愚王日誌~我は勇者を追放する~   作:I'mあいむ

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最近投稿してた他の作品が落ち着いたのでこっちを頑張ろうと思います。思いの外好評なのは有難い限りですね。


責務

 

「税はここ、足りないのはあれ、こいつは、これで良い。これは……話にならんな。クソ共め」

 

山積み、その表現が足下に及ばない程の書類の束が部屋に溢れ返っている。事務机だけでは飽きたらず部屋のそこかしこに積まれた書類は足場を狭め道を作っていた。

 

誰も助けの入らない書類仕事には辟易する。本来なら文官が処理するものまで俺に掛かってくるのだから、到底笑えない。

 

新たな法案として、着服する為だけのクソみたいな文字の羅列を送り付けてきた貴族共。当たり前だが送り返す。

丁寧な煽り文まで記載して『人間やめた方が良いんじゃないすかw?』『家畜の方がまだマシな知恵持ってますよ笑笑』『豚より豚箱が似合ってますねおたくら( ^ω^ )』というのを言外に伝えてやるのが俺の唯一の楽しみだ。

これやるとどいつもこいつも恩を仇で返しおってとか、貴様なんぞすぐに潰せるとか言ってくる。いや最初に俺に敵対したのはお前らだろうが。貴族さん顔真っ赤で草。

 

「ほう、存外職務を全う出来ているようじゃな」

 

!?

 

「っ!!…ほ、本日はわざわざご足労いただきありがとうございます。エルフ族の長様におかれましてはご機嫌いかがあらせられましょうか」

 

即座に椅子から降りて跪く。ここ三十年で叩き込まれた教育を言葉の節々に光らせる。それがこの状況において最ももとめられることだから。

 

「……貴様のような落ちこぼれが良くもまあのうのうと生きていられるものじゃ」

 

突如として俺の目の前に現れたのは、透き通るようなブロンドの髪をそよ風に靡かせる女性。深緑の瞳に荘厳な髪飾り、圧倒的なプロポーションはどんな服でも隠し切れない。

この人の名はナビス、ナビス・グリュン・ライネリア。エルフ族の族長である。

実際にはハイエルフであるし、世界樹やら何やらが関わる超重要人物だ。一国の王程度では敵う存在でもないし、そもそも俺はいつ首を落とされてもおかしくない。つまりこの状況は至極妥当なのだ。

 

「………」

 

「あの童が良くここまで成長したものよ。魔の才も武の才も無し。血だけを継いだのなら潔く人形でおれば良いものを…」

 

この方は才の無い人を嫌う。資格の無い者を嫌う。才のあるべき者こそ尊まれるべきだと思っているし、そもそもエルフ以外の種族も見下している。認めるのは実力や才能に溢れる者か、それともエルフか。この二択な人なのだ。俺が嫌われるのも仕方がない。

 

「……だんまりか、つまらんな。貴様は図体以外何も変わっておらぬ。……まあ良い」

 

まあ人間の王族なんてのは大体この方と子供の頃に会う。顔合わせって奴だ。大国ならば対等な関係を築ける所もあるが、うちは崩壊予定の弱小国家。抵抗など微塵も考えてはいけない。

 

それにしても今回は何の用だろうか。この方は稀にここを訪れることがある。言い渡される要求は様々で時には無理難題もあるが、やらねば死ぬので関係無い。首の皮一枚繋げるのを死ぬ気でやるのがこの緊急クエストにおける最重要部分だ。

 

「貴様は、私と出会った時のことを覚えておるか?」

 

「勿論でございます」

 

出会った時のこと?どうしてそんな話をする?

 

「……あの日、貴様ら人間の王族共が私に挨拶に来たあの日。そこは才気ある小童共も多くおった。当時から有望視された者共、ラディルもその一人じゃった」

 

ラディル兄さんか。懐かしい名だ。我が国の元第一王子。あの人が居ればこの国は大丈夫だと思ったものだ。あんな化け物に勝てる訳が無いと自分の身を守るのに必死だったな。ただ完璧過ぎて味方が居なかったのが敗因だな。カリスマは十分にあった。貴族共が腐り切っていたからこそ起きた悲惨な末路だ。

 

あらゆることにおいてその才を遺憾無く発揮したものだから、この方からの寵愛も受けていたというのに。

 

「だがあやつは死んだ。次代を担う器じゃったというのに。私はそれでも生き残った王族が、貴族が、貴様が何よりも許せん」

 

「全て我々の不徳の致すところです。申し訳ありません」

 

この方はそれはもう大切にラディル兄さんを扱った。そして、何よりもラディル兄さんを愛していた。あの人の並外れた容姿が、その物腰柔らかながら堂々たる振る舞いが、伝説の英雄かのような活躍が彼女を惚れさせるに至った。

 

当時ラディル兄さんが亡くなった時はエルフ族による侵攻まで起こったくらいだ。激怒したこの方によりこの国は窮地に立たされ、俺は自身の寿命の半分と我が国で最も重要な国宝の一つを渡して戦争を納めた。

当時はもう魔王軍復活の兆候があったから早急な解決が求められた。そしてそんなことがあったからこそ、この方の要求は絶対に受け入れなければならなくなったのだが。

 

「終わったことじゃからな。とやかくは言わん。ただ今思えば、貴様が生き残るのも必然じゃったのかもしれん」

 

必然?本格的に話の流れが見えないな。何を考えているんだろうか。

 

「確かに、あの頃から貴様は異端じゃった。ただ一人だけ私と顔を会わせようともせず、ひたすらに怯えて警戒をしていた幼子。見た時に思った。こいつは駄目だと。人間の中でも落ちこぼれだと、直ぐ様分かった」

 

それはそうだろう。元々才能も何も無いし、何よりこの方が怖かった。一目見た時から死を感じ取った。実際ジロジロ見ようものなら首が落ちていただろう。

 

「じゃが、良く考えればそれを幼子が行うなど異常じゃ。少なくともあの場にいた者達は王族以上。身の程も分からぬ童ばかり。それが警戒をしているなど可笑しい話。挙げ句の果てには貴様、自決まで考えておったじゃろう?」

 

「……仰る通りです」

 

そこまで見抜かれてたか。確かにあの時、この方の目に止まって不興を買ったら自決を覚悟していた。死ぬより恐ろしい目に合いそうでチビりそうになったのを覚えている。

 

「貴様は誰よりも人を見ていた。自身の愚かさと無能ささえ、分かっておった。あの場で一人だけ分をわきまえて私に服従した。本能的に、お前は私を恐怖したのじゃろうな。頭ではそう思わなくても体で、得体が知れない何かだと感じ取った」

 

精神年齢的にはこの方より長い可能性さえあるからな。自分の能力は誰よりも分かっている。けどそれが何だと言うんだ?

 

「私がお前を嫌ったのはそこじゃ」

 

初見殺しすぎないかそれ。

え?そんなんで嫌われたの?俺が何も出来ないの分かってたのに?衝撃のカミングアウトすぎないか?……流石エルフ族、理不尽の極みだわ。

 

「何、少し話しておこうと思っただけじゃ。貴様にも話して貰わねばならぬことがあるからの」

 

話して貰わねばならぬ……ああ、やっと分かった。クソ、今回のこれはいつもの命令じゃない。処罰か問い詰めだ。ラディル兄さんの件まで話したのは逃がさない為。次は無いと言いたいらしい。

 

「この国は、人間の国にしては非常に長い歴史を持つ。何代もの王が積み重ねてきた。そして今、貴様がそんな状態になってまで存続させてきたこの国を破滅させようとしておる。……悔しくはないのか?」

 

今度は我が国の話?それに悔しさ……何が狙いだ?俺への心配?そんなタマじゃない。なら我が国の破滅によって不利益が生じる?考えうる限りでは無いが……こんな世界だからな。裏に何が隠れているか分かったものじゃない。  

 

この方は何が聞きたいんだ?

 

「仕方の無いことです。手を打たなければ我が国は破滅の一途を辿ります。それならば未来へ託すことも一興かと」

 

「本音を言ってみよ。貴様が言わぬと言うのなら思考を読まれても文句を言わせぬぞ?」

 

読心魔法?そこまでするか?……ここからは言葉を選ばないと死ぬな。

 

「私は、国は民の為にあると考えております。王もまた民であり、国や行政は民の幸福を実現させる道具だと。しかしこの国は今何も出来ては居ません。それはこれからも、この国を改革することは不可能です」

 

「………」

 

「次代に託すのは絶望的です。我が国は腐りきっています。民の幸せの為ならば、伝統も歴史も犠牲にすべきと考えた故の行動です。どうか、お許し下さいませ」

 

本心だ。真っ直ぐな本心。俺はこの国で過ごす内に、王になったあの日に責任を背負った。俺には民に尽くす義務があると。他の王族や貴族達が犯した蛮行の償いが必要であると。そう考えて行動してきた。それは最早王の死、貴族達の崩壊でしか賄えない。ただ裏にある事情を伝えていないだけだ。何も嘘はついていない。

 

「それだけか?」

 

「はい」

 

「………」

 

「………」

 

「私の言っていることが聞こえなかったか?まだあるじゃろう。貴様は何を隠しておる!」

 

分からない。隠している部分など女神との関係くらいだ。それをどうしてここまで追求出来る?本当に勘づいているのか?そうだとして、何処まで俺は耐えられる?

 

「何故あの勇者を選んだ?何故騎士団長を自国に置いておかない?何故魔王にみすみす滅ぼされようとしておる?」

 

まあ確かに、冷静に考えれば可笑しい点だろう。わざわざ四人居る内の一人だけを選出したこと。自国防衛の要である騎士団長を勇者に付けたこと。明らかに国を滅ぼしにかかっている。普通の王ならばそんなことはしない。たとえ民の為だとしても、通常国を滅ぼせば碌な未来は待っていないのだから。

 

「貴様は本当に、魔王討伐を命じたのか?」

 

成る程。不可解な点の多さが疑念の原因か。それに、そう、俺は勇者に魔王討伐など命じていない。

 

各国の王や種族の長に対して俺は芝居を打った。勢いで押し切った。土下座と懇願でやり通したのだ。そのシワ寄せがきている。

嘘を吐かねばならなかった。本当のことを全て言えば、俺の背後に何が居るのか、俺は何者なのか気付かれる。それは避けなければ不味い。世界の真実を知られたら不都合なんて、そりゃ当たり前だろう。

 

何処の国も勇者が我が国を恨んでるなんて知らないだろう。騎士団長に関しても自分の意思で出ていったと勇者に説明させている。わざわざ騎士団長を連れ戻すよう兵を仕掛けたりもしたのだ。勇者に疎まれているのは確定。そうでもしなければ、計画は進められなかった。

 

ま、最後は土下座で押し切るんですけどね。それ以外にも説明しにくい点が何個もある。そういうのをやり通すのも王の仕事だ。

 

「騎士団長は確かに優秀です。しかし彼女の代わりとして他の勇者三名を我が国の防衛に当てております。我が国は亡ぶかもしれませんが、それはあくまでも可能性の話。打てる手は打っております」

 

「それでも隠しておる部分はあるじゃろう?」

 

これ以上は無理だろう。説明が説明にならない。ならば正直に頼み込むというのも一手だ。幸い最適な瞬間だしな。

 

「今はまだ話す訳にはいかないのです。どうか、もう少しだけ待って戴けないでしょうか?」

 

渾身の土下座である。頭をめり込ませた俺の中の最高峰の土下座だ。結局俺にはこれしかない。

 

「貴様……それで通ると思っておるのか?」

 

無理か?……いやあ、それで諦めたらイカンでしょ。何万人の命が掛かってる。少しやらないとな。

 

「絶対にエルフ族に被害は出さないと誓います!どうか!どうか今回だけは!」

 

必死に頭を打ち付ける。頭蓋骨が壊れんばかりにぶつければ床は赤く染まっていた。

 

「次回なぞ、もう無いじゃろうが……」

 

「それは……」

 

その通りだ。今回だけと言っておきながら、次回はもう訪れることはない。だがこちらも口を割るわけにはいかない。これで無理だったら俺としてもどうしようもない。恐らく洗脳魔法か読心魔法を使われる。

 

「……いえ、それでも、それでも我々はもう引き下がれません!」

 

どれだけ犠牲にした?どれだけの悲鳴に見てみぬふりをしてきた?女神の千年間、それはこの世界の千年ではない。数えきれない程の異世界の存在を犠牲にした、数多の可能性があった千年だ。

その屍の上にある戦いだ。ここを逃せば、次は存在しないかもしれない。あの女神が動いたのにはそれなりの理由がある。俺達はとっくの昔に止まれなくなっているんだ。記憶を読まれるぐらいなら今死ぬしか……

 

「…………ちっ、白けた。帰らせてもらう」

 

「…はっ、はい!承知致しました」

 

切り抜けたか?本当に?

…ああ、危なかった。何とかなったのか今でも怪しい。この分なら大丈夫そうだとは思うが……一応話しておかねばならんな。

 

「ライネリア様」

 

「貴様にそれを呼ぶことを許した覚えは無いが」

 

「申し訳ありません。ただ」

 

「……何じゃ」

 

「…勇者を、この世界を、どうか宜しくお願い致します」

 

それは、酷く残酷な言葉。死に往く者からの託し。彼女はきっと、その意味を理解っている。俺なんて彼女にとってはどうでもいい、そこらの石ころと変わらない存在だろう。それでも無理を承知で、図々しく頼む。言わないよりはずっとマシだろうから。

 

「…………御大層なことじゃな。だが、託されたぞ。今までの貴様の忠、大義であった」

 

「ええ、女神と地獄で待っております」

 

彼女の姿を見たのは、会話はこれが最後だった。

 

 

57日目

 

最近は残った勇者達と話すことも増えてきた。年齢が違うから物の捉え方は違うが根本的な価値観は同じだ。やはり同郷出身なだけあって話が合う。話し方もフラットになっているしある程度交友が生まれたと言って良いだろう。

 

勇者達を生かすかどうかは再考が必要だ。人間は環境や状況が異なれば悪人にも善人にもなる。彼らを生かすことで後々に何らかの被害をもたらすなら道連れも良しと思ったが、話す分にはその傾向が見られない。

しかしやはり甘さが目立つ。生きるか死ぬかという状況が身に染みて分かっていない。日本で育った分覚悟が足りていないように思う。これでは海千山千の貴族達や商人達に利用されることは間違いない。彼らを本格的に鍛えるのも悪くは無いのかもしれんな。この世界の現実を見せるのも大人の役目だろうか?

 

今は城内の暮らしだから生活水準もある程度高く出来ている。しかし城を出ればこうはいかない。日本と比べれば城内でさえ数段下がってしまう。食事一つとってもそうだ。俺が昔開発した醤油や味噌があったから成り立っているものの、やはり何もかも同等にとはいかないものだ。

戦場に行ったら風呂には入れないし食事も質素。硝煙と腐敗臭漂うテントで苦痛と恐怖に苛まれながら眠るのだ。俺にとっては慣れたものだが、彼らにとっては最悪だ。一度騎士団と共に彼らと話し合ってみたほうが良いだろう。

 

どうしても彼らを犠牲にする気が起きないのだ。自身と似た境遇だからだろうか。きっと託したいのだろう。俺がこの世界に来て本当にやりたかったことを、彼らに叶えて欲しいんだ。異世界に来て冒険をするなんて、本当はワクワクするものではなかろうか。

もし彼らを鍛えることになったら、初級者用のダンジョンにでも行かせてみるかもしれない。

 

最近は追放勇者の活躍も聞こえるようになった。後半年もすれば彼は各国に名を轟かせるだろう。

追放勇者と言えば新しい仲間を得たらしい。報告によると魔法使いらしいが……完全に魔導師様じゃないか。何をやってるんだろうかこの方は。まさか姿を変えてまで勇者に付いていくとは思わなかった。騎士団長に魔導師様とは、少々過剰戦力な気がするが……まあ良い。周りの者達も全く気付いてないようだからここは見なかったことにしておこう。

 

もし魔導師様に勇者が追放された経緯をしられたら折檻だけでは済まないだろう。あの人には恩があるから裏切りたくは無いが、クソ女神次第だろうか?アレがどれだけ話して良いかにもよるだろう。

 

それにしても追放勇者は流石だ。主人公の素質があるというか、このままハーレムでも作る気なんだろうか。両手に花とはこのことだろう。良いよなあ魔導師様。美人で優しい方だ。年齢は……まあ、愛が有れば関係無いのかもしれないしな。うちの長男のラディル兄さんもエルフの長と相思相愛だったから。……言い換えるとあんたらショタコ

 

色恋沙汰も縁が有れば何時かはと思っていたが……些か無理がある願いだな。俺もこれが終われば無限地獄行きだ。この願いもまた勇者達に託すとしよう。

 

 

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