死と神と番外の旅   作:眠りこけ布団

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明けましておめでとうございます!新年もよろしくお願いします!
皆様に良いお年が訪れますように。
初投稿ですので、優しい目で見ていただけるとありがたいです!


それでは本編です。

*修正しました。3/12


プロローグ 終わりゆく世界で

 

≪≪

そこは暗い部屋。机と椅子、窓と本棚。そして見慣れない機械が置いてある寂しい部屋だった。しかしそこに置いてある物はどれもが高貴な色を覗かせている。扉が開いた。そこにいたのは若い男だった。歳の頃は20歳後半だろうか。すらりと伸びた細い体に切長の目。

 

男にしては長く思える黒髪。遠目から見たら女に見えるかもしれないその男はこの時代には珍しい羊毛で作られた衣服を(まと)っていた。この時代では地球は汚染され自然は壊滅。そのため羊毛や綿などは非常に高価で、必然的に富裕層のみが使うことを許されている。

 

その事から、この男が毎日死んだように働き続けなければ生きてはいけない者ではない事がわかる。その男。橘涼介(たちばなりょうすけ)は大きなため息を吐き、そのまま部屋に入り無造作に椅子に腰掛けた。そのまま見慣れない機械を被り、首筋に付属端子を挿し(・・・・・・・・・・)、そのまま眠ったように動かなくなった。

 

≪≪

今日は僕にとってとある一大事だ。

DMMO-RPG(ユグドラシル)のサービス終了日だ。

ユグドラシルは2000を超える職業クラス、6000を超える魔法の数々、自身のアバターやアイテム、住居等の外装、内包データの設定が可能、プレイヤー(自分たち)を待ち構える9つある世界からなる広大なマップ、と言ったように従来のDMMO-RPG(戦いを主とするゲーム)とは一線を画し、数あるDMMO-RPGの金字塔と謳われたほどの名タイトルだ。

 

そういう僕も勿論このゲームにハマっていた。この広いワールドを仲間たちと探索するのはとても楽しかった。時間を忘れてのめり込む事も多々あり、そのせいで仕事に遅れて上司から大目玉をもらった事もあった。

そんなユグドラシル(楽しかった思い出)も時代の流れには抗えず、その12年の生涯(サービス)を終えようとしていた。

 

今の時刻は午後10時半。まだ間に合うはず。

知り合いから「せっかくなので最後にナザリックに集まりませんか」というメールが来ていた。それに行けるように予定を調整していたのに、まさか昇進のお祝いでお見合いパーティに参加させられるとは。

昇進のお祝いをすると言うのは分かるが、だからと言って本人の許可を取らずに見合いのセッティングなんて普通するか?

 

正直気は進まなかったが、自分の立場としては参加しない訳にもいかない。何より良かれと思ってセッティングしてくれた知り合いに申し訳ない。一応参加してできるだけ早く切り上げてきたがやはり当初の予定よりは遅くなってしまった。とにかく急げ!間に合えぇ!その思いで必死にコンソールを操作した。

 

≪≪

最後のギルメン(ヘロヘロ)が去って行った。彼の仕事のブラック振りは先ほどまで愚痴を聞いていたからよく分かる。だから「残りの1時間、良かったら最後まで居ませんか」この言葉が口に出ることはなかった。最後にこの円卓の間に残り、椅子に座っている人物の名はモモンガ。

 

ギルド【アインズ・ウール・ゴウン】のギルドマスターにして、ユグドラシルの非公式ラスボスと呼ばれている死の支配者(オーバーロード)だ。

 

巫山戯(ふざけ)るなよ、、ここはみんなで作り上げたナザリック地下大墳墓だろう!なぜみんなそれを簡単に捨てる事ができる!」

 

感情に任せて机に拳を叩きつけた。ピロン♪という音と共にダメージを表すエフェクトが出た。それを見て少し冷静になれた。

 

「いや、違うな。簡単じゃない。みんな現世(リアル)があるんだ。」

 

そう、いくら思い入れがあろうと、所詮ユグドラシルはゲームの中に過ぎない。みんなリアルでの生活がある。その為にギルドを抜けて行った。全員がナザリック地下大墳墓(ここ)を簡単に捨てた訳じゃない事ぐらい分かっている。それでも。

 

「『また、何処かでお会いしましょう。モモンガさん』って、、何処かでって、何時(いつ)!どこで出会うんだよ!こんな人工心肺がないと生きていけない世の中で!!」

 

それでも男にとって、モモンガにとって、鈴木悟にとって、ユグドラシルは人生の全てだった。

幼い頃、母は自分を小学校に通わせる為に文字通り命を削って(・・・・・)働いてくれた。その為子供は最低限の教育を受ける事ができ、社会の最底辺で過ごすことはなかった。

 

それでも生活は苦しく、毎日が辛いことの連続だった。趣味もなく友人も恋人もいない。そんな俺にとって初めて友達と呼べる存在ができたのは、ユグドラシルだった。

 

当時ユグドラシルでは異形種狩り(プレイヤー・キル)が流行っており、その行為によって異形種アバターの俺も被害に遭っていた。

ゲームの中でさえ困っていた俺を、『困っている人がいたら助けるのは、当たり前!』と助けてくれた銀色の鎧を着た聖騎士(たっち・みー)と、金緑色の鎧をきた熾天使(・・・)

 

その内の一人である(たっち・みー)によってクランに誘われ、そこで色んな人と出会った。それから俺はユグドラシルにのめり込んで行った。

初めての友と過ごす時間は輝かしいものだった。クランのメンバーと一緒に探索を、話を、時に喧嘩をするのは楽しかった。

 

クランのメンバーが増え、ギルドに移行する時にギルドマスターに推薦さ

れたのには緊張した。当時は何かと不安だったが、全員が満場一致で賛成してくれたのはなんとも嬉しかった。今となってはいい思い出だ。

 

無課金同盟と言って変態バードマン(ペロロンチーノ)山羊頭の悪魔(ウルベルト)と騒いだのも楽しかった。夏のボーナスを全ブッパして当てたアイテムを半魔巨人(やまいこ)が昼食一回分で当てた時など悔しくてベッドの上で転げ回った。

 

他のギルドにも友人ができた。探索に困っていた【アインズ・ウール・ゴウン】を誘って一緒に探索してくれたギルド【ワールド・サーチャーズ】。そのギルドで副ギルド長を務めてた、冒険好きの熾天使(セラフ)の友人。昔の恩人である彼にもメールを送ったが、返信は来なかった。

 

やはり彼もリアルがあるのだろう。しかも彼は巨大複合企業(メガコーポ)の若きエリートだ。彼と自分とでは境遇も身分も違う。現実(リアル)では彼に話しかける事すらもできないのだ。そう納得しようとした。でも、

 

『最後に会って、話をしたかったなぁ』

 

そんな思いは中々消えてはくれない。だめだな、ここに居てはそんな考えばかり浮かんでしまう。最後は悪の親玉(ラスボス)らしく、玉座の間で終わろう。

 

黄金の思い出(スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を少し迷った後、飾ってある壁から引き寄せた。最後だから、ギルメンたちも許してくれるだろうと考えた。そうして転移する直前に円卓の間の扉が勢いよく開いた。

 

「あっぶね〜!ギリギリセーフ!良かったモモンガさんまだ居た!」

 

開いたその扉の向こうにいたのは先ほどもう会えないと思っていたワールド・サーチャーズの副リーダー(かけがえのない友)の姿だった。腰まで届く流れるような黒髪と切れ長の金色の瞳に色白の肌。

 

引き締まった肉体、大きな白い翼、天使の輪を持つ天使。腰には緑色に煌めく刀が揺れていて、左手にも同じ色の盾を装備している。その首からはこれまた同じ色の勾玉が吊り下がっていて、彼の纏う金緑色(メタリックグリーン)の鎧とぶつかって高い音を奏でていた。

 

「ヤマトさん!」ヤマト。それが彼の名前だ。

 

( ´Д`)「すみませんモモンガさん。少し予定があって遅れました。」

 

「いえいえ大丈夫です!わざわざ来てくれたんですね!」

 

٩( 'ω' )و「当たり前じゃないですか!お世話になった人に何も言わずに終わるなんて後悔で死んじゃいますよ!」

 

そう言いながら頭上に表情のアイコンを出すヤマト。まさか最後に来てくれるなんて。先ほどまでひとりで最後を迎えると思っていたから、喜びもひとしおだ。話も弾んでしまう。

 

「モモンガさん1人ですか?」

ヤマトは周りをキョロキョロ見ながらそんな事を言う。

 

「さっきヘロヘロさんが帰ってしまわれたので私1人ですね。」

 

「そうですか。くそぅ。こんな事ならもっと早く来れば良かった。」

そう悔しそうに言うヤマト。

 

「何かあったんですか?」

 

「いや〜それが最近昇進したんですけどその昇進のお祝いでお見合いパーティに参加させられてたんですよ。僕は女性苦手だからそういうのは好きじゃないんですけどね」

 

「お見合いですか、やっぱり巨大複合企業(メガコーポ)の社員さんともなるとそう言うパーティもするんですね。合コンっていうんですか?そういうの。」

 

「よくそんな言葉知ってますねモモンガさん。確かに合コンとやってる事は変わりませんね笑」そう言って気恥ずかしそうに笑うヤマト。

 

「でもヤマトさんが女性が苦手なのは意外ですね。茶釜さんとかやまいこさんとは普通に会話できてましたよね?」

 

そう、彼はアインズ・ウール・ゴウンの女性プレイヤーと良く会話をしていたはずだ。当時はそれを見て『リア充羨ましい』なんて二式さんが言っていたのが懐かしい。

 

「アバター上なら大丈夫なんですけど、直接対面したら女性って何か怖いんですよね。話しかけてもどこか硬いし。僕って嫌われてるんですかね?」そんな事を言って落ち込むヤマト。

 

「いやいやそんな事ないですよ!ヤマトさんイケメンだし仕事だって出来るし誰に対しても優しいしギャンブルもしないしお酒だって全然飲まないし、私なんかよりも全然女性に人気あると思いますよ!」

 

「そうですか?」

 

「そうですよ!しっかり自信持ってください!」

 

途中で言ってて悲しくなったが、ヤマトは女性から見てかなりの良物件のはずだ。昔にアインズ・ウール・ゴウンとワールド・サーチャーズの共同オフ会で会った時に会話したが、少なくとも女性達から嫌われる要素は皆無だと思うんだが。

 

「そうですか。ありがとうございます。気が楽になりました。」

 

( ^∀^)「いえいえ、力になれたのなら何よりです。」

 

そう言ってたわいも無い会話を暫く続けた。話は自然と昔へ移って行く。モモンガは彼との出会いやギルメンとの思い出を話し、ヤマトは冒険譚やリアルでも知り合いだと言うたっち・みーとの話や彼とのPvPの戦績。

※ヤマトは天使としては珍しい戦士職構成の魔法戦士プレイヤーで、なんとたっち・みーと同じワールドチャンピオンなのだ!

 

『結局56戦24勝26敗6分で終わっちゃいましたけどね』そう悔しそうに話してくれた。『でも魔法なら負けませんよ!』とも意気込んでいた。今はワールド・サーチャーズ(自分たちのギルド)の冒険の話を語っている。

 

「それで最後に氷の魔竜の棲家を探索して僕たち【ワールド・サーチャーズ】はワールド完全制覇を成し遂げたんです!」

 

そう言う彼の声は誇らしげで、この話が彼にとって大切な物だと言うのが伝わってくる。

 

「凄い!ワールド完全制覇って凄過ぎますよ!さすが世界の探索を目的とするギルド【ワールド・サーチャーズ】です!」

 

٩( 'ω' )و「いや〜そう言われると嬉しいけど照れますね。ハハハ」

 

本人はさも簡単な事のように笑っているが、ユグドラシルの全ワールド完全制覇はとんでもない事だ。そもそもユグドラシルは圧倒的なスケールと無限の自由を遊び尽くせると謳われるほどの自由さで[DMMO-RPGといえば〔ユグドラシル〕]、とまで言われるようになったゲームなのだ。

 

それに比例してワールドの広さは尋常ではなく、またそこに存在するモンスターやダンジョンの種類も様々なのだ。その余りにも膨大なスケールでプレイしなければならず、しかもゲーム開始時に最低限の説明しかされないためユグドラシル運営はプレイヤーから『糞運営』『思いやりの心をどこかに置いてきてしまった』『鬼、悪魔』、など散々な言われようをしていた。

 

(そんなワールドを完全制覇するなんて、、)

 

モモンガも趣味と言えるものはユグドラシルしかなかった為、かなりの期間やりこんではいた。所謂(いわゆる)廃人と言われるほどには。しかしそんな廃人(モモンガ)だからこそ、彼らのやり込みは途轍(とてつ)もないものだとわかっていた。そのまま話は続いていき、、

 

 

≪≪

「そういえば、モモンガさんのそのお腹の玉って世界級(ワールド)アイテムですよね」

 

話の途中に、ふと気になって尋ねた。ワールドアイテム。それは数多のアイテムが存在するユグドラシルに置いても別格のアイテム。その総数は約200個ほどと言われており、それぞれが正に世界そのものと言われるほどのバランスブレイカーな性能をしている。

 

そのため上位ギルドですら一つも持っていないというのはザラにあり、ワールドアイテムを所持しているプレイヤーは勿論のこと、ギルドであっても極小数なのである。所有数第一位であるモモンガさん達のギルド【アインズ・ウール・ゴウン】でさえ11個であると言えばその貴重さが分かるだろうか。因みに第二位は僕たち【ワールド・サーチャーズ】の3個である。

 

「そうですね。これはギルドのみんなで手に入れて、自分が許可を貰って自分専用にした物ですね。」

 

「なるほど。それにしても凄いですね。自分専用のワールドアイテムって。中々居ないんじゃ無いですかそんなプレイヤー」

 

僕もワールドアイテムは持っているが、自分専用の効果を持つワールドアイテムを持つプレイヤーなんて中々居ないと思う。

 

「ワールドアイテムで戦うヤマトさんに言われたら少し可笑しく感じますね笑」

 

痛い所をつかれた。

 

「確かにそうですね。でも僕のは専用にカスタマイズされたモモンガさんのとは違うと思いますよ。」

それは本心だ。自分のみが真の力を使えるなんてかっこいいじゃないか。

 

「それもそうですね。ヤマトさんのワールドアイテム。良かったら見せて貰っても良いですか?」

 

「全然良いですよ!どうぞ!」

 

そう言って僕はアイテムボックスから二つのアイテムを取り出した。

それらは一見普通の剣と盾でしかない。しかしその平凡な見た目に秘められた力は正に世界そのもの。

 

剣の名前は世界意思(ワールドセイヴァー)。ユグドラシルに200しかないワールドアイテムの中でも更に壊れた性能を有すると言われる二十と呼称されるアイテムだ。

 

「やっぱりこう見ると圧巻ですね。あれ?その盾ってなんですか?前会った時は無かったですよね?」

 

「フッフッフ!よくぞ聞いてくれましたモモンガさん!」

 

そう!今回ここに来たのはモモンガさんに誘われたからが9割だが、残りの1割はこれを自慢しに来たのだ!

 

「これはワールドセイヴァーと同じ二十の一つエイジスの盾(シールド・オブ・エイジス)です!ちょっと前にお互いのワールドアイテムを賭けた真剣勝負のPvPで手に入れたんですよ!」

 

「!!!!凄い!二十が二つもある!」

 

驚いてる驚いてる。そりゃそうだ。僕だってこれを手に入れた時は嬉しくて飛び上がったんだ。少し相手が可哀想ではあったが向こうから持ちかけてきたんだし、世界意思(ワールドセイヴァー)までかかっていたんだからしょうがない。

 

これで驚いてくれなかったらショックで暫く会話できなくなる所だった。それにモモンガさんは大のアイテムコレクターだ。やはり思う所があるのだろう。

 

「どんな効果なんです?!」

 

興奮しながら聞いてくるモモンガさん。

やはり気になるみたいだ。ワクワクしてきた。聞いて驚け!

 

「このアイテムの効果は防御特化で【自分に対してのあらゆるダメージの無効化】っていう効果なんですよ」

 

「とんでもない能力じゃないですか!よく勝てましたね!?」

 

そう。このアイテムはあらゆるダメージの無効化。つまりこちらの攻撃は全て無意味になる。しかも特化型のアイテムでもあるからワールドチャンピオンの能力や他のワールドアイテムもほぼ通じないのがつらかった。

こんな性能だから相手もPvPを挑んできたんだろう。

 

「あの戦いは本当に大変でしたよ。でも相手が油断してくれたのが幸いでした。ま、あの性能じゃ仕方ないのかもしれないですけど」

 

「随分簡単そうに言いましたけど、具体的にはどうやったんですか?」

 

エイジスの盾(シールド・オブ・エイジス)はダメージの無効化中はあらゆる行動ができなくるので、その間は攻撃されないんですよ。つまり、相手が攻撃する間はこちらも攻撃すればダメージは通るんです。そのタイミングで次元断切(ワールドブレイク)で攻撃。後はその繰り返しです。相手は一応復活魔法とかアイテムを沢山持ってたので、かなり時間はかかりましたけどね。、、どうしたんですかモモンガさん?」

 

話の途中、なにかモモンガさんが引き攣ったような声で

 

「いや、、戦士職の、しかも防御特化の相手の攻撃のタイミングに攻撃を合わせるとか、さすがたっちさんの好敵手(ライバル)でワールドチャンピオンの1人です。普通そんなの出来ませんよ」

 

とか言ってくる。少し引いているようにも感じる。

いやいや、同じワールドチャンピオンでも僕よりたっち(アイツ)の方がバケモノだよ。だってアイツ僕とのPvPで、天使を召喚して目眩しをした上で死角から急襲したのにいきなり振り向きざまに次元断切(ワールドブレイク)一閃してくるようなやつだよ?

あれは流石に避けられずに負けたっけなぁ。本人曰く

 

『ヤマトはここぞという時いつも死角から攻撃してくるからね。後はタイミングの問題だよ』

 

らしいが。死角からの攻撃なら僕も対処はできるけど、あんなドンピシャなタイミングで、しかも直前までこっちを見ずにやるのは無理だ。見てた二式さんと建御雷さんも

 

『やっぱアイツバケモンだわ。なんであれを当てれるんだよ』

 

とか

 

『それにアイツと互角に()り合えるあのヒトも大概だな』

 

とかドン引きだったし。あれ、僕まで引かれてない?まぁそんな事はさておき、

 

「PvPはたっちに勝つために滅茶苦茶練習しましたからね。あのくらいなら朝飯前です!それに言わせて貰いますけどモモンガさんだって大概じゃないですか!普通の魔法職のプレイヤーが覚える魔法は300個前後なのに、モモンガさんは倍の700個以上の魔法を覚えてて,しかも全部暗記してるんでしょう?僕からしたらそっちの方が凄いですよ」

 

これも本心だ。モモンガさんは自分を中の上くらいだと過小評価している節がある。が,僕からしてみれば戦場にいたら最も警戒するべきなのはモモンガさんだ。この人は状況に対応する能力が非常に高い。だから味方に発動する魔法も的確だし、隙を見て発動してくる魔法の対処はとても気を使わせられる。

 

こういう人がいるパーティは群としての強さの桁が違う。

この人を見ていると『パーティ戦ではまず魔法職を潰せ』という定石(セオリー)が正しいとよく分かる。

 

「お世辞でもヤマトさんに褒めらるのは嬉しいですね」

 

だからお世辞じゃないのに、この人は、、。

 

「そういえば今何時でしたっけ」

 

「ヤバ!いま11時50分ですよ!」

 

つい話し込んで時間を見ていなかった!いつの間にかユグドラシル終了の10分前になっていた。

 

「そうだヤマトさん。ナザリックの地上に来てもらえますか?」

突然モモンガさんがそんな事を言い出した。

 

「はい。大丈夫ですけど、何かあるんですかモモンガさん?」

気になって聞いたが、

 

「それは見てからのお楽しみですよ」

 

と,教えてもらえなかった。なんだろう。モモンガさんだから変な事ではないと思うけど。

そう思いながら2人でナザリックの地上部分に転移した。

 

≪≪

モモンガさんに連れられてナザリック地下大墳墓の地上に転移した。

この沼地に一体全体何があるんだろう?

 

「さ〜て。ユグドラシルの最後を祝って盛大にやりましょう」

 

そう言うやいなやモモンガさんがコンソールを操作した。

すると甲高い音と共に何かが打ち上がり、爆発した。

銀色の鎧を着た聖騎士が空に浮かんだ。そうか!花火か!

 

「たっちだ!それにあれはペロロンチーノさん!ウルベルトさんに二式さん!ぶくぶく茶釜さんにやまいこさん!他にも皆んな!」

 

凄い、確かにユグドラシルの最後に相応しい演出だ!

そうして最後にギルドマスター(モモンガ)が空に浮かんで消えた。

 

「凄かったですねモモンガさん!」

 

「ありがとうございます。…これで、最後です。ヤマトさん。最後に一緒にいてくれてありがとうございます。正直今日は1人で最後を迎えるのかと思ってたんです。今まで本当にありがとうございました。」

そう言う彼の声は少し寂しそうだった。

 

「モモンガさん、、」

そうか、モモンガさんは今までずっと1人でこのナザリック地下大墳墓を維持し続けてきたのか。それは多分とても辛いものだ。1人でかつての仲間たちとの思い出を形として残し続ける。文字通り最後まで(ユグドラシルの終わりまで)。そんな彼に何かをしてあげたい。

 

「いや、まだですよ!」

 

その思いのまま僕は超位魔法【失墜する天空(フォールンダウン)】を発動させた。巨大な半透明のドームが自分を包むように展開された。

 

「ヤマトさん?!」

 

モモンガさんが驚いている。そりゃそうだ。いきなり叫んだと思ったら超位魔法を発動するなんて。側から見たら可笑しいことこの上ない。

 

「モモンガさん。僕の花火がないじゃないてすか。だから僕自分で失墜する天空(はなび)を上げようと思って。最後なんだし。」

 

そう、最後なんだ。なら思い出として、モモンガさんへの贈り物(プレゼント)として、この超位魔法を残そうと思った。でも間に合うかはわからない。もう残りは1分を切っている。

 

「確かに準備してませんでした。すみません。また何処かで会ったら、この時の事をお詫びしますね。」

 

モモンガさんは笑いながらそんな事を言う。少しは気も晴れたみたいだ。声も先程より明るい。

 

「良いですね。それなら僕の行きつけの店があるんですよ。」

 

「ヤマトさんの行きつけとか、、俺払えませんよ笑。」

 

そんな会話をしながら、残酷に時間は過ぎていく。10…9…8

 

「楽しかったなぁ、、」

 

そう言うモモンガさん。確かに本当に楽しかった。正直リーダーに振り回されたり、ギルメンに実験といって殺されかけたり散々な目にも遭ってきたけど、全てが素晴らしい思い出だった。

6…5… たっち。また出会ったら、ユグドラシルの話をしような。 4…そういえば茶釜さんとウチの会社がまた今度広告でコラボするんだった。もしかしたら久しぶりに会えるかも。

3…2…そして最後に、ありがとうユグドラシル。ありがとうワールド・サーチャーズ。そして、ありがとうアインズ・ウール・ゴウン。

1…0…。

 

終わった。ユグドラシルが終わった。なんだろう、分かっていたのにやはり悲しいな。結局【失墜する天空(フォールンダウン)】の発動は間に合わなかったな。くそ、もっと早く発動しておけば良かった。今更後悔しても遅いんだが。確か明日の出勤は10時だったな。あと少しこの余韻に浸ってから寝るとしよう。……

 

………「ん?」

あれ、ユグドラシルから排出されない。何でだ?ロードが遅れているのか。記念すべき最後だってのに運営は何してるんだ?

しかし、そんな考えは、目の前に現れた小規模な太陽(・・・・・・)によって消えた。凄まじい轟音と目も眩むほどの光の奔流によって視界が真っ白になった。

 

「熱っつ!何だこれ!サービス終了の時間が変わったのか?いやでもこの光は何だ?」

 

ん?熱い(・・)? ユグドラシルは電脳法によって味覚や嗅覚は禁止されていて、触覚にも制限が入っている。以前は温度を感じる事なんてなかったはずだ。でも現にいま僕は熱を感じている。

 

「なんだ?サプライズでユグドラシル2でも始まったのか?」

 

あの運営のことだ。ありえないことでは無い。でもプレイヤーに何の通達もなしにこんな事をするのか?そんな疑問の中、ようやく光が収まった。そのまま周りを見渡す。すると、周りの景色が変わっていた。おかしい。自分がいたのはナザリックの沼地だったはず。こんな木が茂った森の中じゃない。

 

「それにこの目の前のクレーター(・・・・・)はなんだ?」

 

森の中にいきなり木がないところがある。スプーンでくり抜かれたように綺麗な円形で木が無くなっている。

先ほどの光のせいか?なにやら焦げ臭い匂いもするし。

 

「焦げ臭い匂い(・・)? …!」

 

嗅覚があるだと?!これは明らかにおかしい。仮にユグドラシル2が始まったとしても嗅覚の再現は許される筈がない。

 

「とりあえず公式から何かメッセージが来てないか確認しないと。」

急いでコンソールを操作して

 

「コンソールが出ない?!」

 

まずい。本格的に問題だ。GMコールも使えないし強制シャットダウンなどのコンソールを使わない機能も全て試したが使えなかった。

システム強制終了入力も反応は無かった。

これだけ試しても無理なら、もう後はナノマシンの不足でユグドラシルから強制排除されるのを待つしかない。

 

「それにしても一体これは何なんだ」

 

そう思い手を口元に持って行った。何の考えも無い、癖のようなもの。

それはユグドラシルであれば(・・・・・・・・・・)何のこともないただの仕草だった。しかし

 

「ん?」

 

手に伝わる感触がやけに生々しい。

それに、

 

「いま、口が、動かなかったか?」

 

そう。さっき声を出した時、微かに口が動いた気がした。もう一度口に触れて声を出す。

 

「あー、、、口が動いてる!?」

 

口が動く。何を当たり前の事をと思うかもしれないが、これはゲームだ。ゲームで声を出す事はできるが、音声に合わせて口を動かすなんて出来るわけがない。そんなプログラムは組めるはずが無いしもし仮にそんなプログラムを作ることができたのなら、こんな斜陽のゲームには使わずにもっと別の目的に使用するはずだ。

 

「一体全体、どうしたっていうんだよ…。、」

 

そう声に出しても、現状は何も変わらなかった。

あるのは唯、月の柔らかな光とぽっかりと口を開けた静かな森だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

読むのは簡単でも、書くのはとても大変ですね。
小説を書かれている先人の方々を改めて尊敬します。

誤字報告や感想などお待ちしております!
それではまた次の話でお会いしましょう!

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