3月の誕生日石はアクアマリン。災厄を払う効果もあると信じられており、航海の安全を祈って、船の乗り組み員達が身に着けることもあるそうです。
カウボーイハットを被った美少女が、大口を開けてハンバーガーに食らいつく。パンに挟まれたハンバーグ、トマト、レタス、ソースが彼女の口の中に呑み込まれていく。
週末の夕方。夕陽の差し込むハンバーガーショップは食事を楽しむ人々で賑わっていた。彼女の向かいに座った自分は、スカジの大きな一口を見届けた後、もぐもぐと自分の分を食べ始める。
「あなたって、いつもこんな物を食べてるの?」
彼女が自分に話しかけてくる。
「いつもではない。だが、たまにはこういうのも良い」
「そう」
「味はどうだ?」
彼女は咀嚼したものをごくんと飲み込む。
「……悪くないわ」
そう言った後、再び標的に狙いを定めてガブリついた。
「そうか。気に入ってくれたのなら良かった」
「そうは言ってないでしょ……」
恥ずかしがっているのだろうか。目を伏せ、食べかけのハンバーガーに表情を隠すかのようにハンバーガーを持ち上げる。
「それにしても。あなたって人は本当に頑固ね」
ハンバーガーに再び口をつけながら彼女は言う。
「何度も言うけど、こうして一緒にいるだけであなたを不幸に巻き込むかもしれないのよ。早く私から離れた方が、あなたの身の為だわ」
「今日の護衛の任を出したのは自分だ。スカジは任務を果たしてくれたに過ぎない」
スカジが溜息をつく。
「本当に怖いもの知らずね……。それに、護衛の任だというのに。どうして私は、あなたとショッピングモールを回ることになったのかしら」
「それが今日のスカジの任務だからだ。スカジが気にすることは何も無い。
今日は買い物に付き合ってくれてありがとう。今回の報酬は現物支給だ」
そう言って、丁寧にラッピングされた小箱をスカジの前に出す。
スカジが目を細める。
「なぜあなたが、あのアクセサリーショップに入ったのか。疑問だったのよ。
それに、どのアクセサリーが良いかなんて私に聞いて来るのも……」
そう言いながら彼女はハンバーガーを置いて小箱を空ける。中にはイヤリングが入っていた。アクアマリン、穏やかな海の色のイヤリング。
「早速だが、身につけてみてくれないか」
唐突な自分の願いに少し困ったような目をした後、スカジはいそいそとイヤリングをつけ始める。
「ああ、似合ってる」
イヤリングをつけた彼女を見て率直な感想を伝えた。
「……」
スカジはどう反応していいのか分からないのか。視線を落としたまま頬を染めている。
「スカジも、もっと女性らしい装いを楽しんでもいいと思う。まあ、仕事漬けの自分に言われても説得力は無いかもしれないが」
「……私は」
スカジが重い口を開く。
「警戒しなければならない。今直ぐにでも波が迫って来て、私とあなたを呑み込むかもしれないのに。こんな……」
彼女は再び押し黙る。店内に差し込む斜陽が、カウボーイハットを被った彼女の表情に光と影をつくる。
店内は人々の団欒で満ちていて、差し込む日差しも暖かい。今日は良い日だ。
「ありがとう、ドクター……」
そう言ってスカジは小箱を胸に抱き締めた。自分はふぅと息を吐く。何にせよ、喜んでもらえたようで何よりだった。
つきあたっては、残っていたハンバーガーをのんびりと食べることにする。彼女の分のハンバーガーもまだ残っているし、今日という1日が終わるまで、まだ時間は残されているのだから。
彼女も暫く小箱を抱き締めた後、黙って残りのハンバーガーを口にし始めた。
「ねえ、ドクター」
店を出て、帰路を共に歩く中でスカジが尋ねて来た。
「今日の任務だけど……」
スカジが口ごもる。歯切れの悪い口ぶりは珍しい。
「今日の任務を出したあなたに。他意は無いの?」
「何だって?」
「なんでもないわ。気にしないで」
「冗談だ……本当は、スカジとデートしたかっただけだ。
ただ任務とでも言わないと、スカジは自分を遠ざけようとするからな」
少しだけ、一抹の寂しさがことばに乗ってしまう。
今回の護衛任務の目的は、ロドスで孤立しがちなスカジと戦術指揮官の自分が交流を持つことだった。それは、半分本当のことだ。もう半分は、自分の胸の内に答えがある。
「ねえ、ドクター」
徐にスカジが目を合わせてきて、こう言った。
「今晩、一杯やらない? ……私の部屋で」