義理だけど、実は本命のチョコに力を入れ過ぎちゃう女の子ってかわいいよね。
義理チョコだというのに、気合を入れすぎてしまったのですわ…。
そんな後悔を抱いたのは先日の夜のこと。本日は平常通りにロドスに出勤し、お昼休みに向かった宿舎内で、私はグラウにアリアとチョコレートの交換会をしていました。
「アズリウスさんは流石ですね。マカロンを手作りだなんて。」
グラウは私の作った色とりどりのマカロンを手に取り、そう言ってくださいました。
「感謝ですわ、グラウ。いつも私のスイーツを褒めてくださり、光栄ですのよ。」
「本当に美味しい…。心に、一筋の光が差し込むようです。笑顔になりますね。」
「ありがとう、アリア。私のスイーツを喜んでくださる友人が増えたこと。とても嬉しく思いますわ。」
「しかし、アズリウスさんだけ五種類も用意してくれてるなんて思いませんでしたよ。」
そうグラウが言います。
「私もです。アズリウスさんがこれだけ用意しているのを知っていれば。私も、他のチョコを用意しましたのに。」
「それは…。気合が入りすぎて、つい作りすぎてしまったのですわ。」
なるほど、とグラウにアリアは納得してくださいました。
「お菓子作りはアズリウスさんの趣味ですからね。バレンタインともなれば、それは力が入りますよね。」
グラウの言葉に私はほっとします。
「私が好きでやっていることですので、どうかお気になさらないでくださいまし。」
本当に。
これは、私が好きでやってしまったことなのですから。
誰の為に沢山のチョコを作ったのか。勿論、私はグラウにアリアとの交換会も楽しみにしていましたし、その為のマカロンもしっかり作りましたわ。しかし、それ以上に多く作ってしまったのは…そう、元々ドクターに渡そうと思っていた物なのですわ。
(これはあくまで義理チョコです。私とドクターの関係に不相応の物をつくってはなりませんわ。決して、度を超えてはなりません。)
そう自分を戒めていたのは、チョコづくりを始めるに当たってのこと。そう何度も自分に言い聞かせていたのに。
私はいくつもレシピを考えていて、今作った物よりこちらの方が良いのではないでしょうか、でもやっぱりこちらも捨て難いですわ。私のドクターへの思いの丈に相応しい物をお贈りしたいですもの、こちらの方が良いのではないでしょうか…と夢中になって作り続けるうちに、気づけば一人に渡すのに相応しくない量のスイーツ群が出来上がっていたのですわ。
(これは、全てをドクターに渡すわけにはいきませんわね…)
調理台の上に所狭しと並べられたスイーツ群を前にして、私は半ば呆然としました。
それに、自分の思いの丈に相応しい物を作ろうとして装飾などを凝り過ぎてしまった(しかもハート型の)レッドベルベットケーキなどは本命と捉えられかねません。出来栄えも良く、とても気に入っていたのですが、泣く泣く渡すのを断念しました。
(ドクターは、私だけのチョコを受け取るのではありませんわ。ロドスのあらゆる方から慕われている方ですもの。〝毒物〟の私がでしゃばるような真似はしてはなりませんわ。)
それでも。こんな毒物の私でも、傍に居てくださるドクターへの気持ちを伝えたくて。どうにか義理の範囲に収まりそうなチョコレートケーキのオペラを熟考の末選び出し、それ以外のチョコを交換会に持っていくことにしたのですわ。お陰で私のチョコが場の大半を占めるという申し訳ないことになりましたが、お二人とも喜んでくださったので私はほっとしたのでした。
* * *
終業後、私はドクターの私室前に立っておりました。私の手中には丁寧にラッピングしたオペラがあります。心臓が早鐘のように音を立てていて、私はゆっくりと息を整えます。
(私のチョコをドクターが喜んでくださるか。とても不安でしたけれど…)
作ったチョコを美味しそうに食べるグラウとアリアを見て、そんなお二人から私は勇気を貰ったのでした。少なくとも。作ったチョコの味には私、自信がありますのよ。
たとえ義理であっても。ドクターをお慕いしている私の気持ちが、少しでも伝わることを願って。
今から私は、部屋の扉をノックして。ドクターの呼び声が聞こえたら入室して。
きっと笑顔で、こう言うのですわ。
「ごきげんようドクター。ハッピーバレンタインですわ。
ドクターの為にチョコをご用意しました。気に入って頂けるかしら。」