマーと貫牛パンチくらいか? 満象(ぞう)の圧殺は流石に対応できるとして、(とり)の電気を使ってこないのが不気味だな。硬度と防御力の違いを宿儺が見抜けてないとは思えねえんだが)」

「(躱された以上、無策の『貫牛』はもう通じん。やはり術式リソースが魔虚羅に圧迫されているのが問題だな。九々等八壱を殺すには『鵺』御廚子が欲しいが……継承が裏目に出たか。とはいえ無限への適応が終わっていない今魔虚羅を消す訳にもいかん。さてどうするか――)」

 

 己の両腕と式神の両腕――疑似的な四つ腕の猛攻を、打撃や引っ搔き傷を何度か受けながらもクリティカルヒットは避けいなし続ける九々等。だがその状態での攻防は明らかに宿儺が押していた。

 

「(そういや宿儺って元々腕四本なんだっけ!? 流石に捌ききれねえな――そうだ!)」

 

 九々等が何かを思いつき手をガードに回す――と同時、宿儺の元々の両手が九々等の両腕の手首を掴んだ。ボクシングスタイルでのガードを目論んでいたようだが、それは多腕の宿儺にとっては相手の両手を抑える絶好の機会。

 そのまま宿儺は玉犬の腕で捕まえた九々等を貫かんとして――その顎を鋭い蹴りが強打した。

 不意の一撃。玉犬の鎧に守られていない無防備な顎への衝撃に、手と気が緩み『玉犬・鎧』が消滅、九々等が拘束から脱出する。

 

「(ッ、今のは(わざ)と掴ませたのか!)」

「引っかかってやんの!」

 

 九々等は丁度いい位置に両手をもっていき宿儺に掴ませることで、逆に宿儺の動きを制限しその顎に蹴りを放ったのだ。わざと両手を取らせる度胸、宿儺の意識が攻撃一辺倒になるタイミングを見切る冷静さ、顎を的確に蹴り抜ける技量と体の柔らかさ、どれが欠けても成功しなかったカウンター。

 玉犬の守りが消えた宿儺に、九々等は反撃とばかりに拳を握り締め。

 

「そういや、一片聞いてみたかったんだけどさぁ!」

 

 問いかけの声と共に、首、胸、鳩尾を狙った三連打。

 重い打撃音が輪唱する。

 

「宿儺、オマエ家族とか居んの!?」

 

 三連打を両腕によるガードで防いだ宿儺は、ガードの奥から胡乱気な四つの眼を九々等に向ける。

 

「何?」

「だからさぁ、大事な人とか居んのかってハナシ!」

 

 返す刀で放たれた回し蹴り、頭を狙ったそれを素早く屈んで回避する九々等へ、宿儺は『満象』を呼び出しながら問う。

 

「分からんな。何故そんなことを知りたがる?」

「そりゃオマエ、喧嘩ってのはそういうもんだろ!」

 

 叫ぶと同時、落下して来た巨体の式神を察知して宿儺の襟首を掴む九々等。そのまま思いっきり腕を引き、満象の落下範囲に宿儺を引きずり込んで盾とする。結果、宿儺は満象を解除せざるを得なくなる。

 パシャ、と命中直前で影に戻った、落下して来ていた満象。視界の悪化を利用して距離を取ろうとしていた宿儺を呪力感知で察知し、九々等は彼に肉薄して拳を叩き込む。

 

「オマエ渋谷で大暴れかましたんだろ!? ってことはさ、なんか人間に恨みとかあんのかなって! ()()()は余裕なくて聞けなかったからさ!」

 

 両拳による神速のジャブ、その無呼吸連打で宿儺を押し、壁際に追い詰める九々等。

 顔面を狙って放たれた一撃がズガ! という衝撃音と共に炸裂。一撃はしかし咄嗟に顔を逸らした宿儺の顔面を捉えてはおらず、その横の壁を粉砕するに留まっていた。

 

「ホラ。話し合いで解決できるなら、その方が殺し合いよりずっと良いだろ――」

 

 九々等が至近距離の宿儺にそう微笑む。

 同時、九々等の足が宿儺の影にずぶりと沈む。バランスを崩す九々等が反応する前に、隙を突いた宿儺の前蹴りが九々等の胴に命中し彼を吹き飛ばした。間合いが空き、言葉でも反撃が飛んで来る。

 

「人間に恨み? ……愚問だな。俺を恨み憎む人間は数多居たが、俺から衆愚共にソレを抱いた覚えは無い」

「ゲホッ……ならなんで大勢殺した! 渋谷で何人死んだか知らねえのか!?」

 

 叫ぶ九々等が激情のまま突進しようとして――咄嗟に身を捩ったその肩を水の鏃が貫いた。

 満象(ばんしょう)を応用しての穿血(せんけつ)

 ぶしゅ、と血が零れ、前に出ようとしていた体が止まる。

 傷口を抑え反転術式で治癒する九々等に、宿儺は穿血を撃った姿勢のまま、戦闘中にも関わらず実につまらなそうに答える。

 

「貴様は路傍の小虫に感慨を抱くのか? 矮小十把、触れればたちまち崩れてしまう弱者(いきもの)が幾人死のうが、()()には些事でしかなかろう」

 

 その答えに。

 九々等の纏う雰囲気が変わった。

 

「――そっか。宿儺、オマエは人間じゃねえんだな」

 

 それは、どこか諦めたようで。そして……何故だか少し寂しそうで。

 

「人は死ぬまで孤独にはなれねえもんだ。自分から()()を選ばない限りはな。つまりオマエはもう人であることを放棄したモノ――ただの獣か、怪物だ。(イヤ)、この場合は呪霊かな」

 

 対し、宿儺はその言葉を哂う。

 

「何を言うかと思えば――下らんな。自らを人が定義した枠に当て嵌め、(あまつさ)え己を抑することに何の意味がある。殺し喰らうことは自然の摂理、他者から許しを請わねばならん道理など、数が多いだけの弱者が生み出した戯言に過ぎん。

 寧ろ貴様の在り方こそ不可解だ。弱者とは一線を画す力を持ちながら、何故そこまで不自由に縛られる? 我欲を律する必要があるのは矮小卑小な弱者のみだと気付いていない訳ではあるまい?」

 

 弱肉強食こそ世の摂理。それは決して覆ることの無い、全生命共通の真理。

 強さこそが絶対の価値であり、弱さこそが不幸を退けられぬ罪である。

 天上天下唯我独尊。己が絶対強者であるのだから、弱者が異論を挟むなど許されない。

 呪術全盛、平安の世を生きた呪いの王にとって、それこそが世界のルールだった。

 

 そんな自分を殺しうる強者(もの)が、しかし弱者同様に倫理を語る。刃ひとつ退けられない綺麗事を、その神殺しの膂力よりも尊いものだとでも言いたげに。

 不可解。そして不愉快。

 

 だが……不愉快(それ)は九々等も同じであった。

 寧ろ彼には憤怒すらあると、その声音が雄弁に語っていた。

 

「――なあ宿儺、九九って知ってるか?」

 

 それはいつかと同じ問い。

 だが続く言葉があの時と異なる。

 そう、今は己の術式(つよさ)を語るのではなく。

 

「二次方程式でも確率計算でも、絵画でも音楽でも、愛でも恋でも、おいしい料理でも、なんなら漫画でもゲームでもなんでも良いぜ。なあ宿儺、オマエ……自分じゃとても思いつけないような、人が作ったものの凄さを何かひとつでも知ってるか?」

 

 ただ、九々等八壱の信念を。

 平和な世で18年生きた、とある男が真正面から信じている綺麗事を。

 

「人間はな、腕っぷしが強くなくたっていいんだよ。暴力(それ)以外を慈しめる唯一の生き物なんだから。なのに暴力にしか頼らねえ、それ以外の強さを認めない生き方? はッ、折角人に産まれたってのに勿体ねえ。()()()()()()()()()宿()()!!」

 

 ああ、それは綺麗事なのだろう。

 でもそれでいい。

 摂理も真理も知った事ではない。そんな血に汚れたものに魅力は感じない。

 だって、これが一番(うつく)しい。

 

 そう叫ぶと同時、男の瞳は黄金(ひかり)を纏った。

 輝く強靭な意思。燃ゆる信念と決意。

 諦めも寂しさも何処へやら、ただ比類なき戦意を滾らせる双眸が、両面宿儺をしかと睨む。

 

「こっからはただの呪霊退治だ。気が変わったら言ってくれ、まずは9×9から教えてやんよ!!」

「ケヒッ、それでいい。口先の論理など入り込む余地の無い、死力を尽くした呪い合いと往こうではないか!!」

 

 宿儺もまた、舌戦に削がれた興を取り戻し笑った。

 ここからはただ、力のみが語る世界であると直感して。

 

 きっと彼等は不俱戴天。

 それでも違いがあるならば、

 九々等八壱は両面宿儺を最早己と同じ「人間」であるとは認めず、

 両面宿儺は九々等八壱を対等な「人間」として認めるという、その一点に尽きるであろう。

 

 ――彼我の影、迫る。

 九々等八壱も両面宿儺も、構えは鏡写しのように同じ。

 握った右拳は腰の上に。構えは正拳、放つも正拳。呪力は一切の淀み無く、意思に微塵の衒いも無い。

 

 動き。呪力操作。意思。

 全てにおいて翳りは見えず。

 故に両者は、相手の構えた拳に()()の到来を予感する。

 

 それは試練。

 それは前兆。

 それは必殺の一撃にして、呪術師にとっての登竜門。

 

 打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間、

 空間は歪み、

 呪力は黒く光る――。

 

 黒閃(黒閃)!!!!(!!!!)

 

 黒い火花が衝突する。

 黒閃の打撃どうしの激突。奇跡的な確率を祝福するように、(まばゆ)い黒は相乗し合い世界を己の色に染め上げる。

 ビリビリと腕を駆け巡る衝撃、通常の2.5乗の威力は互いの肉を骨を破壊し、しかし壊れた傍から反転術式で治っていく。敵黒閃による負傷を予測しての、予め練られていた反転した呪力。

 鏡写しのような光景に両者は笑った。片や格上相手の黒閃の感覚に、片や己に迫る強者の存在に。獰猛に、堪えきれぬ戦いの愉楽を噛み締めて。

 

「――死なす!!」

「――殺す!」

 

 先に動いたのは宿儺。

 

 通常、十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)御廚子(みづし)、ふたつの術式の併用は不可能。宿儺本来の術式と肉体に刻まれている伏黒恵の術式では相性が悪いからだ。それらの同時併用は右手一本で調理をしながら左手で影絵を作るようなもの。五条悟を相手取らせるために魔虚羅を出し続けている以上、宿儺に「斬撃」は使用できなかった。

 だが彼は、まごうことなき呪いの王。神業じみた至難の技も、黒閃を決めた今ならば。

 

 指を動かすだけで世界を奔る斬撃は、如何なる拳よりも先を行く。

 黒き火花に祝福され、刃は鋭さを増して獲物を刻む――!

 

 (カイ)』!!!

 

 ギィィン!!!

 音。鉄がぶつかり合うような、音。

 

 見れば、九々等が腕を振り抜いた状態で止まっていた。その掌に刻まれた刀傷は、しかし斬撃の軌道上にあったハズの彼の体を襲っていない。

 

 つまり彼は、魔虚羅のように能力で適応するまでもなく――

 

「(! 俺の斬撃を見切ったか!)」

「見飽きた『斬撃』で不意打ちとか、ヌルいんじゃねえの王サマよぉ!!」

 

 拳の硬度:81倍

 

 九々等は、術式対象を細かくすることで消費呪力量を大きく減少させていた。

 拳のみに限定すれば、『冪』と言えども通常の『積』の半分まで消費呪力を低減できる。

 

 普段意図的に行っている呪力操作が呼吸のように自然に廻る感覚。それが術式対象をより細かく設定する意識を生んでいた。

 更に基本的な呪力効率、呪力の自己補完量も増大することにより、九々等は呪力切れを恐れて封じていた『冪』を取り戻すに至る。

 

 黒閃によるゾーン状態――九々等八壱の呪力効率が一段階上がる。

 

 同時、宿儺もゾーンに入っていた。斬撃を魔虚羅と併用できたことが示す通り、彼の中で魔虚羅に裂いていたリソースがある程度の余裕を得る。

 つまりそれは斬撃の回帰だけでなく、十種影法術の完全復活――リソースの問題で使えなかった大型の式神が使用可能になることをも意味する。

 

 『鵺』『渾』――

 

 嵌合獣(かんごうじゅう) 顎吐(あぎと)

 

 現れたるは異形の式神。鵺の顔と羽毛、鹿の角、蛇の尾と虎の四肢を持つ二足歩行の怪物。

 3mを超える威容を前に、しかし九々等は鼻で笑う。

 

「ハッ、随分キモめの式神だな。そんなんじゃゆるキャラデビューできないぜ?」

「ククッ、これで二対一だ。どう捌く?」

 

 問いの答えは言葉では無く行動で。

 一瞬前まで九々等が居た床が爆発し、その姿は刹那に顎吐の前へ。

 

 右足の脚力:81倍踏み込み(からの)右腕の腕力:81倍――

 

「整形手術だ。オレがデザインし直してやるよ!!」

 

 八十一倍神殺拳(マラドーナ・インパクト)!!!!

 

 ボパッ!!! と顎吐の上半身が消滅した。轟音轟風が一瞬遅れて宿儺を叩く。

 顎吐も咄嗟に両腕を交差させて防御したように見えたが……神さえ殺すと確信できる一撃の前に、咄嗟の防御など無意味。

 

 ギャリン! と遅れて響いた斬撃音は、宿儺の斬撃を九々等が皮膚の硬度:81倍で防いだ音。そこから分かるように、宿儺の斬撃は九々等の攻撃後に飛んでいた。

 カウンターとして構えていた斬撃を即座に飛ばせなかったのには理由があった。

 

「(顎吐を俺との間に来るように位置取りしてカウンターを抑止したか!)」

 

 それは九々等の位置取り。彼は反撃狙いを読み、防御に術式を回せない攻撃の一瞬を狙わせないため、顎吐を遮蔽物に使ったのだ。

 九々等が獰猛な笑顔で宿儺を振り向く。その顔は「次はおまえだ」と言わんばかりだ。

 

「(だが……) 相変わらず気が早い!」 

 

 しかし宿儺は口の端を吊り上げる。

 九々等の背後、顎吐の上半身が逆回しのように再生し始めたからだ。

 音と気配に九々等が振り向けば、そこには1秒足らずで頭の半分まで再生させた顎吐の姿が。

 

「(頭吹っ飛ばしたのに生きてる!? てかこれは――反転術式か!?)」

 

 呪力の気配から再生の理由を見抜いた九々等は、しかしより困惑させられることとなった。

 反転術式は頭で回す。故に頭を潰されることが反転術式の弱点……なのに顎吐は頭どころか上半身が消し飛ばされた状態から復活した。

 そう、顎吐は反転術式の弱点をある程度克服した式神。

 

 ――八岐大蛇(ヤマタノオロチ)

 過去の列島に現れ無数の被害を齎したとされる多頭の蛇……その正体は無限の命を持ち、死ぬ度に死因となった攻撃に適応して復活する最悪の呪霊。

 撃破の条件はただ一つ。「全ての首を同時に破壊する」こと。

 宿儺が持つその知識に影響を受けたのか……大蛇(オロチ)』『虎葬(こそう)』『円鹿(まどか)を継承した(ぬえ)である顎吐(あぎと)は、頭部と尾ふたつの首を持ち、どちらかが潰れてもどちらかが残っている限り反転術式で再生し続ける能力を得ていた。

 

 バチッ、と鳥が鳴くような音と共に、顎吐の両腕が光を纏う。それは『鵺』の能力、電気の性質を持つ呪力。

 ズガ! と振り下ろされた両の腕が九々等を襲い、その足元の床が衝撃で砕ける。そして雷撃を伴ったふたつの掌打は、触れた相手を痺れさせその肉体から自由を奪う――。

 

「電気ビリビリ~ってか、この程度じゃ肩凝りも取れねえよプラナリア野郎!」

 

 だが、九々等に一切の影響なし。防御力:81倍は衝撃は勿論攻撃に付随する副次的効果、電撃による行動阻害すら低減する。

 腕を払いのけ、自ら顎吐の懐に。

 

 右足の脚力:81倍――

 

 八十一倍神滅脚(クリロナ・インパクト)!!!!

 

 それは、回し蹴りと言うには余りにも強力過ぎる一撃。顎吐の胸の下から腰の上、おおよそ胴と呼べる部分が消滅した。

 どちゃ、と地面に倒れた顎吐の上半身と下半身は、再生のために切断面をくっつけようと不格好に藻掻く。頭がふたつとも潰れていないのに分かれた場合、どちらも再生の余地があるがために、分かれた体をくっつけないと復活することが出来ないのだ。

 顎吐の「バグ」。それを九々等は見逃さない。

 

「おっと、ふたつに割っても増えるのは無理か? ならプラナリア以下だ、なっ!」

 

 ずぎゃ! と九々等が顎吐の上半身を蹴り飛ばす。上半身と下半身を引き離し復活を遅らせる策。

 

 宿儺はそんな九々等目掛けて、音速を超える水の矢を放つ。

 

 『満象』を応用しての穿血、再び。

 光線さながらの矢は、九々等の頭を貫かんと飛翔し――。

 

 九々等が振り向きざまに腕を振るう。

 

 ――ばしゅ、と穿血の鏃が何もない空中で砕かれた。

 穿血を迎え撃ったものの正体を、宿儺はすぐに看破する。

 

「(呪力を飛ばしたか!)」

「ハハッ、今のは水鉄砲か? 今更ガキの遊びとは遅れてんな!」

 

 「呪力を飛ばす」。単純にして奥が深い技術だが……九々等は黒閃のゾーン状態により、元来呪詞の詠唱が必要だったソレを実戦レベルでモノにしていた!!

 

 穿血は初速がトップスピード。それさえ躱せば避けるのはさほど難しくない。散らされた鏃が後続の水流に補完され復活するも、既に九々等はその軌道を見切っている。躱すのは造作もない。

 

 電撃+水のコンボを九々等は既に経験している。故にそれを警戒し、体を濡らされないように穿血を呪力で迎撃したのだ。

 九々等が脚力:81倍を使い宿儺に肉薄する。

 

「良い術式じゃんか呪いの王サマ! 恵くんの体乗っ取って良かったなぁ、これでスーパー銭湯行きゃあ老若男女に大人気だぜ!?」

「ケヒッ、貴様こそ口だけは良く回る!」

 

 キンッ、と放たれる縦一線の斬撃は、術式を使うまでもなく見切って回避。宿儺に肉薄し脚力:81倍の蹴りを放つ。狙いはカウンターで斬撃を放とうとしていた腕。

 ボギャ! と異音が響き、二本目の斬撃を放つ前に宿儺の片腕が千切れ飛んだ。

 

 宿儺の反転術式の出力は、黒閃である程度は回復したものの落ちたまま。無い腕を生やすという芸当をそうそう連発出来ないため、出来れば千切れた腕をくっつける形で治癒したい。

 が、肉薄した九々等八壱がそれを許してくれるはずが無い――。

 

 またとない好機に九々等が笑う。

 だが――宿儺もまた、好機を嗤った。

 

 バチィッ!! と九々等の背中に電撃の爪が炸裂する。

 

「!?」

 

 予想外の顎吐の復活速度。反応は間に合わず、電撃が九々等の体を焼く。

 

 先の一瞬。

 宿儺の一本目、縦一線の斬撃は、九々等を狙うと同時に顎吐の尻尾を落とすためのもの。斬撃が尻尾の蛇を切り裂いたことにより下半身が死亡、顎吐の上半身は下半身を再生させることが可能になり、九々等の予測よりも速く戦線に復帰することが出来た。

 

 バチバチと全身を駆け巡る電撃で動きを封じられた中、宿儺の斬撃が九々等を襲う――斬撃が首を切り裂く寸前に九々等は防御力:81倍をなんとか発動。ガキンッ、と飛来する斬撃を弾くが、紙一重のタイミングを示す首に刻まれた刀傷からツウと一筋血が零れる。

 九々等が守勢に回ったのを見て、宿儺は吹き飛んだ自分の片腕を回収、傷口に押し付け反転術式で治癒する。

 

「ククッ、漸く薄ら笑いが消えたな」

「引いてんだよ、思ったよりプライドねえなってな!」

 

 宿儺の斬撃、顎吐の電撃の翼腕が同時に九々等を襲う。それをひらりと飛び上がって身を躱し、

 

「ラッキーパンチで調子に乗んな、まずオマエからぶっ壊す!!」

 

 バキィ! と顎吐の顔面を蹴りながら、その反動で九々等は跳躍。

 空中で構えるは親指と中指で円を作るような「9」の掌印。その手の中で圧縮された呪力が光る。

 

「『九天』『黎明』」

「(呪力の圧縮!)」

 

 極式(きょくしき)(くがね)』――高密度圧縮した呪力の指向放出。そこに81倍の力が加われば、顎吐の全身を呑み込む一撃を放つことなど造作もない。

 黒閃によるゾーン状態で、アドリブの呪詞の短縮も完璧。

 

「『欠けた冥――」

 

 だが――圧縮された時間の中、呪詞の詠唱が完成する前に宿儺が動く。

 

 呪力の「起こり」。術式発動直前に術師から漲る呪力。

 領域展開の発動直前、必中術式の発動直前など、大技の前には必ず「起こり」がある。それは九々等も例外では無く、極ノ番ともなれば猶更である。

 宿儺はずっと観察していた。以前よりもずっと小規模になった『冪』の「起こり」を。そして遂に掴んだのだ。荒れた水面が僅かに揺らぐが如き『冪』の「起こり」を、そしてカウンターを差し込むタイミングを。

 

 ――斬。

 

 一刀、両断。

 防御の間に合わない『解』のクリティカルヒット。九々等八壱のシルエットが、明確にふたつに両断される。

 千切れ飛んだのは――宿儺が狙った胴ではなく、呪力を圧縮する掌印を組んでいた右腕。

 狙いが外れた――その理由は吹き荒ぶ呪力の暴風が語っている。

 

「(斬撃の瞬間、圧縮していた呪力を暴発させて反動で体を逸らしたか!)」

 

 九々等もまた宿儺の『解』の「起こり」を察知し、呪詞の詠唱を中断、それにより圧縮した呪力を暴発させることで空中で体をずらし、『解』のダメージを最小限に抑えた。

 

 だが受難は終わらない。絶好の隙を突かんと顎吐が迫る。

 右腕を肘上まで失った九々等。反転術式で生やすことは可能だが、呪力残量を考えると宿儺がやったように千切れた腕をくっつけるのが望ましい。

 が、肉薄する顎吐がそれを許してくれる筈が無い――。

 

「――()()

 

 九々等が何事かを呟くも、最早遅いと顎吐は雷撃を纏った爪を振るい。

 宿儺も再度斬撃を放とうと指を構え。

 圧縮された時間の中で、彼等は確かにそれを聴いた。

 

「何か勘違いしてるみてえだけど。さっきの『(くがね)』はさ、別に()()()()()()()訳じゃねえよ」

 

 ――宿儺に電流走る。

 四つの瞳は確かに見た。九々等の失った肘の先。そこには確かに、黄金に輝く圧縮された呪力の弾が。

 そう、呪詞は「破棄」したのではなく「中断」しただけ。そして中断していた呪詞も、先の一瞬で完成させた。

 つまり黄金の弾丸は、既に装填が完了している。

 暴発により呪力の密度は低下、射程距離・威力共に半減したが、それでも威力:81倍によって至近距離の式神程度なら充分に殺しうる。

 

 時間が歩みを遅める刹那は終わり。

 宿儺が斬撃を放つよりも、顎吐が電撃の爪を届かせるよりも速く、金の彗星は顕現する。

 

 ――極式(きょくしき)(くがね)』!!!!

 

 きらり、閃光が瞬いて。

 黄金の呪力の奔流が、世界を黄金一色に染め上げた。

 全てを破壊する怒濤、その進行の渦中にあるものは、例え呪いの王の式神だろうと構わず全てを消し飛ばす。

 至近距離の『(くがね)』の直撃に、顎吐が形を保てた時間はきっと0.01秒も無かった。

 

 消滅反応を待つまでもなく完全破壊された『鵺』の『渾』である顎吐。

 床に開いた奈落を思わせる大穴の傍、その横で切断されていた己の右腕を拾った九々等は、切断面を合わせながら反転術式でくっつけていく。

 

「あー(いって)え……! 千切れた腕くっつけるとか、オレはブラックジャックかよ! 向きとか間違えたらどうすんだ馬鹿!」

 

 戦慄。

 そう、宿儺が覚えたのは戦慄だ。

 圧縮した呪力を暴発させきらず、反撃のため呪力砲の弾を保持する技術は神業といって差し支えない。その後の呪力の指向放出も、顎吐の全身を余さず消し飛ばし尚且つ千切れた己の腕は巻き込まないような絶妙な呪力の絞り具合。

 あの一瞬。呪力の「起こり」を巡る一連の駆け引きに関しては、紛れもなく九々等八壱は呪いの王・両面宿儺の上を行った。

 

 ――天才。

 あの時、独自の発想と創意工夫で宿儺に追い縋った成長途中の術師は、今正に術師として完成した。

 

「――ククッ」

 

 愉快。

 嗚呼、愉快極まりない。

 無数の拳を、斬撃を浴びせ、それでも尚死なず迫ってくる敵。それは五条悟と同じく、両面宿儺が心のどこかで求めていた存在。

 

「全く――ほとほと退屈させん奴だ!」

 

 宿儺が叫ぶと同時、

 

 ドガァン!! と壁が吹き飛び、都議会議事堂にふたつの影が飛び込んで来た。

 ひとつはガードの上から殴り飛ばされた魔虚羅。ふたつめは、魔虚羅を殴り飛ばした五条悟。

 

 魔虚羅は殴り飛ばされた勢いのまま宿儺の横に滑り込み、

 五条悟は九々等の隣に並び立つ。

 

 これで、二対二。

 宿儺&魔虚羅 vs 五条&九々等。

 

「良いね、続けようぜ。ラウンド2(ツー)だ……!!」

 

 九々等八壱の一声で、最終ラウンドのゴングは鳴った。

 

 ――決着は、近い。

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