失業者に厳しいディストピア   作:YRNT

1 / 2
初投稿です。


失業。 夜の街。 暗い未来。

おのれ!おのれ!おのれェッ!

カァッペッ!

 

私はスラムの地面に痰を吐き出した。

ペチャっという音と共に、吐き出した痰が地面に張り付く。

 

「あぁ! 失業したァ! 私はもう終わりだァ!!」

 

そう叫ぶと、私はふと立ち止まった。

顔を落とし、地面に張り付いた痰を、ジッと見つめた。

不意に視界が歪み、涙がポロポロと溢れる。 溢れた涙は顔を伝って地面を濡らした。

公衆の面前だ。 公衆の面前で泣くなんて、恥ずべきことだ。 私は支配者階級の人間として、そう教育されてきたはずだった。 しかし、堪えようとしても、もはや止まらなかった。

工場排気と、不法投棄されたゴミのために、鼻を突く臭いを纏った夜風が、私の顔にへばり付く体液を、冷やして固める。

もはやこの場でへたり込んでしまいたいくらいだった。 しかし、このままでは私に未来はない。 私は、疲れ切った体と心に鞭を打って、家路を急いだ。

 

ホームレス、強制回収、最終処分。

 

我が国の誇る不穏な三段コンボが私の脳裏にちらつく。

職を失い、あるいはなにかしらをやらかして、政府機関に強制連行される人々を、私はこれまでの人生で山ほど見てきたのだ。

 

この国は、"模範的市民"以外には地獄もいいところだ。

 

職を持たない人間、いわゆる失業者を、国家は暗に不穏分子として扱う。

国は国民に、失業者との賃貸契約を禁止しており、ようするに私のような無職は、月末になれば強制的にアパートから引きずり出されることとなる。

失業者は自動的にホームレスとなり、ホームレスとなればそこからは流れ作業的に、簡易的な裁判の後に纏めて強制収容所に送られ、強制労働に従事させられることになる。

 

現在の日付は12/31。

月末まであと数時間。

1/1まではもう少しだ。

 

今から私が職を見つけるのは不可能。

せめて1/1になってから、あるいは少し早く解雇してくれれば、もっと時間的余裕を持てたというのに。

あの上司め、よほど私のことが嫌いらしい。

 

明日になれば私はめでたくホームレス。

実に素晴らしい。

 

並み居るライバルたちを蹴落として今の地位を手に入れた私だが、その最後としては実にお似合いの結末だろう。

自身の思考が、少々自虐の色を帯びつつあることを察する。

 

先ほど私は、「この国は、"模範的市民"以外には非常に厳しい」と説明をしたが、もちろんホームレスというのも模範的市民には分類されない。

 

ホームレスは悲しいことに、この国では穢多、非人に等しい。

穢多、非人は仕事と引き換えに存在が許されていたのに対し、この国において、ホームレスは"処分"の対象だ。

 

私は、これからわが身に待ち受ける数々の試練を前に、恐怖で身を震わせた。

 

頬を冷たい夜風が撫でた。

 

 

 

 

家に着くと私は、鞄に物を詰め始めた。

明日から私はホームレスだ。

 

食料。 衣服。 現金。 充電器。 

明日から国家の庇護抜きで生きていくので、物はいくらあっても足りやしない。

 

持てるだけの物を詰め込み、最後に私は台所から包丁を持ち出した。

それをA4のコピー用紙でぐるぐる巻きにする。

 

荒くれ者たちから私を守る、冗談抜きに最後の砦だ。

 

それと、鍋でもかぶっておけばヘルメットになるだろうか。

 

包丁の横に置いてあった鍋を手に取り、取っ手に頑丈な紐を通す。

 

紐を耳にかけ、頭を鍋に押し込む。

ぐるぐる巻きにした包丁はコートの裏ポケットにしまった。

 

旅行鞄を持ち壁掛けの姿見に姿を写すと、少々どころでなく間抜けな見た目だ。

だが、時刻はすでに11時を回っている。

 

もう見た目にこだわっているような時間はない。

行政の執行ロボットがインターホンを鳴らすまで、果たしてあとどれほどの時間があるのだろうか。

すでに家の表はマークされているかもしれない。

 

家の裏の窓から旅行鞄を放り投げ、私もそのあとに続く。

あぁ。 不安だ。

 

繁華街の光が不気味に辺りを照らす中、悲壮感に背中を押され、私は夜の街へと繰り出した。




新年に間に合わせるために短いです。
今後は文章量を増やしていく予定ですから悪しからず。

え? もう日付は1/2だって!?
時差の関係でこっちは1/1なんだよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。