220日目
今日は勇者達が戻ってきた。しかし明らかに表情が暗い。この世界の現実を見てきたからだろう。地獄や絶望の最中で彼らは何かを得てきたらしい。目に宿す決意が以前とは別物だ。
現実は非情で残酷。言葉で言うだけなら簡単な一言をその目や耳で体験し、心の底から理解してこそ初めてこの世界での道を歩める。酷ではあるが、あの世界の人間に死と隣り合わせの日常というのを理解させるにはこうでもしなければならない。痛い目程度じゃその痛みもやがて薄れ忘れる。焼き付けた最悪がその命に染み付くまでやってこそ油断や隙が消えていく。
甘ったれていては彼らがこの先を生き抜くことが出来ない。まあ、あくまでもあの世界の一般的な人間の話だ。どんなところにも最下層というのはある。死ぬか生きるかの日常を過ごす人間も多い。そいつらからすればこの世界もあちらも大差ないだろうな。
随分話が逸れてしまった。戻ってきた勇者達には期を見てこの計画の表部分を話すことにする。彼らを逃がすならそこは必要不可欠だろう。だが女神関係は知らなくても支障は出ない。
この計画はただの魔王討伐じゃない。歴代の魔王共、まあ地獄のあいつらとは話が違うのだ。
それにしてもクソ女神が世界の意志さえ巻き込むとは思わなかった。そう言われる存在が居ることは知っているがその詳細は分からない。地獄では神の敵対者なんて言っていたが……話を聞く限り、世界を存続させるための思念体のようなものか。恐らく後々の被害を考えてクソ女神の話に乗ったんだろう。
……まあ、それもそうか。ここで魔王を逃せば勝ち目はほぼ無いに等しい。まさか今回の魔王が神の秘宝を持ってるとは思わなかった。そもそもあのクソ女神が………これ以上は書かない方が良いだろう。日誌に書くようなことでもない。
終わりが近いから気が緩んでいるのだろうか。変なことを書く前にここらで今日はやめておくことにする。
231日目
魔王軍の計画まであと数週間も無い。しかしやるべきことはほぼ終わっている。逃走経路や貴族、役人の始末。混乱に乗じてこの城を燃やし、今までの証拠ごと燃やす計画まで手配されている。
あとは部下達が裏切るかどうかと言ったところか。この土壇場でそれをやられてしまっては……まあ仕方ない話だ。彼らの目には過労によって遂に狂ってしまった王様のようにみえるだろう。どんなに取り繕っても自国を滅ぼそうとする愚王に変わりはない。
裏切られても文句は言えない。最早天運に任せるのみだ。これ以上俺に出来ることはない。
………そういえば俺は運が悪いんだったな。そんなことすら忘れてしまっていた。日本に居た頃から数千年くらい経ってるし当たり前かもしれないが。
もしかしたらいずれこの記憶も全て忘れてしまうのかもしれない。そうなったらまた、俺も笑うことが出来るんだろうか。
ただの学生だった頃が懐かしいものだ。あのどうしようもないクソガキがこんなところまで来るなんて、誰が思っただろうか。あの頃からどれだけ経ったのか正確には分からないが、果てしない時間を過ごしたんだろう。地獄の時間の流れは特殊だからな。
この卑屈さも、なんだかんだ変わることが無かった。まあ誰に否定されようが俺が生き残れてきた理由だ。今となってはこの性格で良かった。いや、こんなんだから巻き込まれたんだったな。やはりこの性格は直した方が身のためかもしれない。
それにしても、薄れていた記憶が今になって蘇るとは。日本の頃の記憶はもはや錆び付いて動かなくなっていたが、最近になって少し思い出してきた。どうやら相当浮き足立っているらしい。
失敗への不安がある。しかし成功への期待も心中で渦巻いている。焦りは禁物だ。熱は大事だが慎重さを忘れては仕損じる。とは言ってもどうにもはやる気持ちに収まりがつかない。今からこんなでは直前はもっと酷いものになる。少し肩の力を抜いて生活した方が良いかもしれない。
この下では誰もがいつも通りの日常を送っている。もうすぐ全てが滅びるというのに、彼らは何も知らない。きっと、彼らと俺には何の違いも無いのだろう。この責務が有るか無いか。無ければ俺もあのように暮らしていただろうか。
最後にもう一度、民の暮らしを見たいものだ。
258日目
この日誌を書くのも遂に最後となった。明日、全てが決まる。この世界の命運も、とまではいかないか。この国自体が滅びることと魔王討伐は何ら関係は無いしな。単純に貴族共はムカついたし職務も疲れたし追放系だから復讐されるのが確定ってだけだ。
滅びなくても魔王討伐の道はあるにはあるんだろうが……その可能性低いらしいしな。まあ規定路線通りに行くことが成功への道だ。少なくとも勇者には必要な過程だろう。自分をこの世界で最下層にまで追いやった宿敵。そいつを殺すのはそりゃ必要だろうしな。
……いやあ、今思えば申し訳ないことをしたよな。ほぼほぼ俺の為に滅びるみたいなもんだこの国は。ま、後世の為にも貴族共が居たら良くないだろうからそれでチャラってことで。
それに、別にもうこの国はガタガタだったからな。先々代の頃から力を付け始めた貴族共のせいで、取り返しのつかない部分が幾つもあった。
タイミングが変わっただけのことだったんだ。それなら俺に都合の良いようにやらせてもらっても良いだろう。
ああ、そういえば先ほど物凄い大物も来たんだ。と言っても顔馴染みの方ではあるが。そう、以前に書いた魔導師様だ。まさかこのタイミングであの方が来るとは思わなかった。いつかはと思っていたが……まさか前日とは。それじゃ何も間に合わないだろうに。
それほどまでに止める自信があったらしい。勇者の力は強大。あの三人なら一国の軍をも崩せるだろう。俺が立案者というのが最大の誤算だったらしい。
しかしそれを一目見て気付くのは人間業じゃない気もする。
あれならきっとこの世は安泰だ。この計画は結局勇者が魔王に勝てるかどうか。最後の最後は真っ向勝負になる。俺の補助などあくまで道中の露払いにしかならない。
それにしてもあの方もお優しいというか、まさか愛する人を愚弄したクソガキに義理を掛けようとするなんてな。まあ俺なんかとは違い聡明な方だからな。慈悲深さも持ち合わせていたのだろう。どうせならこの日誌を託してもよかったかもしれないが、しかし余りに荒唐無稽すぎる。
結局話したのは騎士団長と同様、話しても支障が出ないラインまでだ。少しだけ本音が出たがどうせ明日には死ぬんだ。それも良いだろう。
姪や甥に関しては明日確実に道連れにする。彼らは第二王子の血筋だ。親に似て何も分かっていないクズ。彼らを生かしておけば後々の被害に繋がる筈。ここで消しておかねばならない。
あと書いておくべきことは……特に無さそうだ。
ここまで、案外長い道のりだった。たった30年。俺が存在し続けた、最も古い記憶から今迄の時間。その百分の一にも満たない期間だ。
日本で、あの世界で二十歳にも成れずに死んだ。親に嫌われ、同級生に嫌われ、殴られ落とされ死ぬ寸前。それでも死にたくなくて足掻いた十数年。待っていた結果は、何の因果か地獄行き。決められた期間もなく延々と罰を受け続けて数千年。地獄行きが間違いだと知らされ、それ相応の待遇があると言われて、新たな生を受けて信じ続けてそれが只の戯れ言だと気付いて、尚歩いてきた30年。
こんな人生、と言うのもあまり良くないのだろう。これでも人生。生きているだけで幸せ者である。それは間違い無い。先祖達、同士達、幾つもの屍の上にある生なのだからかけがえの無いものだ。
ただまあ、長かった。
激務をこなしていたと、胸を張って言えるのかもしれない。社会で、一端の歯車として働いた経験の無い俺には、これがどれだけのものか分からない。しかし少しは、頑張ったと言えないだろうか。少なくとも俺のような人間にはキツイ仕事だった。王族の癖に給仕のようなことばかりをして、王になったらなったで書類仕事や戦争に追われて、嫌だと弱音を吐きたい日々を送っていた。
そんな苦行が続けば、案外長く感じてしまう。日本では確か、楽しい時間は一瞬、というような言葉があった気がする。嫌な時間は長く感じるのも、それと同じ原理だろう。地獄での数千年より、濃密で、それ以上に長かった。
間違いの無い人生、だったらしい。あのクソ曰く。結果的に、日本すら守ったらしい。あのクソ曰く。なら俺は、ちょっと謝るくらいの権利はあるんだろうか。後悔ばかりだったから、少しくらい謝っても良いってことなんだろうか。犠牲にしてきた人々に、計画を何も言えなかった人々に、迷惑かけてしまった彼らに、すみませんでしたと謝らせて貰えないだろうか。
許す許さないではなくただの自己満足。誰の為でもなく自分の為の謝罪。余りに醜い行為だ。余りにも、愚かだ。
………しかしきっと、それで良い。俺は卑屈でどうしようもなくて、運も実力もゴミに満たぬ塵芥。けどそれが俺だ。俺は愚かで醜い俺自身を認めている。俺は醜さ卑屈さが悪いとは思わない。
多くの人々を犠牲にして、それでもこの結果しか生み出せなかった自分自身。後悔と怨嗟が俺を苛むだろう。自業自得だ。
しかしそれで良いんだ。時間は永遠にある。それならこの苦しみも楽しみの一つになるだろう。喜怒哀楽が無ければ地獄はつまらない。
せっかくの機会、最後ぐらい楽しんでいかねばならない。もうこちらに来ることは無いだろうから。目一杯、やりきって終わろう。
この魂はきっと、この時の為にあった。あと1日と無い命。それはきっと、勇者の為にあった。
俺は……我は愚王。誰よりも愚かな王。
世界に、当たり前の明日が来ることを、いつまでも続くことを願っている。
フォーティスディア49代目国王 フィニス・フォーティスディア
◆◆◆
手が動かない。足が動かない。しかし、今日はそれで良い。
山のような書類はもう無い。一日の大半をここで過ごすというのに、こんなに殺風景な執務室を見たのは初めてだ。
この机もこんなに傷ついていたのか……。いつからあるかも分からないこの部屋には、無数の傷んだ跡が付いている。古ぼけた本棚には何も無い。長机もソファーも装飾品も、カーテンも無い。この仕事机と椅子、蝋燭と本棚だけが残っていた。
「やあ、元気にしてたかい?」
それは突然だった。意識の外から放たれた音。誰も居なかった筈の場所には人影がある。いつの間にか蝋燭の火が灯っていた。
現実を疑いたくなるような光景だ。
だがこの世界はそれを可能にする。不可能な事柄を限りなく低い程度にまで押し上げてしまうのだ。異世界という言葉がよく似合う。
「……ええ、お久し振りです魔導師様」
頭の片隅で、来ると思っていた。来ない訳が無いと踏んでいた。その黒いローブに白磁のような肌。全身に金の装飾が施された服はあなたの証。透き通るような白銀の髪はいつ見ても綺麗だな。
魔を導く深淵の到達者、魔導師。この世界の魔法に関わる権威の中でも最高峰と言える人だ。現存する人類の中で最も魔法に長けている者の肩書き、それが魔導師という名称。このたった三文字に込められた意味は俺では計り知れない程に強大だ。
以前会ったのはもう二十年程前。この人は基本的に人前に姿を現すような人ではない為それは仕方ない。世捨て人と言えばそうかもしれない。魔法の研究をずっとしているらしいが面白そうなことがあれば見に来るような、放浪癖のある人だ。まあ色々なことが謎な人なのだ。素性を知る人があまりにも少なく一説では我が国出身だとか。
「……嗚呼そうか、君だったのか……」
納得したかのような、諦めの感情が見え隠れした顔。彼女が来た理由も、何があったのかも大体想像がつく。説得に失敗することは明白だと、彼女は悟った筈だ。まあ、この体にこの閑散とした部屋の状況を見れば、俺が今回の立案者だと理解出来るかもしれない。一目見てそこまで思考が及ぶのは流石としか言えないが。
「分かります?」
こんな体でも口は動く。折角訪れた恩師との機会だ。軽口も叩かねば損だろう。
「はあ、相変わらずだね」
「いえいえ、見た目は変わりましたよ」
何処が相変わらずなんだ?あなたと会ったのはもう二十年以上前でしょうに。もう何もかもがあの頃とは違う。研究だけしているようなあなたと俗世に捕らわれた人間達の社会の歩みは一緒ではない。この病人のような体が物語っている。
「中身は変わっていないよ。少なくとも私の記憶とは変わらない」
「そうですね」
何処まで見抜いているんだか。賢い方だがその分底も知れない。女神の計画や地獄までは知らないだろうが……俺の転生程度ならあり得るな。
「こんなことになるならあの時何とかして弟子にすれば良かったね」
「まだ言ってるんですか……この魔力量でそれは無理がありますよ」
幼少期、まだこの体が十にも満たない頃この人は俺を弟子に誘った。俺に何か光るものを感じたらしいが、俺の魔力量や才能の無さから周りが猛反発。怨みで何をされるかも分からなかった為この話は無しになった。
諦め悪く強硬手段に出ようとした時は流石に焦ったが、俺も惨めな思いは避けたかった為何とか事なきを得たのだ。
そもそも魔力量が平民より低くて魔力操作がゴミで魔力伝達率もカス。どこに惹かれる部分があるのか。
まあ、結果的にこの人の予感は正しかったんだが、今となっては後の祭り。当時の俺に着いていった方が良いと言っても信じないだろう。しかし託すだけならこの道でも可能だ。この人に伝えることが出来るならどんな形でも良いだろう。
「方法は幾らでもあるよ?」
「魔力操作と魔力伝達率は?」
「あ、それはぁ……」
魔力量だけなら確かにどうにかなる。賭けにはなるものの方法が存在するのだ。ただ他二つは難しい。才能の占める部分が大きすぎる………こんなのは随分と前に出た結論だ。今更考える必要など無いだろう。
「それで、勇者の件ですか?」
「知ってたのかい?」
「勇者パーティーの魔法使いの話は良く知っていますから」
「全部お見通しか。そこまで有能なのにどうしてこんなことを……」
「はは…私が有能ならもっと違う結果がありましたよ。きっと」
先代にラディル兄さん、歴代の王族達の優秀さと比べて俺は余りに落ちこぼれている。ただ、有能だったなら魔王を倒せたのかはまた違うだろう。この無能さが魔王討伐に必要だったとも言える。
それでも、俺に何かあったのならまた違う結果を導けたのかもしれないと思うと……難しいものだ。
未来は少しのズレで変わっていく。新しい未来を作り出す者達は大抵何かを持っているものだから。
「………そうだね、そうかもしれない」
あなた達と手を取り合って居たなら、その未来はあっただろうか……
「あー、こんなことになったのは偏に、魔王討伐が今でなければいけないからです。期を逃せば人類は瓦解します。あの魔王は歴代の者達とは話が違いますから」
気まずいから話を変える。
何故こんなことをしたのかなんて、そうしなければならないからだ。小難しい言葉を誂えて並べても、理由なんて一言で充分。ただこれ以上、そんな顔をして欲しくないからこんな話し方をする。
「どうしようもなかったのかい?」
「ええ、どうしようもなかった」
本当に?
自分の中で幾度も問うてきた。きっと一番確率が高いのはこの道で、その為に犠牲を払い理想を捨てた。どうにか出来たかもしれない未来を俺は信じれなかった。
後悔はある。クソ女神と俺が選んだ道だ。間違いではないが……きっと正解でもない。一縷の望みにかけるよりも、もっと高い可能性を選んだ。女神が有り得ないと言うような不確定な理想を掴むのは無謀だった。
「君がそう言うのなら……うん、私もそう思うよ」
「随分と、評価してくれるんですね」
「うん、君だからね」
俺だからか。
しかし俺が成してきたことは全て俺のものにならない。後の時代に大きな影響を与えるだろうが、それは俺の功績とはならないのだ。
農業改革の種を植え、革新的な調理法をもたらし、世界に広まるべき産業革命の礎を作り上げた。がしかし、それを知る者は居ないと言って良い。
俺が行ったのはあくまでも間接的にその状況を作り出すこと。そんな細々とした経緯は後世には伝わらない。何せ現在でさえ俺が何をしているのか具体的に知る者が居ないのだから。
これらのものは作り出した者の功績となるのが常だ。ならば尚更俺の名前など残らない。悪評だけが俺の人物像として記されていく。
俺について手に入る情報の中で良い部分なんてこれっぼっちも無い筈だ。
彼女の評価は少し異常と言える。何かを感じる部分があったとしてもここまで信頼されるだろうか。まあ変人や天才の考えだから、という見方も出来なくはないが。
「私が君に初めて会った時のことを、覚えているかい?」
「地下書庫のことですか?」
「そう、その時だ」
俺が地下にある書庫で錬金術やら何やらの可能性を漁っていた時の話だな。
当時は待遇が酷かった為にどうにか自分の価値を上げようとしていた。夜な夜な書庫に通っては打ちのめされ、結局は才能無いから素直に諦めろ、という結論に至った。
異世界を夢見て諦め切れなかった俺には悔しかったが、日本の時と何ら変わらないことに気付いてからは現実を受け入れることが出来た。懐かしい思い出だ。
「あの時、君を見て初めて他人を弟子にしたいって思ったんだ。感情的なのは好きじゃないけど、君がいつか世界を変えるのが分かった。確信があったんだよ」
「へー」
「信じて無いね?」
奇人変人ってのは凄いものだ。確かに当たっている部分はある。世界は変わるだろう。革新的な物を知ってもいた。ただそれだけだ。それを直接再現するための技術や才能は無い。彼女の言っていることは正しいが……その先にも栄光や平和は無かっただろうな。
「ええ、あまり。それにもし、世界を変えたとして何が残ります?」
世界を変える為にはそれだけの何かが必要だ。誰にだってそれは言える。なら俺にとっては
「……」
「私が世界を変えるには、それ相応の代償が必要です」
今がそうであるように。
「そうだね」
「それよりも、もっと平凡で居たいですよ。私は」
「あんなに才能を欲しがっていたのに?あの時の君からはとてもそう思えなかったよ」
あの頃はまだ見苦しくもあのクソ女神の言葉に縋り付いていた。地獄での数千年。その賠償としての処置があるという甘言に惑わされた。実際にそんなのは無かったのに、信じきれなくて自分の才能を探していた。
王族として、せめて、少しでも無いのかと模索し夢破れる。どれもこれも根本的なものが足りなかった。
異世界の知識があるから無双なんて、そんなのは幻想だ。錆び付いた記憶でそこまで細かなことを思い出すことは出来ない。
そんな状態で継いだ王位。俺には何も無いから、最初から理想を捨てた。現実が非情ならそれ以上に手段を選ばなかった。何も無くても重くのし掛かる責務。平凡には程遠いな。
「あれは…平穏を手に入れるために必要だったからです。平凡である為の最低限が、王族というのはあまりにも高いと思いませんか?」
「それが王族というものだからね」
「ええ、分かっています。王族の責務、生まれた時からそうでなくてはならないんですよ。だからやっとなんです」
「……」
「丁度良かったんです、全部。滅ぶべき国に居て、果たすべき責務があって、争うべき敵が居て、全ての辻褄を通せる大義があって……」
ただ、もう面倒なんだ。情けない話だが、これ以上を成せる気がしなかった。
「……ああ」
「大丈夫ですよ。そんな顔をしなくても、私は誰も恨んだりはしませんから」
「……」
恨み言を言いにきたんだろう。問い詰めにきたんだろう。でもその顔を見れば分かる。俺は心配されていたんだと。
でももう止まれないのも気付いている筈だ。あなたはこの上なく優秀で賢いから。取れる選択肢があまりに少ないのも、それ以外の選択を潰したのが俺だってことも察している。だからこの覚悟を尊重してくれるんでしょう?
だって、そんな悲しげな顔をしているから。
「……そういえば勇者とはどうです?」
「へ?」
「勇者のこと、好きなんでしょう?」
「……どうして知ってるんだい?」
「分かりやすすぎますよ、ほら」
差し出すのは拳大の水晶。そこに写るのは勇者の寝顔。心地良さそうな顔は背負ったものの大きさを感じさせない。これが魔王を倒す人間の顔か?
「映像魔法!!?い、いつから!?」
「最初からです。全部計画の内だった、ということですね。魔導師様があんな顔をするなんて……フフッ」
「……」スッ
「おっと」
無言で杖を構えないでほしい。そんなことをしたって今の俺には脅しにもならないしな。ただ目がガチなんだよなあ……恋する乙女は怖いな。これは何処の言葉だったか……今は良いか。
「どうします、今殺しますか?それとも、明日とか?」
「っ……やめておくよ。その役目はどうやら私じゃないみたいだ」
「なら、止めないで下さいね」
「止めないよ。不肖の弟子の晴れ舞台だ」
「だから弟子では……いえ、そうですね」
最後なのだから、別にそれでも良いだろう。ここまで来たら弟子かどうかなんて些細なことだ。
「?」
「そんな弟子から師へのサプライズを用意しますよ。明日、きっとあなたに見せることになる」
あなたが信じた可能性。その一端を再現することに俺は成功した。もう随分前の話だ。他の誰かに教える訳にはいかないほどに危険だが、あなたなら大丈夫だろう。
「へぇ……」
「きっと気に入っていただけますよ。ささやかではありますが、恩返しです」
「なら、楽しみにしてるよ」
「ええ。明日、我が国最後のパーティーが開かれますので、是非お越し下さい。このステージを見逃さぬよう、宜しくお願い致します」
「分かった。この国の最後は私が見届けるよ。その代わり、少し頼まれてくれるかい?」
頼み?どうして……
「何でしょう。私に出来ることならば」
「─────」
「!?」
……成る程。良く気付いたものだ。
「……分かりました。勇者を、魔王討伐を、どうか宜しくお願い致します」
「うん、やってみせるさ。なんたって私は魔導師だからね」
「なら、安心して私も逝けますね」
「ああ、任せてくれたまえ」
もう夜も更けてきた。そろそろ見送ろうか。ああ……まだ持ちこたえてもらわないと困るんだよ。もう少しだけ、動いてくれ。
「それでは、そろそろ行くとしようかな」
震えて、辛くて、ギシギシとブリキのように固い足を動かす。棒のようなそれで地を踏みしめる。一言言っておきたくて。
「魔導師様」
「なんだい?」
「お幸せに」
「うん、分かってるよ」
瞬きした後には何も無い。蝋燭の火と共に、煙のように彼女は忽然と姿を消した。
我が恩師は偉業を成すだろう。並び立つ者が居ないほどの功績を残すだろう。その偉業を聞くことが出来ないのは少しだけ残念だな。
「ははっ…」
窓から夜空が見える。星々と月が輝く夜。何処までも続く宇宙は地球と変わった気がしない。綺麗だとも、美しいとも思えないが、不思議と気分は良い。この景色も、もう最後だ。
「長かったなあ……ゴホッ」
あと一歩。もうあとほんの少しなんだ。今尽きてもらうわけにはいかないんだ。そう思ってここまで来たが、危なかったな。
「……明日が見れるならもう何でも良いさ」
月明かりに照らされながら、最後の酒を飲み干す。
きっと上手くいく。そう信じて日誌の最後のページを埋めた。
Q.女神弱くね?雑魚やん
A.理由があるだけで本来なら魔王に勝てます。全力を出せばワンパン出来る程度には女神は強いですが、今回は何をしても勝てないです。
Q.王様幸せにならんの?
A.ならん(無慈悲)。ハッピーエンドではないかもしれませんがバッドエンドでも無い気はします。微妙なところですので人によって受け取り方は違うと思います。
Q.ここダークファンタジーなん?
A.基本フワッフワッしたファンタジーでお送りしていますが、時々ヤーナムとかヴァイオみたいな場所が発生します。因みに女神や王様が全力で頑張った為この事を追放勇者君は知りません。
番外編書くの面倒になってきた……
番外編は必要ですか?
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要るに決まってんだろ舐めとんのか
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要る訳ねえだろ調子乗んな
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どちらかといえば必要
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どちらかといえば要らん
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どっちでも良き