9×9=   作:龍川芥/タツガワアクタ

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今回の前半は普段と書き方が違うので苦手な人は自衛お願いします。一応その部分は原作オマージュがしたかっただけの解説回なので、読み飛ばして貰っても(多分)大丈夫です。

また、以下の挿絵は作者が遊びで「×9^2 汲汲②」のラストを漫画のネーム的な何かに書き起こしたものです。他に出す場所も無いのでここに出します。超雑絵なので自己責任で見てください。

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×14 検討

 高専内の一室。

 宿儺戦検討会のため宿儺戦に参加した高専術師が集合している部屋に、虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇が並んで合流。

 開口一番、伏黒恵が口を開く。

 

伏黒(ふしぐろ)(めぐみ)(以下:伏黒)「皆に一度ちゃんと謝りたいんですけど」

禪院(ぜんいん)真希(まき)(以下:真希)「別におまえが謝る事なんてなんもねーだろ」

伏黒「いや……」

虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)(以下:虎杖)「俺にはあるよ」

 

 元々宿儺の器だった虎杖……そんな彼の謝罪を日下部篤也が遮る。

 

日下部(くさかべ)篤也(あつや)(以下:日下)「発端は虎杖を殺さなかった五条のヘマだ。そんで虎杖は羂索の呪術テロの被害者だ」

 

 ここで九々等八壱に引きずられて五条悟が合流。日下部はこれ幸いと五条に議論の矛先を向ける。

 

日下「そもそも論で言えば、それこそ好き勝手してた五条が渋谷でヘマしたのが事の発端だしな」

五条(ごじょう)(さとる)(以下:五条)「ギクッ」

脹相(ちょうそう)「確かに、五条悟の封印さえ達成されなければ、宿儺の復活どころか死滅回游すら起こらなかっただろう……封印(それ)に加担した俺が言えたことではないが」

五条「ギクギクッ」

冥冥(めいめい)「まあ、あの羂索が裏で糸を引いていたんだ。その辺は相手が悪かったって事でいいんじゃないかな? 虎杖君のこともだよ……生まれる前から仕組まれていたことの罪を問うのは酷というものさ」

五条「冥さん、もっと言ってー!」

 

 そんな議論の中心から外れた位置。

 渋谷事変での負傷により、宿儺戦終了直前まで寝たきりだった釘崎が議論の邪魔をしないよう小声で問う。

 

釘崎(くぎさき)野薔薇(のばら)(以下:釘崎)「ねえ伏黒、さっきは聞きそびれたけど……アレ誰?」

伏黒「……どれだ」

釘崎「明らかに新顔が居るでしょうが。五条先生の横に」

伏黒「(記憶障害とかは無さそうか……) 金の長髪は九々等さんだ。死滅回游の現地協力者で、特級相当……そうだな、乙骨先輩か五条先生がもう1人居るって考えて良い」

釘崎「へぇ……人は見かけによらないもんねー」

 

 そんな雑談を置いて議論は進む。

 

日下「宿儺が伏黒に受肉しちまったまでは仕方ないとして、宿儺との戦闘に関して言えば……結局援軍問題はどっちが正しかったのか、だな」

九々等八壱(以下:九々)「ギクッ」

 

 首を竦めたのは九々等八壱。

 彼は宿儺と五条の一対一(タイマン)に無理矢理乱入し、事前に決定していた作戦を瓦解させかけた自覚がある。故に自分が怒られる番だと緊張した。だが意外にも。

 

日下「結果論だが、九々等の参戦は良かったと思う。アレが無きゃ五条が死んでてもおかしくなかった」

五条「てか実際、八壱が居なきゃ死んでたと思うよ僕」

冥冥「()()()の詳細は不明だけど、本人が言っているならそうなんだろうね」

九々「ホッ」

日下「だが、それ以上の援軍を送るべきだったか、だとやっぱNoだと思う」

乙骨憂太(以下:乙骨)「結局日下部さんの言う通り、『切り札』ありましたからね……九々等さんが咄嗟に機転をきかせて防いでくれましたけど」

 

 乙骨の言う『切り札』とは、宿儺の領域の拡張術式。『(ふく)()()()()』の斬撃で粉塵化した物質に炎の呪力を付与し爆発させる最終奥義。

 それを『味方だけを囲う領域』で咄嗟に防いだ張本人は言う。

 

九々「機転っつうか、(アレ)を防げたのはほぼ奇跡だぜ。最初から皆来てたら全員黒焦げだったと思う……ていうかその前段階の斬撃で既にヤバかったけど」

真希「実際私らは死にかけたわけだしな」

東堂(とうどう)(あおい)(以下:東堂)「氷漬けにされたあの状態では俺の不義遊戯(じゅつしき)も使えなかったからな」

憂憂(ういうい)「僕の判断が一瞬遅れてたら死んでましたからね! 感謝してください!」

九々「アレ実際マジで助かったぜ憂憂くん。アレが無きゃ今頃『命懸け』で全員庇って死んでるとこだ……ていうか憂憂くんも『簡易領域』してたよね。人数足りんかったの?」

憂憂「氷から救出する人員を送る途中だったとはいえ、4か所だともう1人は間に合わないと判断しての苦肉の策です。領域対策については予め姉さまから許可を戴いていましたから……でも勘違いしないでくださいね、最終的に姉さまの利益が最大になるように判断して動いただけですから!」

冥冥「フフ、憂憂は賢いね」

憂憂「姉さま……!」

九々「憂憂くんマジ神!」

憂憂「あ、別にあなたからの賛辞は要らないので離れて下さい」

虎杖「(あの姉弟のキャッキャウフフに割って入れるってメンタルスゲーなぁ九々等……)」

 

 と、ここであの時九々等の隣に居た虎杖に疑問が浮かんだ。ちょいちょい、と九々等を呼んで尋ねる。

 

虎杖「そう言えば九々等ってなんで『簡易領域』使えんの? 修行してたとこ見た事ないけど」

九々「オレは元から使えたぜ? 死滅回游に参加する前、師匠――爺ちゃんの親戚に教えて貰ってな。『死滅回游――術師の殺し合いに混ざるならこれだけは覚えとけ』って。オレに教えれたって事は、多分師匠もシン・陰流じゃない……見て盗んだ側なんじゃねえかな。すっかり忘れてたけど、後でちゃんとお礼言いに行かないとな~」

 

 そんな2人を置いて、本筋の議論は進んでいた。

 

三輪(みわ)(かすみ)(以下:三輪)「でも、簡易領域ももう数秒斬撃が続いたら耐えきれませんでした」

猪野(いの)琢磨(たくま)(以下:猪野)「宿儺が本調子だったらと思うとゾッとするな……結局、五条悟の援軍なんておこがましい話だったと思うぜ」

日下「ああ。それに五条、九々等――オマエ等のレベルに合わせて戦える奴が居たとも思えん。乙骨くらいか?」

乙骨「いや、僕も流石にあの規模の戦いに混ざるのは……九々等さんの術式模倣(コピー)も、九々等さんの戦力を下げないとできない技ですし、きっと僕じゃあの『茈』の邪魔になってました」

五条「その辺は僕的にも八壱と2人で良かったかな。『無量空処』は基本敵味方の判別つけれないし、無制限の『茈』も八壱なら躱すか耐えるかできると思ったから撃てた。まあ憂太も混ざれたとは思うけど……戦力の温存って意味では最善だったと思うよ」

パンダ(以下:パン)「というか途中からは羂索に妨害されてそもそも援軍に行けなかったからな」

五条「僕も宿儺戦復帰は難しかったかな……羂索の置き土産の対処があったし、領域も出せないし足はこれだしね。ほんと、よく頑張ったね悠仁」

虎杖「いや、俺1人じゃ勝てなかったよ……先生の削りや九々等たちの協力がなかったら宿儺は倒せなかった。最後も伏黒と釘崎が助けてくれてやっと勝てたって感じだったし」

 

 部屋の端から本筋の議論に戻って来た虎杖に、ふと猪野が問う。

 

猪野「そういえば虎杖、七海サンの呪具は役に立ったか?」

虎杖「うん……! そうだ、勝手に持って行ってゴメン、猪野さん」

猪野「いいんだよ。俺は使いこなせず瞬殺されたしな……役に立ったならきっと七海サンも喜んでるよ」

虎杖「猪野さんも、東堂守ってくれてありがとう」

東堂「俺からも改めて礼を言おう。助かった、Mr猪野」

猪野「お、おう…… (ま、俺なんかにしちゃ頑張った方っすかね……七海サン)」

 

 じーん、と感謝を噛み締める猪野を置いて、彼に庇われた東堂は己の反省点を語る。

 

東堂「とはいえ、あのタイミングで俺まで参戦したのはやはり失敗だったな。本来俺は宿儺が領域を展開するまで待機し、術式で領域の必中効果範囲から仲間を逃がした後に参戦する予定だったが……虎杖(ブラザー)の奮戦につい熱くなってしまった」

(はかり)金次(きんじ)(以下:秤)「まあその辺はニブイチの賭けに負けたってだけだろ。計画(プラン)の事は後から聞いたが、実際領域が無かったら『世界を断つ斬撃』の被害をほぼ確実にゼロにできる意味のある援軍だし、そもそも領域があってもあのタイミングで裏梅が来なけりゃ本来の役割も問題なく果たせてた可能性のが高いだろ?」

(ほし)綺羅羅(きらら)(以下:星)「そう言う意味では、金ちゃんも熱くなって勝手に突っ込んじゃった側だしねー」

秤「あの状況で出なきゃ間違いなく乙骨が殺されてたからな……あんときはまだ裏梅がどこに居んのか分からなかったし。ま、俺は五体満足で後続まで繋げて、しっかり賭けに勝ったからノーカンだろ」

星「私も置いてっちゃってさー。プンプンだよ」

秤「最初からオマエは補助以外で出ないって話だっただろ……」

 

 彼等のやりとりにつられるように、議題は「援軍」に移る。

 

真希「援軍の話なら、あの助っ人外国人。アレが最初から居たなら話は変わってたろ」

乙骨「本人たちは来ないって言ってたんだけど……」

冥冥「どうかな。五条君・九々等君の怪獣大戦争に混ざれないだろう、というのは共通認識として……」

日下「本気の宿儺は正真正銘のバケモンだからな。日車のプラン辺りに組み込んでも、それでアッチが本気になって瞬殺されてた可能性はある」

脹相「確かに……完全受肉した直後の宿儺は強いだけじゃない、遊びが無かった。勿論悠仁が『魂を捉える打撃』で弱体化させる前というのもあるのだろうが……」

五条「あー、それ多分僕と八壱のせい。僕等が撤退しちゃったもんだから、宿儺側も僕らが戻ってくるのを想定して早めに他を片付けようとしてたんだろうね」

 

 と、ここで虎杖は五条・九々等vs宿儺・羂索の戦いを思い出し、かねてよりの疑問を口にする。

 

虎杖「そうだ、なあ九々等。考えてたんだけど……九々等の領域は他人を強化できるんだろ? 五条先生の時にそれやっとけば楽に勝てたのでは?」

九々「(イヤ)……オレの術式で他人を強化するには、領域に術式を付与して必中効果を介するしかないんだけど……それだと宿儺たちが使う『閉じない領域』の必中効果と相殺しあっちまうからな。実際のとこ、オレの領域は『閉じない領域』とかなり相性が悪くてさ……普通の領域戦でやる『外殻の押し合い』とはちょっと話が違うんだよね」

虎杖「どういうこと?」

九々「まず前提。オレの術式は『倍率が変わらない』『術式対象が2つから増えない』って『縛り』で成り立ってるんだ。だから領域を使っても合計倍率は81倍のまま……つまり領域展開中にオレが取れるのは『相手の妨害/味方の強化』か『自分の強化』のうちどちらかに全ブッパするか、両方に9倍使うかの三択ってワケよ」

虎杖「ふむふむ」

九々「この時、『自分の強化』は普段と同じく領域を介さずとも使える。だから外殻の押し合いをするときに、押し合い中の必中じゃない状態でも領域を介さず自分を術式で強化することができる。ただ相手が『閉じない領域』の場合、外殻の押し合いじゃなくて必中効果の相殺合戦になるから……そうなると領域を介さない『自分の強化』を使えば相手の必中効果を素通りさせちまうし、逆に領域を介して『相手の妨害』をしようとしても相手の必中効果と相殺し合えるだけで、後には術式が満足に使えないオレが残っちまうんだ」

虎杖「……ふむふむ」

九々「その顔は分かってないな……まあ要するに、相手が領域使ってくる以上五条先生を強化するのは難しかったってこと」

 

 そんな彼等の会話が終わったタイミングで、日下部が議題を進める。

 

日下「次、羂索の件だが」

九々「ギクギクッ」

 

 九々等八壱、第二の容疑。

 宿儺戦の気絶から復活後、彼は本来羂索の相手をする予定だった乙骨を強引に宿儺戦に送り出し、自らは羂索の相手をしに向かった。レジィ・スターの術式あっての御所湖結界までの疑似ワープによる羂索の強襲は高専側に共有されていなかった為、高専術師と作戦に大幅な混乱を招いた。

 今度こそ怒られる……そう思った九々等だったが、思わぬところから助け船が出る。

 

冥冥「その件なら情状酌量の余地はあると思うよ。『縛り』で口外できなかったって話だし」

九々「そ、そう! オレだって詳しく言いたかったけど口外禁止の『縛り』がね……そもそも用心深い奴等なんだ、『縛り』が無いと協力してくれなかったワケで……その、許して欲しいです!」

真希「許すも何も、あのタイミングで本来温存せざるを得なかった憂太を投入できたのは良かっただろ。でなきゃ死人が出てただろうぜ」

乙骨「あの時は九々等さんの術式も使えたからね……それでも勝ちきれなかったけど」

秤「アレは宿儺が上手だっただけだろ。領域からの脱出なんて誰にも読めねえよ」

虎杖「領域からの脱出……そもそもアレどういう原理なの? 俺の時は使ってこなかったけど」

乙骨「領域の外殻を宿儺に破壊されて、そのまま領域から脱出されたんだ。領域は『閉じ込めた相手を必中の術式で襲う』技だから、前提の『閉じ込めた状態』から抜け出されると必中の術式も意味が無いうえ、外からの攻撃に脆い外殻を晒してしまう……でも正直『領域からの脱出』なんて、選択肢にも入ってない予想外の技だったよ」

虎杖「あれ? 五条先生そういう対策もあるって前言ってたくない?」

五条「『難しいからおすすめしない』って言ったんだよ悠仁。理由は『領域内から領域外殻を探る』のと『内部からの攻撃に強い領域外殻を破壊する』っていう二つの至難を乗り越えないといけないから。これなら『簡易領域』含めた領域を展開する方が領域対策としてはよっぽど安易だ」

秤「でも俺の時もやられたぜ『領域からの脱出』。アレどうやったんだ?」

日下「話を聞く限りじゃ、外殻を破壊したのは『世界を断つ斬撃』の派生技だな。内部からの攻撃に強い領域外殻を強度を無視して切り裂ける術なんだろう……そもそも無下限を突破できるんだ、そういう芸当ができても驚かねえよ。虎杖の時に使わなかったのは術式が焼き切れてたのと、そんな搦手使わなくても『領域展開』っていう王道の領域対策が復活してたってのが大きいだろうな。ただ領域内部に居ながら外殻を探る手段までは知らん」

五条「そんなの僕でも難しいからね……宿儺の高い呪力感知能力と結界術の知識、歴戦の勘と黒閃のゾーン状態――その上でそれなりの耐久時間があってギリの技術じゃないかな」

 

 話が逸れたが。

 

日下「ともかく、問題はあのタイミングで九々等が参戦すれば良かったんじゃねえかって話だ。羂索の相手は当初の予定通り乙骨で良かっただろ」

乙骨「いえ、あの時は羂索の場所が分かってなかったので……『現地協力者』の術式でワープさせられるのが九々等さんだけだった都合上、役割の入れ替えは仕方が無かったと思います」

冥冥「結局羂索を取り逃すのが最悪だからね。総則(ルール)追加を利用されて身を隠されてたワケだし」

 

 九々等は羂索の居場所を知っていた訳ではなく、出会ったレジィが事前の仕込みを利用して九々等を呼んだだけ。九々等がそれを拒否していたら今も羂索は生きていただろう。

 

日下「……そうなると」

五条「やっぱり八壱は大活躍だったんだねえ」

冥冥「結果論ではあるけれど、客観的に見ても貢献度の高さは無視できないんじゃないかな」

九々「(……なんか許された!)」

日下「だがもうちょい集団行動というか、せめて報連相をだな……」

一同「「それはそう」」

九々「(やっぱり許されなかった……!) まあそれは自覚してます、申し訳ない……オレって奴は頭に血が上ると、こう、ついね」

 

 結局、九々等は問題行動と貢献度の高さが相殺し合ってお咎めなしとなった。

 ふー助かった、と議論の中心から外れた彼に、狗巻が声をかける。

 

狗巻(いぬまき)(とげ)(以下:狗巻)「おかか?」

乙骨「確かに……九々等さん、結局ボイスレコーダー使わなかったんですね。わざわざ録音し直して貰ったのに」

九々「ん? ちゃんと使わせて貰ったぜ? ブラフに」

狗巻「ツナマヨ……」

乙骨「ブラフ……」

九々「もうぶっ刺さりよ。そのお陰で勝てたって言っても過言じゃないね」

狗巻「こんぶ!」

 

 狗巻のフォロー(本音)をした九々等は乙骨に顔を寄せひそひそと話す。

 

九々「(……実際、狗巻くんが命預けたのは乙骨くんだから、だろ。『呪言』って反動ヤバいって聞いたぜ。結果的には助かったけど、今度からその辺気にしといた方が良いよ多分)」

乙骨「(……肝に銘じます)」

狗巻「?」

九々「なんでもない。ちょっと好きな女のタイプの話をね」

乙骨「ちょ、九々等さん……!? あ、えっと……うん、そんなカンジ、かなぁ」

狗巻「すじこ……!?」

パン「どした棘……ナニ!? 憂太が女の話を!?」

乙骨「いや、違ッ……九々等さん! (困)」

九々「逃げろー(愉)」

乙骨「九々等さーん!? (怒)」

 

 怒る乙骨、けらけらと笑いながら逃げ回る九々等。

 彼等の喧騒を聞き流しながら大人組は語らう。

 

日下「そして同化の件、か」

冥冥「正直こちらは議論のしようもないと思うけどね。『結果的に丸く収まった』、それが全てじゃないかな」

五条「同化した137万1450人、奇跡の死者数0だからね~。天元様の『不死の術式』が同化直後限定で残留でもしたのかな?」

冥冥「同化が不完全に終わった理由も今となっては分からないけど……被害規模と範囲から見て、死滅回游の結界(コロニー)が何らかの形で変化の波を阻害した――それこそ波に対してのテトラポットのような役割を果たしたって見方が主流らしいね」

五条「その辺は『縛り』の不履行によるものじゃない? それに死滅回游のゲームマスターが実質天元様で、結界(コロニー)を構成する呪力も基底は天元様のものって事は、結界(コロニー)と同化の命令が反発しあうのも理解できなくはないかな」

日下「ともかく結果的には、虎杖の存在が不完全な同化を解除し100万人を救助する鍵になった……虎杖を生かした五条の判断も一概に間違いとも言えなかったのかもな」

五条「へへーん、凄いでしょ僕の生徒。悠仁だけじゃない。皆これからの呪術界を担う、自慢の生徒さ」

 

 その後多少の議論と情報共有があって、検討会はお開きとなった。 

 

 

 

■拾肆■

 

 

 

 高専内、総監部。

 

「――以上の理由を以て。九々等八壱を4月から『特級術師』として呪術高専4年生に編入することを提案する」

 

 障子が円形に配置された室内にて。

 一風変わった円卓と言えなくもない部屋の中、障子の向こうから彼等は議論する。

 

「うむ。彼の術式についてや宿儺戦の報告は上がっているし、元特級・五条悟からの推薦もある。それが妥当だろう」

「五条悟が特級の座を退いた今、代わりとなる戦力は必要じゃろうしな」

「しかし『特級』ともなれば必然的に様々な権限を持つことになる……五条悟もまだ力を失った訳ではない! 軽率な特級認定は呪術界のパワーバランスを傾ける恐れがあるのではないか!?」

「本人は既に五条家の後援を打ち切り距離を取っている。それに、もうそんな事を言って居られる状況ではない」

「死滅回游の平定はまだ先じゃ、東京の件もある……国内が混乱している今、諸外国との交渉も見据えると、特級術師の穴埋めはできるだけ早く必要じゃ」

「ぐ……こればかりは仕方ないか」

「では決を採る」

 

 賛成多数。

 よって。

 

「議長・楽巌寺(がくがんじ)嘉伸(よしのぶ)の名において。高専編入を条件として、九々等八壱の特級認定を可決する」

 

 楽巌寺嘉伸、総監部トップに就任。

 羂索の傀儡だった旧総監部を解体、新たな人員で再編された新たな総監部を纏め、日本の呪術界再興に尽力する。

 

 

 

■拾肆■

 

 

 

 アメリカ・ハワイ。

 多くの観光客で賑わう常夏のワイキキビーチにて。

 ビーチパラソルが備え付けられたピーチチェアに寝そべったアロハシャツの男と、その横でココナッツジュースを飲んでいる同じくアロハシャツの男は日本語で会話する。

 

「ポイントの譲渡ルールは結果的に良かったねえ。自分の他にもう1人仲間が居れば、国外に逃げても『術式の剥奪』が起きることはない」

「羂索が死んだ今、ポイントを集める理由もないしな」

「後は高専の出方次第だけど、もし本格的に受肉体狩りが始まっても地球の反対側にトンズラすればいい……ベガスを荒らしたりマレーシア辺りでのんびりするのも良いけど、高専が下手に手出しできないのは中東かなあ。ただ、万が一世界中で術師狩りが始まったなら……そん時はどっかのバカの特級権限にでも頼るかな」

「その辺はオマエに任せるわ、レジィ」

「場合によっては黄櫨(オマエ)の術式が役に立つ事もあるだろうから、そん時はちゃんと働けよ?」

 

 レジィ・スター、黄櫨(はぜのき)(いおり)、傷を癒したのち国外逃亡。

 現在はハワイを満喫中。

 

 

 

■拾肆■

 

 

 

 高専内、共同墓地。

 列に新たに加わった墓標の前で、その兄弟は居た。

 墓に花を備え綺麗に磨く兄に、それを手伝いながら弟は言う。

 

「お墓、作れたんだな」

「ああ、五条悟と乙骨憂太連名の権限でな。俺が術師として働く事を条件に、高専に回収されていた壊相(えそう)血塗(けちず)の亡骸を弔う許可を上から捥ぎ取ってくれた」

「……そっか」

 

 兄・脹相の言葉――弔いの条件を初めて聞き、弟・虎杖悠仁は問う。

 

「脹相はそれでよかったの?」

「……あの戦いを生き残って。正直、死に場所を失ったような感覚が無くはないんだ。だが、俺を『人であれ』と呪ってくれた人が居た」

 

 壊相と血塗……弟たちの墓の横には、故特級術師・九十九(つくも)由紀(ゆき)の墓が。

 ふたつの墓標を見つめながら、脹相は弟に決意を語る。

 

「せめて罪が追い付いてくるまでは、人として、兄として生きるさ。今度こそ間違えないように、悠仁(おとうと)を失わないように」

 

 墓の手入れを終えた脹相は、線香を2本虎杖に手渡す。

 

「悠仁、手を合わせてくれるか。兄弟たちだけじゃなく、俺の恩人の墓にも」

「当たり前だろ……脹相はちょっと抜けてるから、俺が弟としてちゃんとお礼言っとかないとな」

 

 遺された兄弟は手を合わせる。

 犯した罪の重みを背負いながら……それでも未来に進むために。

 

 脹相、五条悟・乙骨憂太との契約により1級術師に就任。以後着々と任務をこなし、特級呪物の受肉体としての偏見を徐々に払拭していく。

 虎杖悠仁、伏黒恵・釘崎野薔薇と共に呪術高専東京校に復学。現在両名と共に、学業の遅れを取り戻しながら1級査定中。

 

 

 

■拾肆■

 

 

 

 高専内にて。

 

「結局、憂太の秘策は発動できず仕舞いだったね~」

「そんな事態にならなくて本当に良かったですよ……九々等さんには感謝してます」

 

 杖を突く五条悟と乙骨憂太は並んで談笑していた。

 安堵の溜息を吐く乙骨の顔を見て、ふと五条は気付く。

 

「あれ。憂太、なんか険が取れた?」

「それは先生もでしょ」

「ま、否定はしないけどね」

 

 五条はここ1ヶ月の記憶を思い返す。

 悩みを打ち明けたこと。命を救われたこと。生徒を送り出したこと。

 自分にはできないことを、託したこと。

 

「別に1人で生きて来たつもりもなかったんだけどさ……自分1人じゃできないことも案外沢山あるんだなって知ったんだよ。真っ二つにされた時点で1人じゃ死んでたし、文字通りの『痛感』だ。結局、僕の夢を一番信じてなかったのは僕自身だったのかもね。皆こーんなに育ってんのにさ」

「わ、なんですか急に……」

 

 唐突に乙骨の頭を撫で回す五条。

 ぐりぐりと強引に頭を撫でられて、困惑しながらも乙骨は語る。

 

「僕も、いつの間にか背負っていたというか……自分が成りたいものを目指すんじゃなくて、目指すものに成らなければいけないと思ってしまっていたんです。その呪いを九々等さんが解いてくれた」

「八壱はあれで『呪い』とは真反対のタイプだからねえ。ゲームの属性で言えば光ってとこかな?」

 

 けらけらと笑い……ふと思い出したとある言葉が、五条悟の口を突く。

 

「――人間、死ぬまで孤独(ひとり)には成れないんだってさ」

「?」

「憂太の中にも住んでるでしょ? 忘れられない笑顔ってやつが。それがある限り大丈夫だよ、きっとね」

「――はい……その通りだと思います、きっと」

 

 かつて怪物だった彼等は、今人として笑い合った。

 

「そういえば()()()()だけど……」

「僕より九々等さんの方が適任だと思います。『リカ』は非術師の人達には見えないし、手加減も難しいですから……あと、僕もう皆と離れたくないです」

「じゃ、高専始業まで暇だし僕と八壱で行ってこようかな~。楽巌寺のおじいちゃんが心労で早死にしても困るしね。あ、お土産何が良い?」

「もう最強(とっきゅう)じゃないんだから、ちゃんと気をつけてくださいよ……皆、先生が無事に帰って来てくれるならそれだけでいいんですから」

 

 五条悟、宿儺戦での負傷により特級術師の座を辞し、以後高専の教師業に専念。

 乙骨憂太、羂索の術式を包蔵(ストック)も依然使用機会無し。年始より特級術師として復帰する。

 

 

 

■拾肆■

 

 

 

 都内某所、道路上。

 都内での任務を終え高専に戻る途中の車内にて。

 

「日本にある天元様の浄界は、宿儺の残骸を据え置く事で暫くは持つらしいっス。でもそれは天元様の浄界が規定となっている死滅回游が今後暫く続くことを意味するっス……術式の剥奪ルールが無くなった訳じゃないっスから、今高専ではルール追加による死滅回游の強制終了と並行して、泳者どうしの互助会の設立が進められてるっス」

「なるほど……ってことはまだ暫くはコガネと一緒かぁ。コイツも好きにお喋りとかできれば愛着湧くんだけどなあ」

「(コガネを撫で回してる……)」

 

 運転席の新田(にった)(あかり)は、バックミラーに映った後部座席の九々等八壱の奇行に何とも言えない表情を作る。

 その様子を察したわけでは無いだろうが、九々等の方から話しかけて来た。

 

「てか動いてる他の車一個も見ないっすねー。ゴーストタウンって言うか、東京なのになんかヘンな感じ」

「呪霊の存在が『東京にのみ湧くもの』として一般に公表されたっスからね。都内の呪霊の活発化を見越して非術師の皆さんは大体疎開して貰ったし、首都の遷都は確実だと思うっス……その分地方の呪霊の動きは抑制される見込みっスから、リソースを集中しやすいって意味では一長一短でもあるっスけど。勿論、今日探ってもらった東京の様子も対策の参考にさせて貰うっスよ」

「なるほど……そういう事ならもうちょい祓っとけばよかったかなー」

「いや、術式持ち4体に特級相当1体、その他数えきれない有象無象の祓除はどっちかっていうとやり過ぎの方だと思うっスよ……今日は調査だけの予定だったのに……」

「でも、わざわざ出向いて見るだけってのも効率悪くないすか?」

「今無理して戦力を失うリスクの方が怖いっスよ…… (五条さんとは似て非なるタイプの問題児っスね……)」

 

 と、会話しているうちに辿り着いた高専内の駐車場に誰かが立っていた。

 

「ん? あのバカ目立つデカ白髪は……」

 

 新田明はその人物の前で車を止める。

 開けた窓から車内を覗き込んで来たのは……杖を突いた五条悟。

 後部座席に九々等の姿を確認した彼は言う。

 

「八壱~、君、これから僕と一緒に極秘の特別任務」

「特別任務?」

「(何それ私も知らないっスよ……正しく特級レベルの極秘任務ってワケっスか!)」

 

 言うや否や、五条が後部座席に乗り込んでくる。

 

「何やるかは道中説明するよ。どうせ長旅になるしね。あ、横須賀までお願いできる?」

「は、はいっス! (横須賀って……海上自衛隊の基地がある……? てか本当に私で良いんスかね!? 何にも聞かされてないんスけど!)」

「良く分かんねえけど……ま、先生と一緒なら楽勝だろ!」

 

 新田明、奇縁により以後頻繁に九々等八壱の補助監督として取り立てられることとなる。

 九々等八壱、呪術高専東京校4年に特級術師として編入内定。これから極秘特別任務のため、五条悟と横須賀基地へ出発。

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