9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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※久しぶりの推測(捏造)祭り回です。合わないなと感じられた方は自衛お願いします。


×10 血相

 領域展開――()()(だい)(ほう)(れん)

 

 虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)を強化するための領域展開――九々等(くくら)八壱(やいち)が選んだ81倍にする術式対象は『呪力操作技術』

 九々等には『魂を叩く』という感覚が分からない。故に術式使用時に必要なイメージが足りず、それそのものを倍加させることは難しい。更にこの不意打ちは初見だからこそ成立する一度きりの技。残存呪力量的にも仕損じれば次はない。

 だからこそ一撃で決めることに拘るのではなく、もし決められなくても継続的に有利を取れる選択を――まだ術師として未熟だった九々等(じぶん)を高みへと導いた『呪力操作技術:81倍』の経験を、宿儺の宿敵である虎杖悠仁へ与える。

 

 突如の領域展開、呪力操作技術の爆発的向上。

 己の身に起きた異変に身を強張らせる事なく、九々等の助力と断じ拳を叩き込む――「誠心」虎杖悠仁の本領。

 この土壇場で冴え渡る呪力操作は、宿儺の呪力感知を掻い潜る繊細さと、そこから一瞬で最大呪力出力へ持っていく爆発力を生み。

 

 『黒閃』!!

 

 黒き火花が散る中。

 虎杖悠仁は刹那に回顧する。

 

 

 

 決戦前のとある日、高専内にて。

 建物の影に並んで座り込みながら、ふと彼に問うたことがあった。

 

「九々等はなんで協力してくれんの?」

「?」

「宿儺との戦いは間違いなく命懸けになる。でも、九々等には宿儺と戦わなきゃいけない理由なんて無いと思ったから」

 

 九々等八壱は覚醒型術師――言ってしまえば「巻き込まれた一般人」である。

 ふた月前まではただの高校生だった少年が……『宿儺の器』を始めとするのっぴきならない理由もなく、気付けば宿儺戦への参加を表明している事実。

 けれど、九々等に迷いはなかった。

 

「ゴール前でボール受け取って、回りに自分(オレ)しか居ないならシュート撃つっしょ。皆が全力で繋いだボールなら猶更撃たなきゃ男じゃねえ。そんだけの話だよ」

「……その結果死ぬかもしれなくても?」

「バーカ、こちとら死ぬ気なんか毛頭ないんだわ。やる前から負けること考えるバカがいるか、ってね。てかそういう意味じゃおまえの方が心配だぞ正直」

 

 ……確かに俺も客観的に見たら人の事言えないかも。

 でも。

 

「……良いんだ、俺は部品だから」

「良くねえよ。おまえは人間だろうが」

 

 ……えーっと。

 

「いや、そういう意味じゃなくて……」

「じゃどういう意味だバカヤロー」

 

 うぐ、と痛い所を突かれ口を紡ぐ。

 そうだ、九々等は自分の事をバカだと言うけれど、人の表情や感情には鋭い。だから誤魔化すことは出来そうもなくて、俺は観念して語り出した。

 

「……うん、まあ。ホントは俺だって死にたくねえよ。でも、そんなこと言う資格は俺には無い。俺が死にたくないって、人を助けるんだって息巻いて……そのせいで沢山の人が死んだ。だから、俺はもう間違えない。呪いを祓う為の部品に徹する。俺が死ぬことで宿儺を殺せるなら迷わずそうしてやる」

 

 役割に殉じる事……それが「正しい死」。俺の見つけた、答え……。

 そんな俺の言葉を静かに聞き終えた九々等は。

 

「『部品』か……。虎杖おまえ、皆に『宿儺を倒す為の部品になれ』って思ってる?」

「え――」

「他の事は何にも考えず、気にせず、全部捨てて、宿儺を倒す為だけに動けって思ってんの? 逆に、皆が皆()()なれると思うか?」

「……それは」

 

 言葉に詰まる……そんな俺の前で、九々等はふっと微笑んで首を振る。

 

「無理だよ。オレたち『人間』なんだから。そん中でおまえだけ『部品』でもきっと困っちゃうぜ」

 

 それに、と彼は立ちあがり。

 座り込んだままの俺に手を差し伸べる。

 

「オレたちが手を取り合えるのは、歯車みたいに決まった形で作られたからじゃ無いだろ――」

 

 その手を。

 あの時は迷い取れなかったけれど、今、虎杖悠仁は改めてその手を取ったのだ――。

 

 

 

 回想が終わり。

 九々等の生得領域が、大輪の金の蓮が崩れ出す。

 

 呪力操作技術術式順転『(セキ)にとってハズレの術式対象。いくら術者本人にメリットが無いと言えど、虎杖悠仁レベルの実力者に対しては本来使用不可能なほど膨大な呪力を消費する。

 だが九々等は『黒閃』複数回経験後のゾーン状態と呪詞の詠唱という補助輪に加え、「二度と『呪力操作技術』を術式対象にしないこと」を『縛り』として呪力効率を高め、約0.2秒の間だけ領域・術式を持たせることに成功していた。

 それも虎杖悠仁の『黒閃』炸裂直後に限界を迎え。

 九々等の領域が、崩壊する。

 

 それでも。

 崩れる領域を背に、九々等八壱は走っていた。

 領域展開直後の術式の焼き切れ、ほぼ底を着いた呪力――そう、()()。彼は呪力切れで領域を崩壊させたのではなく、呪力切れ寸前で領域を解除することにより、ほんの僅かにではあるが呪力を残していた。

 とはいえ焼き切れがなくとも術式使用すらままならない程に萎み切った呪力量。そんな限界状態で彼は走る。

 

 その理由は――その背が、声が、呼んでいたから。

 

「九々等!!」

「そう来なくちゃなぁ!!」

 

 そうして、虎杖悠仁と九々等八壱は。

 強烈に魂を殴打され一瞬硬直した宿儺へと、同時に拳を/蹴りを叩き込む――!!

 

 黒閃(黒閃)!!!!(!!!!)

 

 黒き火花が同時にふたつ、荒れ狂い咲き誇り宿儺を襲い。

 連携攻撃の同時黒閃――宿儺の魂/骨身を衝撃が貫き、その肉体を吹き飛ばす。

 

「どうだ――これがオマエがバカにした『絆』の力だぜ、両面宿儺ァ!!」

 

 九々等の叫びが、シュートを入れたストライカーの勝利宣言のように新宿の地に響き渡り。

 宿儺を追撃せんと駆け出す虎杖……対照的に、九々等はがくりと膝を突いた。

 

「限界、呪力尽きた! 選手交代、あと頼んだぞ虎杖!」

「――応!」

 

 九々等八壱、今度の今度こそ完全に呪力切れ。黒閃を出してもこればかりはどうしようもない。

 更に領域展開終了後の術式の焼き切れも併発している状況。

 

「(今の状態であのレベルの呪術戦に混ざっても足手纏いになるだけだな……)」

 

 戦闘復帰が可能になるまで――極ノ番『冪』が再使用可能になるまで時間がかかりそうだ、と九々等は疲労に倒れ込みかけ。

 ふと、()()の存在を思い出す。

 

「……(イヤ)。やれること、まだ1個あったかも」

 

 虎杖がまだ戦っているのだ。できることがあるなら休んでなど居られない……例えそれが『応援』に過ぎなくても、疲労困憊の体に鞭打つ理由には充分だ。

 九々等は膝立ちの状態から立ち上がり、()()を拾う為歩き出した――。

 

 

 

■拾■

 

 

 

 同刻。

 宿儺を追った虎杖悠仁に視点は戻る。

 

「『竜鱗』『反発』『番の流星』」

 

 放たれる反撃の『世界を断つ斬撃』――を見切り、速度を緩めずスレスレで潜り抜けて。

 宿儺へ肉薄し、虎杖悠仁は正拳を振るう。

 

 『黒閃』!!

 

 三連続目の『黒閃』。黒き火花を呼び寄せたのは、極限の集中だけではない。

 

「(この感覚、初めて『黒閃』を出した時に似てる――九々等が残りの全呪力を使い切ってまで俺に託してくれた力! もっと使いこなせ、垣間見た高みへ全力で近付け! 決めるんだ! 俺が、ここで!)」

 

 虎杖悠仁の肉体に残る『呪力操作技術:81倍』時の感覚――それが虎杖の明確な目標となり、その技術をより高みへと導いていた。

 対し、『黒閃』の衝撃に体を貫かれた宿儺は。

 

「(完全に不意打ちの『魂を捉える打撃』による『黒閃』、呪力による防御すら出来なかったのは痛い……が、)」

 

 突き刺さった虎杖の腕を払い、自らも正拳を叩き込む。

 

 『黒閃』!!

 

 黒き火花を纏った一撃は、着弾点である肩に呪力を集中させた虎杖によって防がれた。

 だが流石に呪いの王の『黒閃』、その衝撃は殺しきれない。虎杖の体が後ろへと吹き飛ぶ。

 

「(小僧、オマエは九々等八壱には遠く及ばん! 『宿敵』だと? 戯言だ、小僧は俺の脅威にすら成り得ない――!)」

 

 そうして、宿儺は斬撃を放とうと掌を構え。

 ピッ、と掌に奔る痛み。

 

「(今のは――)」

 

 ――虎杖悠仁の肉体には、宿儺が術式を行使した際の記憶が刻まれている。

 呪力操作技術:81倍状態での『黒閃』を決めた虎杖悠仁は、己の肉体に刻まれた記憶を呼び起こし、再現することに成功していた。

 

 ババッ、と互いに距離を取り――構えは鏡写しのように。

 敵に指を突き付け狙い。ジリッ、と焼け付くほどに呪力を込めて。

 両者は同時に、行使する術式の名を告げる。

 

「「(カイ)」」

 

 ガキン!!! と斬撃がぶつかり合う。一瞬交差し鍔迫り合った不可視の刃はしかし、衝突した一点を互いの術に食い破られながらも互いの体を切り裂いた。

 ぶしゅう、と体に刻まれた刀傷から血が噴き出し。

 だが、宿儺も虎杖も、斬撃に怯むことなく前へ出る。

 

 彼等が持つ刃は一種類ではない。

 互いが互いに掌を押し付け。両者は再び宿敵を呪う刃を呼ぶ。

 

「「(ハチ)」」

 

 ドウドウドウ!! と虎杖/宿儺の肉体を、格子状の斬撃が蹂躙する。

 血を撒き散らしながらも、しかし彼等は怯まない。高レベルの反転術式が受けた傷を治し、次の攻撃を即座に構える。

 

 そして、両者は弓に矢を番えるように。

 宿儺は渋谷において、虎杖悠仁の肉体で()()()()を使っている――。

 

「「(カミノ)』――『(フーガ)」」

 

 練られ、放たれる火炎の鏃――灼熱の紅蓮は衝突、相打ち、ぶつかり合ったエネルギーが爆発を引き起こす。

 轟!!!

 天を焦がすような火柱が収まり――両者、健在。互いの(カミノ)は、相手の(カミノ)を相殺するに留まっていた。

 互角。否。

 

「(本来、呪力出力は俺の方が圧倒的に上のはずだ。それがここまで……! 落とされたのだ! 小僧の『魂を捉える打撃』によって、覚醒直後の小僧と同等の出力(レベル)まで!)」

 

 宿儺は歯噛みする――ここに来て、受肉体特有の弱点が無視できない不利となって宿儺の力を削いでいた。

 

 だが。虎杖悠仁の覚醒は、ここで終わりではない。

 虎杖悠仁の肉体に刻まれている術式は二種類。ひとつは宿儺の受肉体として刻まれた御廚子(みづし)。ふたつめは呪胎九相図4~9番を取り込んだことで刻まれた――。

 

赤血操術(せっけつそうじゅつ)・」

 

 パンッ、と虎杖は両掌を合わせ。

 それは、圧縮した血液を一点から解放し撃ち出す技。呪力で強化された血液の初速は音速をも超える。

 赤血操術奥義、その名を、

 

穿血(せんけつ)!!」

 

 咄嗟に躱した宿儺の頬を音速高圧の血が抉り取る。

 

 虎杖悠仁は苦手だった百斂(びゃくれん)の習熟度を、向上した呪力操作技術によって実戦レベルにまで高めていた。

 

 そのまま虎杖は穿血(せんけつ)を振り回し周囲を薙ぐ――躱した宿儺が距離を詰めて来る。

 

「(穿血(せんけつ)は初速だけ、軌道変更はそこまで恐れる必要は無い。距離を詰めれば猶更だ――九相図(じゅぶつ)を食い術式を手に入れたのだろうが、使い慣れない術式など宝の持ち腐れに過ぎん!)」

 

 斬撃を纏った拳が虎杖の顔面と腹を捉え、その肉を抉り骨に衝撃を叩き込む。

 虎杖悠仁は抉られた傷口から大量に出血し――。

 

『――なあ九々等。術式使う時のコツとかってある?』

『うーん、そうだな……とりあえず、難しい術を使う時はさ』

 

 ――出血を逆利用し。

 当時は使い道のなかった九々等のアドバイスに従って、虎杖悠仁は術式を行使する。

 

「『九相(くそう)』『壊血(かいけつ)』『朽木(くちき)(よそおい)』」

 

 ()()()()()。これにより虎杖悠仁は、初めて使用するその技の成功率を高める。

 同時、出血した虎杖の血が空中で停止――そのまま自在に動き出し、枝分かれした触手となって宿儺へ襲い掛かる。

 咄嗟に身を躱す宿儺――外した血が地面を抉るも、地中を削って再び現れ宿儺へと襲い掛かる。

 躱そうとも執念深い蛇のようにのたうち追い縋って来る血の翼――その技は。

 

「(! これは八十八橋の時、九相図の一体が使っていた――)」

 

 翅王(しおう)、その再現!!

 

 宿儺は再び身を躱すと斬撃を飛ばし『翅王』を攻撃――だが液体である血液に対し斬撃の効果は薄い。『翅王』は止まらず宿儺を追尾し続ける。

 だが、初見の技によってできた宿儺の思考の間隙はすぐに埋まる。

 

「(『追尾する血』……だが威力は『穿血』よりも低く、小僧の血が俺にとっての毒になることは無い。呪力による防御で事足りるだろう。『魂を捉える打撃』と『黒閃』を連発する当て勘の方が余程厄介だ……つまりこれはただの陽動、警戒すべきは本命の打撃――!)」

 

 宿儺は『翅王』への対処を止め、虎杖悠仁に警戒を向け。

 同時――宿儺が警戒を解いた『翅王』の先から、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは、9()()の弟を持つとある長男の言葉。

 

『デキが良かろうと悪かろうと兄は弟の手本なんだ。(オレ)が道を誤ったなら弟はその道を避ければいい。(オレ)が正道を歩んだのなら弟は後をついてくればいい』

 

 正に、その言葉を証明するかのように。

 弟は兄を真似、彼が開拓した正道を追従する。

 

「『九相(くそう)』『膨張(ぼうちょう)』『常闇(とこやみ)(つい)』」

 

 追尾する血を運河とし、運んだ百斂(びゃくれん)の圧縮血液球を炸裂させる。

 それは150年間自らの術式と向き合い続けた、とある赤血操術師のオリジナル。

 

 超新星(ちょうしんせい)』!!

 

 爆発した血の全方位散弾が、左右から宿儺を打ち据えた。

 

 ――脹相のように、強く!!

 

 虎杖悠仁は呪胎九相図を取り込んだことで呪力を血液へと変換できる体質を手に入れている。故に彼に失血はなく、複数の圧縮血液球を生成可能。

 予想外の衝撃に体勢が崩れた宿儺に、虎杖はかつてない速度で間合いを詰める。

 

 赤鱗躍動(せきりんやくどう)――血中成分のコントロールによって更に向上した身体能力によって、超新星(ちょうしんせい)で作った隙が消える前に宿儺に肉薄した虎杖は。

 

 『黒閃』!!

 

 宿儺の顔面に、黒い火花に愛されし拳を痛烈に叩き込む。

 バキィ!! と宿儺の顔面の右側、突き出た骨を砕くほどの一撃。衝撃に宿儺の上体が逸れ。

 

「小僧ぉっ!!」

 

 激昂した宿儺が即座に体勢を戻して虎杖に襲い掛かろうとして。

 ギュン、とその体を血が縛る。

 赤血操術『赤縛(せきばく)

 宿儺の体を、虎杖の腕から伸びた血の縄が拘束し。

 

 ――同時、その頭上に影が差す。

 揺れる金の尾――戦場に戻り来た九々等(くくら)八壱(やいち)は、虎杖悠仁に()()を投げ渡す。

 

「虎杖!」

「――」

 

 ぱしり、受け取ったそれは――七海(ななみ)建人(けんと)の遺した呪具、刀身を呪符でくるんだ鉈。

 その柄を握った時、虎杖悠仁は確かに感じた。

 まるで()と手を握ったような、そんな感覚を――。

 

 果たして、それは白昼夢だったのか。

 それとも『黒閃』によるゾーン状態と呪力の性質が相乗効果を起こしたのか。

 

 

 白い世界の中。

 静かに立っていた彼は言う。

 

「――君に呪いを残したのは。君が折れてしまうことを恐れ、君なら受け止められると甘えたからです。大人の不甲斐なさのツケを、子供の君に背負わせてしまった」

 

 そのサングラス越しの目がこちらを見て……七海建人は。

 

「ですが君はもう、私が呪う必要など無い程に強くなった」

 

 そう、安心したと微笑んだ。

 思わず涙が出そうになって。でも、今出すべきは涙じゃなくて。

 

「……俺、ナナミンの分までちゃんと苦しめたかな?」

「ええ。十分過ぎる程に」

 

 ……そっか。なら。

 俺はこれからも証明し続けるよ、ナナミン。

 だって、俺はナナミンが認めてくれた――

 

「もう心配する必要はありませんね。何故なら君は私が認めた――」

 

 ――呪術師(です)から。

 

 そうして、渾身の力で以て呪具は振るわれる。

 その鉈は刀身に何重にも呪符が巻き付けられており、刃物というよりは鈍器に近い。

 元の持ち主が刃物の殺傷能力を捨ててまで打撃に拘った理由。それは領域という切り札を持たない術者自身にも、格上相手への勝ち筋を残す為。

 今は亡きその術師の遺志が、術式が、虎杖悠仁に力を与え。

 

 【-|-|-|-|-|-|-*-|-|-】()

       黒閃(こくせん)!!!!

 

 黒い火花を招来する一撃が、寸分違わず7:3の点に炸裂した。

 一撃を受けた宿儺の脇腹が抉り取られ、骨肉と言う支えを破壊されたその上体がふらりと傾く。

 が、宿儺は左下腕で体を掴むことで即席の支えにして傷が広がるのを防ぎ。そのまま反転術式で傷を治療していく。

 通常『魂を捉える打撃』を受ければ、受肉体である宿儺の反転術式の出力も鈍る。それでも宿儺がこのレベルで反転術式を行使できたのは。

 

「(確かに驚異的な威力だが、呪具では拳ほど正確に魂を捉えられないようだな……! 九々等八壱は積極的に攻撃に参加してこない、呪力切れで呪具を渡しに来ただけか! ならば実質的な敵は小僧だけ――)『竜鱗』『反発』『番の流星』!」

 

 虎杖悠仁さえ殺せれば、呪力切れ状態の九々等八壱を殺して決着。

 そう判断した宿儺が、『世界を断つ斬撃』を放とうと腕を突き出し。

 

 その腕を、飛来した高圧高速の血液が貫き弾いた。

 『穿血』――だが虎杖のものではない。これは。

 

「悠仁!」

 

 脹相(ちょうそう)の助太刀。

 それだけではない――影翻り、宿儺の右上腕が切断される。

 

「――」

 

 禪院(ぜんいん)真希(まき)、再来。

 釈魂刀(しゃっこんとう)で腕を奪った彼女へと、宿儺は装填済みの『世界を断つ斬撃』を放ち――。

 カァーン、という異様な音と共に、宿儺と虎杖の位置が入れ替わり、放った斬撃は空を切る。

 

「見違えたな親友(ブラザー)!」

 

 東堂(とうどう)(あおい)、参戦。

 ビブラスラップを発動条件とした入れ替え術式不義遊戯(ブギウギ)』改による妨害。

 

 更に。

 ぐん、と宿儺の体が巨大な手に掴まれる。

 

「加勢するわ、高専術師たち」

 

 ラルゥ、乱入。

 掴まれた宿儺が手を両断し拘束から脱する――同時、その体に叩き込まれる異人の拳。

 

「(さっきの金髪との大怪獣バトルは流石に割り込む隙が無かったけド、今ならなんとかなりそうダ――) 美味しいとこ取りと行きまショ」

 

 ミゲル、エントリー。

 彼はリズムよく地を踏みながら反撃の斬撃の悉くを躱す。

 

「(援軍――!)」

 

 一対七。

 更に、いつ九々等八壱が調子を取り戻すかも分からない上。

 

 黒閃(こくせん)!!

 

 今まさに宿儺の腹を捉えた虎杖悠仁の『魂を捉える打撃』は、宿儺自身が『黒閃』のゾーン状態にあることなど関係なくその呪力出力や動きを鈍らせてくる。

 纏めて敵を相手できる『簡易領域・抜刀』は呪力の無い禪院真希に対策され。『世界を断つ斬撃』は東堂葵の術式で十中八九躱される。現状最も厄介な虎杖悠仁の隙は脹相が確実にカバーしてくる上、後衛に下がった九々等八壱を狙う余裕もない。ラルゥの術式による「崩し」や、術式で斬撃をある程度無効化してくるミゲルの体術など、普段は問題にもならないような技が今は手痛いダメージとなる。

 

 宿儺の圧倒的不利――ここに来て、遂に趨勢は傾いた。

 否。普段の宿儺なら雑兵がいくら増えようが問題はない。だが今の宿儺は、五条悟・九々等八壱との初戦の影響で、脳の結界術を運用する部位にダメージを負っている――。

 

「(無理を押してでも、何らかの『縛り』を用いてでも領域を展開するべきか!? 九々等八壱はまだ領域を使えるか!? 五条悟が再来する可能性は!? 領域対策はこの場の何人が持っている……糞、小僧に気を取られ過ぎた! いや、今思えば日車寛見も、憑霊の餓鬼も豪運の博徒も九々等八壱も……俺に負傷者を殺す隙を与えないよう立ち回っていた! 瞬間移動の術式持ちと他人に反転術式を使える女の組み合わせという手札が奴等にはあったからだ! それがここで……!)」

 

 脹相や禪院真希は一時戦闘不能状態に陥ったハズだ……それが復活している。流石に呪力切れとなった乙骨(おっこつ)憂太(ゆうた)は居ないようだが、代わりに厄介な術師が3人。

 虎杖悠仁と一対一でも押し切れなかったというのに、ここに来ての強力な援軍――今更危機を感じギアがトップに入ろうと、『魂を捉える打撃』で削られた呪力出力は戻らない。領域以外の大技は全て対策されている。

 

「「(――追い込んだ!! 皆で!! 勝てる!!!)」」

 

 虎杖悠仁/九々等八壱は、そう確信し。

 

「「(勝つんだ――!!)」」

 

 複数の術式に襲われ隙の出来た宿儺へと、渾身の打撃を叩き込む――。

 

 

 ()()()()が戦場に現れたのは、丁度その直前(タイミング)だった。

 五条悟が感知した、空中を飛ぶ呪力の持ち主……その術師が戦場へと到着したのは、如何なる偶然か高専側の援軍の到着と全く同時だったのだ。

 

 反転術式でも治しきれなかったボロボロの体を氷で補強し。

 白髪をなびかせ上空から飛来、宿儺とその敵の前へと体を割り込ませたその術師は。

 

「宿儺様から離れろ、下臈共!!!」

 

 凍星(いてぼし)』――全解放!!

 

 乱入した術師――裏梅(うらうめ)が侍らせていた氷の球が、爆発する。

 

 氷凝呪法(ひこりじゅほう)・極ノ番凍星(いてぼし)。球状に冷気を圧縮・封印し適宜放つことで、吐息などを介さずとも術式を高レベルで行使可能となる。

 『凍星』に溜め込んだ冷気を自身の背後を除く350°へと一息で解き放ったその一撃は、五条悟による無指向無制限の『茈』にも見紛うほどの規模・速度で、冷気の超新星爆発となって新宿の街を蹂躙する――。

 

 一瞬にして術師たちを、そして新宿の爆心地半径200mを、無数の氷山が氷漬けにする。

 全てが凍った世界の中。唯一氷が避けた場所に立つ宿儺は、銀世界に立つその背へ手を伸ばす。

 

「――裏梅」

「差し出がましい真似を致しました。ですがこれは助太刀ではなく間引きです……料理人として側仕えとして、宿儺様が味わう価値のない皿を下げたに過ぎません」

「裏梅!」

 

 我知らず、叫ぶ。

 宿儺には分かっていた。

 この規模の術式運用は通常裏梅には不可能であること。

 そして、それを埋める為に裏梅が何をしたのかを。

 

 それは、術師にとって最も簡単(インスタント)に能力を底上げする方法――。

 

 ――「命を懸けた縛り」。

 

 己の命を捧げ術式能力を大きく底上げした一撃を放った裏梅は。

 ゆっくりと宿儺の方を振り向くと。

 粉雪が降るような安らかな微笑みを湛えて、今際の際の言葉を紡ぐ。

 

「宿儺様。御武運を」

 

 そうして。

 主君の前に醜い屍を晒すまいと、従者が果たした最後の矜持によって。

 

 裏梅の五体が、氷像となって砕け散った。




今際の際に放たれたのは、世界で最も歪んだ「呪い」。
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