12月上旬、高専内。
「うおおおおスゲー! なんて呪力量!」
道場のような建物の中、特級術師・
彼は普段とはかけ離れた口調・表情ではしゃぎ回ると、ふと何かを思いついた様に、彼の知り合いが見れば卒倒するような悪い顔で虚空に向かって喋り出す。
「ふっふっふ、呪力が漲る、高ぶるぞ! 正に最強の体だ! これでオレ様が最強だー!」
と、そんな乙骨(?)に、遠慮がちな声がかかる。
「……あの、九々等さん。あんまり僕の体でふざけないで下さい……」
「あ、ゴメン。なんかテンション上がっちゃって」
乙骨(?)が振り返った先に居たのは、覚醒型最強の
そんな、明らかに様子が妙な2人はしかし当たり前のように会話を続ける。
「けど実際スゲーよ乙骨くんの体。呪力量がオレとはダンチだ。なんか感動」
「それは九々等さんの体だって……僕と違って凄い鍛えられてますし……」
「まあそれほどでも……そうだ、折角だしち●こ見ちゃお」
「ちょっとぉ!?」
おー、とズボンを捲りながら感嘆の声を上げる乙骨(?)と、その様子に大声を上げる九々等(?)。
乙骨(?)の挙動に『リカ』が拳骨を握り締め、それを九々等(?)が慌てて制止するというやりとりや、組手など普通らしい修行を挟みつつ、ふとできた間隙に九々等(?)が呟く。
「でも、この修行本当に必要ですかね……」
零れた疑問に、乙骨(?)は何でもないように答える。
「うーん、まあ最低限やっといて損はないんじゃね? ほら、ワンチャンオレが死んだ時とか用にさー。オレの術式って結構強いし便利だし、いざって時使えて損は無いっしょ」
「……そうですね」
なんとも言えない表情で黙り込んだ九々等(?)。そんな彼に、乙骨(?)はふと思い出し、道場の端に置いておいた中身の入ったレジ袋を持って来る。
「そうだ、乙骨くん。これ」
「? イチゴの、飴?」
九々等(?)に渡されたレジ袋の中身は、何の変哲もないイチゴ味の飴。
意図を掴み兼ねる九々等(?)に、乙骨(?)はやはり普段の面影の無い、悪戯っぽい笑顔で言う。
「リカちゃんだっけ。術式のアレでゲテモノばっかり食ってるっぽいからさ。口直しにどうかなーと思って」
「――」
その言葉に、九々等(?)は目を見開いて硬直し。
「……ありがとう、ございます」
「どういたしまして!」
静かに礼を言う九々等(?)と、快活に親指を立てる乙骨(?)。
それは、少し特殊な修行風景。
そう、彼にとっては何でもない記憶。しかしもう1人と1体にとっては、少しだけ特別になった思い出の時間――。
領域展開――『
それ以外の術式は領域内の刀にランダムに宿っており、乙骨だけがその効果を引き出すことができる。
どの刀にどの術式が宿っているかは乙骨も手にするまで分からない。刀は一度術式を解放すると消滅するが本数に制限は無い。
全ての腕が損傷している状態で乙骨の領域に引きずり込まれた
乙骨の意思で領域内に入れた
虎杖悠仁の拳打が宿儺の顔面を殴打する。更に乙骨の術式を込められた刀による斬撃と、『リカ』のサポート。それらを捌ききるには、宿儺の負ったダメージは余りに大きかった。『
――宿儺の劣勢。
『魂を捉える打撃』による同調阻害と、『
だが、そこまで押しても乙骨・虎杖は油断を見せない。何故なら今戦っているのは、五条悟すら下した史上最強の術師。
果たして、その評を証明するように。
「『竜鱗』『反発』『番の流星』――」
呪詞の詠唱。宿儺の呪力が禍々しく高ぶる。
そしてその腕の先から、世界そのものを断つ術式が放たれる――。
『
絶死一閃――だが。
その必殺の一撃を、虎杖悠仁・乙骨憂太は間一髪で回避。
そのまま反撃で虎杖の拳が宿儺の腹に、乙骨の刀が宿儺の腕に突き刺さる。
「ぐゥ――」
さしもの宿儺からも苦悶が漏れる。それは痛みと、己の失策に対するもの。
宿儺の『世界を断つ斬撃』は防御不能だが、通常の『
虎杖の蹴りが、乙骨の斬撃が、『リカ』の巨腕が宿儺を襲う。その手応えに乙骨は確信する。
「(いける! このまま反転術式で治療しきる前に腕を奪い続け、虎杖くんの攻撃をサポートしつつ『
――勝てる。
その確信に背を押され、乙骨と虎杖は両側から同時に宿儺へ突撃し――。
ばつばつばつばつ!!
斬撃が奔り、鮮血が舞う――虎杖悠仁と乙骨憂太の体を無数の斬撃が襲い、その威力で以て2人の体を吹き飛ばす。
「ぐ―― (何が起こった!?)」
全身を細切れにされかけた――今まで見せなかった圧倒的な斬撃密度。呪力強化の上からでもかなりのダメージを負いながら、しかし乙骨は反射で反転術式を行使しながら宿儺を見。
目を見開く。嗤う宿儺の足元、そこに展開されていたのは――。
シン・陰流『簡易領域』。術式の付与された結界を中和し「必中」の術式から身を守る領域対策――「弱者の領域」。
一門相伝、その技術を故意に門外に伝えることは、『縛り』で禁じられている。
だが――
呪いの王・両面宿儺。彼は誰も真似できなかった『呪物化』を一度の経験で習得した傑物。
絶対強者にとって「弱者の領域」を我が物にするなど容易い事。『
それを目にして、乙骨は理解する。
「(『簡易領域』、そうか、今のは――)」
簡易領域『抜刀』――その再現。
それは簡易領域に侵入したものを全自動・反射で迎撃する居合術。
日車寛見に呪具『
「(簡易領域『抜刀』と『
反射迎撃プログラムを組み込むことによる、『
全てを斬り卸す呪いの王の術式。それは彼の異形の肉体に生まれながらに備わっていた、何よりも鋭く手に馴染む『刃』。
「(『簡易領域』も領域であり結界術、つまり五条先生がダメージを与えた宿儺の脳機能が回復してきているのか……!? いつ宿儺の領域が復活するか分からない、できるだけ早く倒したい。けど――)」
――どう踏み込む!?
絶死たる宿儺の
リスクを承知で飛び込むか、あるいは簡易領域を剝がし再展開までの隙を突くべきか、それとも……ただでさえ領域を展開し、かつ完全顕現を使い切っている――これ以上の呪力の回復手段を持たない乙骨に、無為に使える時間は無い。
傷を治す虎杖と治癒しながら思考する乙骨、そして『簡易領域』を展開しながら四肢の欠損を徐々に回復させていく宿儺。その足元の『簡易領域』はしかし、端からボロボロと削られていっている。
『簡易領域』は領域を中和するが、逆もまた然り。優れた領域であれば『簡易領域』を侵食し剥がすことで、再展開までの間領域の中和を無効化できる。
「(領域の押し合いに集中して宿儺の『簡易領域』を剥がすべきか、それとも再生の時間を稼がせない為に攻撃すべきか――でもどうやって『抜刀』の高速反撃を切り抜けて――)」
一瞬、迷う。乙骨の足が止まる。
それを彼自身が後悔した瞬間――状況が動いた。
『
死滅回游〈
天元による人類との超重複同化の発動権は伏黒恵が持つこととする』
「「!?」」
コガネによる通知。宿儺の元へ領域の結界をすり抜けて飛来した『天元』――領域結界を素通りしたのは天元の「存在しているが存在していない」という性質によるものか。
『
「(九々等さんが、羂索を倒した――!)」
乙骨の瞼の裏で金色が揺れた。
親指に嵌めた髪留めが、あの時の言葉を想起させる。
『羂索は任せてくれ。その代わり、宿儺のこと、皆のこと。頼んだぜ』
瞬間――見開かれた瞳に決意が宿る。
「(僕を信じて託してくれたんだ。僕だけ裏切る訳には、いかない!)」
決意と共に、乙骨は駆け出した――宿儺へ向かって、ではなく、地面に刺さった刀へ向かって。
刀を手に取り、すぐに手放す。それを高速で動きながら何度か繰り返すのは、ランダムな術式が宿った刀の中から「目当ての術式」を探す為。
「(
何度目かで「片方」は手に入った。それを右手に握ったまま、乙骨は「もう片方」を探す為に左手で同じ工程を繰り返す。
刀は込められた術式を行使すると消滅するが、逆に言えば込められた術式を解放するまでは消滅しない。つまり二刀同時に持てば、目当ての術式を両手にそれぞれ一つずつ
取り、捨てを繰り返し、乙骨は遂に目当ての術式を見つけ出した。
「(来た!)」
乙骨は通常、『
そして
乙骨は二刀を持ったまま宿儺へと向き直り、その『簡易領域』には触れぬよう遠間から、刀に宿った術式を同時に発動する。
その口元に浮かぶのは、『蛇の目と牙』の呪印。
『
「――『吹っ』『飛』『べ』!!」
文字通り
次の瞬間、その体は石柱に激突している――その足元に『簡易領域』は無い。
「(やっぱり、発動時の両足が地面から離れると簡易領域が解除される――その『縛り』を使って術を成立させてるってことは、宿儺の結界術はまだ万全じゃない。このまま削り続ければ『簡易領域』すら使用困難になる可能性だってある!)」
宿儺が着地する前に叩くべく、乙骨は更に二刀を拾いながら突進。
「(よし!)」
乙骨は拾った二刀で同時に宿儺へ斬りかかる――宿儺は防御の姿勢を取るが、同時、空間が罅割れる。
『
バキィ!! とガラスが割れるような音と共に、宿儺が再び吹き飛び石柱に激突。凄まじい勢いと慮外の技に、鮮血が舞い散る瓦礫に混ざる。
「(ただの打撃ではない……突風に吹き飛ばされるような感覚が近いな)」
宿儺が落下する前に虎杖悠仁が跳躍、飛び膝蹴りを放つ――が、宿儺は唯一掌の残る腕で受け止め『
そのまま宿儺は着地し再度『簡易領域』を発動する――かに思われたが、間髪入れず乙骨が落下前の宿儺へ迫る。その手には刀。
「(『
その疑問の答えは、宿儺の四つの目のひとつが捉えた。
「(『
同時。宿儺は迫る刃を防ごうと腕に呪力を集め。
攻撃力:9倍!!
乙骨の
「(刀を囮に……!)」
刀に込められた術式は、刀を介して攻撃せずとも握っているだけで使用できる。
クリーンヒットした「9倍」の打撃、宿儺の全身を衝撃が貫く……が、彼は『呪いの王』。痛みで動きが鈍る程甘くはない。
今度はこっちが空中の敵を攻撃する番だ、と宿儺は斬撃を放つ為腕を構え。
見た。
乙骨の手に、新たな刀が収まっているのを。
「!」
宿儺は再び四つ目のうちのひとつを動かす――そこには予想通りの『リカ』の姿。
「(『
そして。刀の届かない遠間から、乙骨が宿儺へ向けて刀を振るう。
それは虚空を斬るだけの一撃――だが、その刀に込められた術式は。
「『
斬、と。
何も触れていない宿儺の肩に、斬撃が奔る。
「(これは、俺の――!! いつだ……そうか。裏梅の回収できなかった最後の指を――)」
『飛ぶ斬撃』が宿儺を切り裂く――傷は浅いが、初見で己の術を受けるという衝撃は、宿儺に確かな隙を作った。
だが。
乙骨憂太は空中に。虎杖悠仁は足の治癒中。『リカ』は遠く、その隙を突けるものは誰も居ない。
そう、誰も居なかった……
乙骨憂太は今度こそ何もできない空中にて、思う。
「(五条先生と並び立って戦い、大切な物を他人に託す……そんな九々等さんを見てると思ったんです。
1人で全てをこなそうとすれば、生まれるのはきっと怪物だ。目の前の宿儺のような、あるいは今までの五条悟のような。
でも。僕らは人間なのだから。1人では生きていけない生物なのだから。
「(だから――)」
自分にしかできないこと、自分以外にもできること、その全てを一緒くたに抱え込もうとするのは傲慢だ。そんな人はきっと強くもなんともない。
本当に「強い」人というのはきっと。
他人の信念を前にしても、自分を信じて恐れず退かずぶつかっていけたり。
そんな自分と同じくらい、他人のことを心の底から信じることができる人。
自他の強さも弱さもありのままに受け入れて、助け合いの輪に信じて身を預け続けられる人――
僕もそう在りたいと思ったから。だから。
「僕も、託すよ――
瞬間。
宿儺の背後にて、影、翻る――。
少し前、九々等から髪留めを預かった後。
乙骨は出撃前、彼女に相談を持ち掛けていた。
『真希さん、相談があるんだ』
『……なんだ?』
『「不意打ち」のタイミングのこと。領域が崩壊した時じゃなくて、展開中にできないかな』
元々その奇襲は、虎杖・乙骨の策で仕留め切れなかったときの「次善の策」。いわば保険。
だが乙骨はその既定案を覆す。
『真希さんなら領域外殻を素通りできるし、宿儺であっても目視でしか知覚は出来ないはず。中の様子を目や耳だけで確認するくらいなら、戦闘中の宿儺にはそう気付かれないと思うんだ。だから――』
『それ、誰かの入れ知恵か?』
問われ、考え、そして偽らず答える。
『……違うよ。僕がそうしたいと思ったんだ。失敗を前提にするんじゃ無くて……一緒に勝ちに行きたいって。真希さんを信じて託したいって、真希さんに託して欲しいって思ったんだ』
そして。
『……言うようになったじゃねーか。いいぜ、乗った』
彼女は頷き。
――時間は戻る。
それは術師の常套手段であり、宿儺であれば本来防げたであろう凡策。
だが
宿儺の体を背中から深々と刺し貫いたのは。
急襲した
鮮血が舞う。宿儺の口から血が零れる。
不意打ちは成功した――乙骨はそう確信し。
だがその
「(浅い――心臓を外された!)」
真希の突き出した『釈魂刀』の刃は、宿儺に当たる直前で不自然に軌道が歪み、心臓からギリギリで逸れていた。
そのことに、そしてその理由に、全員が気付く。
宿儺の足元には『抜刀』を付与された『簡易領域』が展開されていた。
『簡易領域』は通常の領域と同じく、呪力の無い真希の侵入を認識できない。だが呪具『釈魂刀』の呪力を感知して全自動反撃で放たれた斬撃群が刀身を叩き、その軌道を歪め逸らしたのだ。
真希が刺した刃を抉る――寸前で宿儺が地を蹴り体から刃を抜く。
間一髪で心臓への傷を避けた宿儺だが、その横を貫通した刀傷は浅くない。更に。
「(他の傷より治りが遅い……これも『魂』への攻撃か!)」
『釈魂刀』は魂を切り裂く。その傷の回復は純粋な反転術式では不可能であり、魂の輪郭をある程度知覚する宿儺といえども容易ではない。
治療の遅れる重傷を負った宿儺の前に。
乙骨憂太と禪院真希は、両者とも1年前とは大きく異なる姿で。
共に刃を構え、並び立った。
「遅れんなよ憂太」
「――うん!」
瞬間。両者の影は同時に動く。
乙骨と真希、左右からの同時攻撃――それを『簡易領域・抜刀』で迎え撃つ宿儺の注意が、魂を切り裂き治癒困難な傷を作る『釈魂刀』に多く向いているのを、それを握る真希は見逃さなかった。
『釈魂刀』の切っ先が宿儺の顔面に迫る――その刃を宿儺は咄嗟に手で払いのけ、気付く。
「(投擲か!)」
『釈魂刀』は囮。それを投げ徒手となった真希が宿儺へ迫り、足払いからの鳩尾への蹴り上げで宿儺の体を上空へと打ち上げる。
「(この女、やはり『簡易領域』で感知できない。呪力を微塵も感じない)」
地面から足が離れ『簡易領域』を剥がされた宿儺は素早く反撃、上空から真希に向けて雨のように斬撃を降らす――だがその悉くを最低限の動きで躱される。
しかしそれは陽動、宿儺は蹴りに付与した本命の斬撃を放ち――それもギリギリで躱された。
「(俺の術も他の術師よりよく見えている。天与呪縛、小僧のような半端者ではない、全てを削ぎ落した真の虚無か! 五感で術を感じ取り優れた反射神経で対応してくる……あまり他にない感覚だな)」
真希へ攻撃していた宿儺の体を『リカ』が巨大な手で捉え、乙骨が刀を手に攻撃を仕掛ける――瞬間『リカ』の手が斬り刻まれ、宿儺の手から放たれた無数の斬撃が乙骨を捉えその体を遠ざける。
宿儺への追撃が失敗したかに思えた――その瞬間、宿儺の背後から迫っていた虎杖悠仁の蹴りがその横っ面に突き刺さった。
不意の一撃によって隙が出来た宿儺へ、『釈魂刀』を拾った真希が迫り、その再生間近だった腕を斬り落とす。
――手が足りない。
「(小僧も復活して来た、相変わらず腕を治す隙が無い……『簡易領域』にも対応され始めた。このまま領域内で戦うのは不利だが、俺はまだ領域を展開できない。『世界を断つ斬撃』で憑霊の餓鬼を狙うか? いや、
必中術式で対応を迫りつつ術式
宿儺の呪力出力・肉体の
このままいけば「魂を捉える打撃で宿儺と伏黒恵の同調を鈍らせ」、「天使の術式で伏黒の中の呪物(=宿儺)を消し去る」作戦は完遂できる。
――勝てる。
そう虎杖・乙骨は確信する。
だが。
「起きろ、伏黒」
虎杖悠仁の打撃が宿儺を捉え、遂に伏黒恵の魂と接触した時、誤算は起こった。
「いいんだ」
『浴』で体の主導権を奪われ。
最愛の姉・
「もう、いいんだ」
そんな伏黒恵の魂には既に、生きる意思など――。
期せずして生まれた一瞬の隙。
そして。
「――『
宿儺は既に五条悟・九々等八壱との戦闘で『黒閃』を経験している。
更に生存・撤退した彼等が再来する可能性によって、気分によって上下するその
そこに加わるほんの少しの『苛立ち』というスパイス。
「――『
禪院真希、全てを脱ぎ去った真の虚無。
乙骨憂太、全てを模倣する憑霊の術師。
どちらも宿儺の食指を動かしうる強者。だがそれも、
「――『
全てを拒む『無限』。
全てを壊す『81倍』。
現世において、否平安の世を含めても比類無き猛者であるアレらとの死闘を再度味わいたい。アレらの
宿儺の中で甲乙は付いていた。
故に。質の劣る皿を食い散らすことに、躊躇いは、ない。
「――『
呪詞の詠唱が完了する。
そして宿儺はその術式を――唯一残った左下腕を介して触れた
宿儺は。
領域に引きずり込まれてからずっと、
かつて五条悟は領域について虎杖悠仁に語った。
『「領域展開」。術式を付与した生得領域を呪力で周囲に構築する。領域を広げるのは滅茶苦茶呪力を消費するけどそれだけに利点もある。ひとつは環境要因によるステータス上昇。もう一つ。領域内で発動した付与された術式は絶対当たる。でも安心して、対処法もいくつかある。今みたいに呪力で受けるか、これはあまりオススメしないけど――』
一つ。領域内部から領域の縁を探るのは至難であること。
二つ。領域は基本的に領域内部からの攻撃に強いこと。
だが宿儺は歴戦の経験と呪力感知技術によって一つ目をクリアし。
「防御不能・硬度無視の一撃」によって二つ目もクリアすることで、その方法を可能にする。
宿儺が探っていたのは「領域の外殻」。
見抜いたそこへ術式対象を拡張・固定し、呪詞の後押しを得た術を放つ――。
『
『世界を断つ斬撃』ならぬ、『領域を断つ斬撃』。
ばつん、と領域外殻を四角に切り取り、開いた穴の先に繋がる新宿の地へと脱出する。
虎杖悠仁は予想外の伏黒恵の状態に硬直し。禪院真希は狙いの読めない未知の呪詞に対応が遅れ。
「(まさか、これは――)」
乙骨が除外していた選択肢を思い出したのは、既に宿儺がそれを果たした後だった。
そして。領域は「閉じ込める」ことに特化している分、外側からの攻撃に弱い――。
「それなりには楽しめたが。所詮オマエは『贋作』だ」
宿儺の手から格子状の斬撃が奔り。
斬撃を受けた領域外殻が、耐えきれず刻まれ砕け散った。
外殻を破壊された領域――外殻を持たない領域を成立させられない乙骨の『
そして。
佳境にて術式を失った乙骨憂太に、呪いの王の凶刃が迫りくる――。