9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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呪術廻戦人気過ぎでワロタ

……評価とか感想とかくれた人ありがとう!


×4 邂逅

(ポイント)の譲渡! その手があったか!」

 

 死滅回游の泳者(プレイヤー)九々等(くくら)八壱(やいち)が上げた感嘆の声を、伏黒(ふしぐろ)(めぐみ)は複雑な表情で受け止めた。

 戦闘終了後から数分。先程まで戦っていた場所で適当な段差に腰掛け、情報交換を行っていた。

 

「いやー賢いね恵くん。そんで100点持ちの日車(ひぐるま)さんを探してんのか」

「……はい」

 

 出会って数分の人間から下の名前で呼ばれることに思う所がないでもない伏黒だったが、揉め事を回避するために何も言わない。

 

 ここ数分の観察で伏黒が得た九々等の印象は「掴み所がない人」だった。

 着やせするタイプなのか、華奢に見えるすらりと伸びた肢体。伸ばした髪を後ろで括り、尾のようになった金髪が背中の後ろで揺れる。顔立ちも奇抜な髪型が似合うくらいには整っていて、黙っていれば血統書付きの家猫のような上品さがあった。まあ口を開いた瞬間に野良猫の素顔が露出するのだが。

 親しみやすい、人慣れした綺麗な野良猫……だが伏黒は、そんな印象を吹き飛ばすくらいのもうひとつの顔を目にしている。

 特級術師・乙骨(おっこつ)憂太(ゆうた)を思わせる戦闘能力。戦闘中に見せた、牙を剥く猛獣を思わせる苛烈な笑顔。

 かと思えば今こうして親し気に話しかけてくる。そのどちらが彼の本質なのか、伏黒は未だ掴み兼ねていた。

 

 会話中にそんなことを考えている伏黒に、裏表など無い九々等は申し訳なさそうに答える。

 

「そんで悪いんだけど、オレ、日車さんの居るとこは知らないんだよね。前に『池袋』で見たからそこに居るんじゃないかなってくらいは分かるけど」

「そうですか……」

 

 その答えに伏黒は少し考え込み……そしてふと気付いた。

 

「九々等さんは」

「ん?」

「巻き込まれた現代人、術式が覚醒した術師ですよね」

「そうだけど」

 

 とすれば、術式覚醒から2週間弱……それでこの強さ。

 

「(警戒すべきは受肉体、それは変わらない。だが九々等さんみたいな『例外』が点を取ってる可能性もある。日車は過去の術師だと思ってたが『例外』の可能性もある……いや、今はそれよりも)」

 

 黙り込んだ伏黒に「?」という顔をする九々等。そんな彼をおいて思考は進む。

 

「(今この人、『前に見た』って言ったよな)」

 

 顔を上げ、九々等に問う。

 

「九々等さん。日車寛見(ひろみ)と交戦したこと、ありますか」

「うん。あの人めっちゃ強いよ」

「! 相手の術式とかって分かりますか」

 

 すると、九々等は伏黒の顔を見ながら考え込んだ。

 

「……」

 

 日車の術式が『裁判』であることを、彼は知っている。九々等はそれを『悪い事してなきゃ効かない術式』と思っていたので、どう見ても優等生っぽい雰囲気の伏黒がやってそうな罪があるかと考えて。

 

「恵くんなら大丈夫だと思うよ!」

 

 とサムズアップした。彼は伏黒恵が中学時代クッソ荒れていたことを知らない。

 

「はぁ? もうちょっと具体的に……」

 

 伏黒が詳しく訊こうとするのを、九々等の声が遮った。

 

「それよりさ、もう1人居るんだよね。逸れた仲間……虎杖くん、だっけ?」

「……はい」

「オレがひとっとび探してこようか?」

「!」

 

 遮ったのは善意から。伏黒から「虎杖という仲間と逸れた」ということを聞いていた彼は、「今結界内のどこかで虎杖くんが悪い術師に襲われてないか」と割と気が気じゃなかったのだ。

 

「オレの術式なら結界の端に居ても30分以内で見つけれると思うけど」

「……九々等さんの術式って」

「うーん……今は企業秘密ってことでヨロシク。それより、どうする?」

 

 その問いに伏黒は一瞬悩む。

 

「(そこまでこの人を信用していいのか? 虎杖に危害を加えない保証は? だが実際俺の降参を受け入れたし、話も通じる。話してて邪気も感じない。それに……この強さは現地協力者としては破格だ)」

 

 伏黒は九々等の実力を実際よりも高く見積もっていた。乙骨じみた超呪力の戦闘を九々等は長時間使えないが、伏黒は使えると勘違いしている。短時間の戦闘、手持ちの中で最強の式神である玉犬が戦闘不能になるなど、しても仕方ない状況ではあったが。

 そんな伏黒の思考は、気付けば九々等を信用できるかという問いを飛び越していた。

 

「(この人なら、乙骨先輩の代わりに……宿儺(すくな)のストッパーになれるかもしれない)」

 

 また九々等の実力を勘違いをした伏黒は、当然こう考える。「万が一このクラスの術師がホイホイいるなら、分かれたまま行動するのは危険だ」と。

 ふぅ、と息を吐き、伏黒は頭を下げ結論を口にした。

 

「お願いします」

「オッケー、任された! で、虎杖くんの特徴とか分かる? 呪力量とか分かると探しやすいんだけど」

 

 伏黒は虎杖の特徴を伝える。その際宿儺の情報は意図的に伏せた。

 伝えるとしても、まだ早い。そう伏黒は判断した。その上で問う。

 

「連れてくる、じゃなくて探す、なんですよね」

 

 言葉のニュアンス的に探すだけの術式なのか、そう言外に問えば。

 

「ああ、連れてくる方が良い?」

 

 そうあっけらかんと返された。やはり掴み所が無い……いや、今まで会って来た術師と根本的な部分が違う。これが覚醒型の泳者(プレイヤー)の特徴なのか、と思いつつ、合流は早い方がいいよなとも思い。

 

「……可能なら」

「りょうかーい」

 

 九々等が軽い調子で立ち上がる。

 

「じゃ、池袋辺りで日車さん探しながら待っててよ。恵くんの呪力は憶えたから、街が限定出来ればすぐ見つけれるはずだから」

 

 そう言って、彼は伏黒の視界から消えた……否、それ程の勢いで跳躍したのだ。

 建物の影に消えていくその背中を眺めながら、伏黒は呟く。

 

「……似てるな」

 

 五条(ごじょう)(さとる)と――正確にはその奔放さと。

 

 あとひとつふたつ尋ねたいことがあったが、仕方ない。

 伏黒は溜息と共に立ち上がり、日車が居るらしき池袋に向けて歩き出した。

 

 

 

■肆■

 

 

 

 跳躍力:9倍、それに呪力感知力:9倍を併用して九々等(くくら)八壱(やいち)は街の空を駆ける。

 

「いやー、なんだか運が向いてきた感じするなぁ」

 

 伏黒(ふしぐろ)(めぐみ)との出会いは九々等にとって幸運だった。

 死滅回游の平定……同じ方向を向く同志にして、頭の切れる強い術師。これ以上ない程の助力だ。

 

 九々等は余り頭で考えるのが得意ではない。そのことを本人も自覚している。サッカーでも他のスポーツでも司令塔は他に居て、九々等はその人物が出す作戦に従ってセンスとフィジカルで点を取る役だった。

 

 そんな九々等でも物資が豊富な場所から捜索するくらいの脳はある。栄えていた場所ほど物資が豊富であり、強い術師もそこに集まる。伏黒の仲間たる「虎杖くん」が後れを取るならその「強い術師」だろうと彼は睨んでいた。

 10分ほど捜索を続け……彼はその呪力を感知する。

 

「(!? なんだ、4っつ、いや5つの呪力が励起してる……戦闘中か!)」

 

 視界の先、300m程離れた小奇麗な住宅マンション。

 そこから激しく脈動する複数の呪力を感じる。

 

 跳躍力:9倍でマンション目掛けて跳躍。300mの距離を10秒足らずで詰める。

 

「やってんのは廊下か――」

 

 マンションの廊下に突入しながら空中で跳躍力:9倍を解除し思考速度:9倍を発動。ゆっくりと流れだした時間の中、状況を素早く把握する。

 

「(廊下に、変な服の長髪男。あと茶髪の学生? とその傍に黒髪の女の子)」

 

 呪力感知の強化は解いていない。視界に入らない術師の位置まで把握できる。

 

「(ビルの上に裸オーバーオールの男、あと呪力的に室内に伏兵がひとり――)」

 

 そんな強化された呪力への感覚が、ぴりと背中を刺す感覚を把握した。

 

「(そして5人の中に1人、とんでもなく嫌な感じの呪力を内包してる人が居る)」

 

 一瞬でそこまで把握。得た情報から救うべき相手を判断する。

 

「(虎杖くんは、アレか!)」

 

 そして――。

 

 虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)に飛来したレジィ・スターの「飛ぶ包丁」を、乱入者・九々等八壱の蹴りが叩き落とした。

 

「新手か!?」

 

 虎杖が警戒する中、九々等は彼とレジィの間に割って入るようにして背中を見せる。

 庇われている、と虎杖が感じると同時、乱入者・九々等は口を開く。

 

「大人がさァ、寄って(たか)って子供を虐めて……」

 

 金の髪が尾のように揺れる。全員の視線を浴びながら、九々等八壱は。

 

「恥ずかしいとは思わないんかな? そこのリーダーっぽいミノムシオジサン、どう?」

 

 猛獣の(カオ)でそう言った。

 その牙が己に向けられていると分かったレジィは、突然の乱入者に驚きながらも冷静に対応する。

 

「待て待て。君、死滅回游についてどこまで知ってる?」

 

 相手の足を止め、場合によっては懐柔できる……そんな彼の思惑は。

 

「あん? あー、悪いけどオレ、気に入らない相手と交渉したくない系男子だから。ブチのめしてから改めて聞くさ。知ってること全部ね」

「チッ……交渉の余地なしか」

 

 九々等の自分勝手さによって崩れ去った。

 だが同時に、レジィは警戒を深くする。

 

「(嫌いなタイプだな。このテの『自分勝手な奴』はめんどくさいんだよね、経験上)」

 

 それは決して個人的な感情からの嫌悪ではない。

 「情報が欲しいなら交渉するのではなく、相手をブチのめして知ってること全部吐かせる」。そういう思考が強者特有のものであると知っているからだ。

 他者との交流を重視しない「絶対の個」。それに似た何かを、レジィは九々等から感じていた。

 

 対して虎杖。彼は己を庇った九々等の背に問いかける。

 

「味方で良いんだな?」

「虎杖くんだよね? オレは九々等(くくら)八壱(やいち)。恵くんが池袋で待ってるぜ」

「!」

 

 伏黒恵の名前。そして伏黒が救援を頼んだという事は、自分よりも賢い伏黒がこの「九々等八壱」を信用したという事。

 虎杖の意識が完全に切り替わり、九々等を味方と認定した。

 

「分かった。コイツらを伸して伏黒の元へ行く。協力してくれ」

「当然。オレも今、絶賛不完全燃焼だからね」

 

 並び立つ両者。虎杖は熱を秘めた真剣な表情で、九々等は若獅子の笑みでレジィを睨む。

 そんな2人に対し。

 

「舐められたもんだね、全く」

 

 レジィは服のレシートを一枚千切りながら呪力を解放した。

 

「大人の怖さを教えてやるよ」

「怖さ以外に自慢ないんか? この中年露出狂」

 

 そう返して九々等が突進しようとしたとき。

 

 バン! と彼らの背後で扉が開いた。

 室内から飛び出した術師が奇襲を仕掛けてくる。

 だが九々等は先の呪力感知で伏兵を確認済み。驚きも無く背後を振り向き。

 

「また半裸! 変態集団かよ!」

 

 室内から現れた上裸の術師・(はり)千釣(ちづる)の姿に驚いた。

 その半裸男の左手の爪先がぎらりと光る。

 

「俺の左手(じゅつしき)で――」

「黙ってろ三下ぁ!」

 

 動体視力:9倍からの脚力:9倍。動きを完璧に見切った上で入ったカウンターが、針千釣の腹にクリーンヒット。その体を廊下の端まで吹き飛ばした。

 ばき、と壁に激突しがくりと動かなくなった男から興味を失ったように九々等は振り向く。

 

()()()が無い。そっちの2人は違うよな?」

 

 虎杖とレジィが「黄櫨(はぜのき)のことも把握済みか」と気付くのと同時、彼等は今の一連に思い思いの感想を抱く。

 

「(とんでもない身体能力! 術式か?)」

「(呪力の爆発力が半端じゃないね。ムラはあるが出力がとんでもなくデカい。茶髪のガキの淀み無い呪力操作とは真逆、粗削りだが出力の最大値は金髪の方が上。しかし、体術メインが2人か……)」

 

 一撃で針千釣を戦闘不能にする攻撃力。奇襲への反応速度。

 

「(下手な遠距離術式持ちより厄介だ。黄櫨(はぜのき)を呼んで連携するべきか?)」

「(相当強いなこの人……これなら、行ける!)」

 

 虎杖がレジィに距離を詰めようとしたときだった。

 どす、と。

 

「!?」

 

 虎杖の背が刺された。やったのは、彼の後ろにいた麗美(れみ)。そのサソリの尾に似た髪の先端が、虎杖の背を突き刺していた。

 

「!」

 

 奇襲に気を取られた虎杖と、「そっち側だったの!?」と驚く九々等。

 両者の隙を縫うように、上から「爆弾」が落下してくる。

 

 それは人間の眼球。そこに込められた呪力を2人が感じ取った瞬間、閃光が炸裂し。

 

 ドォン……!! と爆発が世界を覆った。

 

 爆風が収まった後。破壊された廊下に、ガチャリと部屋に逃げ込んだレジィが顔を出す。

 

「終わった?」

 

 彼が問いかけたのは、屋上から下りてきた仲間の術師・黄櫨(はぜのき)(いおり)。彼は廊下の先を見ながら言う。

 

「まだだレジィ。アイツ、硬い」

 

 その先には。

 

「ゲホ、(いって)ぇな……!」

 

 爆風をモロに受け火傷を負った九々等と、ほぼ無傷の虎杖、同じく無傷だが衝撃で倒れた麗美。彼等の周囲だけ爆破の影響が少ないことをレジィは瞬時に読み取った。

 

「九々等さん……!」

「いや大丈夫、問題なし。そっちに怪我が無いんなら計画通りだ」

 

 先の一瞬。爆発を悟った九々等は防御力:9倍速度:9倍を発動。自ら目玉爆弾の前に躍り出て自分の体を盾替わりにしたのだ。

 ――九々等の速度:9倍が及ぶ範囲は自分とその装飾品にのみ。物理法則を逸脱するその術式は、代わりに他者への介在を許さない。故に九々等は虎杖らを抱えた回避ではなく、彼等を庇うことを選択せざるを得なかった。

 

 防御力:9倍でも流石にダメージを受けた九々等は、倒れた麗美を見ながら虎杖に問う。

 

「ていうか今、この子ごと爆撃してこなかった? 仲間じゃないんか?」

「多分、良いように利用されてる」

「そういう感じか。なら――」

 

 九々等は麗美の背に回り込むと、爪の長さ:9倍と爪の鋭さ:9倍を同時に発動。

 

「『髪は女の命』っていうけどさぁ、ガチの命よりは安いっしょ」

 

 そのまま、麗美のサソリの尾に似た髪を肩辺りまでの長さで切り裂いた。術式発動のために必要だろう髪を切ることで、麗美の戦闘能力を奪ったのだ。

 切った髪を外に放り捨て、呆然とする麗美に九々等は言う。

 

「じっとしてたら何もしない。あと……短髪、似合うと思うぜ」

 

 それは髪を切ったことへの申し訳なさが言わせた言葉だったが、ツラの良い九々等が言う事で麗美を真に戦闘不能にするくらいの威力があった。

 

 そんなやりとりを前に、レジィは一言。

 

「あらら。最後まで役に立たないね、あの子」

 

 ぶち、という音が九々等の頭の中で鳴った。

 

「テメェ! ブッ殺!」

 

 レジィ目掛けて突進し――己の歯を折って握った黄櫨が道を遮る。

 

「!?」

 

 投げられる黄櫨の歯。それが爆発する。

 

「あっぶねぇ……!」

 

 今度こそ速度:9倍で躱し虎杖の横まで戻った九々等は、爆風の収まった先で黄櫨の目と歯が再生するのを目の当たりにした。

 

「傷が再生……爆発の術式じゃないんか?」

 

 そう溢す九々等に虎杖が説明してくれる。

 

「アレは反転術式、呪力を+のエネルギーに反転させて治療してるんだって!」

「そんなこと出来んの!?」

「(俺も聞いただけで原理はよく分かってない!)」

 

 内心で叫ぶ虎杖。

 それ以上の情報交換を許すまいとしたか、今度はレジィらが攻めてくる。

 

『再契象』

 

 具現化した包丁が2人を襲う。叩き落す2人だったが、足が止まったその隙に黄櫨が「歯爆弾」を装填、投げつけてくる。

 爆発。

 後ろに下がって回避した虎杖と九々等に爆煙を貫いてレシートが飛来し、それは液体に変わった。

 パシャ、と液体を被った2人は匂いを嗅いでその正体を知る。

 

「(ガソリンか!)」

 

 次いで血の付いた眼球が飛来。可燃性の液体で爆発の威力を高めるコンボ攻撃。

 

 ドン! と爆発音が再度街に響く。

 

 咄嗟に廊下から跳躍して外へと脱出、マンションの外に駐車場に着地した虎杖・九々等を、パラソルでふわふわと落下するレジィ・黄櫨が追って着地した。

 

「女の子は半裸の方に投げといた。ホントに容赦ないのなアイツら」

他人(ひと)の心配してる場合?」

 

 虎杖に向けた九々等の言葉を嘲笑うレジィ。虎杖・九々等はまだガソリンを被ったままだ。状況はレジィ・黄櫨有利。それは飛び道具を駆使して近接タイプの2人を近寄らせないレジィの戦上手さと、連携力の差が所以だった。

 

「(オレと虎杖くんは初対面。アッチは結構仲良さげだし、連携は不利だな)」

 

 そこまで考えた九々等は、隣の虎杖へ端的に問う。

 

「虎杖くん、どっちと()りたい?」

 

 虎杖も短い言葉で意図を把握。

 

「(反転持ちの方は火力特化でガソリン被った俺じゃ防ぎきれない、だけど九々等さんはガードも回避も出来てた……なら多少の小技ありでも――)長髪!」

「おっけ!」

 

 瞬間、九々等は速度:9倍脚力:9倍を発動。その場にいた全員の意識を置き去りにする速度で黄櫨の懐に潜り込むと、その腹を痛烈に蹴りぬいた。

 

「がッ――!!?」

 

 不意の一撃、蹴りの威力に吹き飛ぶ黄櫨。それを追って飛びながら九々等は虎杖に言う。

 

「負けんなよー!」

「応!」

 

 動揺することなくレジィ目掛けて走っていた虎杖に頼もしさを憶えつつも、九々等は追い付いた黄櫨を更にもう一撃蹴って吹き飛ばす。まるで人間ドリブルだ。

 

 その二撃により、レジィと黄櫨の距離は直線距離で70mほど開き、更に遮蔽でお互いを視認できなくなり分断が成功した。

 

 蹴りの傷を反転術式で治しつつ追撃に備える黄櫨。そんな彼と数メートルの距離に九々等は悠々と降り立った。

 反転術式で傷を治せる黄櫨には、脚力:9倍の一撃も致命傷足りえない。だがその事実は、九々等の不完全燃焼だった闘争心に油を注いでいた。

 

「いやあラッキー、オレもアンタが良かったんだよね。遠慮しなくて良さそうで」

 

 オレ、虎杖くんと相性良いのかな? と呟く九々等に、笑みを消した黄櫨は問う。

 

「オマエ、()()()だ」

 

 九々等はその問いの意図を理解し。

 

「ああ、過去だの今だのの話ね。それって重要?」

「は?」

 

 それを無下にして笑った。

 

「だって強い奴は、()()()だろうが強いだろ」

 

 ビリ、と黄櫨はその圧を感じ取る。

 飢えた獣。目覚めた怪物。戦いの味を知ってしまった猛獣が、黄櫨(はぜのき)(いおり)に牙を剥く。

 

「さあ、()ろうか!」

 

 過去からやってきた強敵を前に、九々等(くくら)八壱(やいち)は若獅子が如き笑みで地を蹴った。

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