9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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今回とかもうあんまオリ主関係ないですが許してください。自分は鹿紫雲が好きなんです。バカサバイバーやれない分ここで遊ばせてください。


×1 慈愛

 ――思い出す。

 

 雷鳴轟いて尚、眼前の男は健在だった。

 

()てぇ……ピリッと来たぜ」

 

 打撃と共に溜めた電荷を一気に放つ必中の雷撃。肉を焼き骨を焦がして余りある紫電、その威力の前に人体は脆い土塊でしかない。

 だが。

 

防御力:81倍でこれとか、マジで殺す気じゃんオマエ! どうなってんだ倫理観とかさぁ!」

 

 だが、九々等(くくら)八壱(やいち)は倒れなかった。

 防御のため交差した腕に焼き付いた紫電の爪痕は、しかし肌を焼くに留まっており、その微小なダメージもすぐに反転術式でゼロへと戻っていく。

 

 高専敷地内、鬱蒼と茂る森の内。

 九々等に戦闘を挑んだ術師、鹿紫雲(かしも)(はじめ)は笑う。

 帯電した呪力を纏う防御不能の打撃、如意による殴打、溜めた電荷を解放する必中の雷撃。その悉くが命中し、されど致命打に程遠い。

 ――強者。己の攻撃をこれほど耐えたものは過去にも居なかった。

 鹿紫雲の口角が獰猛な笑みを作るのも必然であった。

 だが、同時に不満もあった。

 

「おい。なんで反撃してこない」

 

 九々等は開戦以来ずっと防御力:81倍で耐えていただけで、反撃を行おうという気配が感じられなかった。

 それに苛立ちながら鹿紫雲が問えば。

 

「オマエが話聞いてくれねーからだよ! 差し当たっては反転術式を使えるか、使えるとしてどのレベルの怪我までなら治るのか言えバカ!」

 

 ぎゃいぎゃいとそう叫ぶ九々等。

 それは戦闘モードの鹿紫雲にとって「手の内を晒せ」と言われているのと同義――正直に答える義理の無い問い。故に質問の意図を掴みかねる彼だったが。

 

「オレの術式は手加減がムズイの! 宿儺戦の戦力を減らす訳にはいかないんだよ!」

 

 九々等にとっては死活問題だった。

 鹿紫雲は宿儺戦の戦力、つまり九々等にとっては仲間だ。そんな彼を負傷させることは来たる宿儺戦の勝率を下げる行為に他ならない。

 つまり。

 

「チッ」

 

 ――死合にならない。

 そう察した鹿紫雲は舌打ちと共に矛を収めた。

 つまらなそうな彼を前に、一方的に奇襲され一方的に飽きられた九々等は、つい普段なら言わないような小言を口から漏らしてしまった。

 

「……オマエさ、マジに戦闘狂なのな」

「?」

「自分で気付いてないんか? オマエ、戦ってるときは楽しそうに笑ってたけど、勝ちを確信した瞬間に笑顔が消えてたぜ。んで大技を耐えられた瞬間笑顔が戻った」

 

 それは。

 鹿紫雲は思わず己の口元を押さえた。

 

 鹿紫雲一。戦闘狂の受肉術師。

 強者との死闘を好む彼は、しかしその表情だけを見れば、勝利を目的にしている訳ではなく――。

 

「ただ戦うのが好きってんなら、宿儺戦が終わった後で付き合ってやっても良いけどさ。死にたいだけなら他所でやれよ」

「……」

 

 九々等の言葉に、鹿紫雲は沈黙した。

 ……己の表情など気にしたことも無かったが故の困惑。そこから辛うじて立ち直った彼は、兎に角といった具合で九々等に反論する。

 

「別に、死にたい訳じゃねえ」

「じゃあ何だ?」

「……なんなんだろうな」

 

 だがやはり、己の真意は見えなかった。否、ずっと前から分からなかったのだ。

 死にたい訳ではない。力の発露を求め強者との戦闘を楽しんでいるのは確かだが、その後の勝利も虚しくなって久しい。

 宿儺との戦いに固執したのは、確かに全力(じゅつしき)をぶつけるに足る強者であるという理由もあるが……拳を交えて知りたかったのだ。強者(じぶん)に課せられた苦悩の答えを。

 ……。

 宿儺にしか訊くつもりはなかったが……まあ、損は無いだろう。

 

「おい、あー」

「九々等な! 九々等八壱!」

「九々等。オマエは生まれながらに強者だったのか?」

「……? 術師になったのは1ヶ月くらい前だけど。いわゆる覚醒型ってヤツね」

「そうか」

 

 その時点で鹿紫雲――生まれながらの強者である彼は興味の半分を失ったが、しかし宿儺もそうであるとは限らないことと、体感した九々等の強さが辛うじて次の言葉を繋いだ。

 

「オマエは強さを得て尚他者を慮っている。九々等、オマエは何を知っている? 弱さを知っているから他者と関わりソイツらを守ることに意味を感じられるのか?」

 

 九々等八壱は強者だが、強者の苦悩、際限なく力の発露を求めて彷徨い続けることの苦しみを知らないように見える。

 その真偽が、理由が知りたい。

 そんな意図で放った問いだったが、九々等は。

 

「……なんで皆オレなんかに相談すんの? オレそんな賢そうに見える?」

 

 正直荷が重いです、と自信無さげに頬を掻いた。

 

「答えろ」

 

 苛、と額に青筋を浮かべて睨めば、九々等は観念したように言う。

 ゆっくりと、考えを纏めながら丁寧に。

 

「……そうだな。オレは、力の強さは価値のひとつでしかないと思ってる。力ってのは楽しいし何かを押し通せるもの――その気になればそれ以外の全てを壊してしまえるものだけどさ、それだけで何かを生み出すことは無いだろ。知識、芸術、愛……世界を作ってるのはそういう暴力以外のものだ。壊すと作る、どっちがスゲーかって言われるとオレは絶対『作る』の方だと思う。ただオレにそっちの才能は無かったから、せめてそういう人たちに降りかかる火の粉は祓ってやりたいってだけ」

 

 九々等の考え方は、鹿紫雲にも理解は出来た。

 破壊は易く、創造は難い。しかし文明を発展・維持するのに必要なのは常に後者だ。それは紛れもない事実。

 だが違う。違うのだ。自分が求めているのはそういう答えではない。

 

 そんな鹿紫雲の内心を知らず、九々等は続ける。

 

「ほら、オレたちは戦わずとも言葉で分かり合える。これも『作る』だ。そりゃ全力出すのは楽しいけどさ、死んじまうまで戦う必要が無くなってるのはそのお陰だろ?」

「……詭弁だな。オマエに強さが無ければ、俺はオマエの言葉なんか聞かなかった」

 

 言って、鹿紫雲は踵を返した。

 例えどれだけ美しかろうと、容易く壊せる脆い土塊(つちくれ)に価値を見出すことは出来ない。

 そしてどんなに愚かだろうと、どれだけ虚しくなろうと……自分は戦うことを、戦いを楽しむことを辞められない。

 それが強者の業なのか、それとも。知りたいのはそれだった。

 だから、

 

「オマエは違った」

「……そっか」

 

 九々等八壱では、鹿紫雲一を救えなかった。

 

 これは、そんな記憶。

 交わりそうで交わらなかった、2人の強者の語らいの追憶である――。

 

 

 

■壱■

 

 

 

 時は戻り、決戦の地・新宿。

 地上203mからの跳躍をみせた鹿紫雲のはるか上空より姿を現したのは、

 

「(龍?)」

 

 氷の龍、と見紛う形状の細長い氷塊。しかし裏梅の姿はない。

 それだけではない。

 

「(五条悟も九々等八壱も居ない。退いたのか)」

 

 彼等の残穢だけが残った瓦礫の山に鹿紫雲が着地するのと、氷塊が溶けるのは同時だった。

 鹿紫雲は知覚する。雨のように降る雪解け水の中、呪力の塊が宿儺の手の中に落下するのを。

 

「(氷塊はソレを届けるためか……)」

 

 氷解から溶け出たのは(よろず)が絶命の縛りと共に構築した呪具神武解(かむとけ)

 虚空を斬るように振るわれた呪具、その効果は奇しくも。

 

 バリィィ!! と雷鳴が轟いた。

 雷が強襲したのは、鹿紫雲。雷撃の色は彼の呪力とは異なる黄色。

 神武解(かむとけ)による雷撃。並の術師なら灰と化し、耐えられても雷撃の副次的効果で痺れ、行動力を奪われる。

 だが。

 

「――宿儺」

 

 鹿紫雲、健在。

 黄色の滞雷を紫電が裂く。

 鹿紫雲は自身の呪力特性上、電撃に耐性がある。

 彼は雷撃など意に介さず、ようやく出逢えた宿儺に問う。

 

「オマエは最強に成ったのか? それとも生まれながらに最強だったのか?」

「どうかな。少なくとも忌み子ではあっただろうな」

「弱さを知らずに、どうやって他人と関わる。どう他者を慈しむ。俺にはできなかった。自分以外の人間は脆い土塊でしかなかった。教えてくれ。強さとは孤独なのか。際限なく力の発露を求め彷徨い続けることが強者に課せられた罰なのか?」

 

 知りたいのは、やはりそのこと。

 宿儺。最強と呼ばれる術師。

 そんな彼ならばあるいは――。

 鹿紫雲の内心を知ってか知らずか、宿儺はククッと笑いを漏らした。

 

「贅沢者め。教えてやる。来い、亡霊」

 

 その言葉に鹿紫雲も壮絶に笑い。

 最強と雷神の戦闘が始まった。

 

 

 ――宿儺がこの12月24日の決戦で、主に求めていたものはふたつ。

 五条悟との死闘。

 そして九々等八壱との再戦。

 

 五条悟については言わずもがな。

 九々等八壱。彼とは既に死闘を演じた。それでも再戦を望んだのは、彼の成長性を見込んだのもそうだが、その精神性にも興味を感じたからだ。

 人間性の猛獣。不俱戴天、根幹こそ自身と似ていながら、決して相容れぬ別種の獣。猛虎に対する獅子が如く、相見えれば爪牙を尽くして殺し合うしかない天敵。

 だからこそ、興味があった。

 九々等八壱はその信念が破れたとき――即ち目の前で人が死んだときどのような表情(かお)を見せるのか。そして死に際に何を遺すのか。

 絶望か。憤怒か。それとも死を眼前にして、尚も希望を語るのか。

 ――見てみたい。

 宿儺にとって他者とは、己が好きに味わう為の存在でしかない。ようは九々等を自分が調理するに値する食材だと認めたが故の興味。

 

 だが。

 五条悟は復活し、九々等は彼に連れられて退却した。

 望んだ死闘の第2ラウンドは取り下げられ、見たかったものも見れぬまま美酒佳肴は姿を消したのだ。

 宿儺の不満は当然と言えた。

 

 だが――。

 

 

 雷鳴が轟く。

 迸ったのは紫電、鹿紫雲の放つ不可避の雷撃。

 

 術式幻獣琥珀(げんじゅうこはく)を解放した鹿紫雲は、傷を負った宿儺を押していた。

 脳内の電気信号の活性による俊敏性(アジリティ)の向上、物質の固有振動数に同調・最適化する音波、照射されたものを蒸発させる電磁波。

 電光石火の猛攻。その先に己の肉体の崩壊が待つとしても、紫電の雷神は止まらない。

 

 地上を奔る落雷。

 必中必殺の一撃を放った鹿紫雲が見たのは、しかし――。

 

 宿儺には反転術式以外に一度きりのみ、肉体を修復する術がある

 それは意図的に中断していた

 受肉による変身の再開である

 

 両面宿儺。完全無欠の復活。

 常人の倍ある腕と口。呪いに愛された異形の肉体。

 

「(あぁ、なんて……! ここまで……!! なんて……!!)」

 

 美しいんだ!!

 鹿紫雲を襲う感動と、四つ腕から繰り出される強烈な打撃。

 そして。

 

「『龍鱗(りゅうりん)』『反発(はんぱつ)』『(つがい)流星(りゅうせい)』」「避けろよ」

 

 『解』!!

 

 世界に斬撃が奔った。

 電光石火の機動力で辛うじて躱し、片腕の損傷で留めた鹿紫雲に対し、宿儺は笑いながら術式を開示する。

 

「俺が魔虚羅に求めていたのは手本だった。術式対象を空間、存在、世界そのものまで拡張し、斬る。言わば空間の分断……無限による不可侵も概念強化による超防御も無視できる術。生還されたのは予想外だったが……それで俺が掴んだ技が消える訳でもない」

 

 後回しにしていた術式の開示。

 宿儺に精密な呪力操作が戻る。

 

「俺に愛を説いた阿呆が2人居てな。1人目曰く俺は愛を知らんと、同格が不在故に孤独であると。2人目は……クク、分かってねえな、と吠えていたか。言わんとしていることは分かるが『知らん』と言われると些か心外ではある。まあ奴らは説く相手を間違えたな、貴様のような者にこそ愛を語るべきであった。いや、九々等の方はその辺見境が無かったか?」

「(九々等? なんであいつが……)」

 

 海老と鯛を逃がしたことによる不満。

 そんな折現れた新手・鹿紫雲一は、口直しには充分な強者であり、また己が調理し味わうに充分な美食であった。

 

「貴様は知らんというより理解できていない、か」

「……何が言いたい」

「強かったのだろう?」

 

 受肉術師どうし。

 平安の世に戻った気分で、宿儺は鹿紫雲相手に容赦なく術と肉体を振るった。

 たった数手の死闘。だがその数手、宿儺全力の数手を耐えられる者がどれだけいるか。 

 それでも彼我の実力差は圧倒的で。

 猛攻を耐え反撃しようとした鹿紫雲を、不可避の広範囲格子斬撃が襲う――。

 

 

「多くの猛者たちが貴様に挑んだはずだ。全身全霊でな。ソイツらは必ずしも貴様を呪ってはいなかった。貴様に認められたい。自分が何者か確かめたい。そして貴様はそれらを手ずから屠った。どう他者と関わり慈しむかと問うたが、これが慈愛でなくてなんだというのだ」

 

 死に際の鹿紫雲の心象の中、宿儺が語る。

 

「俺達は強いというだけで愛され、愛に応えている。それでも尚孤独を憂うから贅沢者だと言ったんだ」

 

 ……愛。

 これが愛なのか。この手を濡らす赤こそが。

 最強たる宿儺の言葉なのに、何となく納得できなくて、鹿紫雲は視線を逸らし……見た。

 

「……九々等」

 

 心象の中、立っていたのはこの場に居るハズもない金髪の男。

 尾のように背中で髪を揺らす彼の姿に、表情に、鹿紫雲の脳裏を電流が如く記憶が駆け巡る。

 

 ――思い出す。

 別れ際。戯れに放った「愛とはなんだ」と言う問いに、九々等八壱がなんと答えたのか。

 

『愛か……それは多分、「そいつが居ないと寂しい」ってことじゃないんかな』

 

 「寂しい」。

 他者に満たして欲しいという飢え、渇き。

 その他者を限定したとき、人は愛を覚え。

 それが叶わないとき愛は寂しさに転ずる。

 

 愛はずっと傍に居た。

 寂しさの影に隠れていた。

 

 ――そうか、俺は寂しかったのか。

 置いて行かれるだけの人生が、満たされないままの勝利が。

 

 探していたのは、他者。己を満たしてくれる強者(だれか)

 そしてそれは、今目の前に。

 

「(九々等……やはりオマエは違った。だって)」

 

 俺は暴力でしか満たされない。

 俺の世界を作っているのはソレだけだ。

 

 だから。

 

 

 ――斬撃は、確かに鹿紫雲の肉体を切り裂いた。

 右胸を十字に両断した傷は致命傷。彼の肉体は四つに分かれ、地面に崩れて肉塊と果てる――。

 

 ハズだった。

 だが、宿儺は四つの目で確かに見た。

 両断された肉たちが、一度は分かたれた鹿紫雲の体が、空中で元通りにつなぎ合わされるのを。

 

「(反転術式? 違う。これは――)」

 

 宿儺はその呪術への知識で看破する。

 アレは反転術式でも手遅れの傷。そもそも分かたれた傷は反転術式の前に綺麗に繋ぎ合わせなければならないが、反転術式だけではそれも不可能。

 ならば、鹿紫雲の両断された肉が接着したのは。彼の術式を考えれば答えはひとつ。

 

「……磁力か!」

 

 電流は磁場を生む。強い電流なら尚更強い磁場を。

 雷撃を極めることは即ち、磁力を極めることに他ならない。

 

 ゆらり、鹿紫雲が再び地を踏み締める。

 鹿紫雲は電磁気(ローレンツ)力を利用し、両断された己の肉体を接着。繋ぎ合わせた肉体を術式による肉体改造で補強し、神経に直接電気信号を流すことで肉体の動きを疑似的に再現していた。

 

 最早死に体どころではない、たった数分あるかないかの延命。

 それでも彼は立っていた。

 

「――宿儺」

 

 切断され機能を失った肺、そこに残った最後の一呼吸を使い。

 血濡れの喉を無理矢理に動かして、鹿紫雲は生涯最後の言葉を紡ぐ。

 

()()()()()()()

 

 死体の喉から漏れた最後の言葉、それを聞き。

 宿儺は笑った。

 

「クク、来い」

 

 瞬間、鹿紫雲の姿が霞む。

 電光石火、その速度は更に増して稲妻そのものと見紛う程に。

 三連、火花散る。宿儺を襲った一瞬の間の三度の打撃、その全てに電撃が込められ威力が向上していた。それだけではない。

 

「!」

 

 ぐん、と宿儺の体が鹿紫雲の方へ引き寄せられる。正確にはその拳へ。

 先程の打撃は四つの腕で、電撃は莫大な呪力量で防御している。だがそこに込められた電撃は宿儺の体を巡り、彼の体に磁力を帯びさせていた。

 

「(愛させてくれ!)」

 

 気迫と共に。

 こちらも磁力を帯びた、相手を引き寄せる不可避の拳が迫る。

 が。

 がしり。鹿紫雲の拳を受け止める宿儺。そのままもう片方の腕も掴む。

 両腕を抑えられた鹿紫雲に対し、四つ腕の宿儺はまだ手がふたつ空いている。その両腕による打撃が鹿紫雲に再び叩き込まれる――寸前。

 ドガ! と地面を突き破って、複数の「何か」が宿儺に襲い掛かった。

 

「!」

 

 咄嗟に開いた両手を向けて術式を起動、地中からの攻撃を迎撃する宿儺。

 細切れにして攻撃の正体に気付く。

 

「(金属……磁力で操ったな)」

 

 『茈』により生まれた瓦礫の山。その中には磁力に反応する金属が含まれている。

 鹿紫雲は足元に電撃を流すことで地中の金属塊に呪力と磁力を付与。宿儺に与えた磁力と引き合わせることで、地中から宿儺を奇襲させた。

 

 そして、金属を引き寄せたのは攻撃の為だけではない。

 鹿紫雲の足元からも金属の群れが突出。それらは支配者たる彼を攻撃することなく、その背に集まって形を成す。

 肉体を改造する術式『幻獣琥珀』の疑似的な術式対象拡張。鉄を骨、紫電を肌、そして磁気を筋肉とし、新しい四肢を創造する。

 背から生えたソレは、鳥の翼でありながら獣の爪の役割も有する異形の腕――。

 

翼腕(よくわん)、と言った所か」

 

 鹿紫雲の翼腕が宿儺の開いていた両手を掴む。

 四肢の数だけではあるが――追い付いた。

 

「ガァッ!!」

 

 鹿紫雲は異形となった口を開き、宿儺の喉笛に喰らい尽かんと迫る。

 だが牙が突き立つ一瞬前に、宿儺の前蹴りが鹿紫雲の腹に炸裂した。必然、後方に吹き飛ぶ鹿紫雲。

 

「(――独りにはさせない! 忘れさせるものか!)」

 

 磁気を発生させ空中で急ブレーキした鹿紫雲は、そのまま高速飛行を開始した。リニアモーターカーと同じ原理での高速移動。背に付いた翼腕が揚力調整と磁気影響力増大のふたつの役割をこなすことで自由自在に戦場を飛び回る。

 ごぶ、と鹿紫雲の口から漏れる血。治せなかった臓器の数々。電気信号の直打ちと磁気で無理矢理動かしているだけの死に体の体。

 何もしなくても1分後には死んでいる。

 彼を突き動かしているのは――。

 

「(これじゃ足りない! まだ死ねない!)」

 

 高速飛行しながら矢継ぎ早に電磁波を照射、それを囮として突進打撃を叩き込む。

 腕、足、翼腕。その悉くを宿儺は防御、反撃の『解』で右腕2本が飛ぶが、金属製の翼腕は勿論元の腕も電磁気で接着して修復する。

 鹿紫雲の狙いは宿儺にも分かっていた。

 防いだ打撃は、しかし()()()()()打撃。磁気で回避を封じる鹿紫雲の打撃は防御以外に防ぐ術がない。

 そして彼の打撃を受ければ、それだけ体に電荷が溜まっていく――。

 

 鹿紫雲が電荷を解放する。

 紫電が過去最高の勢いを以て、宿儺目掛けて放出される。

 

「(刻んでやる! この(にく)(たましい)に刻まれたように、せめて一矢でも――)」

 

 放った必中の雷撃は――。

 バリッ、ともうひとつの雷光が奔った。それは宿儺の呪具神武解(かむとけ)が振るわれた合図。

 紫電を稲光が迎え撃つ。否、それは「避雷針」。空気に電撃の通り道を作ることで、鹿紫雲の紫電を逸らしたのだ。

 

 鹿紫雲が溜めた大技は躱された。

 そして。

 

「『龍鱗(りゅうりん)』『反発(はんぱつ)』『(つがい)流星(りゅうせい)』」

 

 宿儺の呪詞の詠唱。絶望、再来。

 世界を断つ斬撃がその手の先に装填される。

 

 狙いは鹿紫雲の頭部、術式を司る脳。今の鹿紫雲は術式がある限りどんな傷も磁気で接着して補える可能性があるが故の合理的判断。

 その狙いをX線解析するまでもなく鹿紫雲は察し。

 

「(――報いる!!)」

 

 構えたのは『如意』。初手で地面に放置したソレを雷速で拾い、鹿紫雲は四つ腕を地面から水平に構えた。

 瞬間迸る紫電は嵐が如き勢いで。同時、発生した磁気によって金属製の如意が浮かぶ。鹿紫雲の四つ腕の丁度中心、弓に番えられた矢のように。

 否、それは正しく弓矢であった。

 如意は鏃。

 四腕は弓。

 電磁気力こそが矢を放つ弦。

 死に際の鹿紫雲が辿り着いたのは、超電力で発生させたローレンツ力により弾丸を撃ち出す現代兵器と同じ原理の必殺の技――名を、電磁加速砲(レールガン)

 

 いかに鹿紫雲と言えど、それを成立させる程の電力を生み出すには呪詞を唱えなければならない。

 だが声を放つための肺腑は、激しい損傷で既に活動を停止している――。

 

「『麒角(きかく)』『音越(おとご)え』『正負(せいふ)(さかい)』」

 

 それは。

 響いたそれは、不可能なハズの呪詞の詠唱。

 既に死んだ喉から一切の言葉を吐けない鹿紫雲は……幻獣琥珀(げんじゅうこはく)による肉体改造で腹部に疑似的な口を生成。そこから音波を放つことによって呪詞の詠唱に成功していた。

 

「(追い付いたぞ――)」

 

 四肢の数も、異形の口も、一撃必殺の術の完成も。

 後は正面からぶつけるだけ。

 勝とうが負けようが生涯最後。己の積み上げた全てをこの一撃に込め、放つ。

 

 そして、両者の術は完成する。

 宿儺の世界を断つ斬撃と。

 鹿紫雲の電磁加速砲(レールガン)

 

 ジリッ、と呪力が焼け付き。

 バリッ、と紫電が引き金を引く――。

 

 

「――宿儺」

 

 今度こそ2人きりの心象の中。

 宿儺の眼差しに、鹿紫雲は全てを察していた。

 彼我の絶対的な違い。宿儺は誰かに満たしてもらおうなど考えていない。彼にとって他者とは喰らうだけの(もの)

 鹿紫雲が抱いていた――今やっと気づけたその願いは、宿儺相手では叶わないものだった。

 だが、彼は応えてくれた。全霊に全霊で、殺意に殺意で返してくれた。

 だから。

 

「ありがとう」

 

 それが間違いなく慈愛であると――初めて受け取れた愛であると、鹿紫雲は理解し感謝したのだ。

 

 

 世界を縦に断つ『解』に、放った如意ごと真っ二つに両断された鹿紫雲は、今際の際に思う。

 

「(嗚呼、満足だ。だけど)」

 

 最強との最高の闘争。その果ての死。鹿紫雲にとっての悲願。

 それでも、ほんの少しだけ後悔があった。

 ――九々等八壱。

 

「(アイツにも、俺を刻みたかったな――)」

 

 それがどういう意味を持つのか知らぬまま、鹿紫雲一は目を閉じた。

 

 

 どさり。

 遂に倒れた鹿紫雲一を見ながら、宿儺は取り戻した己の顔で笑う。

 それは侮辱の笑みではなく、寧ろ賞賛のソレだった。

 

 最後の電磁加速砲(レールガン)

 雷速で放たれたソレを見事『解』で迎撃、ふたつに裂くことで直撃を回避した宿儺だったが、それで如意の勢いが殺された訳ではない。避けた如意のうちの片方が生み出したソニックブームと呪力の余波が、宿儺の頬に一筋の傷を刻んでいた。

 ぐい、と頬に流れる血を拭いながら、宿儺は名も知らぬ男の死体に告げる。

 

「じゃあな、稲妻が如く鮮烈な男。最後の数秒は特に心躍ったぞ」

 

 決着。

 敗者を讃えた軽傷の勝者は、しかし余韻に浸る間もなく振り向く。

 

「来たな――」

 

 現れたるは2人の術師。

 日車(ひぐるま)寛見(ひろみ)ともう1人、飽きる程に見知った顔の少年。

 

「小僧――貴様に、何ができる」

 

 放たれた言葉は侮蔑か期待か。

 呪いの王に相対するは、『元・宿儺の器』虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)――。




呪術27巻が出ましたが、拙作のこれ以上の本編更新は次巻28巻が出るまでしない予定です。
せめて日車のくだりがひと段落するまでくらいは読んでから話を考えたいので……大活躍の髙羽は自分には書けないですし、書く必要も無いでしょうしね。
今の所28巻が出るまでの予定は、暇な時に壊玉・玉折if√の続きを書くかな~くらいです。他にも書きたいものがあるので余り期待せず待って頂ければ。

【おまけ】

【挿絵表示】


【挿絵表示】


↓暫く更新無いので暇な方は作者のオリジナルもお願いします↓

▶『ソシャゲ系 曇らせ 異能バトル 半死ネタ』
https://syosetu.org/novel/329543/
オリ主の九々等はこの作品が元ネタ

▶『チートヒーロー -正義の電脳犯罪者-』
https://syosetu.org/novel/339072/

▶『青春ラブコメは嘘《フィクション》だらけ』
https://syosetu.org/novel/325021/
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