人類が地球から離れ、昔日本において親しまれた正月という概念が希薄になった遠い未来。宇宙船に乗る人間とアンドロイドの二人は新年を祝ってみることになり…?

ちょっとした短編です。

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餅と正月と宇宙船

「新年?」

 

「あまり気にするものではないかもしれませんが、折角ですし祝ってみませんか」

 

「そんなこと言ってもなぁ…初日の出はどこを見ていいか分からんぞ」

 

宇宙船の操縦室から外を見れば、そこには銀河が広がっている。恒星の光は散りばめられ、地平線から現れる太陽を見るという贅沢は味わうことが出来ない。

 

「植民星で暮らしてた時は何回か有り難がって見たけどな、宇宙でやるのは無理があるだろ」

 

「うーん、せめて何かしたかったのですが」

 

「アンドロイドでも季節ごとのイベントを気にしたりするんだな」

 

「それアンドロイド差別ですよ、プログラムされた言葉を話してるわけじゃないんですから」

 

「すまん」

 

人類が作り上げた機械に魂は宿るのかという問題に対する結論だが、自己進化を遂げたAIは人が理解出来る範疇を超えてしまったので分析すらままならなくなった。分からないなら結論を出すことは出来ない、完全に有耶無耶になったというのが現状だ。

 

「何かそれっぽい物でも食べますか?」

 

「作れるか試すか、腹減ったしな」

 

「お餅とか気になります、お餅」

 

「餅か…レシピを追加でダウンロードしとくんだったな…」

 

船の操縦はオートパイロットに任せ、席を立つ。置いてあった宇宙服のヘルメットを腰のラックに引っ掛け、人型のボディにAIを収めたアンドロイドと共に歩き始めた。

 

「レシピを確認したんですが、どうにも材料が特殊なようです」

 

「餅って言ったら米じゃないのか」

 

「購入して保管してあるうるち米では適さないと書いてあります」

 

「餅っぽい物にはなるんじゃないか、試しにやってみようぜ」

 

「試行錯誤ですね、学習する機会が増えるのは好ましいことです」

 

船内食は大抵の場合、食料用のプリンターによって出力される。初期の時代ではパック詰めされた食品や船内での調理が一般的だったが、省人化やコストカットの波に飲まれた。専用の形に加工されたペースト状の食糧を組み合わせ、凝固剤等を添加して形を整える。

 

「餅ってこねる必要があるのか、プリンタだけじゃ作れないな」

 

「臼と杵が必要とのことです」

 

「デカい皿と…ハンマー!?」

 

「これでこう、殴り付けて作るようです」

 

「米は大事にしないと死ぬってジンクスがあるんだけど、これ本当に大丈夫な食べ物なんだよな」

 

「お正月に食べる物なんですから、大丈夫ですよ」

 

しかし無重力では餅をつくのも一苦労だ、船の重力制御装置を弄る必要があるだろう。船の制御系に接続したアンドロイドは設定を変え、およそ1Gほどの重力を船内に発生させた。

 

「重力入れたな、メンテを先送りにしたいから寝かしておいたってのに」

 

「だから久しぶりに無重力生活だったんですね、身体壊しますよ」

 

「配送先に到着する前に鍛え直すからいいんだよ」

 

臼と杵を道具用の3Dプリンターで用意した二人は作業を始めようとしたが、二人して杵を手にしようとした。

 

「…力仕事は任せてくれよ、な?」

 

「無重力で衰えてなければ任せていたんですけどねぇ〜」

 

「船外作業も出来るようなスペックで殴られたら手の原型残らねぇよ、餅が桜色になるぞ」

 

「確かに筋張った人間の手は入っても美味しく無いですからね…」

 

「は?」

 

杵を譲られた宇宙船のパイロットは相棒の発言を冗談だと信じつつ、臼で米をひっくり返す準備を整えたアンドロイドを見て腕に力を込める。

 

「行くぞ」

 

「どうぞ」

 

「せいっ!」

 

ついて返してを繰り返すこと数回、餅になるはずだった米のペーストはペーストのままだった。二人は手を止め、どうしたら餅になるのかを考え始めた。

 

「…ペースト整形用の凝固剤をブチ込むか?」

 

「それはもうお餅じゃないです」

 

「ついても粘度は高まらなかったどころか変化無しだぞ」

 

「やっぱりうるち米が原料ではうまくいかないのかもしれないですね」

 

「このもち米ってのが必要なのか、名前からして餅専用って感じがするが」

 

餅作りは暗礁に乗り上げた。

 

ーーー

ーー

 

あれから数時間、二人は臼と杵からは離れて各々作業を続けていた。アンドロイドは餅についての調査を行い、パイロットは餅の調理方法について調べていた。

 

「分かりましたよ!デンプンの構造が違うんです!」

 

「そうなのか」

 

「うるち米のアミロースを弄ってきます、つく準備をお願いします」

 

「こっちは醤油とか大豆の粉で食うって事が分かった、食えるぞ」

 

「お餅!お餅!」

 

アンドロイドの成果が生んだデンプン構造変更済みのうるち米ペーストを用意し、それを温めた上で臼の中に入れた。そして杵をパイロットが持ち、振り下ろすことで餅つきは始まった。

 

「よっ!」

 

「はい」

 

「おらっ!」

 

「あの」

 

「ういっ!」

 

「統一しません?」

 

アンドロイドが発した疑問の声はどこ吹く風、餅は想定通りに粘度を増していく。杵に餅がくっつき、振り上げると引っ張られて面白いように伸びる。

 

「おおっ!凄ぇ!」

 

「伸びてますよ!」

 

「もういいんじゃねえかコレ、食っちまうか?」

 

「切り分けて食べますか」

 

「…いや待て、船外作業の時間だ」

 

「えっ?」

 

「いいから、行くぞ」

 

船外作業用の分厚い宇宙服を着込み、パイロットはアンドロイドの手を引いてエアロックへと向かう。怪訝な顔をする相棒を宥めて頼み込み、命綱や姿勢制御装置の最終確認を済ませた。

 

「急になんですか、いきなり外に出て」

 

「まあまあまあ、見れば分かるって」

 

アンドロイドに遮光機能を使うように促し、船の外殻に立つ。そして事前に操縦士が設定していた時間通りに船が回転を始めると、船によって隠れていた恒星が姿を現した。

 

「ハッピーニューイヤー、日の出の再現をしてみた」

 

「…船を地平線に見立てたということですか」

 

「そう、どうだ?」

 

「電磁波がセンサの寿命を縮めそうですが…まあ…」

 

「まあ?」

 

「そんなことは些事だと思うくらいには、綺麗ですね」

 

この後パイロットが食べた餅を喉に詰まらせて死にかけたことは、今後二人が長い間話の種にすることになる。宇宙で正月を堪能しようとする船員はそう多くはないが、しようとする者は皆アンドロイドに促されたと答えるという。

 

文明の発達と活動範囲の拡大によって地球から離れた現在、古き良き文化に興味を持つのが人ではなくAIというのは非常に興味深い。この件について何か付け足すのであれば、人類は良き隣人を手に入れられたと言うべきだろうか?





良いお年を。
新年早々色々ありましたが、この一年が幸多きものになってくれることを祈るばかりです。

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