9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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※今回マジでバカの考えたバイキングならぬバカの考えたSS丸出しの好き勝手回です。あと時代考証的に存在しない建物がひとつありますがパラレルワールドってことで許してください。この世界には2018年時点であるのです。


×9 ■式

 二対二。

 

 片や、史上最強の呪いの王・両面宿儺(りょうめんすくな)と、十種影法術最強の式神・八握剣異戒神将(やつかのつるぎいかいしんしょう)魔虚羅(まこら)

 片や、現代最強の術師五条(ごじょう)(さとる)、そして彼に並び立つ域に至った最強の覚醒型泳者(プレイヤー)九々等(くくら)八壱(やいち)

 

 揃いも揃った4人の「最強」。

 合流は果たされ、新宿の決戦は佳境へ入る――。

 

 

「待たせたね、八壱」

 

 そう言って五条悟は、片手で掴んでいた呪霊の首を床に放った。そのまま、ずちゃ! と辛うじて生きていた呪霊の頭を踏み潰す。ザフッ、と消滅反応を残して(チリ)となる呪霊。

 それを特に意に介さず、九々等は隣の五条に言葉を返す。

 

「遅いぜ先生。オレだけで宿儺倒しちまうとこだったぜ?」

「へぇ、なら間に合って良かったよ」

 

 対し、宿儺と魔虚羅は何も語らず。ただ、その音だけが響く。

 

 ――ガコン

 

 魔虚羅の頭上、完全な循環と調和を意味する方陣が回転。ニヤリと宿儺が口角を上げる。

 「無限」――無下限呪術の順転への適応、()()

 それは六眼を持つ五条、彼と以心伝心の九々等にも知覚出来た。

 

「(特級3体に時間を稼がれたとは言え、目に見えて適応が早くなったな。宿儺が黒閃でも決めたか?)」

 

 今まさに、五条悟と彼我を隔てる「無限」は絶対不可侵ではなくなった。

 だが。

 

「(――まあ問題ないな。予定通り羂索は戦線離脱、八壱も健在で宿儺と二対一……欲しかった盤面そのものだ)」

 

 五条悟に焦りは無かった。

 無限へ適応したのはあくまで魔虚羅であり、術者である宿儺にはその適応は還元されない。また魔虚羅のカウンターである八壱の存在もある。

 故に。

 

「(オレが魔虚羅を、)」

「(僕が宿儺を叩く!)」

 

 既にゴングは鳴っている。

 瞬間、2人は同時に動いていた。

 生得領域融合後の以心伝心。五条悟と九々等八壱が先手を取る。

 

 術式順転『(あお)――

 移動速度:81倍――

 

 五条は宿儺へ、九々等は魔虚羅へ肉薄する。

 片や無限による座標圧縮。片や『冪』による高速移動。その接近を阻むことは、例え宿儺/魔虚羅であろうとも不可能。

 両者、比類なき神速を以て、己の敵の懐へ拳/蹴りを構えて飛び込んだ。

 

 ――黒閃の連続発動は、その実至難とは言い難い。黒閃発動後、術師は一時的にアスリートでいう「ゾーン」に似た状態となる。つまり連続……あるいはその日のうちならば、初回に比べ黒閃発生のハードルはぐっと下がる。

 

 宿儺は咄嗟に防御ではなく(カイ)を発動。眼前の五条ではなく、魔虚羅に迫る九々等の背へと斬撃を放つ。無限の攻略手段である魔虚羅の身を優先したカウンター。

 だが。

 

 ガキィン!! と九々等の背に命中した斬撃が弾かれた。

 肉体硬度:81倍。宿儺の斬撃であろうとも、鋼の肉体は傷付かない。

 そして九々等は宿儺へ一瞥も向けることなく、目の前の魔虚羅へ蹴りを放つ。

 

 背後からの攻撃を完全に把握する、盤面を俯瞰するフィールドプレイヤー特有の集中。

 防御に術式を回す以上『冪』による超火力は望めない。だがそれは彼にとって、慣れ親しんだ身体動作と呪力操作の相乗を意味する。加えて精神を研ぎ澄ますゾーンにも似た状態。

 その先で爆ぜる1/100000の火花――

 

 同時、五条悟の拳も突き出された。

 九々等への『解』を隙として宿儺を仕留めに掛かる。「最強」五条悟の自負。

 両面宿儺すら凌駕する呪いの才能。呪力強化や格闘センスもまた例外ではない。

 つまり彼は、黒い火花()()愛されている――

 

  黒閃(黒閃)!!!!(!!!!)

 

 師弟の同時黒閃。世界に黒い火花が飽和する。

 ビリビリと響く衝撃が、宿儺/魔虚羅の体を貫き芯まで揺らす。

 平均して通常の2.5乗の威力の打撃。呪力で受けようともそのダメージは防ぎきれるものではない。

 

「八壱!」

「先生!」

 

 殺しきれぬ衝撃に動きが止まった両者を、2人は掴んで互いの方へと放り投げた。

 ドガ! と背中から空中で衝突する宿儺と魔虚羅。団子になった彼等に、両側から五条/九々等が迫る。

 

「『位相』『波羅蜜』『光の柱』――」

腕力:81倍――」

 

 赫と金、ふたつの「必殺」による挟み撃ちが宿儺/魔虚羅を襲う。

 宿儺に許された猶予は、影絵をひとつ作る程度の時間のみ。

 

「ッ、『脱兎』

 

 作った影絵は兎。

 途端、山のような白兎の群れが影から溢れ出し、宿儺と魔虚羅を包み込んだ。兎が壁となって五条/九々等の視界から宿儺たちが消える。

 だが、

 

「「だからなんだってハナシ!!」」

 

 五条・九々等も躊躇なくその中に突っ込む。己の必殺がその程度では止まらないと確信するが故に。

 師弟は抵抗なく、白一色の壁を突破する――。

 

 五条/九々等は目を見開く。

 五条の前には魔虚羅が。

 九々等の前には宿儺が居た。

 背中合わせの位置替え(スイッチ)。式神と主故の以心伝心。『脱兎』はそれを隠すためだけの目くらまし。

 

 炸裂した五条の(あか)を、ある程度適応済みの魔虚羅が受け止め。

 宿儺の(カイ)肉体硬度:81倍で受けたことで、九々等の八十一倍神殺拳(マラドーナ・インパクト)がキャンセルされる。

 至近距離。必殺技を失った両者を、追い詰められていた側の反撃が迎え撃つ。

 

 宿儺・魔虚羅の構えは同じ、右腕による正拳突き。

 呪力、滾る。

 黒閃によるゾーン状態は宿儺もまた同じ。

 呪いの王の名に相応しい呪術センスは、再び黒い火花を招来する――

 

 そしてそれは、五条悟の無限に『適応』した()も例外では無かった。

 黒閃。打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間、空間が歪み、呪力が黒く光る現象。

 これは呪力で構成された呪霊や式神においても例外では無く。

 式神たる魔虚羅は主である宿儺に共鳴し、黒閃という現象に適応していた――!

 

  黒閃(黒閃)!!!!(!!!!)

 

 主従の同時黒閃。黒い火花の飽和輪唱、再び。

 

「ぐ――」

 

 今度は五条/九々等の体を貫く衝撃。

 無限に適応した魔虚羅の拳を受けた五条は言わずもがな。肉体硬度:81倍の発動中だった九々等も、浸透する衝撃にダメージを受ける。

 更に受難は終わらない。

 

 ――ガコン

 

 黒閃によるゾーン状態。自立した思考を持つ魔虚羅の適応速度が加速する。

 宿儺は、魔虚羅の呪力によって「無限」を乱された五条へ斬撃を放ち。

 魔虚羅は一転、右腕の剣を九々等に振り下ろす。

 

 ――斬!!

 

「!?」

 

 五条悟の無限の再構築は間に合っている。

 斬られたのは、九々等。

 防御に使った左腕が肘上で断ち切られ、肩から胸にかけて傷を負う。

 鮮血と痛み走る中、彼は魔虚羅が嗤うのを至近で視認し()()()()を見抜く。

 

「(肉体硬度:81倍を貫通する威力!? (イヤ)、これは――『適応』か!!)」

 

 適応による硬度無視攻撃。

 それこそが魔虚羅の真骨頂――あらゆる事象への適応、最強の後出し虫拳(ジャンケン)!!

 無限すら貫通可能な魔虚羅にとって、超防御など紙も同じ。

 

 だが――相手の防御が紙同然なのは、決して魔虚羅だけの特権では無い。

 

「腕一本でニヤケ(ヅラ)とか、よっぽどかませになりてえと見たぜ!! オレの顔忘れたかデカブツよォ!!」

 

 攻撃力:81倍!!

 『冪』による超火力こそ九々等八壱の本領。以前の顕現時、魔虚羅を一撃で破壊した拳が奔る――!

 

「! 魔虚羅!!」

 

 叫ぶ声と同時に放たれた宿儺の『解』は、五条が割り込み無限で阻む。だが命令の声は遮れない。

 咄嗟に上体を逸らした魔虚羅の左肩付近に九々等の拳が命中し――ボパッ!!!! と空間ごと吹き飛ぶような音が響き、魔虚羅の左肩が左の腕と胸、腰の一部すら巻き込んで消し飛んだ。

 

「――」

「もう一発(いっぱァつ)!!!」

 

 必殺の一撃は、しかし九々等にとってはバフを盛っただけの通常攻撃。オーバーキルの二撃目が迫る中、半身を失いバランスを崩した魔虚羅に大した抵抗は不可能。

 故に、宿儺と五条は動いていた。

 宿儺は魔虚羅を庇う為。五条はそれをさせないため。魔虚羅への援護を巡った攻防。

 

 五条と宿儺では五条の有利。何故なら無限に適応したのは魔虚羅であり、宿儺は未だ無下限呪術の影響を100%受ける。

 

 五条がぐっと腕を握る。すると生まれた「吸い込む反応」が、床や瓦礫ごと宿儺を巻き込み移動させた。対し、宿儺は再び『脱兎』を発動。ポコポコと宿儺の影から生まれる無数の兎が高く積み上がり、魔虚羅を覆い隠そうと雪崩れ込む――だが「吸い込む反応」のせいで、魔虚羅の元に辿り着けたのは数匹程度。魔虚羅を覆い隠し眼前に迫る九々等の一撃を外させる目くらましには足りない。

 だが、宿儺の狙いは元より「目くらまし」ではない。

 

「!」

 

 ズルリ、と魔虚羅の体が影に――脱兎を「橋」として主である宿儺と繋がった足元の影の中に沈む。

 宿儺の目的は初めから、己の影の中に魔虚羅を逃がすことだったのだ。

 

「チッ(恵が言ってた十種影法術の拡張術式、影への収納か!)」 

「逃げんなクソ!」

 

 宿儺に迫っていた瓦礫が斬撃で粉微塵にされ、その影から左半身を失った魔虚羅が再出現する。

 

 ――ガコン

 

 方陣が回転。『適応』と共に魔虚羅の損傷がリセットされる。

 

「(! やっぱ適応速度が上がってるな)」

 

 主である宿儺の黒閃と、自立思考する式神である魔虚羅の黒閃。ふたつの黒閃が相乗し、魔虚羅の適応速度は一時的に加速していた。

 それを見ながら、魔虚羅以外の全員が反転術式を回す。九々等もすかさず千切れた腕をくっつける。

 全員全快――盤面がリセットされた形。四つの黒閃を起点とした一連は終わり、先まであった有利不利はほぼ均され意味を失った。

 

 だがこれにより四者 ()()れが

 120%の潜在能力(ポテンシャル)を引き出すに至る!!!

 

【挿絵表示】

 

 動いたのは九々等と五条。

 脚力:81倍!!

 ズガ!!!! と九々等が半径100mに至るまでの地面を蹴り砕き。

 術式順転『(あお)』!!

 五条がその瓦礫を余さず全て宙に浮かす。

 (ソラ)へと昇っていく世界の中、瓦礫の足場の上で彼等は叫んだ。

 

「アゲてくよ八壱!!」

「ああ!! オレたちと宿儺!! 最後の呪い合いだ!!」

 

 あっという間に舞台は天空へ。

 空の上に浮かぶ、破壊前のカタチを辛うじて残す瓦礫の群れ。一歩踏み外せば奈落の足場の中、盤面の支配者たる五条悟が指揮者のように手を振り回す。

 

「そら!」

 

 途端、宿儺へと雪崩れ込む瓦礫の山。その光景はまるで、空中を疾走する龍が人間を強襲するよう。

 大質量の砲弾たちは、「無限」に背を押されて敵を圧殺せんと空を駆ける――!

 

「はッ、やるか!!」

 

 ばつばつばつばつ!! と一瞬で百の斬撃が奔り、瓦礫の砲弾は塵と化した。

 宿儺の術式・御廚子による「飛ぶ斬撃」。彼にとって遍く全ては俎板の鯉。

 だが百の斬撃を賭して尚、切り裂けぬ砲弾がたったひとつ。

 黄金の軌跡を描く砲弾、防御力:81倍で斬撃を耐え、無限に押され進むその男の名は――!

 

「来い、九々等八壱!!」

「宿儺ああああああああああ!!」

 

 八十一倍(マラドーナ)――

 

 ――斬!!

 

 宿儺全力の斬撃が、瓦礫の山ごと世界を斬る。

 斬撃は確かに九々等を捉え。

 

「だから、もう見切ったっつっただろうが!!」

 

 無傷。防御力:81倍――不壊の肉体、健在。

 今の九々等にとって、相手の攻撃の瞬間だけ術式対象を切り替えるのは造作もない。

 致死の拳が着弾する。

 

 ――神殺拳(インパクト)!!!

 

 ズギャ!!! と大気が死に。

 天空の城から、一筋流星が地に落ちた。

 ドガァン……!! と軌道上にあったビルが倒壊し、新宿の街にクレーターが出来る。その中心で、瓦礫に埋まりながら宿儺は笑った。

 

「やってくれたな!!」

 

 呪いの王、健在。衝突の一瞬、魔虚羅が盾となり神殺の拳から宿儺を庇った。当然、宿儺・魔虚羅共に無傷では済まず、宿儺は右腕と肋骨2本の骨折、魔虚羅は足と頭部を除く右半身の消失。

 だがそれも、

 

 ――ガコン

 

 方陣の回転と反転術式で完治。

 同時、宿儺と魔虚羅の姿が掻き消える。否、飛び上がったのだ。

 

 空中で再び相まみえる四者。

 空中戦に適応した魔虚羅は翼を持ち、宿儺は飛行するその肩を足場に。

 対して五条と九々等は足場を失って落下中。五条悟は兎も角、九々等八壱に飛行は不可能――

 

「学習しねえな!!」

 

 五条が笑い、腕を天へ一線――すると地面にあったビルが地面から剥がれ、一棟丸々浮上して来た。屋上が宿儺・魔虚羅に衝突し、その体を建物の中へ招き入れる。

 そして、それぞれ逆側の壁を突き破って入ってくる五条悟と九々等八壱。

 挟み撃ちの形になった彼等に対し、宿儺は手刀に呪力を込める。

 ジリッ、と濃密な呪力に空気が焼け、

 

「お返しだ」

 

 ゾン!!!!

 術式、抜刀。円環の一刀が世界を薙ぐ。

 一刀両断真っ二つとなるビル。斬撃の軌道上に居た五条悟は無限で、九々等は防御力:81倍で防いでいるが、空気どころか原子ごと斬ったのではと錯覚する凄まじい威力。

 再び足場が消失、空中戦になる。だがそれは五条悟が斬られたビルの下側を浮かせば解決する――しかしそれは宿儺にとっても同じこと。

 ビルが『蒼』と自重で圧縮され、その度宿儺の斬撃がビルを切り裂く。

 バキ、ベキ、バキバキゴキベキ。

 斬、斬、斬斬斬斬斬。

 

 ゲラゲラゲラゲラ、と宿儺が嗤う声と共に、遂に粉々になったビルが地上に落下した。

 ズゥウン……と地を揺らす衝撃。粉塵が巻き上がり、衝撃に付近の建物の窓ガラスが残さず割れる。

 だが彼等にとって、そんなものはアクシデントに成り得ない。

 

 現在進行形で崩れる瓦礫の山の中から宿儺が飛び出して来る。それを追って飛び出して来る五条悟、そして彼を追う魔虚羅。

 

「『位相』『黄昏』『知恵の瞳』、『位相』『波羅蜜』『光の柱』」

 

 五条悟の右手に蒼い光の球が、左手に赫い光の球が生まれる。

 

「(! 虚式――)」

 

 『茈』への警戒。

 宿儺の体が一瞬だけ強張り、魔虚羅が阻止のため五条を襲う。

 ざしゅ、と振り返った五条を袈裟に斬る魔虚羅の剣。だが、無理な一撃故に傷は浅い。

 

「ははっ、ビビッてやんの!」

 

 余裕を滲ませて笑い、五条は動く。

 

 術式順転『(あお)宿儺(まえ)に、

 術式反転『(あか)魔虚羅(うしろ)に!

 

 ぎゅわ! と放たれた蒼の光球に宿儺と瓦礫が吸い込まれ。

 赫の光球がそのまま魔虚羅の腹まで飛び、触れたことでドン!! と炸裂する。

 虚式をブラフにした蒼赫同時攻撃。宿儺と魔虚羅が分断される。

 

 圧殺する『蒼』に瓦礫共々吸い込まれる直前、宿儺は斬撃を放つ。だが無限の適応が術師本人に還元されない以上、その斬撃は苦し紛れでしかない――。

 

「(違う!)」

 

 五条が気付くも一瞬遅い。

 ザン!! と斬撃が背後の建物を切り裂き。

 それによって道に影が落ち、吹き飛ばされたハズの魔虚羅が影を伝って高速移動。宿儺の影から現れて『蒼』を破壊する。適応済み故にひと撫でで破壊される『蒼』。

 切り取られた建物上部が落下し瓦礫と粉塵が舞う中、宿儺が嗤って五条悟に向き直り――しかしその目が見開かれた。五条悟が分身していたのだ。

 スゥー、と宿儺・魔虚羅を取り囲む五条悟の残像たち。その拳には余すことなく、暗い影の中で輝く『蒼』の吸い込む反応が。

 

「(分身は恐らく可視光の歪曲・乱反射、それによって作られる分身に合わせて『蒼』を操り本体の判別難度を上げていると言った所か) だからどうという話でも無いが――」

 

 だがその分身も、魔虚羅がひと薙ぎすれば『蒼』ごと消し去れる。

 暗く陰った世界の中でそこまで考えた宿儺は、しかし違和感に気が付いた。

 

 違和感。

 

「(――九々等八壱が居ない?)」

 

 違和感。

 

「(俺が影を作る為に破壊した建造物は既に落下している。なのに何故、俺と魔虚羅を覆う影が去っていない――?)」

 

 そこまで思い至り、宿儺が反射的に上を見上げる――そこに在ったのは、

 

 空中に逆さに浮かぶ、超巨大な建築物の屋上。

 建築面積約3000平方m、高さ約225m。その()1階、引っこ抜かれた建物の根元の上に、その男は立っていた。

 

「視界良好、呪力回復ギリOK!」

 

 風がばたばたと服を髪をはためかせる中、腕を組んで直立不動のまま天上に仁王立ちした男、九々等八壱。

 彼は地表を見下ろしながら豪快に笑う。眼下に宿儺(ひょうてき)の存在を確認して。

 

 新宿に逆さに浮かぶ超高層ビル。それは新宿歌舞伎町1丁目から五条悟の「無限」によって運ばれたものだった。

 それは、神の槍と言うには巨大過ぎて。

 巨人の武器と言うにも歪な形をしていて。

 無理矢理何かに例えるならばそう、対惑星規模で作られた、星を砕くための弾丸か――。

 

 その上に立った九々等八壱は、腕組みを解いてしゃがみ込み、建物の床に己の腕を突っ込んで。

 

「行くぜ――建物外殻の強度:81倍!!!」

 

 陽光を受けて銀に輝く、全面ガラス張りの対星魔祓弾(シルバーブレッド)

 それが一気に呪力を帯びるのが、見上げる宿儺には分かった。

 

 冪乗呪法・拡張術式『板』。術式対象を、術者が触れた術者以外の呪力を宿さない非生物にまで拡張する。その際術式対象にされた物体は九々等の呪力で覆われる。

 

 それを合図に、フッ、と建物を浮かせていた無限が解かれる。重力と言うルールに従って、浮遊物は呪力を纏ったまま自由落下を開始する。

 その弾丸の端っこで、九々等八壱は呵々と叫んだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()2()()()()()――ぶっ潰れろや王サマよぉ!!!」

 

 慮外の超質量が、不壊(はちじゅういちばい)の呪力を帯びて両面宿儺に襲い掛かる!!

 

「――」

 

 迫り来る銀色の天蓋に、咄嗟に宿儺はその場から離脱しようとして。

 ぐんっ、とその体が引き戻される。

 

「「「『見逃(みのが)すとでも』、だったかな?」」」

 

 五条悟の分身が持っていた『蒼』、その多重に重ねられた「吸い込む反応」が、彼の離脱を妨害した。

 問題は魔虚羅も宿儺と共に離脱しようとしていたこと。『蒼』に適応済みの魔虚羅は引き戻されることはなく、必然宿儺と魔虚羅の距離が開く。それはつまり、宿儺を拘束する『蒼』の破壊がワンテンポ遅れることを意味する。

 落下は間近。間に合わない――

 

「魔虚羅!」

 

 宿儺の檄に、魔虚羅が飛んだ。獲得した飛行能力で迫る東急歌舞伎タワーの天蓋に到達し、両手を当てて全霊で押し返そうとする。

 だが、べきめきと壊れるのは魔虚羅の腕の方。呪力を帯びたことによりタワーは呪力で構成された体を持つ式神も破壊できるようになっており、その質量2万tはとても止められるようなものではない。

 魔虚羅が身命を賭して、しかし落下の速度は一向に緩まない。

 

「――(カイ)!!」

 

 ばつん! と宿儺の斬撃がタワーに飛ぶ――が、斬撃は外殻に弾かれた。建物外殻の強度:81倍による超硬度。

 

「ちぃッ……」

 

 回避も不可。押し返すのも不可。破壊も不可。

 流石の宿儺の脳裏にも「死」が過ぎる。

 

 ――ガコン

 

 方陣が回転。

 魔虚羅が一回り以上巨大化し、地面を踏み締めてタワーを押し戻そうとする。

 べきめきと陥没する地面。ぶちぶちと魔虚羅の手足から響く異音。それでも2万tの落下は止められない。適応が間に合わない。

 

 更に、駄目押しとばかりに呪力が高ぶる。

 

「『位相』『波羅蜜』『光の柱』」

 

 いつの間にかタワーの上――元は根元だが――かつ九々等の隣に移動していた五条悟。そのタワーに向けられた指先に赫が燈る。

 

「思いっきり行くよ八壱!」

「よっしゃ、ペシャンコにしてやれ先生!!」

 

 術式反転『(あか)』!!!

 

 タワー現上部に放たれる『赫』。

 建物外殻の強度:81倍がある以上、『赫』は建物を殆ど破壊できない。

 つまりそれは、『赫』の斥力がそのまま質量に加算されることを意味する――!

 

 ズン!! と更に増す圧力に、魔虚羅の足が砕け地面に膝を付く。

 2万t(プラス)『赫』による質量攻撃で、魔虚羅・宿儺は両者とも、一秒後には圧殺されていてもおかしくない状況にある!!

 未だ『蒼』に拘束され、潰れかけの魔虚羅に守られながら、宿儺は――。

 

「(魔虚羅がどう適応するかは選べない。だが『何を優先して適応するか』は術者が選ぶことが出来る。つまり適応の内容は選べないが、ある程度の方向性を誘導することなら可能)」

 

 宿儺は待っていた。

 ぐしゃ、と魔虚羅の腕が潰れ、最早残った足と体だけでタワーを支えている構図になる。

 

「(俺が戦闘開始から適応を優先し続けたのは『五条悟の無限』ともうひとつ、『九々等八壱の超防御』――)」

 

 五条悟と九々等八壱、双方に有効な技をある程度想像(イメージ)出来ていたが故に、宿儺はその『適応』が訪れるのを待っていた。

 

「(――魔虚羅、もうオマエは伏黒恵ではなく俺の影だろう)」

 

 べき、と魔虚羅の腰がへし折れる。辛うじて耐えていた均衡が崩れる。

 225m頭上で、滝のように汗を流しながら術式を保つ九々等、赫で全力でタワーを押している五条が手応えに笑う。

 1秒後の圧死、迫る2万tを見上げながら、宿儺はあくまで()()()を待っていた。

 

「魅せてみろ!!」

 

 果たして、その声に応えるように――

 

 ――ガコン

 

 瞬間、色も音も殺すかのような斬撃が世界を奔り。

 東急歌舞伎町タワーが、下から上まで左右二つに両断された。

 

 一瞬遅れて、斬!!! と音が帰ってくる。

 タワーの天辺、斬撃で分断された右に居た九々等と左に居た五条が驚愕に目を見開く中、宿儺だけがその一撃がどれ程の神業なのかを理解し賞賛する。

 

()い」

 

 ズズゥン……!!! と両断された歌舞伎町タワーが地面に落ち、その間で腕を振り抜いた魔虚羅が嗤うのを、九々等と五条は落下しながら目にした。

 

「コレは――」

「『硬度無視攻撃』と宿儺の『飛ぶ斬撃』の合わせ技!?」

 

 驚愕から立ち直った2人はそう分析する。恐らく主である宿儺に影響を受けた結果の『適応』であると。

 

「(『蒼』への適応に加え対八壱への攻撃まで覚えられたか! あの黒閃でだいぶ計算が狂ったな。こうなると一気に魔虚羅の脅威度が増した)」

「(先生の『蒼』『赫』に加えてオレの『冪』もある程度は適応されただろうな。こうなると単純な強化打撃じゃ一撃で消せるか怪しい)」

「(となると魔虚羅を一撃で消すには()()しかないが、タメがデカい上に明らかに宿儺に警戒されてる)」

「(ただ決めるだけでも激ムズ、その上カス当たりで()()にも適応されたら詰み……とは言え他に選択肢ナシ)」

 

 225m垂直落下からの着地と同時、師弟は同じ結論に到達する。

 

「「(無制限の()式をキメるしかない(ねえ)……!!)」」

 

 難題を突き付けられたその表情は、しかし抑えきれない笑顔だった。

 

 

 これより41秒後――

 ■■■■■

 式『』が 新宿に戦跡を刻む




次回「×9^2 ■式②」
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