羂索により新宿の街に解き放たれた2000体の呪霊。
「一切鏖殺」の命を与えられ新宿の外を目指すその呪霊たちを、
「『
「『リカ』!!」
狗巻が叫ぶと10を超える呪霊が爆発し、呪言を耐えた個体は乙骨の命令を聞いた禍々しい式神がトドメを刺す。
「『超新星』――悠仁!」
脹相が操る浮遊する圧縮された血の塊が爆発して呪霊の群れを祓い、足を削られた巨大な呪霊の胴へ虎杖が拳で大穴を開ける。
他にも禪院真希、秤、日車、日下部、猪野など、最低限の情報連絡役を残し、高専術師は総動員で「疑似百鬼夜行」の対応に当たっていた。
波のように迫る数えきれない呪霊を、宿儺戦のため集まっていた猛者たちが連携して祓っていく。
呪霊の中には1級・特級も居るが、全体の割合的には1割にも満たず、このまま全員で連携すれば高専側の勝利は確実と言えた。
だが、全員気付いている。これは宿儺戦に援軍を送らせない為の時間稼ぎだと。
その上で目の前の呪霊を祓うしかない。1体でも逃せば、「一切鏖殺」の命を与えられた呪霊たちは無辜の人々を次々に殺すだろうから。
「(……これじゃ五条先生の援護だけじゃなく、羂索を追うことも出来ない。捜索は冥さんに任せるとして、今新宿内では何が起こっているのか……)」
「クソ、キリがねえ!」
「おい、てか鹿紫雲のヤツどこ行った!? さっきから姿を見てねえぞ」
「……
その呟きに、彼等は戦場方向の空を見た。
巨大なビルが重力に逆らって空中に浮いているのが遠目からでも分かった。まるで神の槍だ。ビルはそのまま落下し、次に真っ二つに縦に切断されて崩れ落ちる。
ごうっ、と衝撃によって発生した風が此処まで流れて来た。
「何て規模だ……!」
「……だから言っただろ。援軍なんて足手まといだってよ」
異次元の戦闘規模。終わるころには新宿は丸ごと更地になっているのでは、なんて考えが荒唐無稽と一笑できない規格外。
神話の戦い――それの前で人が出来るのは、最早祈ることだけなのか。
違う、と乙骨は確信する。
そう思わせてくれた男の顔を思い出し、呪霊を1秒でも早くとばかりに次々倒しながら彼は祈る。
「(九々等さん……五条先生を頼みます。もう少しだけ持ち堪えて下さい……!)」
と同時――戦闘が行われている新宿の方から、凄まじい呪力の高ぶりが伝わって来た。
「オイオイ、コレは――」
「虚式『茈』となんだ!? とんでもない呪力だぞ!?」
もう一つの呪力の正体に気付いたのは二人。
九々等の呪力を体で覚えていた虎杖と、呪力の高出力指向放出を身につけている乙骨。
――決着が近い。
「「(五条先生……!)」」
彼等は際限なく溢れてくる呪霊を祓いながら、祈るように戦場の方向を眺めていた。
――無制限の虚式/極式をキメるしかない。
そう判断した五条悟・九々等八壱の行動は速かった。
五条悟が両掌を合わせて後ろに構える。合わさった手の中で、ギィィィィィィィ!! と金属が摺り合わされるような異音と共に術式がぶつかり合っていく。
九々等八壱が掌印を組む。親指と中指で作った輪、その中心で呪力が圧縮されていく。
「『
「『
呪詞の詠唱、交差。茈と金、二色が新宿を染め上げる。
『
『
共に「最強」の名に相応しい必殺技。直撃すれば消耗した宿儺・適応を繰り返した魔虚羅といえど例外なく致命打となるだろう。
故に、宿儺はその「起こり」を見逃さない。
『
ばつ!! と斬撃が奔り、九々等の掌から鮮血が舞う。
ばしゅ、と爆発するように霧散する圧縮した呪力。
「
掌に刻まれた傷自体は大したものではない。それは宿儺の狙いが斬撃で圧縮呪力球を刺激・炸裂させることであり、斬撃の威力がその圧縮呪力の炸裂で大幅に殺されたからだ。
『
それを見て、五条悟は発動前の『茈』を放棄した。
「(単発じゃ駄目だ、避けられる。虚式と極式、どちらかを囮にしてどちらかを当てるか、最低でも連携で隙を作ってからじゃないと決め技は撃てない)」
「最悪」はやはり魔虚羅に虚式/極式を適応されること。そうなれば魔虚羅を倒せる可能性は限りなくゼロになってしまう。最後の決め技の使いどころは慎重にならざるを得ない。
そんな魔虚羅が、『茈』が来ないと見るや腕の刃に呪力を込めた。
ジリッ、と空気を焼く異質な呪力。
五条・九々等の背筋に電流駆ける中、魔虚羅が抜刀――
――瞬間、宿儺のそれより数段鋭い「飛ぶ斬撃」が地平を薙ぐ。
地平線に見える建物まで切り裂いたのではという横薙ぎの一線を、しかし五条と九々等は跳躍することで回避していた。
「(魔虚羅の『飛ぶ斬撃』はタメがあるな。防御無視に加えて多分僕の無限も突破できるだろうけど)」
「(注意してれば充分避けれる! 今後の適応次第だがまだ恐るるに足んねえ!)」
同時、空中に飛び上がっていた2人の姿が掻き消えた。
無下限呪術による空間圧縮・距離跳躍。黒閃により己のみならず九々等にまでそれを適用させた五条は、宿儺の頭上に瞬間移動して踵落としを落とす。
宿儺が咄嗟に反応、ガードしようと腕を上げ――五条がピッと腕を振るえば、それにより発生した「吸い込む反応」が宿儺を地面に叩きつけた。そのまま無防備な腹に踵落としが入る――
黒い火花が空気に奔り、衝撃と蜘蛛の巣状の罅が地面に奔る。
メキメキと骨を内臓を軋ませる一撃は、しかし辛うじて宿儺の掌にガードされていた。それが無ければ内臓破裂は免れなかっただろう。
一方、魔虚羅の元に瞬間移動した九々等。
魔虚羅が刃を振るう。呪力のタメは無い、つまり「飛ぶ斬撃」では無いが、魔虚羅は適応により「硬度無視」の力を身につけている。
ズガ!! と刃が入り。しかし刃を受け止めた九々等の腕に刃は入っていなかった。
防御力:81倍――概念強化によるダメージ減少は、硬度強化と違い硬度無視攻撃も防ぎきる。
虚を突かれた魔虚羅の顎目掛けて、九々等は飛び上がりアッパーカットを見舞う。当然、術式により攻撃力:81倍を付与しての一撃――
2.5乗の倍率が、81倍と相乗して世界を黒に染め上げる。
過去魔虚羅を破壊した一撃の再現を受けて、しかし魔虚羅は健在だった。咄嗟に割り込ませた左腕の肘から先、下顎は消し飛んでいるが、明らかに以前より損傷が少ない。
――魔虚羅は既に一度攻撃力:81倍の攻撃を受けている。故にソレに耐えうる耐久力を、適応によって獲得していた。
――ガコン
方陣の回転。魔虚羅の損傷がリセットされる。
ジリッ、と刃に呪力を込め魔虚羅が狙ったのは、背後で主たる宿儺を攻撃している五条。
「飛ぶ斬撃」が一閃され、五条は咄嗟に回避――だが避けきれなかったその片腕が切断される。
同時、宿儺は地面に倒れた状態のまま斬撃を放った。狙いは九々等、魔虚羅を追撃しようとしていたその体を、袈裟十字の一撃が襲い鮮血が舞う。
「――」
生まれる一瞬の隙。
そこを突き、再び並び立ち態勢を立て直す宿儺と魔虚羅。宿儺は常に魔虚羅を傍に置き自分をカバーさせる構え。
対し、傷を負った五条・九々等。片腕が肘の上から切断された五条に、胴に刻まれた十字の傷からぼたぼたと流血する九々等。だがその顔に悲愴感は見られない。
「(やっぱり『飛ぶ斬撃』は僕の無限を突破できたか。魔虚羅の方も八壱の超攻撃力打撃に適応)」
「(こうなるとマジで『
敗北の可能性が脳裏を過ぎる。
それは「最強」五条悟も同様であった。
「(いつぶりかな……言わずもがな)」
だが敗色と同時により濃く湧き上がる充足。
絶対的な強者、それ故の孤独。今彼を満たしているのは――
「……クック」
と、隣から聴こえた含み笑いが五条の思考を遮った。
「――、どうしたの八壱」
「
彼もまた笑っていた。自分と同じ戦いの愉悦を噛み締めながら、しかしどこか違う笑顔で。
「この2人でなら、まるで負ける気がしねえんだ」
「――」
瞬間。五条悟の脳裏を染める澄んだ青。
敗色の気配など何処へやら、勝利の確信が思考を埋める。
「……当たり前でしょ。だって
青い瞳と金の瞳が互いを見つめる。以心伝心、作戦の全てを伝えるアイコンタクト。
それを受けて九々等八壱も笑い。
彼等はただ、世界の中で自分たち2人こそが主役であると全身で叫ぶ。
二度の黒閃――五条悟/九々等八壱のボルテージが上がる
呪いの王・両面宿儺に 千年ぶりの緊張が走る
傷などすぐに完治させ。
五条悟は反転した呪力をそのまま術式に回した。
術式反転 複数装填
その背に複数の赫い呪力球が円を描くように並び。
炸裂前の呪力球が、次々に宿儺/魔虚羅両名に射出される――!
『
『赫』の連射。途切れないよう背に充填される『赫』がそのまま射出される様は、ガトリングガンを思わせる。
ズガガガガガガガガガ!! と新宿の街を絨毯爆撃する『赫』。瓦礫をビルを吹き飛ばす連射は、正しく新宿を更地にする勢いだ。
それを魔虚羅の体を盾にして凌ぎながら、宿儺は思考する。
「(『
宿儺の腹に残響する痛み。先の黒閃も含め、受けたダメージはその肉体に確実に蓄積されていた。
「(俺も万全ではない。この距離で『
――ガコン
魔虚羅の「飛ぶ斬撃」が再び放たれ、五条悟は回避のために『赫』の連射を中止せざるを得なくなる。
未だその背には浮いた『赫』が。念のため、宿儺は魔虚羅の傍に留まりつつ斬撃を連射する。
今度は無数の斬撃に切り刻まれる新宿の街。宿儺の斬撃を防御、織り交ぜられる魔虚羅の「飛ぶ斬撃」を上手く見抜いて回避する両者を前に宿儺は思考する。
「(五条悟の『虚式』は
そんな宿儺の視界の先で、「呪力の圧縮」が行われる。
九々等が構えた掌印、その親指と中指で作られた輪の中で呪力が圧縮され、『
呪詞の詠唱破棄。
九々等は二度の黒閃で、呪詞の補助無しで呪力の圧縮が可能となっていた。
更に五条悟が九々等八壱の横に立ち、再び『赫』の連射を開始。魔虚羅を盾にせざるを得なくすることで宿儺の斬撃を封じる構え。魔虚羅の斬撃は呪力のタメを見て躱せば良いという判断か。
だが。
「(魔虚羅!)」
――斬、と。
宿儺の命令と共に――先よりも短い呪力のタメと共に放たれた「飛ぶ斬撃」が、九々等の掌印を構えていた腕を斬り飛ばした。
適応によるタメの短縮化。タイミングを外されたことにより九々等の回避は間に合わなかった。
更に、驚愕する九々等に宿儺が斬撃を放つ。『赫』の絨毯爆撃の為狙いはある程度逸れたが、それでも全霊の『
ぼしゅぅ、と斬り飛ばされた腕に残っていた呪力球が霧散する。
ここに九々等八壱は、その両腕を失った。
「(両腕を奪ってしまえば、再生までの間は『極式』を封じられる。更に格闘戦も大きく弱体化し、治す為には多量の呪力が必要。先ずはこの繰り返しで九々等八壱を戦闘不能にする――)」
勝機の気配に宿儺は嗤い。
――だが、九々等八壱は既に勝利を確信している。
「(手で『輪』を作れないと呪力を圧縮できないだろ、ってカオしてんな。残念ながらハズレだぜ呪いの王サマ!!)」
両腕を失った九々等八壱はしかし、好戦的にほくそ笑んだ。それは呪いの王を戦略で上回ったことへの歓喜の発露。
宿儺の考察は正しい――親指と中指で作る「輪」とはつまり、複数方向から呪力を集め圧縮するのに最適な形。掌印は技の補助輪であると共に、圧縮に必要な「輪」を用意する為のもの。だから宿儺は『
それは、九々等八壱の成長曲線。
――呪術を極めることは引き算を極めること。
呪詞・掌印など術式を構成あるいは発動させるまでの手順をいかに省略することができるかで術師の腕は決まる。
九々等八壱は黒閃によるゾーン状態で、呪詞と共に掌印無しで呪力を圧縮できるように成長していた!
そして。
「(手なんか要らねえ。圧縮するための「輪」なら
あくまで脳内で叫び、
閃光が漏れる――開かれた口の中には、圧縮された呪力の球が在った。
「!」
口内――それは呪力圧縮の為の「輪」に成り得、更に『
怪物が熱線を吐くように。
圧縮された黄金の呪力が、指向性と81倍の超威力を与えられて九々等八壱の口から発射される――!!
光線じみた黄金の呪力砲が放たれる。
威力は必殺、範囲は直径3mを超える超威力の呪力の放出。
だがそれは単発では、宿儺/魔虚羅にとって回避できない速度ではない。
咄嗟に横に飛びのいて魔虚羅共々回避した宿儺は、不意打ちの『
五条悟の六眼が、嘲笑うように宿儺を見ていた。
「『
朗々と響く呪詞の詠唱。脳のダメージで下がった術式の出力をカバーすると同時、九々等八壱の隣で五条悟は術式を発動。
『蒼』の発生場所は――両面宿儺の背後、彼を挟んで『
「吸い込む反応」が宿儺を引き寄せ――そして、
『蒼』が宿儺同様に引き寄せたのは、放たれた『
「!」
つまりこれは――術式順転『
黄金の奔流が、その軌道を鋭角に曲げて宿儺/魔虚羅を襲う!!
『
ぐい、と。
魔虚羅が宿儺の体を掴み、変化した『
魔虚羅は『蒼』に適応しており、その「吸い込む反応」の影響を受けない。正確には変質させた特殊な呪力で無下限呪術の効果を乱し無効化する。つまり魔虚羅が呪力で包めば、宿儺もまた『蒼』の影響を無効化できる。
こうして、宿儺は『
連携大技は不発に終わる……そう宿儺は確信し。
しかし彼の四つの眼は見た。九々等八壱にも五条悟にも、失意の気配が欠片も宿っていないことに。
それも当然だ――
「(五条先生の眼を見たとき。やりたいことが何となく分かった。良かったぜ、虎杖の兄ちゃんに
九々等八壱は『
彼の狙いは『
「(――そう、避けられても良い。
金の濁流の中で、微かにきらりと別の色が瞬いた。
それは、
――二度の領域融合、必中術式の重複。その経験から九々等八壱は、『五条悟の呪力限定でそれを阻害・刺激しない』という技術を身につけていた。
つまりこの『
「『
凝縮された時間の中唱えられた『赫』の呪詞。
黄金の中微かに瞬いていたソレは、途端に勢いを増し赫く赫く輝きを放つ。
ここに来て、宿儺も意図を理解した。
『
――虚式『
追尾するソレは、運河だ――黄金の色で覆い隠し、その威力で誰も触れられ無いようにして、『
「『
宿儺の誤算。『
五条悟が九々等八壱の隣に立って『赫』を乱射していたのも、その背に『赫』を常に装填し続けていたのも、『蒼』で軌道を曲げて『
『
「魔虚羅!!」
させまいと宿儺が叫ぶ。だが『蒼』は先の『曲がる
ならば『赫』を刺激して炸裂させる、と『
最早宿儺に出来る抵抗は無く。
黄金の運河に導かれ、赫と蒼は今邂逅を果たす――!!
――しっかり決めてくれよ!!
――当ッ然!! 最強を目に焼き付けなよ!!
声にせずとも意思は伝わり。
ふたつの色は混ざり合って光を放つ。
順転と反転 それぞれの無限を衝突させることで生成される 仮想の質量を押し出す――!!
「『
宿儺が四つの目を見開く――
魔虚羅が最後の忠義として宿儺を庇う――
九々等が笑いながら『
そして、五条悟が高々と指を鳴らす――
『
全てを
決意から41秒後――
再び五条悟の
虚式『茈』が新宿に戦跡を刻んだ
パラ、と瓦礫が崩れる。
『茈』の爆発が通り過ぎた街は惨憺たる有様で、街というよりは瓦礫の山だ。
そんな、破壊の爪痕が刻まれた新宿の中心で、重傷を負った両面宿儺が辛うじてという姿勢で瓦礫の壁に体重を預け立っていた。
そんな彼の前に、同じく重傷のその男は現れる。
「指向を絞らず自身も巻き込む無制限の『茈』……の割にはダメージに差が出たね。距離の問題かな? それともやっぱ、自分の呪力ってのが大きいのかな」
五条悟、健在。言葉通り彼が負ったダメージは宿儺より倍は少ない。
と、遠くから駆け寄ってくる足音と声が五条の耳に入る。
「先生ー!」
「うん、八壱も生きてるしやっぱ後者かな。イヤ、あいつなら防御でも回避でも間に合わせれるか。まあともかく、遠隔の『茈』もアドリブにしては上出来でしょ」
初めての自爆です、と冗談めかして言う余裕がある五条に対し、言葉を返す余裕もない様子の宿儺。そんな2人が立つ街の残骸の中心に、九々等八壱は足を踏み入れた。
壊れた街の端っこでボロボロになった己の右腕を見つけ、口で咥えて持ち上げ反転術式でくっつけながら、未だ隻腕の彼は五条と宿儺の様子を見やる。
五条は九々等同様にみるみるうちに『茈』で負った傷を治癒していたが、反面宿儺の治癒は遠目からでも分かる程遅い。更に魔虚羅の姿、呪力共に確認できない、ということは。
黒閃で反転術式の出力を取り戻した五条に対し、魔虚羅という無下限・81倍防御の突破手段を失い大ダメージを負った宿儺。
これは、もう。
「――オレ達の勝ちだ」
五条悟の余裕の笑顔を見て。
確信が、九々等八壱の口から滑り落ちた。
「最強」の戦跡、