愚王日誌~我は勇者を追放する~   作:I'mあいむ

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日刊1位!?
ラーメン屋でこれを見て飛び上がってしまいました。ご評価下さりありがとうございます。


旧友

 

69日目

 

今日は隣国の公爵家の婦人が訪問に来た。まあ、訪問と言えば聞こえは良いが有り体に言えばただ遊びに来ただけだ。仕事や義務などこれっぽっちも無いし、隣国の視察だの友好的な態度を国民に見せる為だのこじつけも良いところだ。

じゃあどうして公爵婦人なんて地位の人間がここに来たのか。それは幼なじみに会う為……つまり俺と会う為だ。そう、この方は何を隠そう俺の幼なじみ。俺がまだ能無し第三王子と呼ばれていた頃から付き合いのある方。

 

元々婦人は隣国の王族。第一王女という王位継承権を争うことを余儀無くされる程の立場だった。その後、結局彼女は公爵家の子息との結婚を果たした。公爵家と言えどもやはり貴賤結婚であることに違いはない。元々王位に興味の無かった彼女は晴れてその争いから抜け出すことに成功したのだ。

 

幼少期から傑出していた彼女の才能とカリスマは天賦のものと言える。ラディル兄さんとはまた別ベクトルの才能。彼が結果と気迫で人々を纏め上げるとしたら、彼女はその華やかさと奇想天外な言動で惹き付けるタイプ。その癖彼女は強かだ。ラディル兄さんとの決定的な違いはここだろう。正義を主としていないのだからこちらは正に傑物。こんな人間が存在することが有り得るのかと思ったものだ。

 

幼少期の頃から彼女と俺は会う機会が多かった。俺が隣国に預けられた時期があったこともそうだが、同い年ということも大きな要因だったのだろう。言ってしまえば彼女は変人だからな。あの頃から嫌な噂の絶えなかった俺に関わってきた時は驚いたな。こいつはきっとヤバい奴だとも感じ取ったが。

 

彼女の結婚式はそれはもう盛大に行われた。隣国の王子さえ招いてしまうのだからその規模は他と一線を画す。あの時の、幸福という概念その物を現したような光景はよく覚えている。彼女の世界一幸せだとでも言うような笑顔は今でも忘れられない。

 

公爵子息、今では公爵である彼も良くあの方と恋仲になったものだ。あの変人との恋愛など相当なものだったに違いない。

 

正直、俺と話す為だけにここまで来れるような地位の人ではない。俺も膨大な仕事があるから彼女との会話は片手間だ。随分文句を垂れていたが突然来てそんなこと言われても無理がある。まあ、事前に言われても突っぱねるが。今のこの国は魔王軍が居なくても崩壊秒読みなのだ。魔王軍のせいで立て直すのが不可能というだけ。俺に掛かっている仕事量の都合上基本的に手は離せない。

 

わざわざ来たんだからそれなりに悩みでも有るのかと思えば惚気を言い出す始末。公爵との仲が上手くいってなくて惚気ながらも伝えようとしてるのではと思ったが、そんなこともない。自慢したいなら手紙で良いだろうに。まあ、久し振りに元気そうな顔を見れたのは良かった。

 

彼女に何も言わずにこの国を歴史の闇に埋もれさせるのは気が引けるが、もう決まったことだ。彼女の兄、つまり隣国の王からは許可が出ている。彼女には最後まで話さない旨を伝えたら悲しそうにしながらも納得はしてくれた。あの方もお優しいものだ。

 

何はともあれ旧友と会えたのは良いことだ。今日は久し振りに良い夢を見れそうだ。

 

◆◆◆

 

今日も今日とて仕事が終わらない。清々しい朝日を背中に感じながらひたすらに目とペンを動かす。署名をしながら違う書類に目を通す。簡単な物は最小限の動きで効率化を図らねば終わるものも終わらない。さながら書類採択RTAである。

貴族の地位と財源の安定化について?下らないな、却下。農業の安定化と魔導工学の導入案?……あー、ちょっと待て。これは考えるか。

所謂トラクターのような物を開発して取り入れたいと。タイミング悪いなあ。農業革命が起こるだろうが……この国滅ぶしなあ。特許だけ取らせて他の国に推薦状でも書くか。そうすれば開発者も金が入るし技術も広まるな。最近は貴族共から徴収して国庫が潤ってるからな。バックアップぐらいしてやるか。

一筆書いておくか。更に精進し農業に革命が起こることを期待しています。王より、と。これで良いか。いやあ、将来有望な若者が現れたものだな。

 

お、お待ち下さい!

 

何だ?城内が騒がしい……貴族からの刺客か?ならこんなに五月蝿くもならないか。そうだったとしたらもっと、そう。異常な程の静けさが場を支配している筈だ。

 

待たないわ!私だもの!

 

ふむ、何やら音が近づいてきたような……姪達か?だとしたらここまでにはならない気がするが。もう目の前まで来たな。

 

私が来たわ!

 

「………」

 

…………

 

「久し振りね!十年ぶりかしら!」

 

…………

 

「あら、そんな顔をしてどうしたの?」

 

何で、いや、こういう人だったなこの人は。

 

「お久し振りです。リーブル公爵家婦人」

 

「ええ、あなたもね」

 

ダンッと勢い良く扉から現れたのは豪奢に着飾った服装に負けない位の美人な女性。深い紫がかったバイオレットの髪を靡かせ、自信満々な顔をしている。

彼女は隣国の公爵家婦人。元王族で俺の幼なじみでもあるが……何をしてるんだろうか。元々勢いに任せる部分がある人だったがまだ治ってなかったらしい。それで振り回された記憶があるのは俺だけではないだろう。

 

「すまない、下がって良い。……それで、本日はどうされました?」

 

憔悴しきった部下を下がらせて話を聞く態勢に入る。チラッと顔を窺えば喜色満面と言った表情。この表情を見ると毎度のことながら頭が痛くなる。

 

「何か無ければ来てはいけないのかしら?」

 

「勿論です。あなた様の立場をお考え下さい」

 

「それなら、隣国の視察と友好的な態度を両国民に見せる為、と言ったところかしら?」

 

相変わらず口と頭が回る方だ。昔からそういう方面に長けていたからな。これで魔法まで一級品なものだからリーブルの天使なんて言われてるんだろうが。

 

「そうでしたか。お越し下さり有り難うございます公爵婦人。我が国一同歓迎致します」

 

「ええ、ありがとう。それはそうと、あなたは何をやってるのかしら?」

 

何をってそりゃあ……

 

「事務処理や書類採択は基本でしょう?」

 

「私が居るときにやるなんて随分生意気になったじゃない」

 

そんなことを言われても仕方ないだろう。こっちもやりたくてやってる訳じゃない。

 

「何を言ってるのですか。そもそも事前に連絡もなく来たのはそちらです」

 

貴方が一報ぐらいくれたらもう少しもてなすことも出来ただろうに……自業自得だな。

 

「私が居るんだから少しぐらい良いじゃない!」

 

えぇ……こんな我が儘な人だったか?

 

「……仕事は時間を待ってくれません。私のような只人には厳しいのです」

 

才能ある人間との差というのはこういうところにも出る。俺は仕事の出来る人間ではない。逆に出来ない側の人間だ。もう十年以上こういうことを続けているから出来ているだけで、彼女なんかには到底敵わない。

その頭脳を少しはこっちに分けてくれないだろうか。

 

「なら少しぐらいこっちを見てよ」

 

そういえば面と向かって話をしては居なかったな。仕方ない。少しだけ仕事は置いておくか。

 

「それぐらいなら……」

 

「…ッ」

 

顔には出さずとも反応が物語る。

 

しっかりと俺の顔を見て気づいたのだろう。元々容姿は整っていない顔だったが、それがもっと酷くなっている。魔法や薬で老い先短い命を誤魔化してはいるものの代償は大きい。麻薬の使用や過労、睡眠不足に栄養失調などで病人と大差ない顔つきだ。

心配してくれているのかもしれない。貴方は酷く優しいから。けどその優しさには気付かないフリをさせて貰う。分からなければ何故そうなったのかも問えはしない。自覚していない人間に聞くということは即ち気付かせるということ。それが残酷なことだと貴方は思ってしまうから。

 

「何です?」

 

「少しぐらい休んだら?あなた凄い顔してるわよ?そして私と話しなさい」

 

「後進が育つまでは難しいですよ」

 

まあ、その頃には後進が座る椅子は燃えているだろう。国は崩壊寸前。この責務を継ぐ資格のある者達は全員贅に染まりきったクズ達だ。復讐の芽は摘み取っておかなければいけない。心苦しくはあるが甥や姪もこの国諸共消えて貰う。

つまりこの国に後進など居ないのだ。この人に言うつもりも無いが。

 

「分かってはいるけどそれじゃあ」

 

「婦人。王とは、そういうものですよ」

 

国を運営しているのだから、そこに休みなど有るわけがない。そこで死んだらそれまでだ。王となったのなら最後まで全うするしか道は無い。その王がまともだった場合に限るが。

 

「……あなたらしいわね」

 

「そうでしょうか?」

 

それは俺らしいのだろうか。まあ、彼女が言うのだしそうなのだろう。俺の中でも特に付き合いの長い人だしな。

 

「それにしても、婦人はお悩みでもあるのですか?」

 

「え?」

 

「ああいえ、こんなところまで来たのにはそれなりの悩みでもあるのかと」

 

わざわざ国を越えてまで来たんだから悩みの一つや二つあるのではと思ったが、見当外れだったか。

 

「ふふ、悩みなんて無いわよ。今も昔も」

 

幸せか。それがどのような状態を指すのか人それぞれだが、彼女の場合は公爵との円満な夫婦生活がそれに当たるのかもしれない。

彼女は天才だ。人々の上に立つべき才能を有しているし、そのカリスマと実力はラディル兄さん並み。俺が見てきた中でもトップクラスの存在だ。

しかしそれでも人間。彼女はあくまでも人間なのだ。異星人でも化け物でも無い。どんなに偉大でも精神は脆く儚い。彼女に向けられる期待や重圧は心への足枷となるだろう。弱音を吐くような人じゃない。だからこそ不安だ。彼女の言葉の裏には何か伝えたいことがあるのではと考えてしまう。

 

「公爵様とは上手くいっていますか?」

 

「ええ、あの人ったら昨日もあんなに情熱的でもう……あぁ、子供達の前でなんて駄目よ……嫌なんかじゃ……あっ」

 

………自分の世界入っちゃったよ。杞憂だったわ。うん、心配してたのが馬鹿らしくなってきた。こっちが必死こいて仕事してる目の前でこれとはな。そろそろ手が出そうだ。

 

「……思い出しただけでも興ふ」

 

「あーもう分かりましたから!はい!どうやら良い夫婦生活のようですね」

 

「うん、そうね。あの人と一緒に居るために私は生まれて来たのかもしれないわ」

 

彼女の視線の先にはきっと公爵が写っているのだろう。俺は彼女に何を残せるのだろうな。曲がりなりにも俺は彼女の友人だ。この関係はあまり知られてはいないが幼少期からの付き合い。いや、何をする必要も無いのだろう。彼女に施しなどいりはしない。

この人は全て自分の手で切り開く。そして手に入れた今なのだからな。

 

「レリクさん」

 

「!」

 

「今、幸せですか?」

 

「ええ!」

 

願わくば、貴方の幸せが続いて欲しいと思う。いつまでも忘れられない笑顔を視界に収めながら、地獄への決意を一層深く固めた。

 

 

 

71日目

 

遂に魔王軍の幹部を追放勇者が倒した。嗚呼、こんなに嬉しいことは無い。俺は着々と成功への一歩を踏み出せていたらしい。

 

こんなに嬉しいのはいつぶりだろうか。この世界に転生した時以来かもしれない。当時はファンタジーな世界に転生出来たと舞い上がったものだが、それも一時だけだったな。結局俺の求めた才能は皆無。無双もチートも恋愛も叶わず。こんな苦行を延々と続ける日々だ。

しかしその終わりも少しずつ見えてきた。俺の道は間違っていなかったらしい。この国が滅びるのはいつ頃になるのだろうか。魔王軍も司令塔を失って弱体化している。我が国への強行策を仕掛けるのも時間の問題だろう。

 

勇者が先か魔王軍が先か。さてさて、どうなるだろうか。

 

勇者の能力は覚醒でもしたのだろうか?幹部を倒すのは少なくとも数ヶ月後と思っていたが……密偵に探らせはしたが流石に幹部との戦いまで観察するのは無理だったらしい。余波だけで一帯が滅茶苦茶になるだろうからな。一応何人かの協力者が居たのは確認出来たらしい。全員名うての冒険者や他国の有名な兵士だった。それにしても凄いことだが。

 

そういえば残らせた勇者達は鍛えることになった。信頼できる数人の騎士に相談した上で彼らの意思を確かめた。どうやらやる気はあるらしい。数日前から幾つものダンジョンに潜っている。

初級用ダンジョンである程度痛い目を見たらしく少しは良い目付きになった。あれなら戦場に送り込んでも絶望する程度で済むだろう。前なら逃げ出すか廃人になるか自決するかだったろうから、戦えるだけ進歩である。

 

彼らも後数週間したら立派な冒険者としての精神を手に入れているだろう。……まあ、そんな奴らが毎日死んで、生き残ったら吐くのを繰り返すのが戦争ってものなんだが。

 

それにしても勇者の成長は本当に早い。これなら一ヶ月に一回のペースで幹部を倒す、なんてこともあるのかもしれない。少なくとも我が国は幹部が残っている内に滅ぶだろうから……あと一年もかからないか?何てことだ……想像以上のペース過ぎる。

 

こんな日常ももう長くない。折角なので噛み締めていこうと思う。

 

 

 

95日目

 

相変わらず魔王軍との戦いは苦しい。騎士団長の抜けた穴は大きく苦境が続いている。まあそれで良いのだが。重要なのはこの王都を陥落させること。全力で抗うのだ。聖騎士共や貴族を惜し気もなく投入して戦死させる。基本的に兵士達も腐っているから慈悲なんていらない。

 

逆に善良な人達は残しておく。民衆の逃走を指揮するのはこいつらなのだから生かしておかなければならない。

 

何故こんなことをまた書いているのかというと(日誌だから書いても良いのだが)、その残しておく善良な人の中でも特に重要な人が訪れたからだ。

 

貴族、それも三大貴族の中で唯一味方である家門の当主だ。

 

我が国は崩壊寸前であり景気は傾いているものの領土はそれなりにある。それもあってか三大貴族と呼ばれるところもあるのだ。そこの当主なんてのは他国にまで影響を及ぼす。今回来たのはその中でも武闘派、国の盾とも称される家だ。

あの人との出会いはまだラディル兄さんが存命だった頃、ラディル兄さんに味方した数少ない貴族ということで紹介されたのだ。

ラディル兄さんの正義の志というか、そういう部分に惹かれたのだろう。あの人自身もそれに近い精神を持っている。それもあってか、ラディル兄さんが亡くなった後、あの人は弟というだけで俺の味方をしてくれた。当時の俺にとってそれは、本当に有り難かった。

 

ラディル兄さんを守りきれなかったことに責任を感じてるようだが、それは仕方ない話だろう。搦め手や姑息さを持つ人間が、その汚さを理解する人間が必要だった。だけど、彼らの中にそれを行える者は居なかった。

その末路がラディル兄さんの暗殺。婚約までしていたエルフの族長はキレるし、貴族共は婚約を阻止した上に邪魔な第一王子を処理出来て大盛り上がり。何故後の事を想像出来ないのか。そんなことをしたらエルフが戦争を仕掛けるなんて、ある程度想像がつくだろう。

 

その後も色々あったが今回は関係無いので割愛。……まあ誰に見せるわけでも無いからそんなに拘らなくてもいい気はするが。

 

まあそんな貴族が今日、俺の説得に来た。

 

やはりどうにかならないのかと、他に道は無かったのかと。

 

そう、彼には騎士団長と同様話してあった。勿論彼には反対された。というより基本的に部下全員に反対されたのだ。ただまあ、追放しないで勇者を強く出来るかどうかは怪しかった。それなりにオブラートにぼかしたから押しきれたんだが。

 

ただ彼は違う。まず貴族なのだ。つまり権力というのを彼は失ってしまう。更には彼の家門という誇りを潰すことを黙認しろと、そう言っているのだ。まあ、許せる話では無いだろう。

 

これしかないとか言って何とか納得してもらえたが。

彼には本当に迷惑を掛けた。父の代から兄、更には俺と。彼は気苦労が絶えなかっただろう。兄を殺され、今度は俺が死ぬ。本当に申し訳ない限りだ。彼にだけは少し、本音が出てしまう。

 

何も返せないのは申し訳ないが、それでも頷いてもらうしかない。もう止まれないところまで来てしまっている。この国の崩壊を防ぐことは出来ない。

 

俺がラディル兄さんのように優秀であれば良かったのにな。もしくはあの時に俺が気付けていれば少しは……いや、元からこうなる予定だったんだろう。あのクソ女神がその道を選んだんだ。どうしようもなかったんだろうな。

 

胸くその悪い話だ。そうならざるを得なかったなんて。誰にも話せないからこそここには書いておく。

みんな本当にすまなかった。

 

気分が悪いから今日はここまでとする。

 

 





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