※原作に準じて割と思想強めで行く予定です。キャラの意見≠作者の意見です。
※エピローグの四つ目はこの世界線では無かったということにしてください……。
≡0 連星
西暦2086年。
シムリア星人、
京都未来科学館。
シムリアの外交特使と初会合を終えた地球人類代表の二名は、施設内の控室で表出した問題点を確認していた。
術師官僚・
補助監督・
両名の間に漂う空気は重い。
それも「真剣」というよりは「深刻」のテイストで。
頭を抱える、という表現が最も近しいか。
彼等の脳裏に焼き付いて離れない、来訪者・シムリア星人の代表。
その威容。
圧倒的存在感。
人類と酷似した姿に収まってなお明白な、決して抗えぬ滅亡の気配。
―――かの代表が望むなら、地球侵略など容易いだろう。
それが地球代表たる二人が肌で感じた結論。
故にこそ、シムリア星人との交流には慎重な判断が必須となる。
その上で、宇佐美が出した方針は『融和』であった。
シムリア星人という難民の呪術的技術を求めての懐柔ではなく、まして勝ち目の薄い戦争でもない。
戦争を避け、平和的に事を収めるための融和。
それも若い世代どうしの交流による真の融和……偽りのない共生への道こそ、シムリア人と直接会話した宇佐美が導き出した答えであった。
そうやって一先ずの結論を出したのち。
宇佐美鴻は先のスタンスとは若干の矛盾を孕むことを理解しつつも、その提案を美野へと語った。
「……念の為、『
「! ですが、
「あくまで『事情を共有』するだけだ。何かあったときの保険はあった方がいい。それに彼の性質上、日本の危機となれば動く可能性は十分にある……あるいは、先に話を通しておかないと独断専行されかねん」
美野の見る限り、どうやら最後のが最も腹の底から出た本音らしい。
そこに返す反応をまだ持たない補助監督は、呪術界におけるとある噂話の内容を、そっくりそのまま諳んじた。
「『白面』……現存する唯一の特級術師。1000年を生きる傑物、ですか」
シャラン、と。
魔を祓う鈴の音が聴こえた気がした。
その存在は自らを『九尾』と名乗っている。
いつも狐面を付けていることから、特級仮想怨霊と区別するため『白面』と呼称されることが多いが、正式な名はない。
彼についての記録はシムリア星人来訪よりも高レベルの機密扱いであり、無関係の補助監督が閲覧できるものではない……ただし、人の口に戸は立てられぬの通り、噂だけは呪術界に残存している。
曰く―――現代で唯一の特級術師にして、人の理から外れた
補助監督・
京都郊外、呪術高専。
かつて東京校と双璧を為した呪術高専も、今やここ京都校しか存在しない。
そんな高専内の更に奥。
自然残る高専敷地、その中においてもいっそう緑の深さを保つ山中を往く。
右を向けど左を向けど茂る緑。
葉で覆われた青天は遠く、風は水気を帯びて清涼だ。
木々の擦れる音、まばらな鳥獣の鳴き声……人工の音がしない空間は現代では貴重で、それだけでどこか神聖さを纏う。
そんな緑溢れる山の中、苔むした石畳の道と、まばらに建った古い鳥居だけが、此処が人間の領域であると弱弱しくも主張していた。
(高専とはいえ、こんな山奥までは初めて来るな……)
美野にとっては感嘆よりも不安が勝つ道中。
次第に深くなっていく緑にまるで歓迎されている気がしない。
そんな山道を十分ほど歩いていると、一目で「ここが目的地だ」と分かるシンボルが草木の間から顔を覗かせた。
それは道中あったものとは違う、なんとも立派な赤い鳥居。
五メートルの高さに掲げられた『稲荷大明神』の文字。
深い森の中に建った神の門は、周囲の自然を完全に統率する神威の象徴である。
そしてそんな鳥居の先には、旧い神社が今なお堂々と構えている―――。
現代文明から乖離した鉄色を知らぬ風景とは、補助監督である美野をして圧倒される、純粋な伝統文化の結晶であった。
清浄な山の空気。
獣さえ息を顰める清らかさ。
此処は手付かずの自然でもなく、また開拓された都市でもない。
そんな境界の
獣の領域でも、ましてや人の領域でもないのなら……。
残るはひとつ―――ここは神仏の領域に他ならない、なんて。
「―――おや。またぞろ面倒事かと思ったが、知ってる顔が居るじゃねえの」
―――声は、前からではなく上から降った。
咄嗟に見上げた美野が見たのは、稲穂を思わせる金色の軌跡。
とん、と鳥居の上から落下してきた影が着地。
ふわり、重力を感じさせずに尻尾が踊る。
現れたモノは、それこそ神様めいていた。
最初、尾のある狐が二足で立っているのと空見した。
だが違う。
狐の頭は顔上部を隠す和の仮面。
稲穂の尾は後ろでひとつに括った金髪だ。
勾玉の模様があしらわれた独特の和装は、森の中に在って妙に景色と調和している。
そんな仮面の奥、目元に開いた二つの穴から……豊穣を称える十五夜の月がふたつ、来訪者たちを照らしていた。
(これが、『白面』……!)
美野が息を呑んだのは、現れたヒトガタが余りにも超然と風景に溶け込んでいたから。
まるで御伽噺の仙人だ。
同じ人間という感じがしない。
そんな、いかにも浮世離れした狐面の美丈夫は、若く張りのある声で人語を介す。
「久しぶりだなウサミン。また白髪が増えたんじゃないか?」
「……師匠」
(師匠!? 宇佐美さんは元『白面』の弟子!?)
美野は目を剥いて上司を見る。
その顔は普段にも増して何かを堪えるような深い皺を刻んでおり……。
多忙による若白髪はありつつも精悍な面貌は、若さと貫録の両方を備えた、三十代前半という年齢の理想。
だが、そんな美野の五つ年上の宇佐美に対し、その師匠であるという『白面』はどうだ。
面の隙間から覗く目元や口元。
端麗な雰囲気に反し男らしい手足。
声音の瑞々しい力強さ。
……どう見ても、若い。
ともすれば自分より年下に見えなくもない、と美野は考えるも、すぐに彼自身の直感がそれを否定する。
何故なら、それは外見だけを見ての結論だったからだ。
判断基準に立ち振る舞いや雰囲気を含めると……前説と矛盾するのだが、如何にも老成した人物と同じ空気を纏っていることに気付かされた。
そんな『白面』は、いかにも年上といった態度で宇佐美の肩を叩いている。
「全く、ダメだぜ夜更かしは。子供はちゃんと寝ないとな」
「……いつまで子供扱いする気ですか、師匠」
「そりゃあいつまでもさ。オレにとっちゃ息子を超えて孫くらいの年齢なんだし。それでも子供扱いが嫌ってんなら、夜更かし癖は治さないとな?
……んで、そっちのキミは?」
え、と間抜けな音。
珍しい宇佐美の姿に気を取られ、話を振られると思っていなかった美野が咄嗟に反応できなかった声だ。
と、そんな彼の失態をどう捉えたのか、狐面の男は嫌味なく笑ってその手を差し出した。
「ああ、名乗ってなかったな。どうも初めまして、皆の頼れる九尾さんです。ま、名前なんて有って無いようなモンなんで、何でも好きに呼んでくれ」
その、余りにも常識と非常識が入り混じった名乗りに、流石の美野も再起動。
条件反射的に差し出された手を取る。
「え、は、はい! 補助監督の美野と言います」
「ふむ、じゃあミノノンだ。よろしくな、ミノノン」
「よ、よろしくお願いします……(想像していたより数倍はフランクだな……)」
握手した手から感じる確かな体温。
呪霊や式神などの霊的存在ではない、生きた人間……今までそう感じられなかったことが異常ではあるものの、美野は確かにそのことを実感した。
(だけど……補助監督の俺でも分かる。あの宇宙人代表にも匹敵する、圧倒的な存在感。これが、『白面』……!)
にっ、と仮面に覆われていない素の口元が弧を描く。
白面金毛と謳われた九尾の狐。
本当にそんな怪物が人間に化けているような、どこか人間離れした雰囲気が……そして圧倒的な存在感がこの男にはある。
気まぐれで、摑みどころがなくて、果てしなく雄大。
それが補助監督・美野和也が抱いた、『白面』への第一印象であった。
そうして三名は場所を移し、神社内。
生活感の全くない伽藍洞の本殿で……宇佐美が説明を終えたのと同時、狐面の男は頷いた。
「―――うん、話は分かった。一応、憶えとく」
余りにも短い、突き放すようとも取れる言葉。
そんな最高戦力らしからぬ態度に、美野は思わず身を乗り出した。
「そ、それだけですか?」
問われ、金の瞳が美野を捉える。
今まで宇佐美に向けられていた視線の強さに一瞬硬直する美野。
だが当人にとっては何の他意もない反応だったらしく、狐面の男は本当に自然に会話を返した。
「ああ。そのなんちゃら星人は『難民』なんだろ? なら、それをどうするかはオレが決めることじゃない。オレは不当な暴力への『盾』ではあっても、自分から斬り込む『剣』になるつもりはないんだよね」
「……」
「それに、オレを計算に入れられても困る。いつ
世界は
「い、いえ。大変ありがたい話ですが、仕事があるので……」
「そっか、偉いなミノノンは。うん、頑張りたいぶんだけ頑張りな」
ぽんぽん、と肩を叩かれる。
……なんというか、若々しい外見に反して、態度のほうは妙に年上臭い。
あるいは……それこそ日本の宗教観でいう神様そのもののような。
と、用件は済んだと帰り支度を始めた宇佐美へ、『白面』が唐突に問いかけた。
「ウサミン。オレとその代表さん、どっちが強い?」
「……私の見立てで構いませんね?」
「おう。あ、一応言っとくけど、コレはただの純粋な興味だぜ」
問われた宇佐美は少し目を閉じて思考する。
その顔が誰を思い出しているのか、美野には容易に想像できた。
数秒の沈黙の後……宇佐美が答える。
「私は師匠の本気を知りませんが……所感では、あちらの方が少々上手かと」
「へえ、そりゃ凄い。是非一度、あちらさんとも会ってみたいもんだなー」
「……そうならないよう、微力を尽くさせてもらいますよ」
「おう。ま、頑張りたいぶんだけ頑張りな」
どこまでも気楽な―――どこか他人事めいた声。
それに対し宇佐美が苦笑するのを見て、美野もまた同じ顔をした。
そんなやりとりを終えて、帰路。
もう声は届かないだろう、というくらいに来た道を戻り歩いてから、美野は前を往く宇佐美へと声をかける。
「『白面』……予想と違いましたね。思ってたより随分と、こう」
「軽薄だったか?」
「そ、そんなことは」
「事実だろう。軽薄、個人主義、ネジの外れた独善。全くあの人は、いつまでも素直に敬い難くて困る……」
はぁ、と頭を押さえる宇佐美。
術師官僚として頭痛の種を多数抱える宇佐美ではあるが、それをこうも表に出すのは珍しい。
それはあの人物が余程トラブルメーカーなのか……それとも、美野の知らない二人の関係性あってのものなのか。
それを判断しかねる美野に対し、宇佐美は思い出したように振り向いて。
「だが、あの人は偶に、真理を突いたようなことを言う。
それだけ言って、再び前を往く宇佐美。
その仕草に先の疑問の答えを知って、美野は微笑と共に追従の足を速めた。
久方ぶりの客人が去った後。
境内の落ち葉を掃除しようと竹箒を取り出した狐面の男のもとへ、ひとつの影が舞い降りる。
それは先程まで、
美野はともかく、官僚であり一級術師でもある宇佐美にもその気配を悟らせなかったその人物は……ふわり、木の葉のようにゆっくりと舞い降りて、音もなく石畳を踏んだ。
物理法則を嘲笑う呪術の気配。
重力にも風にもまるで踊らぬ、銀にも見える魔的な白髪。
その下から覗く剣呑な瞳で、彼女は
「……狐ジジイ」
「お、
「うっさい。今の、誰」
茶化され、見るからに機嫌を悪くする少女。
ツンツンと尖ったその髪は、正しく彼女の性格を体現している。
呪術高専の黒い制服。
未完成の美貌は、欠けながらも麗しい玲瓏の月のようだ。
そんな十代半ばだろう少女へ、狐面の男はわりかし驚いた反応を見せた。
「え、ウサミン知らねえの? オマエ」
「はぁ? 別に知ってるし。ジジイとの関係を聞いてんの」
「ああ、そういうこと。オレの元弟子だよ。つっても、おまえさんみたいに付きっ切りで見てやったワケじゃないが」
「……ふぅん。なら、ウチとどっちが優秀?」
刃のように剣呑だった口調が、どこか年相応の不器用さを纏う。
そんな気難しい思春期の機微をまるで介さず、老成の師は呆れ顔。
「あのなあ。いつも言ってるだろ、能力の優劣に意味なんかないって。大事なのは何ができるかじゃなく、自分に出来ることをどこまでやるか……そういう意味じゃ、ウサミンはちょっとやりすぎなくらいに頑張ってるんだが……」
いつもの期待外れの文言に、更に自分には与えられない誉め言葉まで。
その時点で少女の機嫌はナイアガラの滝ばりに急降下し、苛立ち全開の態度で背を向ける。
「……あっそ。もういい」
「怜? おーい」
「……」
どかどかと足音を立てて神社を去る。
呼び止める声はフルシカト。
そんな難しい年頃の愛弟子へ、狐面の男は思わずぽつり。
「……なんか、ますます
「うっさい! 次言ったら絶交!」
割と本気の殺意が込められた少女の怒声が木々を揺らす。
未完成のうら若き術師は、名を
◆『白面』キャラデザイメージ
【挿絵表示】
呪術廻戦≡&アニメ死滅回游編(前編)、最高!!
でも、偶に九々等のことも思い出してくれると私が嬉しい。超不敬だけど。
そんな願いを込めて、ひとまず「やるぞ」って意志だけはここに示しておきます。
百パーセント趣味の気紛れ投稿なので、あんまりスピードには期待しないでください。
完結後にも本作に評価・感想などくれた方、本当にありがとうございました!
あなた方が繋いでくれた続編です。あえて蛇足とは言いますまい。
是非とも、今一度お付き合い頂ければ幸いです。