博斯詰め合わせ   作:藍繕なつき

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2024年の正月話として書いたもの。

頂いたましゅまろ(https://x.com/AizenNatsuki28/status/1741033905497784742?s=20)に触発されて書きました。ましゅまろありがとうございました。


ダブルスカジさんに挟まれる日々(正月編)

「ドクター、あけましておめでとう」

 執務室への来客が収まり始めた頃。私服姿のスカジがふらっと現れた。

「スカジ、あけましておめでとう!」

 赤いシャチのぬいぐるみを抱えて歩いてくるスカジにニコニコと笑顔を向ける。

 スカジがいつも通りに歩いているこの執務室内も、つい先程まで新年の挨拶をしに来てくれた人達で溢れていた。そのお陰か室内にはまだ、正月特有の新鮮な空気が流れているような錯覚を覚える。

「応対に随分時間がかかったわね。待ちくたびれたわ」

 ため息をつきながらスカジはシャチのぬいぐるみをソファに置き、俺の席の隣に立つ。

「スカジも最初からこの部屋にいてくれて良かったのに」

「苦手よ、新年の挨拶なんて。それに……私が会いたいのは、ドクターだけだから」

 俺から顔を背けながら、随分と嬉しい事を言ってくれる。

「俺も会いたかったよ。スカジ」

 恋人のスカジとの距離は縮まりつつある。新年になって、好きな人の顔を早く見たいと思うのは当然の事だろう?

「……そう……」

 俺からそっぽを向いたままのスカジ。その頬が紅くなっているのが見てとれた。

「スカジはさ、着物を着たりしないの?」

 俺は尋ねる。つい先程まで、この執務室には着物姿のロドス職員もいた。極東における伝統的な衣装で、お祝い事などのめでたい行事があった際に着るものだそうだ。

 スカジも髪を纏めて、着物を着てくれたとしたらどうだろうか?似合う。いや絶対似合うって。

「面倒よ」

 スカジが眉を顰める。

「着付けも分からないし……でも。ドクターは私に着て欲しいの?」

「ああ、見てみたい」

「……分かったわ。考えてみる」

 困ったような顔をしながらも俺の我儘を聞いてくれるスカジ。

「ところで。正月だというのに。あなたはまだ仕事をしているの?」

 呆れたような顔をするスカジ。

「そうだね」

「ドクターはいつ、私とのんびりしてくれるの?」

「うーん、俺がのんびりするのは難しいかな……」

 スカジが身を乗り出して俺の目をじっと見つめる。なぜかむくれた顔をしている。

「な、何?」

「仕方ない。こうなったら、私がドクターの為に一肌脱ぐしかないわね」

 そう言ってスカジは徐に執務室の出口に向かって歩き始めた。

「あの、スカジさん?」

 俺の制止も聞かずに執務室を後にするスカジ。そして、ほんの5分もしないうちにスカジは帰ってきた。

「戻ったわ、ドクター」

 ……大きなコタツを軽々と抱えて。執務室のドアを押し通ってくる。

「ど、どこから持ってきたのそれ!?」

 スカジがよいしょと炬燵を室内の応接スペースに置き、手際よく応接テーブルを片付け始める。

「休憩室よ。今日は誰もいなかったわ。大丈夫、ちょっと借りただけよ」

「いやいやいや」

「コタツの準備は出来たわ。あ、カーペットも用意しなくてはいけないわね」

 そう言うや否やスカジは再び執務室を飛び出す。そして戻って来たスカジはカーペットのロールを抱えつつ、ビニール袋をもう片方の手に提げてやって来た。

「おまたせ」

「まさかスカジ。俺をコタツに引き摺り込んで、俺の手が仕事につかなくする作戦か?」

「正解よ、ドクター。このビニール袋の中身が何だか分かる?」

 カーペットをコタツの下に敷き終えたスカジがそう言ってビニール袋を見せてくる。

「私の部屋から持ち出して来た秘蔵のおやつと、ミカンよ」

 コタツにミカン!そしてスカジのとっておきのお菓子!

 これはまずい。俺には分かった。スカジは本気で俺を堕としに来ている。

「ま、待てスカジ。今俺がコタツの魔の手にかかってしまったら、この後の予定が……」

「問答無用よ」

 スカジが俺の両手を掴み、俺を自席から立たせてコタツに引き摺り込む。

「どう?ドクター」

「ぐ……」

 認めよう。俺はほとんど抵抗らしい抵抗もせずにコタツに引き摺り込まれた事を。半分望んでスカジのされるがままになっていたことを。

 俺の目の前に添い寝をするような姿勢で私服姿のスカジが横たわり、こちらに紅い瞳を向けている。コタツに潜り込んだ俺の下半身がコタツに温められていく。

「やばい。幸せが過ぎる」

「そう。良かった」

 スカジが表情を変えずに、だが俺の体を両腕で引き寄せて抱き締めてくる。

「あなた、いつも頑張り過ぎなのよ。いつ倒れないか心配になるじゃない。こう見えて、私だって心配しているのよ……」

 そう言ってぎゅっと両腕に力を入れてくる。密着度が高まり、スカジは俺の頭を撫でてくれる。

「だから。たまにはこうして、私のダラダラに付き合ってくれてもいいんじゃないかしら?」

「あ、ああ……」

 体が熱い。コタツに温められているからというだけでなく、密着したスカジのふかふかした体に包まれて、余計に熱を感じてしまう。

(ここが極楽か)

 現況を再度確認してみよう。執務室に急遽出現したコタツにスカジと抱き合いながら寝そべっている。一体何だここは。

(本当は、仕事を早く終えて、その後にスカジと出掛ける予定だったんだがな)

 俺は苦笑する。その為に年明けから仕事をしていたのだが、他ならぬスカジがこうしたいと言ってくれるのならそれで良いだろう。

(スカジとダラダラ過ごす寝正月か)

 業務に忙殺された日々を思えば、なんと贅沢な時間だろう。俺の目の前には書類の山も無く、仕事を迫ってくるコータスもいない。俺の体は抱きついたスカジとコタツに温められていて、室内には加湿器の駆動音とスカジの呼吸だけが聞こえる。抱き締めた柔らかなセーター越しにスカジの背中が上下しているのを感じる。

(最高かな?)

「ドクター。ミカンを食べさせてあげるわ」

 徐に身を起こしたスカジがコタツ上に置かれたミカンに手を伸ばし、その細くて綺麗な指で皮を剥き始める。

「いいのか?」

 スカジがここまでしてくれるなんて。至れり尽くせりじゃないか。

「ドクター」

 スカジが剥いたミカンを俺の口元に向けてくる。

「あーん」

 俺は口を開け、ミカンの甘酸っぱい果汁が俺の口内に広がるはずだった。そんな幸福な瞬間に待ったをかけるかのように、執務室のドアが突然開く。

 

「ドクター、年が明けたのね?明けましておめでとう」

 その声に俺とスカジが硬直する。なぜなら、その声の主もまた、スカジだったからだ。

 目を見開いたスカジと一緒に執務室の入り口に目を遣ると、入り口には濁心スカジが立っていた。紅い吟遊詩人のドレスを身に纏い、ニコニコとしめやかな笑顔をしている。当人に言わせると、「わたしは未来から来たスカジ」なんだとか。

「どうして、あなたがここにいるのよ?」

 スカジが警戒を見せる。

「石碑の力を借りて来たわ」

「そうじゃなくて!」

「ドクターに会いに来たのよ。この時代のドクターに会った方が、わたしの調子が良くなる事が分かったの。血族たちも、私がこの時代に来ることを了承してくれたわ」

 濁心スカジがコタツの方に歩み寄ってくる。

「近々、ロドスのオペレーター申請もさせてもらうつもりよ」

「何だって!?」

「何ですって!?」

 俺とスカジは驚愕する。そんな事がまかり通ってしまう事があるのか?未来のスカジが、ロドスのオペレーターになってしまうなんて事が有り得るのか?

 しかし……。もし万が一申請が通ってしまったら、濁心スカジはこちらの時代に居座るつもりなのだろうか。そうなると、常にスカジが二人この時代にいることになってしまうのだろうか。

「ドクター……」

 濁心スカジがゆらゆらとコタツへと向かってくる。

「わたしと一つになって……」

「ちょっと、ドクターは私のよ!」

そう言ってスカジが俺を力強く抱き締める。

「ぐぇっ」

 本気のスカジの膂力は半端では無い。危うく窒息しかける。

「ドクターは……もうっ、私と一つになったんだから!!あなたのつけ入る隙は無いわ!!」

「ちょっ、スカジ!?」

「えっ」

 

 スカジは目をきゅっと瞑って羞恥に耐えていて、耳が赤くなっている。

 呆然としていたように動きを止めていた濁心スカジが、口を開いた。

 

 

「じゃあ。わたしとも一つになりましょ。ドクター」

 

 

「どうしてそうなるのよ!!ドクターは私のものだって言ってるでしょ!?!?あなた馬鹿なの!?!?」

「でも、わたしは未来のスカジよ?あなたが一つになったのなら、わたしもドクターと一つになっていいはずだわ」

「どういう理屈よ……頭の中がゴチャゴチャしてきたわね。でも、ダメなものはダメよ!!!」

 

 そう言うスカジの制止を物ともせず、濁心スカジもコタツに脚を入れ、俺を背中から抱き締めてくる。

「ドクター……」

「うおっ」

「ちょっと!ダメだって言ってるのに!!」

 スカジが俺を渡すまいと正面から抱き締めてくる。俺は二人のスカジに挟まれた状態で、再びカーペットに押し倒される。

 

「ドクター。当然、私を選んでくれるわよね?」

 不安な目をして正面から俺に語り掛けてくる私服スカジ。

「わたしと一つになって、ドクター……」

 背中から抱き着いてくる濁心スカジ。

(ああ……もう、何が何だか)

 二人のスカジに挟まれて、俺の頭は既に思考停止していた。おそらく、このままダラけた正月を過ごす事になるのだろう。

 

 きっと、新たに来る一年も。こんな風に賑やかで騒がしい一年になるんだろうな。

 

 そんな予感を抱きながら、なぜか二人に増えてしまった愛する人に挟まれて、俺はコタツから出られなくなっていた。

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