死と神と番外の旅   作:眠りこけ布団

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それでは本編です!


第六話 寂しい死と賑やかな賢王

 

≪≪

ヤマトがこの世界に定着しつつある中。数多ある内の一つの大きな炎が、この世界に燃え移った。それがこの世界にとって恵みを与えるモノ(プロメテウス)なのか滅びを与えるモノ(ヨハネのラッパ)なのかは誰にも分からない。

 

しかし、どちらだろうと、その炎は世界に大きな影響を与える。

それがその炎自らの意思、もしくは意図せぬ事であってもそれは変わらない。

唯、それが良い事である事を祈るばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

≪≪

 

「あぁ、楽しかったな」

 

そう呟くのは、ユグドラシルでも随一の問題児(DQN)ギルド【アインズ・ウール・ゴウン】。そのギルド(マスター)であり、ユグドラシルの非公式ラスボスと呼ばれるプレイヤー、モモンガその人である。

 

(この12年間、酷い目にも辛い目にも沢山逢ってきたけど、俺にとってユグドラシル(仲間との思い出)は生きる全てだった)

 

初めて友達ができたのも、様々な話で盛り上がれる親友になったのも、現世(リアル)で笑い合えたのも、ユグドラシルがあったからだ。

 

それが、終わる。自分達が築き上げてきた輝かしい黄金が、過去に消えていく。それは勿論悲しいし寂しい事だ。仲間達は次々と去っていき、最後に過去に残り続けたのは俺一人だった。

 

この世界でも、俺は一人で過ごすのかとも思っていた。何人かはこの場所を訪れてくれたが、最後まで居てくれた人は居なかった。

皆んなにも現世(リアル)がある事は分かっていた。それでも、この世界の最後を一人で過ごすのは辛かった。

でも、

 

("彼"はきてくれた)

 

横を見ると、巨大な半透明のドーム状の魔法陣に彩られた"彼"が見える。

その純白の翼をはためかせ、俺達を祝う為の特大の花火(フォールンダウン)を打ち上げようとしている。

彼、"ヤマト"は最後にこのナザリックに来てくれた。

 

その事がとても嬉しい。彼は忙しい中、俺に会いに来てくれた。

それが、どれほど嬉しかったか。

 

(悪く無い最後だった)

 

勿論辛いし、寂しさも感じる。

これが終わったらいつも通りの早朝出勤だ。いつも以上にやる気も出ないだろう。

でも、最後を二人で迎えられる事が凄く嬉しい。

今までの全てが、一人でこの大墳墓の墓守をしてきた事が、報われたような気がして。

 

ヤマトとは、恐らくもう会う事はない。

彼とは住む世界が違う。本来交わる事すらなかったかもしれない関係だ。

たが、彼は間違いなく俺と、俺達の仲間だった。

その事は、ユグドラシル(この世界)が終わっても、残り続ける。

彼とは仲間で有り、友であり、そして親友だった。

 

その親友と最後を迎える事こそ、最後に相応しいと思えた。

ユグドラシルの最後は刻一刻と刻まれていく。

60…59…58…

 

(あと1分でこのゲームも終わりか。随分とお世話になったな)

 

45…44…43…

 

(そういえば、ヤマトさんにアイテムを返してない)

 

さっき見せてもらった時から持ったままだ。

 

(まぁ、良いか、最後だし。ヤマトさんの邪魔をしたく無いし)

 

どうせあと少しで最後なんだ。それにヤマトさんは今手が離せない。

なら、最後くらいこのままでも良いだろう。

また、この事で話し合えたら良いな、そうも考えてた。

 

19…18…17…

 

(ヤマトさん間に合うかな)

 

今のままだとかなり危ないペースだ。このままだと発動しないまま終わるかもしれない。でも、例えそうなったとしても、彼が俺の為にしてくれた気持ちは忘れない。

 

9…8…7…6…

 

(、、、もう、終わるな)

 

目を閉じる。現実で閉じているだけなので、ゲーム内から見てみれば目を開けたままに見えるはずだ。

 

(元々死の支配者(オーバーロード)に目はないからどちらにしろ目を閉じれないけどね)

 

そんな関係のない事を考えながら、その時を待つ。

カウントダウンの音声は、残り少ない時間を伝える。

 

4…3…

 

(、、、また、会えたら良いな)

 

またいつか会えたら、ヤマトさんと食事に行こうという話をした。

その時があったなら、カード一杯にお金を持って行こう。払い切れるかは分からないけど、そのぐらいなら安いモノだ。

 

2…1…

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

そう叫んだ。本当は玉座の間で言いたかったが、これはこれで良かった。この場所こそが、終わりの場所だ。親友と迎えられる、最後だ。

 

………0……

 

それと同時に、瞼越しに感じた光が消えた。ユグドラシルが…終わったのだ。

 

(、、、終わった、か)

 

なんとも言えない郷愁と虚しさが胸に広がる。

 

(、、さて、もう寝ないとな)

 

それを誤魔化すようにすぐに寝ようとする。

今日も4時には起きないと始業に間に合わない。こんな時まで仕事を押し付けるブラック企業め。

 

そう思いながら退出のためにコンソールを操作しようとする。12年やったお陰で、目を閉じながらでも操作はお手のものだ。

 

(、、、、あれ)

 

寝不足のせいかコンソール操作が覚束(おぼつか)ない気がする。

いくらなんでも俺が操作を間違えるとは思えないんだが。

確認のため、目を開けた。

 

「、、、は?」

 

そこにあったのは、毒の沼地でも、サービス終了の画面でもなかった。

眼前に広がる、見渡す限りの木々。鬱蒼と自然が生い茂ったそこは、森だった。

 

「なんでだ?終わったんじゃないのか?運営がミスをしたのか?」

 

一気に疑問が噴き出てきた。運営が終了時刻を間違えたのか、それと同時にナザリックとは別の場所にワープさせられたのか。いろいろ考えたが、結局は分からない。

 

それと同時に怒りも感じた。折角綺麗に終わったと思った矢先のこの出来事だ。いつも糞運営だと思っていたが、最後までそれが健在だとは。

 

(こんな時まで、巫山戯んなよ!)

 

そう憤ったその時、突然頭の中を風が通り抜けたような気がした。

それと同時に、先程まで感じていた怒りが消えていくのを感じる。

 

「、、、何なんだ、一体、」

 

自分の身に何が起きているか分からないが、とにかく冷静になった。

 

「とりあえず、GMに連絡しよう」

 

その取り戻した冷静そのまま、次のことを考える。

GM(運営)に聞けば何かわかるかもしれない。そう思ってコンソールを操作しようとした、が。

 

「……コンソールが出ない?!」

 

コンソールのシステムが反応しない。いつもなら出てくるコンソールが出てこない。ならばと、そのまま、コンソールを使わない他の機能を使おうとする。強制アクセス、チャット機能、そして強制終了。

 

その全てが使用不可だった。

 

「一体、、どうなってるんだ」

 

これは明らか異常事態だ。ゲーム終了の時間を間違えるのはともかく、コンソールまで使用不可になるのはおかしい。

 

「それに、ここは何処なんだ、、、、」

 

それに周りの景色も変だ。周りを見渡す。ユグドラシルでは見た事のない景色だ。ユグドラシルのワールドは広大だったから見逃したかもしれないが、そうではない気がした。

 

その上、、見ている木々が、凄まじくリアルだった。俺は実際に木を見た事はない。ブループラネットさんから映像を見せて貰っただけだが、それだけでもそう思うぐらいで、とてもこれが空想(ゲーム)のものには見えなかった。

 

「とにかく、周りを調べよう」

 

周りの状況が分かっているのといないのでは対応がかなり変わる。

幸い近くにモンスターは居ないようだった。そう思って調べた。

 

 

そうして周りを探索していると、森の中で開けた場所に出た。

そこの周りは木が生えておらず、月がその隙間から柔らかく降り注いでいた。その場所の中心に水がこんこんと湧き出ている。

 

「なんだ、泉か?」

 

昔何かの映画で見た映像に似ていた。解像度は段違いだが。

ふと気になって泉に近づく。そうして泉を覗き込んだ。

泉の水は透き通っていて、今まで見た無機質な容器の中より何倍も綺麗に見えた。だが、今意識はその綺麗な水に向いてはいない。

 

その覗き込んだ水面に映るのは、ユグドラシルの死の支配者(アバター)の姿そのものだった。

 

肉や皮が一切ない完全な骸骨の姿。眼光は赤黒く灯った炎がゆらめいて光っている。黒を基調とした装備も健在だ。

ユグドラシルでずっと見てきた姿(アバター)だが、この場所にはとても似つかなかった。

 

「この姿は?一体なん、……-あ」

 

 語尾は言葉にならなかった。アバターのはずのこの姿。その口が、動いていた。

 

(ど、、どういう事だ?!アバターの口が動く機能なんてなかったはずだ!?)

 

今までプレイしてきたユグドラシルでは絶対にあり得ない状況。そのような状況故取り乱した。だが、またしても風が吹いた。

 

(……とにかく、状況を整理しよう)

 

今、ナザリックとは別の場所にワープ、転移した。

周りの景色に見覚えはなく、妙な現実感に満ちている。そして何より、この(アバター)が、口が、動いている。

 

(つまり、俺はナザリックとは別の場所に飛ばされた。まだここはユグドラシルか?いや、なら口が動くのはどういう事だ?)

 

結局は何も分からずじまいだ。

 

(まさか、いきなりユグドラシル2とでも言うべきゲームが始まったのか?)

 

普通ならプレイヤーにも告げずにこんな事はしない。

だが、あのユグドラシル(とんでもない事をしでかす)運営ならあり得ない事じゃない。それに、これほどのリアリティが有るゲームならその事に信憑性も増す。その移植の不具合でコンソールが使用できないと言うのもかなり無理があるが納得はできる。

 

そんな突拍子もない事をふと考えてしまうほど、この場所は不思議で満ちていた。

 

(そうだ、此処でも魔法やスキルが使えるか調べよう)

 

使える筈だが、何もかも分からない状況でいざ使えないなんて事にはなりたく無い。それにもし敵対的なプレイヤーが居たら、対処するのが遅れてしまう。それは許容できない。

そうして(モモンガ)は、魔法を試し始めた。

 

 

≪≪

 

(はぁ〜、ひとまず大丈夫そうだ)

 

安堵から息が漏れた。結果だが、魔法はそのまま使えた。変に変わってもいないし、使えないなんて事にはならなかった。

ただ、

 

(少し、細かいところが変わっている)

 

先程使用した火球(ファイヤーボール)だが、周りに生えていた木に当たるやいなやその木を燃やし尽くして周りに引火してしまった。慌ててすぐに消したが、危うく大惨事になるところだった。ユグドラシルではこんな事にはならなかった。

そして、ついでと思ってアイテムを調べたのだが、

 

(……しまったぁぁぁ!ヤマトさんのアイテムそのまま持ってきちゃったあぁぁ!)

 

そう、ヤマトのワールドアイテム世界意思(ワールドセイヴァー)世界守護の雲(シールド・オブ・エイジス)を返さずにそのまま持って来てしまった。

 

ヤマトは強いが、それでもワールドアイテムがあるのとないのとではかなり変わってしまう。それに何より親友の大事なアイテムをそのまま借りパクするなんて、自分の良心が許さない。

 

(、、ヤマトさんも、ここに来ているのか?)

 

そうだ。あの時、俺と一緒にいたから来ている可能性は高い。

 

(もしそうなら、伝言(メッセージ)が繋がるかも!)

 

本来は特殊な状況でしか使われないマイナーな魔法だが、この状況なら使えるかも知れない。そう思って伝言(メッセージ)を発動させた。

 

何かが、自分から伸びていくような感覚がした。その伸びている何かが探っているような感じがした。しかし、時間制限と共にその感覚も霧散した。

 

(、、、やっぱり、来ていないのか。いや、もう一度だ!)

 

距離が遠すぎただけかも知れない。その思いでもう一度伝言(メッセージ)を発動させた。

 

今度も何かを探るような感触が返ってくる。そうして、残り時間も少なくなった頃、【バチッ!】といった感触と共に魔法が解除された。

 

(何だ、今のは。何かに弾かれたような、)

 

その事に消沈したが、考え直す。先程と違い、少なくとも何か反応が返ってきた。これは、少し可能性が出てきた。

 

(もしヤマトさんがここに来ているのなら、早く会いたい)

 

1人でこんな場所にいるよりも、2人の方が何倍も良い。

それにまた会う約束をしたのだ。その約束を果たしたい。

 

(そしてアイテムを返して謝ろう)

 

本人は『いやいや全然大丈夫だよ!』なんて言うのが目に見えてるが、それは俺の矜持が許さないだろう。

 

そうと決まれば話は早い。

 

(まずはこの場所について調べる。そして来ているかも知れない仲間たちを探そう)

 

そうして周りを調べ始めた。

 

 

 

≪≪

「特に何も無いな」

 

あれから恐らく数日が経った。

少し調べてみたが、周りにプレイヤーやモンスターの姿形は見えなかった。レベル1にも満たなそうな小さな虫や動物をモンスターというなら話は別だが。

 

そうして調べていると。『ポツリ、ポツリ』

 

(ん?何だ、雨か)

 

雨が降ってきた。この世界(・・)は雨すらも再現されているのか。

 

(、、あまり当たりたくは無いな。近くに凌げる場所は無いのか?)

 

雨には良い思い出がない。現世(リアル)では雨は人に害を齎すものだ。いくら現実では無いとはいえ、打たれるのはあまり気持ちの良い物では無い。

そうして何か遮るものは無いかと周りを見ると、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。

 

(ひとまずはあそこに行こう。あの洞窟なら雨も凌げるだろう)

 

そうして洞窟に踏み入った。やはり雨は入ってこない。

 

(ふむ。結局コンソールの使用はできないか。それに現実でのナノマシンの不足による強制排出も行われていない)

 

そう今までのことを振り返る。このような一大事であるのに頭は冷静だ。

自分はこんなに冷静な性格だったかと不思議に思う。そんな事を考えていたその時、

 

『ビュンッ!』

 

何かが洞窟の奥から迫って来た。

 

「何ッ!」

 

咄嗟に持っていたギルド武器(スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)でそれを弾く。

固いもの同士がぶつかるような音を立てて、その何かは奥に引っ込んでいった。

 

「某の一撃を防ぐとは。中々やるでござるな。某の寝床に踏み入るだけはあるようでござる」

 

洞窟の奥から何かの声が聞こえた。深みのある静かな声だった。

 

(まさか先客がいるとは)

 

普通に考えればこのような洞窟に入ろうとはしない。だが、俺はこの付近に詳しくないからその事に気が付かなかった。

 

(だが、これはチャンスじゃないのか?)

 

初めて出会う、話ができそうな相手だ。

この世界に関する情報を得る機会になるかも知れない。

なら最初は平和的に行こう。邪魔になるならその時はその時だ。

そう考えていると、何かが洞窟の奥から姿を現した。

 

「拙者は森の賢王。そちらも名乗るでござるよ」

 

そう言って姿を現したのは、人語を喋る獣。

巨大で丸々とした体に尻尾、丸く大きな黒い瞳を持つその獣は、まさに。

 

「……ハムスター?」

 

大福みたいな体とつぶらな瞳。その巨体と尻尾を除けば唯の巨大ジャンガリアンハムスターだった。

 

(ファーストコンタクトがハムスターって、しかも語尾が{ごさる}って。何か気が抜けたな)

 

先程まで色々考えていた事が吹っ飛んだ。何がくるのか警戒していたらまさかのハムスター。

 

「あー、何だ?森の賢王だったか?お前の種族は、ジャンガリアンハムスターとか言う種族じゃ無いのか?」

 

ユグドラシルにはこんなモンスターは居なかった。ならこの世界独自のモンスターに違いない。そう思ってダメ元で問いかけた。

 

「さて、某は生まれてからずっと1人故。森の賢王。それ以外に名は持たぬでござるよ。それより、もしやそなた、某の種族を知っているのでござるか?」

 

どうやら自身のことはあまり知らないようだ。逆にそう問い返された。

 

(知っているか?って言われても。俺も飼ったことは無いからなハムスター)

 

今までの生活でペットを飼った事は無かった。

昔にギルメンの1人が、飼っていたハムスターが寿命で死んで1週間ログインしてこなかったから記憶に残っていただけだ。

 

「いや、俺の知っているのはお前ほど大きくは無いな」

 

記憶の中にあるハムスターは、どれも人に近い体長ではなかった。精々が10センチほどだ。一緒では無いだろう。

 

「そうでござるか、、、。もしや、幼子でござろうか?」

 

「違うな。成体でも俺の掌ぐらいだった」

 

「、そうでござるか。では某、はやはり1人なのでござるかなぁ」

 

少し落ち込んだのか、髭がだらんと垂れる。

 

「因みに、なぜ同族を探している?」

 

唯気になってそう聞くと、森の賢王は垂れた髭をピンッと立てて、少し怒りを含んだ声で答えた。

 

「それは無粋でござる!ずっと1人で生きて来たのでござるよ!仲間に会いたいのは当然でござろう!」

 

その見た目には似つかない迫力に少し驚いた。これがたっちさんの言っていた【優しい人が怒ると怖い】と言う奴なのか。それに、その言葉に自分を、そしてアインズ・ウール・ゴウンの仲間たちを思い出した。

 

「確かに、そうだ。俺が浅はかだった。許して欲しい」

 

そう謝罪の言葉を口にする。仲間に会いたい。それは俺も同じだ。

だからこそその謝罪もすぐに口をついて出た。

 

「まぁ、許すでござるよ。それに、生物として種族を維持するために子孫を成さねばならないでござる。子孫を作らねば生物として失格であるが故」

 

どうやら謝罪は受け取ってもらえたようだ。だが、その後の言葉。

その言葉は生涯にわたって相手のいないモモンガ(童貞)にはクリティカルヒットだった。その理論ならモモンガは生物失格だ。

 

(いや、俺にはユグドラシルがあったし。別に彼女なんて居なくても悔しくないし。何より俺を好きになる女性なんていなかったし〜、、)

 

そんな馬鹿な言い訳で自分を正当化する。あれ、何か涙が、、出ないな。

 

「それより、そろそろ無駄な話は終わりでござる。命の奪い合いをするでござる。、、、既に命を失っているのかも知れないでござるな。いや!関係ないでござる!某の領域に侵入せし者よ。某の糧になるでござる!」

 

そう言ってその体を膨らませ、威厳のある声でそう告げた。

 

 

(……どうもやる気が出ない。相手がモンスターみたいな奴ならまだしも、可愛いハムスターが相手なんて。本気になれない)

 

それにこのハムスター相手に全力を出して勝つとしよう。その時周りからはどう見える?愛玩動物(ペット)相手に本気になる大の大人。

あまりに情けない。

 

「では、行くでござる!」

 

そんな事を想像している間に準備が整ったようだ。

そうして洞窟の奥から一体の塊となった森の賢王は、その巨体を生かした体当たりを繰り出した。

 

(、、このままだと外に吹き飛ばされる)

 

それは嫌なモモンガは、真っ向から賢王を受け止めた。身体能力値を確かめるついでの行動でもあった。それは普通の人間なら確実に吹き飛ばす一撃。しかし、モモンガは骨だけの体でありながら、それを容易く受け止める。

 

「むぅ!なんと!」

 

驚いた声を上げながら、その鋭い爪を叩きつける森の賢王。しかしそれはモモンガの手に握られた新しい杖(・・・・)によって防がれた。

 

「、、そなた、いつその杖を取り出したでござる?」

 

森の賢王は、不思議そうにそう聞いた。確かに、側から見ればいきなり現れたように見えただろう。答えは簡単だ。自分のアイテムボックスの中にある杖とスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを入れ替えただけだ。

 

ギルド武器は、壊されるとそれはギルドの崩壊を意味する。

今ナザリックが何処にあるかは分からない。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使っても戻ることは出来なかった。それでも、かつての仲間たちとの結晶が壊れるなんて事はあってはならない。

 

「さぁな。さて、これ以上戦うなら、容赦はしないぞ?」

 

その言葉と共に、軽い威圧を込めて特殊技術(スキル)【絶望のオーラⅠ】を解放した。このスキルは相手を恐慌状態にする効果を持つ常時発動型特殊技術(パッシブスキル)の一つで、レベル差が近いと簡単に抵抗されてしまう。仮に効果が発動してもほぼいつもと変わらないため、自分と同レベル帯でのPvPではほぼ使えなかった。

 

あくまでも先ほどの意趣返しのつもりだったが、その効果は絶大だった。

自分を中心に寒気が噴き上がった。その冷気を浴びた瞬間、森の賢王が、全身の毛を逆立てて凄まじい勢いでひっくり返った。

 

「降伏でござる!某の負けにござるよ!」

 

そう柔らかげな銀色の体毛に包まれた腹部を無防備にさらしながら宣言した。

 

「えぇ〜」

 

これには少し拍子抜けだ。まさか絶望のオーラⅠでこうなるとは。

 

(まじか。これなら心臓掌握(グラスプ・ハート)を使わないで正解だったな)

 

このレベル相手に心臓掌握(グラスプ・ハート)はいささか過剰だ。

使っていたら絶対に死んでいただろう。数分前の俺、ナイス判断だ。

 

(さて、どうするかな)

 

プルプルと震えるハムスターを見ながらそう考える。これからの自分の運命に、静かに恐怖している。その事については別に何とも思わないが(・・・・・・・・・・)、先程の仲間たちを思い出させてくれたからこのハムスターは気に入っている。

 

(話を聞きたいから追い払うのは勿体無いし、ハムスターならペットとして飼うか)

 

「俺の名前はモモンガ。俺の言う事を聞くなら、殺しはしない」

 

出来るだけ優しそうに声を掛けた。

 

「あ、ありがとうでござるよ!命を助けてくれたこの恩、絶対の忠誠でお返しするでござる!某、森の賢王。この身を粉にして、モモンガ様のために働くでござる!」

 

そうして飛び起きると、忠誠を誓う森の賢王。

 

「良い心がけだ。期待しているぞ」

 

少し魔王ロールが混じったが、案外悪くなさそうだ。

 

「この身をモモンガ様に捧げるでござる!」

 

そう胸を張って宣言する森の賢王(ハムスター)

 

 

こうして、この世界で、初めて骸骨と愛玩動物(ハムスター)が出会った。この2人(1匹)は、これからも長い間共に過ごす事になる。

これは、その始まりの物語である。





独自設定
・モモンガ様。ユグドラシルではない事を何となく理解しながらも、それを認めきれていないアンバランスな状態。
・森の賢王。生まれてこの方、トブの大森林から出たことがないためアンデッドに対する恐怖を感じていない。


これからはモモンガ様を本格的に出そうかと思っています。
唯、僕の気分によって変わりますので、もしかしたら三話連続でモモンガ様。なんて事もあるかも知れません。

これからも是非楽しんで読んで下さい!

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