箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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本編 生息演算
ゲーム/1日目


 

 

 

「……こんなゲーム入れたっけ?」

 

 

 会社でいつもの仕事を終え、コンビニで弁当を買って帰宅。

 スーツからジャージに着替えながらパソコンの電源を入れたら、最近買ったゲームで遊ぶ。

 

 働き始めてから数年間、殆ど変わらない毎日の行動。

 ただ今日だけは、見慣れないアイコンがゲームリストの中にあった。

 

 

「タイトルは『生息演算』?」

 

 

 アイコンから詳細を開いてみても、説明らしき説明も無い。

 それどころか開発元すら記載されていない。

 あるのはたった一文。『箱庭』の2文字のみ。

 

 怪しいことこの上無いが、大手プラットフォームのゲームリストに表示されているということは、ウイルスなどの可能性も低いと見ていいだろう。

 

 

「ヤバそうだったらすぐ消すか」

 

 

 好奇心に負けて、アイコンをダブルクリック。

 ゲームが始まると思いきや、文章と画像がウィンドウに展開される。

 

 どうやら説明書のようだ。

 ゲーム進行に合わせた説明じゃないのは、昔のゲームみたいで懐かしい。

 多少時間をかけて読み込んでみれば、内容はシンプルなものだった。

 

 

 ・プレイヤーは移動型建造物『ノア』に拠点を作成する。

 

 ・『ノア』は指定した場所へ移動するが、移動した時間と同等の時間、停止する必要がある。

 

 ・『ノア』は停止している間、周囲から資源を採掘する。

 

 ・移動や採掘の速度と範囲は、『ノア』を発展させることで向上する。

 

 ・『ノア』を発展させ『貴方が住みたいと思うような』素敵な拠点を作成しましょう。

 

 

 説明以外にはこの『ノア』が存在する世界、『テラ』の世界観に関するものが大部分を占めていた。

 死亡率100%の病気とか、様々な種族とか、魔法みたいな力とか……。

 

 もしかしたらストーリーに絡んでくるかもしれないし、一応頭の中に入れておこう。

 

 

 読み残しや見落としが無いか確認し、スタートボタンを押す。

 

 ウィンドウの画面が切り替わり、かなりリアルな森を斜めから俯瞰したかのような画面に変わった。

 

 その画面の中心には、森に似つかわしくない鋼色の物体が鎮座している。

 

 

「これが『ノア』? 将棋盤じゃねーか」

 

 

 森の木々より2倍近く高い厚み、縦横は100メートル近くありそうで、各側面からカニの脚のようなものが数本ずつ生えている。

 現在その脚は折りたたまれており、移動の際は木々の上まで、今は地面に接地している胴体のような将棋盤部分を、持ち上げるのだろう。

 

 ……これだけ大きいと重量で脚が地面に沈むのが普通だと思うが、その辺りはゲームだから大丈夫なんだろうな。

 

 

「まずは資源回収がセオリー、と」

 

 

 将棋盤の中心部分には、祠のような建造物があった。

 クリックしてみれば資源の状況や周囲のマップなど、メニューが表示される。

 

 採掘資源は木や鉱石、水に食料。

 とりあえずそれぞれにリソースを割り振って……。

 

 側面の扉が開き、アームのついたロボットが近くの木々へと向かっていく。

 

 

 採掘には時間がかかりそうだし、コンビニ弁当でも食べるか。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

 おなかが、すいた。

 

 

 

 小さな村だけど、のどかな村だった。

 裕福では無かったけど、お父さんとお母さんは優しかった。

 でも少し前から、村に長く住んでいた人達が、怖い気配を漂わせていた。

 

 食料が足りない、人口が増えすぎた、これ以上は難しい。

 

 誰かがそんな言葉を言っていた気がする。

 

 

 そして突然、私と私以外の子供数名が、村から出ていくことになった。

 

 

 お父さんとお母さんは残っても良かったはずなのに、私を一人にしないって言って、一緒に村を出てくれた。

 他の皆のお父さんとお母さんも、同じことを言って、一緒だった。

 

 

「西に数日歩けば、村があるはずだ。受け入れてもらえるか分からないが行ってみよう」

 

 

 大人の人達はそう言って、私達子供の手を引いた。

 

 少ないご飯。歩きながら見つけた食べられる植物。

 お腹は空いていたけど、お父さんとお母さん、他の皆と一緒だから寂しくなかった。

 

 

「野生の獣や感染生物に出会わなかったのは幸運だな……!」

 

 

 お父さんはひどく疲れていたけど、嬉しそうだった。

 そんなお父さんを見て、私も何だか嬉しくなって笑った。

 

 

 歩いて、歩いて、歩いて。

 森に入って、川を渡って、山を登る。

 

 

「あの山の向こうに村があるはずだ」と、お父さんは言った。

 私も、私以外の子供も、大人も、皆嬉しそうだった。

 

 そして、山の向こうには。

 

 

 

 

 

 キラキラとした、『黒』が一杯だった。

 お日様はまだ出ているのに、そこだけが、まるで夜になったみたいだった。

 

 

 

 

 

「『オリジニウム』……。『天災』か……」

 

 

 大人が皆、下を向いていた。

 泣いている大人もいた。

 

 よく分からなかったけど、私達は少しだけ引き返した。

 山の向こうに行かないの? と聞いたら、お父さんに謝られた。

 

 私は何も言えなくなって、足元だけを見つめ続けた。

 

 

 山の途中で見つけた少しだけ平らな場所。

 そこに皆で座って、誰も何も言わなかった。

 

 とても静かで、もう少しで夜になりそうで、何だか私は泣きそうになった。

 

 

 

 つかれた。

 

 

 あしがいたい。

 

 

 くらくてこわい。

 

 

 

 おなかが、すいた。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、人間発見! 集団で居てラッキー!」

 

 

 

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